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53話 休日の迷惑!!

 森田は基地の入り口で克己と別れる事になった。


「お見送りはここまでだ、君の仲間が大変な思いをしているようだからね……。君は中に入り、心配をしている仲間に無事を教えて上げると良いよ」


「か、克己さん……」


「大丈夫だよ、俺は日本人の中では最強の筈だからね」


 克己は飛びっきりの笑顔を見せ、手を振って森の方へと向かっていった。


 森田は基地の中へと入り、仲間達に無事を報告したら泣くほど心配していた。森田も嬉しさにより涙が出てきたのであった。


 その日、調査及び、偵察に出て行った30人程が戻らぬ人となり、日本は始めて異世界の恐ろしさを知った。


 国会では野党が与党に攻撃をする。何故この様なことが起きたのかと……。与党は元々危険な場所と理解をしていると反論し、自衛隊に無理矢理行かせたわけでは無いと返す。事実、事前調査はあり異世界に行っても構わないと言う人間だけを選抜していた。そして、その者に関しては遺書も書く事になっていた。


 選んだ者は通常の給料より倍の給料が支払われるとあって、予測していた人数よりも多く志願する者がおり、前回の異世界へ行ったときよりも人が増えていた。


 その理由は、異世界の魔物は弱いと言う情報が蔓延しており、実際に現地で戦った森田達のイメージもそのようになっていた。今回、死者が出たのは自衛隊が異世界を甘く見ていた事による油断であった。


 異世界に洗礼を受けて数週間が過ぎ、自衛隊の中でも落ち着きが戻ってきた。森田が住んでいるのはパルコの街側にある自衛隊の基地で、定期便のバスが街との道を繋いでいる。


 バスと言っても装甲強化されたものであり、運転手も自衛隊員がやっている。そして、緊急時は直ぐに戦闘が行われるよう武器が中に装備され、護衛隊も乗っているのであった。


 久し振りに休暇を手に入れた森田はそのバスに乗り、パルコの街へと向かった。バスに乗る人は現地の商人か自衛隊員と限られており、大抵の人は顔見知りばかりである。


 バスに揺られ街へと向かう途中に慰霊碑が作られており、誰が慰霊碑を作ったのだろうと思いながら森田は眺めていた。


「やっと街についた~! 私服で彷徨(うろつ)くのは二度目だな~。今日は探索でもしようかな」


 森田はそう呟き歩いていくが、もしかしたら克己と偶然会えるのではないかと密かに期待していた。


 少し歩いては周りを気にしてキョロキョロする。だが、克己の姿は見えずそんな偶然は無いものだと森田は思い、少しだけ落ち込む。


「携帯があったら何時でも連絡ができるのになぁ……」


 森田は一人呟きオープンテラスになっている店でジュースらしきものを飲んでいた。


「帰ろっかなぁ……。やっぱりそんな簡単には会えないか……」


 森田はそう言って立ち上がり、清算を済ませると店の外に出ると、人とぶつかった。


『何処見てんだよ!』


「す、すいません……余所見をしていました……」


『気を付けろ! 馬鹿野郎!!』


 森田は頭を下げ、事なき得る。


「う~、嫌な思いをしてしまった……気晴らしでもして帰るか……」


 森田はウインドウショッピングしていると、小腹が空いてきたので食事を済ましてからと考え、一か八か克己の店に訪問することにした。


『いらっしゃいませ~、何名様ですか?』


「一人です」


『こちらになりま~す!』


 明るい店員が森田を席へと案内する。森田は窓側の席に座り、注文をする。外の風景を楽しみながら料理が出てくるのを暫く待っていると、どこかで聞いたことがある声が聞こえてきた。


「あれは……北川……さんだっけ?」


 里理は誰かと話しており、楽しそうにしていた。それが誰なのか分からず、森田は覗きみようとするが、里理と壁がブラインドになっておりまったく見えない状態になっていた。


「何してるんだろ……私……」


 時折聞こえる里理の声に、若干苛立ちを覚える。


「あの人、克己さんとどういった関係だろう……」


 そうこうしているうちに料理が運ばれてきて、森田は里理の事を気にしないように食事を始める。


「うん、美味しい! あの頃が懐かしいな……」


 森田は懐かしそうに言って食べ、ゆっくりしていた。


「さて、そろそろ帰るかな……」


 森田は会計をするためにバッグを漁る。しかし、財布が入っている筈のバッグの中を漁るがバッグが無い。


「あ、あれ? お、おかしい……あ、あれ? 入ってない……何で! さっきは支払いを済ませたはずなのに!!」


 慌ててカバンの中身をぶちまけて探すが財布が無い。手作りの財布だが、全財産……と言ってもカードは持っていないため、現金のみが入っていただけ。だが、森田には大切な財布だった。今、ここで支払うためのお金がそこに入っているからである。


「ど、どうしよう……。う、嘘でしょう……。い、いやだ……」


 森田はアタフタして周りを見渡すと、店員は不審な動きをしている森田に気が付いた。店員は仲間達に不審な動きをしている森田をマークするように言って皆は森田をチラチラ見ている。


「どうしたの? 君たちは……」


『あ、里理様……不審な動きをする人がいましたので……』


「不審な動き? どの人が?」


『あちらの窓側に座っている人です……』


「どれどれ……? ん? あの子は……」


 里理は呟くと、車椅子に移動して森田の席まで移動した。


「やあ、自衛官の人……」


「あ、貴女は……北川……さん……」


 森田は急に里理が現れて戸惑いと驚きを隠せずにいた。


「どうしたんだい? 店員が不振がっているよ?」


「あ、あは、あははは……。さ、財布を盗まれたらしくって……」


「プッ、ダサ……」


 森田が恥ずかしそうにカミングアウトをすると、里理は笑った。


「だ、ダサいですよね……、ど、どうしよう……」


「どうもこうもないよ……そうだね、奴隷として生きていくんだよ。君は……無銭飲食は犯罪だよ。こっちの世界でもね」


「なっ! ど、奴隷ですか!! ちょっと待って下さい、急すぎますよ! そんな……基地に戻れば仲間にお金を借りる事が出来ますから!」


「本当に君が戻って来たら……の話だろ? 私は戻ってこないような気がするな~」


 里理はニヤニヤしながら森田を追い詰める。


「も、戻ってきますよ……」


「いやいや……信用はできないなぁ~、自衛官が異世界で不祥事か……イタ!」


「森田ちゃんを苛めるのはそこまでにしろよ、里理ちゃん」


「か、克己さん!!」


 克己が里理の頭をチョップして黙らせ、森田は遂に克己に会えて喜びの声を上げた。


「中々戻ってこないから何しているのかと思えば……君は何をしているんだ」


「この子が無銭飲食を働こうとしていたから捕まえていたんじゃないか!」


「無銭飲食?」


 克己は森田を見ると、森田は恥ずかしそうにしていた。


「さ、財布を盗まれたようで……ここに来る前に人とぶつかって……」


「成る程……。じゃあ、ここの食事は俺が奢ってあげるよ」


「か、かっちゃん! 甘やかし過ぎじゃないのか!」


 里理は立ち上がって抗議する。森田はそれを見て「立ち上がれるんだ……」と思っていた。


「仕方ないだろ? 知り合いがお金を盗まれたんだから。森田ちゃん、生活は出来るのか? どうやって基地まで戻るんだ?」


「も、もう少ししたら最終のバスが出るのでそれに乗っていく予定です……」


 森田が悲しそうに言う。しかし、里理は言う。


「きっと最終のバスまで粘って走って逃げるつもりだったんだよ! ずっとキョロキョロしていたから!」


 里理は興奮気味に言う。


「里理ちゃん、いつも冷静な君がどうしたんだよ?」


「この子が嫌いなの!! 君を取ろうとしているから! あの子達とは違うんだ!!」


 里理が叫ぶように言うと、森田は驚きの顔をした。


「取るって……俺はモノじゃないよ? 森田ちゃん、バスの時間が無いなら早く行った方がいい。里理ちゃんは放っておいていいから」


「で、ですが……」


「お金が払えないんだろ? 一応何かがあったときのために一万円を渡しとくから……そのうち迎えに行くからその時に返してくれればいいよ」


「かっちゃん!!」


「なんだよ……うるさいなぁ……」


「君って人は……私って女がいるじゃないか!!」


「君は話をややこしくしたいようだね……困った人だな……。森田ちゃん、ほらほら……早く行った行った!」


 克己は追い払うように森田を店から出して里理と何かを話していた。


「ご、ごめんなさい! 必ずお詫びはします……」


 森田は克己にそういうと、走ってバスが停車している場所まで走って行った。


「また迷惑をかけてしまった……」


 走りながら森田は呟き、何とかバスに間に合った。


 森田は基地に帰り、松田に今日あったことを説明すると、松田は笑って話を聞いていた。


「笑い事じゃないよ……」


「だって、あんたどれだけ迷惑を掛ければいいの? 一回でもお金を払ったことあるの?」


「うぅ……まだ無いかも……」


「こりゃ嫌われるかもね……」


「そ、そんなぁ!」


「だったら良いところを見せないと……」


「良いところって言われても……」


「無いよねぇ~、理恵はマイナスばかりだもん」


「うぅ……言い返せない……」


 森田は項垂れながらベンチで松田と話していた。


 数日後、自衛隊に新たな任務が下された。それは……資源調査だった。


「理恵~、今日から資源調査隊が編成されるってね……一緒になれたらラッキーだよね!!」


「香織、調査って物凄く大変だよ? 目視じゃ分からないんだから……」


「そうなの?」


『おい! 早く飯を食えよ! 時間が無いぞ!』


「やば! 急がないと!」


 松田が言うと森田も急いで食事を済ませる。


 森田は自分達の隊が集まる場所に行くと既にほかの者たちは来ており、森田が最後で、照れながら椅子に座る。


『全員そろったな……。今日で小隊は解散する……一時間後に掲示板に自分の所蔵する隊が発表されるから各自確認するように。それと、この間の調査で死んだ仲間に黙祷を捧げる……黙祷!!』


 森田達は胸に手を当てて、一分間の黙祷を捧げる。


『なおれ、次の隊へ行っても頑張るように……解散!』


「隊長に敬礼!」


 森田達は三尉に敬礼をして、隊は解散された。


 森田は自分の荷物を整理するために自分の部屋へ戻る。暫くすると廊下が騒がしくなり、森田は遂に張り紙が張られたことに気が付いた。


 森田は緊張しながら掲示板を確認すると、自分の名前が無いことに気が付く。


「あ、あれ? わ、私の名前が無い……何で……?」


「あ! 理恵! 私、調査隊に選ばれたよ! これからは歩きで探索じゃなく、トラックなどで移動するみたい! 武器も一杯持って行くんだって! ……もう一回遺書は書き直すようにって言われたけどね……。嫌だったら日本に帰れるらしいけど、給料は下がるっていうし……」


「そ、そうなんだ……どうするの? 香織は……」


「暫く頑張ってみる……この間までは4人小隊だったけど、今回は8人中隊らしいよ」


「そ、そうなんだ……」


「理恵は何処の隊になったの?」


「そ、それが……私の名前が無いんだよね……」


「名前が無い? どうして?」


「わ、分からないよ……」


 松田と森田が会話をしていると、放送が鳴り出した。


『森田理恵三等陸曹、至急指令室へ来い! 繰り返す……』


「わ、私が呼ばれたの……? なんで? 何かしたっけ?」


「し、知らないよ……早く行った方が良いよ!」


「う、うん、行ってくるね! 香織も気を付けて!!」


 森田は駆け足で指令室へと向かい、指令室の扉をノックすると、入るように指示があった。


「森田三等陸曹、入ります!!」


 森田は中に入り敬礼をすると、指令室の中は緊張に包まれていた。


 森田は何が起きているのかさっぱり分からず周りを見渡すと、幹部たちが緊張した顔してビシッと立っていた。


 お偉いさんでも来ているのかと森田は思ったが、周りを見渡してもそんな人は見当たらない。もしかしたら応接室に総理でも来ているのかと思い、扉をチラリと目をやる。


『森田三等陸曹、応接室に入れ』


 幹部の一人が森田に指示して、森田は再び敬礼をして返事をする。そして応接室に入ると陸将が座っていた。


 そのほかに誰かいるのかと思いキョロキョロすると、何処かで見た車椅子が置いてあった。


「ま、まさか……」


「やぁ、無銭飲食ちゃん……アウチ!」


 里理が森田を見て言うと、隣に座っていた克己がチョップする。


「迎えに来たよ、森田ちゃん」


「む、迎えに? な、何の事ですか?」


「何って……資源調査隊に決まっているじゃないか? 嫌だけど、かっちゃんが貴女じゃないと嫌だって言うからね……」


「し、資源調査隊は発表されたはずじゃ……」


「自衛隊がどうやって資源を発見するんのよ? そんな機材があったかしら? 自衛隊に……。陸将さんどうなの?」


『み、民間からレンタルをしておりまして……』


「成る程ね……」


 里理が一人で確認し納得するが、克己は黙ったままだった。


『森田三等陸曹、彼らの護衛兼調査を命じる』


「私は行かないから警護の必要はないわよ……。だけど、警護されるのは貴女かもしれないけどね……」


 里理は馬鹿にした目で森田を見ると、再び克己がチョップして里理は涙目になる。


「さぁ、冒険の続きをしようか! 森田ちゃん」


「ぼ、冒険……」


『三等陸曹、どうするのだね? 拒否権はあるから拒否をしたければしても構わないよ』


「め、メンバーは誰になるんでしょうか……」


「いつものメンバーと君だけだそうだよ……物好きもいたものだ……イタ! そんなに頭をいっぱい叩かないでくれないか! 馬鹿になってしまう!」


「わ、私だけですか……?」


 森田は克己の眼を見つめながら確認する。


「そうだよ、拒否権はあるよ……拒否がしたければしても構わない……俺と冒険をするのは嫌か?」


「い、嫌じゃありません! こ、光栄です……」


「なら決まりだ! 明日俺の家に来るように!」


「ハッ!!」


 森田は嬉しそうに敬礼をして、里理は嫌そうな顔をする。そして克己達は自分の家へと帰って行った。


『三等陸曹……本当に良いのか?』


「か、構いません……」


『なら荷物を纏めて出発の準備をしろ! 泣き言を言って帰ってくるのは許さんぞ! しっかり自分の使命を果たして帰ってくるんだ! 良いな!』


「承知いたしました!」


 森田は敬礼して部屋を出て行った。直ぐに掲示板に辞令が張られる。内容は『森田理恵三等陸曹、特別調査隊を命じる』だった。


 その日の夜、前の隊に居たメンバーの二人が細やかだが、お別れ会を開いてくれた。


『三曹、特別調査隊って何をやるんだ?』


「あまりよく解りません……メインはついて行くことだけだと……」


『何だそりゃ? 意味が分からないぞ……』


 元隊長の三尉は笑いながら言う。


 自衛隊の基地でも現地人が店を開いており。本来克己との契約とは異なるため、自衛隊は彼らを追い出さないといけないのだが、それは可哀想だという理由で追い出さないで見て見ぬふりをしていた。その中には屋台をやっている店もあり、森田達はそこで集まって飲食をしている。


『じゃあ、皆、飲み物がそろったようだな……では、三曹の輝かしい未来に向けて……乾杯!』


 皆は「かんぱ~い!」と言って、グラスを軽くぶつけ合って飲み始める。


「私は幸せ者です……。皆も気を付けてください」


『あぁ、もちろんだとも! 沢山資源を見つけて帰ってくるさ!』


『そうですよ、三曹には負けません!』


 三人は時間を忘れて楽しんだ。


 翌日、森田が遅刻したのは言うまでもないことだった……。

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