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51話 謝罪の言葉と感謝の言葉を!!

 数日後、引っ越し用のトラックが克己の作った巨大な扉の前に到着する。


「紀一の話だと電気は通っているとの話だからね……」


 里理は克己が国枝に与えた家に住むようで、沢山の荷物を運ぶため業者に依頼したようだった。


「里理ちゃん、話した約束と違う気がするけど? 行くのは君だけだよね?」


「荷物を運ぶのは仕方ないでしょ? どうしようもないじゃん」


「俺が運ぶって言っただろ?」


「下着などを君に見せたくは無いんだよ。デリカシーを持ってくれない?」


「俺だって君の下着には興味がない」


「あるのは身体! だもんね」


「違うよ……。運転手さん、後ろを開けてくれない?」


 運転手は後ろの荷台を開ける、克己はその荷物を見て呆れながら言った。


「全く無いじゃないか……。君は俺を困らせたいだけなんだな……」


 里理は足を引き摺りながら克己の腕に掴まり答える。


「分かる? 愛だね、これは! 君達は彼に抱かれたのかい?」


 手伝いに来ていたノエル達は困った顔をする。


「里理ちゃん、下らない話はそこまでにしてくれない? 運転手さん、お金は払うから今日はこのまま帰ってくれない? 荷物の受け取りサインもするし……」


 運転手は受領サインを受け取り、トラックに乗って帰って行く。


「で、こんな辺鄙な場所で荷物を下ろしてどうするのさ?」


「アルス……」


 克己がアルスを呼ぶと、アルスは頷きテレポートを唱える。一瞬で周りの風景が変わり里理は大喜びする。


「こりゃ凄いね! 一瞬で移動したのか……」


「ここが君の家だよ、荷物は何処に置けば良いの?」


「せっかちだね……。まだ中も見てないのに……エッチの時もそうなのかい? それじゃあ、紀一と一緒だよ?」


「興味ない事と、気持ち悪いことを言われても困るよ。ほら、早く中に入りなよ」


「足が痛くて動きたくない……。オンブして」


「ノエル……」


「君じゃなきゃ嫌!」


 克己は溜め息を吐き仕方なくオンブすると、里理はニヤニヤとしていた。


「私の胸は大きいだろ? これでもEはあるんだよ……ホレホレ~」


 里理は背中に胸を押し付けて克己を苛める。


 克己は降ろしたいのを我慢して中へと入って行った。


 暫く里理の我が儘を聞いて荷物を設置すると、里理は申し訳ない顔をする。


「最後のお願いを聞いてくれないかな……」


「随分と貸しを作ってその台詞を言うのか? バリアフリーの次は何だよ?」


「私にこの子を宛がってはくれない……」


「断る!」


 里理はアルスを指差し譲ってくれとお願いをしたが、克己が断り、里理は暗い顔をする。克己は溜め息を吐いて新しいのを買うのであればと言うと、里理は不安そうに克己を見る。


「い、良いの?」


「ちゃんと約束を守ってくれるならね……」


「守る……。守る……お願い……」


「珍しく弱気だね……。じゃあ、商館へ行こうか」


 克己は車椅子を準備して、里理は車椅子に座り体を小さくした。


 商館にたどり着き、里理は目をパチクリさせる。


「こ、これが奴隷……商館……」


『いらっしゃいませ克己様……』


 大柄の男が克己を丁寧に出迎える。その理由は克己の購入した人数が多く、商人にとって克己は上客であり、奴隷を丁寧に扱ってくれるため安心して送り出せるからであった。


「今日は三人程欲しくてね……」


『かしこまりました、用途は……』


「若くてレベルの低い子が良いな。里理ちゃんはリクエストがあるかい?」


「三人の内、私の子は何人含まれているの?」


「二人だよ。一人ではキツそうだかね」


「流石成田くん! 私が……愛した人だね」


「古い話は止めてくれる? それは過去の話だろ……それに今更すぎる。君達が望んだんだろ……」


「だけど!」


 里理は振り返ろうとするが、克己が体を押さえる。


「今の恋人(フィアンセ)は国枝君だよ……。俺達の事は終わった話だし、彼は知らないんだから持ち出すなよ」


「だけど……そう……だったね……」


「男か女のどちらか選びな……年齢も合わせてね」


 克己が言うと、里理は少し考えて男にリクエストをする。


 克己達は待合室で待たされている最中、ノエルがアルスに問いかける。


「アルス、あの女は随分とあんたに執着しているようだけど……」


「わ、私は知らないよ……この間始めて会ったんだから……。でも、先程からの会話だと……」


「うん、過去に克己様と何か合ったのは確かだね……。聞きたいけど聞けないよ……立場的に」


「うん……」


 二人は離れたところから里理と克己を見ており、二人の動向を見守っている。


 克己は普段通りにしているように見えるが、里理は俯き悲しげな顔をしていた。


「里理ちゃん……国枝君と幸せになれよ」


「君が望むなら……」


「望んでいるよ……君の幸せはね」


「私の幸せは君が……」


「終わったって言ったろ? ……蒸し返すんじゃないよ……」


「あの子がいるから?」


「あの子じゃない、『あの子等』だ。それに俺は他にも……」


「ズルく……なったね……」


「成長したんだよ……。破棄については君と君の親が決めたことだろ……今更の話だし、虫が良すぎる……」


「そう……だよね。怒るよね……」


「怒りなんてしないよ。親が死んで周りから人がいなくなったんだ……。怒る暇なんか無いさ」


カッチャン(・・・・・)……」


「その呼び名はやめろ……里理ちゃん」


 里理は俯き悲しげな表情をして黙った。


 アルスとノエルは離れたところで二人を見ており、克己達の雰囲気がよく感じられず、不思議そうにしていた。


『お待たせいたしました……此方にどうぞ……』


 大柄の男が言うと、克己は車椅子を押して男達の案内に従い付いていく。


「里理ちゃん……好きだったよ」


「過去形なんだね……」


「……うん」


「わかった……ううん、分かっていた……。でも……思い続けては良いよね……」


「相手を傷付けなければね……」


「わかってる……愛してるよ……カッチャン……」


「うん……」


 克己が返事をすると、里理は嬉しそうな顔をして前をむき、一雫の涙が頬を伝った。


 克己と里理は奴隷を選び、里理は奴隷に自分の車椅子を押させた。


「これで君の顔が見ながら話せるね」


「俺は話すことはないよ……。約束だけは守ってもらうけどね」


「分かってるよ。所で……生活に必要な資金はどうやって手に入れれば良いのかな?」


「それは自分で考えてくれよ……そこまで面倒は見られないよ」


成る程ね……(・・・・)


 里理はニヤニヤしながら克己の顔を見る。


「一ヶ月だけだぞ……」


「分かっているよ、本当に助かるよ……紀一やオルカノ、アンジェに頑張ってもらうしかないな」


「ここの世界は危険だ、これはサービスで譲ってやるよ。護身用に持っとけよ」


「う、うん……。ありがとう……カッチャン」


「その名で呼ぶのは最後にしろよ……」


「じゃあ、最後の我が儘を言っていい?」


「本当に最後だからな……」


「うん、あ! ゴミが付いてるよ? 取ってあげるから目を瞑って!」


 克己は目を瞑ると柔らかいものが唇についた。その瞬間、アルスとノエルは声をあげた。


「御馳走様、バイバイ……愛しい君よ……。行くよ。サージェ、ファルト」


 里理が奴隷の二人に声をかけると、奴隷の二人は車椅子を押して国枝の家がある方へと歩き始めた。


 克己はやられたという顔をして溜め息を吐き、アルスとノエルは茫然としていた。


 里理は奴隷に確認する。


「彼等は見えなくなったかい?」


「は、はい……」


「そう……。我慢しなくても良いんだね……」


 里理はそう言うと声を殺しながら泣き始め、二人は顔を見合わせる。


「思い続けて良いんだね……。ありがとう……かっちゃん」


 里理はそう呟きながら泣いていた。


 その夜、食事の最中にアルスは衝撃的な言葉を聞くことになった。


「克己様、お話があります……」


 ハミルが真剣な眼差しで話しかけたため、皆は何事かと思いながらハミルを見る。


「どうした? 不満でもあるのか?」


「不満? あるとしたら……最近ご一緒に連れて行ってくれないことですかね」


「そりゃ悪いことをしているな」


 克己は申し訳なさそうな顔して謝る。


「大丈夫です……。それも今日で終わりになります!」


「どう言うことだ?」


 克己だけではなく、全員が不思議そうな顔をして聞いていた。


移動魔法(テレポート)を使えるのがアルスだけではなくなりました!」


 ハミルは胸を揺らしながら言うと、アルスは持っていたフォークとナイフを床に落とし、ライラは急いで新しいフォークとナイフを取りに行く。


「は、ハミル……何て言ったの?」


 アルスは戸惑いながら聞くと、ハミルは嬉しそうに答える


「私も移動魔法を覚えたって言ったのよ! 脱出と移動の両方を覚えたのよ? 私は」


 ハミルは嬉しそうに克己を見ると、克己は上を向いて考え事をしていた。


「克己様?」


 ハミルは心配そうに克己を見る。


「ん? あぁ……覚えたのは嬉しい。どうやって活用するかを考えていたんだ……ハミルも明日から一緒に付いて来てくれる?」


「もちろんです!!」


 ハミルはガッツポーズをして立ち上がり、足をテーブルに打つけ、足を押さえてもがいていた。


 アルスはハミルが覚えたことにより、自分の立場が危うくなる気がしたが現実はそうでもなかった。


「ハミル、予定は?」


「あ、そ、その……」


 この仕事は直ぐに覚える事は出来るはずは無い。幾らアルスが教えても、一日二日で覚えられるはずは無いのだ。


「アルス、予定」


「里理さんと夕食の予定になっております……」


 克己の要求にアルスは直ぐ返答をして、克己は微笑む。アルスの立場は安泰でありしかも寝るときは一緒の布団で寝るため、アルスの生活は何一つ変わることなくホッとした。


 ある夜の事、アルスは布団に入り克己を待っていると、アルスの携帯が鳴った。誰から掛かってきたか確認するが、まったく知らない番号であり、アルスは不安を覚えながら電話に出る。


「もしもし……?」


『あ、アルスさん?』


「そ、そうですが……」


『里理だよ……こんばんは』


「こ、こんばんは……ど、どうやって……」


『電話局にハッキングして調べた。大丈夫……絶対にばれないから安心してよ』


「はっきんぐ? ですか……?」


『あ~、分からないか……まぁ君の電話番号を盗んできたのさ、簡単に言うとね』


「な! わ、悪いことじゃないですか!」


『バレなきゃいいんだよ……真面目に生きても疲れるだけだ……』


「そ、そう……なんですか……そ、それでご用件は……?」


『あ、成田くんとは……もうヤッたのかな?』


「え? は? な、何を……?」


『何って……エッチに決まっているだろ? 言わせるなよ……恥ずかしい』


「え、えっち……ですか? それは……」


『まぐわいだよ……体を抱き合い成田くんとしたのかって言っているの!』


「ま、まだです……な、なんてことを聞くんですか! 失礼ですよ!」


『アハハハ……そうか、まだなのか……君は相当気に入られているんだね……君はそのままで素直に付いて行くんだよ。私みたいになってはダメだ……自分の意見をしっかり言えば成田君は分かってくれるよ……』


「な、何が言いたいのですか……」


『いやいや、君の声が聴きたかっただけだよ……悩みがあったらこの番号に掛けてくると良い……それじゃあお休み。来年、私の代わりに君が幸せになる事を祈るよ……』


 アルスは何か言おうと思ったら、里理は先に電話を切りアルスは携帯を見つめていた。


「何をしてんだ? アルス」


「あ、い、いや……何でもありません……電話の(電池)が弱ってないか確認しただけです……」


「ふ~ん、成る程ね……余計なお世話だって言っとけよ」


 克己はそう言って電気を消して布団に入り込むと、アルスが体を寄せてくる。克己はアルスの頭の下に手を回す。


「克己様……チュ……」


 アルスはいつものように寝る前のキスをすると、克己の手がアルスの胸を触る。


「あ……か、克己様? んっ……あっ……んん……克己様……」


 克己はパジャマをまくり上げ、アルスの胸を貪る。アルスは声を抑えて克己の頭を抱きしめる。


「か、克己様……一年先では……あぁ……う、嬉しい……」


「この先は一年後な……」


「うぅ……意地悪です……。ですが……気持ちよかったですよ……克己様……あん……」


「こらこら、それは弄っちゃだめだぞ……。そのうち嫌でも味わうんだから」


「嫌ではありません……むしろ喜ばしい事です。今すぐにしてほしいです……あん……ん……」


 克己は胸の突起物を弄り、アルスは甘い吐息がこぼれる。


「これで文字通り唾を付けた事になるな……」


「はい……私は克己様の物です……ずっと、ずーっと克己様の物です……」


 アルスはキスをして克己の胸で眠りについた。


 それから数日後、克己は王都に居た。


「陛下、話が合ってきたんだけど」


「な、何じゃ……話とは……」


「日本という国が街を作りたいと言っている……」


「ダメじゃ!」


「その理由は?」


「この間はデンパトウとやらを作ると言っていたが、まったく作る気配はないではないか! パルコの街で売っていると言っていたケイタイも売っていない……話が違うではないか!」


「成る程……陛下は携帯が欲しいのだな?」


「べ、別にそう言ったわけでは……」


「成る程……じゃあ、いらないんだな? シェリーですら持っているのに」


「な、なんと!! 誠か! シェリー」


「はい、お父様……私は克己様に買って頂きました……」


 シェリーはスマホを袋から取り出し王に見せると、王は前に乗り出しシェリーのスマホを魅入る。


「お父様、これがいらないのですか? 便利ですよ? いつでもお話ができますからね」


「か、克己よ! わしもそれが……」


「さっきと言っていることが違うじゃん……じゃあ、街を作る事に許可をくれよ。そしたら電波塔を作るように命令するからさ……」


「ぐぬぬぬ……」


「街を作るにあたって条件を提示してやる。あいつらは資源が欲しいらしい……」


「シゲン?」


「土や石、燃える水とかだな」


「ほほぅ……そんな物が欲しいのか……」


「その代わり、売り上げの30%を王都に譲渡するように話をつけてやるよ。もちろんギルドの設立も話をつけてやる……」


「さ、30%……そ、それはどの位の金貨になるのだ?」


「金貨? そんなモノじゃ話にならない……大白金貨1,000枚以上はくだらないだろうな……」


「1、1,000枚以上……」


「毎月そのくらいは余裕だろうけど……向こうはこっちの通貨を持っていないから……」


「そ、そうか……ではどうするのだ?」


「白金貨の作り方を教えて向こうで作らせる……それでどうだろう?」


「そ、そんな事ができるのか?」


「向こうの通貨はこれだ……」


 克己はシェリーに一万円、五千円、千円、500円、100円、50円、10円、5円、1円を渡し、シェリーは王に持って行く。


「この紙は……どういった効果があるのだ? そして……この精巧な技術……」


「その丸い奴に書かれている数字の奴は同じ数字の物とほぼ同じ重さなんだぜ?」


 克己が言うと、シェリーは自分が持っていた300円を王に渡すと驚いていた。


「こ、こんなに均等に作る事が可能なのか……」


「そうさ、こっちの金貨も似たような形をしているが、歪だ。日本に作らせればもっと精巧に作る事が可能で分かりやすく、凄い物ができるだろうな」


「ま、誠か……」


「今ある通貨を同じようにしたければ交渉してやっても良いぞ。まずは白金貨や銅貨、金貨を回収しつつ、新しく出来上がったものと交換していく……あんたは御触れを出せばいいだけだ。そのようにしたら、売り上げの30%を20%にしてやるというのはどうだろうか?」


「それは名案じゃ! 克己が持ってきたコレは同じ重さと言ったなら、無駄がなくなり綺麗で均一な重さになる。これで薄い白金貨で誤魔化す輩もいなくなるであろう……」


「陛下、ついでに日本円も仕入れたほうが良いかと思うぞ?」


「なぜじゃ?」


「携帯を使用すると、金を払わないといけなくなる」


「ど、どうしてじゃ?」


「この道具を使う事により、電波が入っている場所であればテレパシーのように話ができるようになるんだ。それは電波という物であり、それをやるには電気という物が必要になる……その電気を起こすのにも金が必要になるんだよ」


「な、成る程……と言う事は、街の者にも日本の通貨を渡さないといけなくなるのだな?」


「そう言う事になるな……それはギルドで報酬としているものと同じようにすれば良いかと思うぞ? 金の価値はシェリーが教えてくれるだろう……頼めるか?」


「はい、克己様……」


 シェリーはスカートの端を掴み、優雅に返事する。これは宝塚の劇を皆で見に行ったときに覚えた挨拶で、シェリーは宝塚のファンになっており、毎日のように日比谷に通っているのであった。そのため、お金と電車に関して一番理解しているのはシェリーである。ちなみにシェリーの部屋には宝塚のDVDが沢山あり、暇があれば日本にあるテレビで宝塚チャンネルを見ている。そのうち神戸に行ってみたいと思っていた。もちろんチャンネルやDVDの代金は克己が支払ったものである。


「シェリー、その高級な生地を使った服は……」


「お父様、日本ではこれは当たり前のように売られております……素敵なお召し物は克己様が私ために買ってくれたものになります……」


「そ、そうなのか……か、克己よ……」


「日本が作る街にその店を出店させるように話をしよう……」


「それもそうだが、ぜひ我が王都にも店を作ってはくれまいか……」


「構わないが、条件が一つある。その荷物を運ぶためには、もう一つ街を作らないといけないことになる。それの許可が必要だな。ちなみにその街では物を販売しないため人の出入りは関係者に限られる……」


 王は少し考えて了承した。


「その街からは金は貰えないからな……本当にそれで良ければ交渉するよ」


「その街ができるのであれば、王都に服屋のほかに他の店を作る……それであれば許可しよう……」


「分かった。それで話をしよう……じゃあ俺は日本と話をするために帰るとしよう……シェリー、暫くここに留まり陛下に日本の素晴らしさを教えてやると良い。だが、早めに帰って来いよ。寂しいからな」


 シェリーは初めて寂しいと言われて顔を赤くする。


「は、はい! 直ぐに戻ります……必ず戻ります! 待っていて下さい!」


 克己は頷き、ハミルのテレポートで日本の克己宅へ戻ってくると、国枝に電話した。


「もしもし国枝君?」


『よう、克己……』


「元気ないね? どうしたの?」


『いや、別に……』


「そうそう、君の彼女が迷惑をかけて来るのだけど……どうにかしてくれなか?」


『一応言っておくよ……。最近……いや、何でもない。要件はそれだけか?』


 克己は先日会った議員達に会いたいことを伝えると、国枝は暫く無言になり了承する……が、声の調子が悪いように感じとれ、何か悩み事があるように克己は感じ取った。


「何かあったんでしょ? 言ってみなよ」


『里理が別れを切り出してきた……』


「やっぱり聞かなかった事にして良いかい?」


『全部聞いたよ……。里理とお前の関係を』


 マジかよ、約束が違うじゃんかと思いながら克己は言葉を探す。


「君と出会う前の話だし、再会も偶然……それ以上でもそれ以下でもない。里理ちゃんとは過去の話で……別れだって向こうから切り出してきた事だ」


『お願いがある、里理を引き取ってくれないか!』


「里理ちゃんは物じゃないよ……。君は別れを選ぶのか? 俺が引き取っても、俺と関わったら結局は彼女に会うことになるんだぞ! それを理解しているのか?」


『俺じゃあ里理は幸せにできない』


「何故決め付けるんだよ? 分からないだろ? そんな事……」


『分かるよ、俺では無理だ……』


「引き取ってどうすりゃいいのさ?」


『当初の通り、結婚をしてくれよ』


「断る! 終わった話だし、親が勝手に決めた事……。それに相手から断ってきた話だ……」


『それは聞いている……。だが、彼女のお願いを聞いてくれないか』


「この間で最後って言ってたよ……」


『なら俺も最後のお願いだ……』


「何でそこまで拘るのさ? 君が嫌だと断れば済む話だろ……」


『お前と別れたあと……彼女の話を何処まで聞いた?』


「君と交際をするまでの期間は知らないよ」


『里理はお前とは違う学校に通っていたそうだな……』


「そうだよ……」


『お前と別れた後、里理は学校で襲われたらしい……足が不自由な事が災いしたようだ……』


「成る程ね……。それが里理ちゃんの闇か……」


『克己……』


「最初で最後のお願いだからな……。だけど結婚はしない。俺だって好きな奴等はいるし、気になる子だっている……」


『あとは里理と話してくれ』


「その代わりに、君は俺の無茶を聞けよ」


『できる限りね……』


「残念だよ、国枝君ならって思っていたけど……」


『里理が幸せになるならそれでいいよ……。嫌な思いをさせて悪かったな』


「お互い様だろ……、里理ちゃんの奴隷は君に譲るから好きにするといい……。アンジェやオルカノのように性奴隷にするもよし、しないのもよし」


『性奴隷なんてしてないぞ! ちゃんと愛をも……』


 克己は国枝が喋っている途中で電話を切って溜め息を吐く。


「シナリオ通りなのかもね……里理ちゃんの……」


 克己はアルスの顔を見て呟き、アルスは何の事か分からず首を捻る。克己はその仕草が可愛いと思いながら微笑み、異世界側の国枝宅まで里理を迎えに行った。


「な、成田くん!」


 克己が家に訪ねると、里理は驚いた顔をした。


「君のシナリオ通りに事が運ぶのは癪に障るけど迎えに来てあげたよ……」


「じゃ、じゃあ、紀一は……」


「君の不幸を選んだよ……。皆、里理ちゃんの荷物を運べ」


 克己が言うと、全員で里理の荷物をまとめ始め運び出す。


「私は幸せだよ……」


「結婚はしない! 俺の言うことは聞いて貰う! 条件はその二点で約束を破った罰は赦してあげるよ」


 里理は嬉しそうに微笑み頷く。そして、里理は克己に抱き付いた……が、ノエル達は里理を引っ剥がした。


「な、何をするんだ! 君達は奴隷だろ!」


「「「「「「「あんたの奴隷じゃない!!」」」」」」」


 全員がハモって里理に言う。里理は驚いた顔をして全員の顔を見て不敵な笑みを浮かべる。


「な、何が可笑しいのですか……」


 ノエルが後退りして聞く。


「倒しがいのある相手ばかりで嬉しいよ……。暇をしないで済むね……」


 里理が宣戦布告するが、ハミルが言い放つ。


「序列では貴女が一番下です! 一緒に住むのだから、確り働いて貰いますからね!」


 里理は驚いた顔して克己の顔を見ると、克己は頷き「当たり前の話だな」と言って、里理の頭を撫でる。


「先ずはネットワークの構築……をする前に、ボサボサ頭をどうにかしろよ。お前らもな」


「だ、だけど……」


「さっきも言ったが、俺の言うことを聞けよ。それが条件だろ?」


「そう……だったね……」


 里理は残念そうな顔をしていたが、直ぐに切り替えたようでいつものように笑顔を見せていた。


「じゃあ、明日はリーズを除く全員が髪を切りに行けよ。里理ちゃん、案内とスタイルを頼むよ」


「OK、任されたよ」


「ありがとう。じゃあ、この後は室内をバリアフリーにしないといけないから全員手伝ってくれないか」


 克己が言うと全員は返事するが、バリアフリーが何なのかは全く理解をしていなかった。


 里理は嬉しそうに微笑み、携帯を取り出してメールを送る。


 送った先は国枝で、謝罪と感謝の言葉を並べ、最後に生まれ変わったら今度は一緒にと書いて送っていた。


 暫くすると返事が返ってくる。


『嫌なこった! 正直、お前は重かった。これで肩の荷が下りて清々するよ。だけど愛していたのも事実。今度は放れるんじゃないぞ! 何かあったら直ぐに言え、俺ができる限り助けてやる』


 国枝のメールを読み、里理は物陰に隠れ涙を流した。謝罪の言葉と共に……。

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