70話 回復魔法!!
雄叫びと共に鎧を着た兵士達が突撃を始める。
自衛隊の作戦司令室からは銃撃の指示が出る。土嚢の隙間からマシンガンが火を噴き、一方的に襲い掛かる兵士達を射殺していく。
「二士、補充が遅い! 慌てないで冷静に行って!」
「は、はい!」
森田は必死に機関銃のトリガーを引いて鎧を着た兵士を倒していく。暫くすると、走行用ベルトの音が聞こえ始め、激しい砲撃音が響き渡る。
「さ、三曹! 戦車が投入されたようです!」
「二士! 集中! 敵は前からやって来ているのよ!」
「す、すいません!」
森田が機関銃を撃ち放っていると、敵兵の中心地に雷が落ちる。
「さ、三曹! 今の……見ましたか!」
「か、雷? こんなに晴れているのに?」
森田は疑問を口にしながらもトリガーを引き続ける。
雷は幾度も敵兵に落ちていき、森田がいるエリアの敵は徐々に居なくなる。
「撤退を……開始した?」
森田が口にすると、通信員が撃ち方を止めるよう、言ってきた。
「三曹、負傷者手当てをするように指示が入りました!」
「負傷者? 小宮山士長、こっちに被害があると言うの?」
「いえ、敵さんです。十分に注意して取り掛かるようにとの事です」
「了解。森田班、救護活動に移行します!」
森田と伊藤、小宮山は銃を構えながら前進を始める。それに気がついたレミーは、慌てて森田の側へと駆け寄り、状況を確認する。
「あ、レミーさん。危ないですよ! 下がってください!」
「イヤイヤイヤ! 森田さん! 私は貴女の護衛で来ているのですから……私が先行します! 森田さんは不審な行動をするやつを始末してください!」
「あ、い、いや……」
「私が克己様に怒られてしまうではないですか! 嫌ですよ! 克己様に怒られるのは! それに、森田さんは克己様を心配させる気ですか!」
レミーは強い口調で森田に言うと、森田はたじろぐ。
「それに、こういった役割は私達の方が適任です」
レミーはそう言って倒れている兵士に近寄り、生きている人がいないかを探し始める。森田は言われたように後方で銃を構えながらゆっくりと近寄っていく。
「レミーさん! どんな感じですか?」
「あれで生きている方がおかしいですよ……運が良いと言った感じですね……あ! こいつ、生きている! 森田さん! 生きている奴が居ましたよ!」
レミーが言うと、森田達が急いで近寄り、傷の具合を確認する。
「重症だけど、大丈夫そう……。二士! 直ぐに応援を呼んで!」
森田が言うと、伊藤は無線で応援を呼ぶが、混線して連絡がとれない。レミーは立ち上り、ハミルがいる方へ向いて手を振ると、ハミルは急いで克己がいる司令室へと向かった。
「克己様、レミーがルノールを求めています。森田さんは無事です。負傷者がいるのではないかと思いますが……」
「成る程、アルスにルノール、ハミルは急いでレミーと合流! 車は好きに使って良い……。良いですよね? 木村司令」
「あ、あぁ……」
木村は克己にビビり、許可を出した。
「急いで行くんだ!」
再び克己が言うと、アルス達は慌てて部屋から出ていった。
「アルス、克己様が車を運転って……」
ルノールが走りながら聞くと、アルスは困った顔して答える。
「マニュアルは苦手なんだよな……」
ハミルとルノールは物凄く不安になった。
トラックに乗り込みエンジンをかけ、アルスは残念な顔をする。
「マニュアルだよ……」
ハミル達は乗り込み、速く走らせるように急かすと、直ぐにエンストしてしまい、ハミルに頭を叩かれる。
アルスは必死にクラッチを繋げ、2速でトラックを走らせる。
「アルス! 車が変な音をだしているよ! それに普段に比べ遅くない?」
「うるさいよ! だったらハミルが運転しなさいよ! オートマだったら私だって普通に運転できるんだから!」
「出来てないじゃん!」
「これはマニュアルなの! 複雑なやり方が必要なの!」
ハミルとアルスは言い合いしながら目的地に到着をするが、ルノールは運転が荒かったため、車酔いをしてグッタリしていた。
「レミー、お待たせ! 誰が負傷しているの?」
アルスが問いかけると、森田が指示を出す。
「二士! 士長! 車に運んで! どんどん車に乗せるよ!」
「あ、あれ? 怪我人を乗せる……の?」
アルスは何をどうすれば良いのか分からずキョロキョロする。
「ルノール、出番よ! 早く治して!」
怪我の状態を確認したハミルがルノールに指示をする。
「む、無理……、うぇ~」
車に酔って青い顔しているルノールは、口からキラキラしたものを吐き出す。
「汚い! もー! あっちで吐いてきなさいよ!」
レミー死体の山に向かって指を指す。
「貴女達! いい加減にしなさいよ! 遊びでやっているんじゃないのよ! 命がかかっているの! 克己さんに報告するからね!」
森田が怒ると、三人は慌てて手伝いを始めるが、ルノールは水筒を取り出し、口を漱いで空を見上げる。
「あー……気持ち悪い……。早く帰りたい……」
ルノールはそう呟き立ち上がって回復魔法を唱えると、傷がどんどん塞がっていく。
しかし、足や腕が無い者は傷が塞がるだけだった。
「う、腕や足は……」
森田はルノールに聞くと、冷たい目でルノールは言う。
「私の魔法は治すんですよ、生やすのではなく、治すの! 千切れて何処にあるかも分からないものが治るはずはないでしょ! 魔法は万能じゃない、それを理解して! ……イテッ!」
「バカ! 森田さん達に言っても仕方ないし、言葉を慎みなさい!」
「本当の事を言ったんじゃない! アルス、時にはちゃんと言った方が良いのよ! 魔法が万能って思っている幻想は捨ててもらわないと!」
森田は俯き、腕や足が無くなった兵を見る。
「それに、こんな状態にしたのは自分達でしょ? それなのに、そんなことを言うのはおかしくない? だったらやらなければ良いじゃん! 私は命令だから従っているけど、正直矛盾を感じる」
「そ、それは……」
ルノールの言葉に森田は言い返せず、悔しそうな顔をする。
「コラ! ルノール、言い過ぎだよ! 相手が攻めてきたから戦ったんじゃないか! 助けられる者を助ける! 悪いことじゃないだろ!」
「偽善なのよ! 綺麗事を言っても意味無いじゃん! アルスだってそう思っているくせに何を言っているのよ!」
「綺麗事でも良いじゃない偽善の何が悪いのよ! 聖人君子なんてこの世にはいないのよ! 文句言ってないで早く治せ! オラ!」
アルスはそう言ってルノールのお腹を蹴っ飛ばす。
「グフッ……ガハッ……覚えとけよ……アルス!」
ルノールはお腹を押さえながらアルスを睨み、怪我をしている兵隊に回復魔法を唱えていった。
「気にしないで下さい、アイツの戯れ事ですから……」
そうは言っても、気にしないでいられる言葉ではないと思いながら森田達はトラックを基地へと走らせた。




