50話 北川里理!!
数日が過ぎ、ノエルは幸せ一杯であった。
「明日の予定ですが……」
電車の吊革に掴まりながらノエルは明日の予定を報告していく。
「ん、分かった……。じゃあ、明日も一日宜しく……」
克己が優しい顔で微笑みかける。それは付き合う前とか付き合っている時に見せてくれていた顔だった。
(その笑顔が見たかった……)
ノエルはウットリしながら克己の横顔を見ており、克己は駅の中吊り広告を見て面白い物はないかと考えていた。
「ノエル……」
不意に克己が呼ぶのでノエルは体をビクつかせる。
「は、はい!」
「アルスは……、アルスは元気にしているかい?」
「アルス……ですか?」
「あぁ、どんな感じ?」
「そりゃ……元気は無いですが3食しっかり食べていますし……厠もお風呂だって毎日……」
「そっか……。何か言っていたか?」
「何か……ですか? 毎日どのように行動をしているのかを聞いてきますね……こと細かく」
「成る程ね……。ノエルは仕事が楽しいか?」
「え? えぇ……幸せ一杯ですよ」
貴方の側にいられるのだからと言いたかったが、過去の事を考えたらそんなことは言えず、微笑んで誤魔化した。
「成る程ね……」
克己は遠くを見て何かを考える。
「な、何をお考えで? チビ助の事ですか?」
克己はノエルの質問に少し困った顔で答える。
「そんなところだよ……」
克己とノエルは家に帰る前にスーパーに寄って夕食の材料を選んでいると、前方の方にガラの悪そうな人達が立っていた。克己はそれを気にせず買い物を続ける。
「ノエルはテレポートを覚えないの?」
「私は……ちょっと難しいかと……。ここまでレベルが上がっているのにそう言った補助系の魔法を一つも覚えないのですから……」
「ふ~ん、人それぞれ覚えるものが違うんだね」
「そうですね……それぞれの個性により魔法を覚える種類が異なりますから……」
ノエルはカートを押しながら克己に説明する。
「たまには洞窟なんか入りたいものだな」
「良いですね……! 捜索範囲を拡げて探してみましょうよ!」
「そうだな……考えとくよ」
ノエルは夫婦みたいなシチュエーショで少し興奮ぎみだった。しかし、前をしっかり確認しておらずガラの悪い連中にカートを打つけてしまう。
「あ、すいません……」
ノエルは直ぐに謝るが、ガラの悪い連中はノエルの体を見ていちゃもんを付け始める。
「す、すいません……でした」
ノエルは再び謝罪をするが、男達は納得せずノエルの肩に手を回して言う。
『お姉ちゃんの体で謝罪してくれないか?』
男が言い終わると同時に克己が引き剥がす。
「コラコラ、こいつは俺の連れだよ……。それにこいつの体で、って言うけどさ……釣り合ってないぜ? こいつの体の方が高い」
『な、何だと! この野郎!』
「あと、店の中で暴れるなよ……」
克己は喉輪をして体を持ち上げる。華奢な体の克己が楽々と持ち上げると、男達は驚き身構える。
「怪我をしたくなければ大人しく下がりな……」
克己はゴミのように持ち上げた男を投げ捨てると、男達は慌てて逃げていく。
「大丈夫か? ノエル……」
「あ、ありがとうございます……」
「あんな奴ら、お前一人でもどうにか出きるだろうが……、手加減しなさそうだもんな」
克己は笑いながらノエルに言うと、ノエルは顔を赤らめた。
「い、一瞬だけ……山賊に襲われた時の事を思い出しました……」
「大丈夫か? もう安心だよ……」
克己はノエルを抱き寄せる。
「幸せです……。私は幸せ者です」
克己は何も言わずに抱き締め頭を撫でる。
ノエルは落ち着いたのか、お礼を言って放れようとしたので克己は抱き締める手を緩めた。
「皆が待っていますから、買い物を済ませて帰りましょう!」
ノエルは微笑みながら言ってカートを付かんで動かし始める。
レジで清算を済ませて外に出ると、誰かが克己に打つかる。
「残念だったね……」
克己はそう言って打つかった男を殴り飛ばす。ノエルは何が起きたのか分からず、ただ驚き見つめるだけだった。打つかってきた男は、先ほど克己に投げ捨てられた男であった。
「この服は意外と気に入っていたんだけどね……」
克己が穴の空いた服をノエルに見せると、ノエルは顔を青くする。克己をナイフのような物で刺そうとしたが、克己は瞬時に体に力を入れて体を守っていた。
「お、お怪我は!」
「無いよ……、有るわけがない。だけどこの間説明したが……お前の仕事は付き人だけの仕事じゃないと言ったはずだけど?」
「も、申し訳ありません……」
「お前等は可愛いから絡まれやすいな……。アルスの時も……、一昨日もそうだったけな……。あの時もこんな風に刺され服が台無しになったよな……」
「も、申し訳ありません……」
「だけど、アルスは二度同じことをしなかったな……」
ノエルは体をビクッとさせ、克己は落とした食材を拾い袋に入れ直す。
「帰ろう……」
克己が言うと、ノエルは小さく頷き、俯きながら克己の後ろを付いていった。
その晩、ノエル達は克己のお店で珍しくお酒を飲んでおり、アルスとレミーはそれに付き合わされていた。
「克己様はお優しい……素敵な人よ……。仕事のミスは笑って許してくれるし、常に微笑みかけてくれる……だけど、今日はちょっと違かった……。何処か上の空でさ、ずっと何かを考えているの……」
レミーは頬杖を付きながらエールを飲む。アルスは先日の一件以来お酒を飲むのをやめた。特別なことが無い限り飲まないと二人に説明してジュースを飲んでいた。
「でもさ、克己様の側にずっといられるんでしょ? 別に良いじゃん。私なんか最近は余り一緒にいられないんだよ? アルスなんて顔すら会わせてもらえないんだから」
レミーが言うと、アルスは慌てながら答える。
「わ、私は自分が悪いのだから仕方ないよ……」
二人はそりゃそうだと同意して酒を飲む。
「今日は何をしていたの?」
アルスが何時ものように質問をしてくる。ノエルは答えるのが面倒になり適当に答えるが、アルスはしつこかった。
「何をしていたんだよ、教えてよ!」
「あんたが聞いたってどうにかなる訳じゃないでしょ? 無駄なことをすることは無いわよ。それよりあんたは毎日何をしているのよ? 今日、珍しく克己様が聞いてきたわよ」
「え! 本当に!」
「元気なく3食食べて、厠とお風呂には入っている言っといたけど……」
「そ、そっか……、気にしてくれているんだ……」
アルスは嬉しそうに微笑みジュースを飲む。すると、従業員がアルスを呼びにきた。
「アルスさん、克己様がお呼びになっているようですが……。ノエルさんも……です」
「「「え?」」」
三人は驚き、慌てて会計をして家へと帰る。息を切らせながら三人は克己がいる日本のリビングに到着すると、克己はレミーがいることに気が付いた。
「あれ? 三人で出掛けていたのか?」
「は、はい……。で、でも……わ、私は席を外した方が……」
レミーが少し落ち込みながら言うと、克己は少し考える。レミーは苦笑いして部屋を出ようとしたのだが、克己は引き留めた。
「ん~、予定が変わるが別に良いかな? レミーもそこに座れよ」
レミーは一瞬固まり、聞き間違いかと思ってもう一度克己に確認する。
「居ても……良いのですか?」
「あぁ、そこに座れよ」
「は、はい!」
レミーは嬉しそうに椅子に座ったが、ノエルとアルスは顔を強張らせて椅子に座っていた。
「じゃあ、話をするぞ。しっかり聞けよ……」
「「「は、はい」」」
三人に緊張が走る。
「アルスは明日から秘書に復帰、ノエルの足りない部分を補え。今度こそ離れるなよ。レミーは俺達三人の護衛。この間みたいに酒を飲ませてくる奴がいるかもしれないから。日本では武器を装備する事が出来ないから注意しろよ。ノエルはアルスの動きを見て学べ、今日みたいな事がないように注意するように」
アルスは驚いた顔をしていた。
「ふ、復帰? ほ、本当に宜しいのですか!」
「嫌なら違う奴にお願いをするが……、お前がいないと調子が上がらない。しっかりと傍にいろよ、三人とも……な」
ノエルは外される訳ではなくホッとして、レミーは棚ぼた的なことが起こり固まっていた。アルスは大粒の涙を流しながら歓び、席を立って克己に抱き付いていた。
克己は疲れた顔してアルスの頭を撫でた。
「体は大丈夫か? 暴力振って悪かったな……髪の毛、ゴメンな……」
アルスは声にならない声で泣きわめき首を横に振って謝っていた。
「一年だけ待っていてくれよ、頼むからさ……」
アルスは頷き再び謝る。克己は頭を撫でながらレミーを見る。
「二人の足りない部分を補ってくれよ……」
「だ……、できる限り頑張ります……」
レミーは大丈夫と言いたかったが、二人の方が日本での生活は上のため、頑張ると言い換えた。
「二人からお酒の匂いがするな……、レミーは23だから良いけど……ノエルは16だよな? 酒を飲んだら家からは出るなよ。仕事も連れていかないからな。こっちの世界では20歳以下は飲酒禁止なんだ。覚えとけよ、明日も酒臭かったら連れて行かないからな」
克己が言い終わると、ノエルは固まっていた。
「明日は留守番だね、ノエル」
レミーはノエルの肩を叩いてそう言った。
「アルス、そろそろ寝るぞ……早く風呂に入って顔を洗ってこいよ」
克己が言うと、アルスは嬉しそうに頷いて着替えを取りに部屋へと戻った。レミーも自分の部屋へと戻り、ノエルは顔を引き攣らせて椅子に座ったまま固まっていた。
「ノエル、運動をするのは逆効果だからな」
そう言うと、ノエルは体をビクッとさせて涙目で克己を見る。
克己は溜め息を吐きノエルの顔を見る。
「先ずは水を飲め。アルコールを排出させるんだ。次に果物、グレープフルーツを買ってあるだろ、それを食べろ。最後にゴマを食えアルコールを分解してくれるから」
「か、克己様!」
「風呂に入って汗をかけよ……、それだけでも大分違うから」
克己の助言を聞いてノエルは直ぐに行動へと移り、言われたことを全てこなした。本当に大丈夫なのかは自分の体に任せるしかなく、不安な心のまま部屋に戻ろうとして克己に挨拶をすると、引き留められた。
「な、何でしょうか……」
「今日は一緒に寝よう。アルスがいるから何もしないけど、別に構わないだろ?」
驚きのセリフだった。恋人解消してから一度も一緒に寝たことがなかった。それがどうして急にと思いながらノエルは頷いた。
寝間着に着替えて克己の部屋に行くと、アルスがベッドで寝そべっていた。
「アルス、克己様は?」
「さぁ、そろそろ戻ってくるとは思うけど……三人は狭くない?」
「狭いかも……アルスが下に寝ると良いよ。私は克己様と一緒に寝るから」
「いやいや、ノエルに譲るよ。寝相が悪そうだし……」
「は? 悪くないし!」
「どうだか……。本人は気が付いていないだけかも知れないし……」
二人は睨み合う。
「お前ら何をしているんだよ? ちょっと手伝ってくれ」
そう言って克己は、少し大きめの布団を運んできて敷き始めた。アルスやノエルは慌てて手伝いを始める。
敷き終えると克己はアルスに飛び込めと命令し、アルスは嬉しそうにダイブした。
「ノエルはこっちで、アルスはこっち……な。今度でかいベッドを買わないとな」
ノエルとアルスは顔を見合わせキャーキャー言っており、楽しそうだった。
「じゃあ、寝るか……」
克己はリモコンで照明を消して横になると二人が克己の手を求めてきたので克己は握った。
「暖かいです……」
ノエルは嬉しそうに言う。
「幸せです……」
涙声でアルスは言う。
「早く寝ろよ……」
克己はそう言って三人は眠りについた。
夜中にアルスは目を覚まし、直ぐに克己の存在を確認すると、克己は幸せそうにアルスの方を向いて眠っていた。
「良かった……夢じゃなかった……」
そう呟いて克己の手を握り自分の顔へと近づける。
「私は幸せです……。ありがとうございます」
アルスは気付かれないようにキスをして再び眠りについた。
翌朝になり、アルスはアラームの音で目を覚ます。
「あ、朝……? 音を止めなきゃ……」
アルスは目覚まし時計の頭を叩き、アラーム音を止める。
「そ、外は……」
アルスはカーテンを開けて外を確認すると、雨が降っていた。
「雨か……。傘の準備をしなきゃ……」
アルスは玄関先で傘が4本あることを確認して室内に戻り、ノエルを起こす。
「ノエル、ノエル! 朝だよ! 顔を洗って髪の毛を直して来なさい!」
「ん~、まだ6時じゃん……克己様が起きるのは7時だよ……」
「バカ! 今日は何処に行く予定か思い出しなさい! 私達の身だしなみが悪いと克己様が恥ずかしい思いをするんだよ!」
ノエルは体を起こして予定を思い出す……。
「あ、異世界について政治家とか言う奴らと話し合いだ……」
「今日は忙しい日になるから早き準備しなさい!」
アルスは言い終わると同時に服を着替え終え、洗面場に行き歯を磨き始める。ノエルも慌てて歯を磨き始め朝の準備を始めた。
暫くしてアラームが再び鳴ると、アルスは克己を起こす。
克己は眠そうにしながら目を覚ましてアルスを見つめる。
「おはようございます、お時間になられましたので起こさせて頂きました」
アルスがそう言うと、克己はアルスを抱き寄せキスをした。
「昨晩の仕返しだ……」
「あ、お、起きていらしたのですか……」
「目が覚めたんだよ、誰かが悪戯するから」
「も、申し訳……」
「今日からまたよろしくな! アルス」
「はい! 宜しくお願いします!」
克己は再び抱き寄せてアルスにキスをして、アルスは雨の憂鬱な気分が吹き飛んだ。
「ぷは……。ありがたき幸せです……」
克己は微笑み布団から出て着替えを始めると、アルスはノエルを呼んで布団をたたみ始める。
「あ、アルス、あなた何時もこんなに忙しいの?」
「普通だよ、ほら! 次は朝食の準備だよ! 皆のお皿を準備しなきゃ!」
アルスとノエルは異世界側に行こうとすると、克己に引き留められる。
「おはよう、二人とも。お酒のチェックをするぞ。ノエルはダメだったら居残りだからな。ほら、こっちに来い」
呼ばれたノエルはビクビクしながら克己のもとに行き、顔を近づける。
「目を瞑れ……」
「は、はい……」
目を瞑ったノエルの腕を引っ張り克己はキスをする。ノエルの口の中に克己の舌が絡み付きノエルは驚く。
「うん、大丈夫なようだな……。次はアルス!」
ノエルは久し振りにキスをしてもらい、嬉しくって涙が出そうになっていた。次と言われ呼ばれたアルスは戸惑っていた。
「わ、私はお酒を飲んでいませんが……」
「夜中に悪戯をするくらいだからな……信用できない」
克己は悪戯な笑みを浮かべると、アルスは恥ずかしそうに近くによる。克己は腕を引っ張り、アルスを抱き寄せる。アルスは嬉しそうに目を瞑ると、克己はキスをした。
激しく濃厚で甘いキスをされたアルスは、腰に力が入らなくなり、膝が笑い始める。克己は体を支え、唇を放すとアルスは幸せそうに抱き付いた。
「か、克己様……もう一度調べて頂けませんか?」
ノエルが再びキスを求め、克己はキスをする。
二人は嬉しそうに異世界側へとクローゼットを潜り、お皿などの準備を始める。
克己はキッチンで調理を始めてアルス達は作られた料理をテーブルに並べると、ライラが降りてきてキッチンに顔を出す。
「おはようございます!!」
ライラは元気よく挨拶をして克己に抱き着く。
「おはよう、ライラ」
克己はライラの頭を撫でて挨拶をすると、アルスとノエルも挨拶をした。
「ライラ、皆を呼んできて。朝食が出来たから」
「は~い!!」
克己が言うと、ライラは走って呼びに行く。
暫くすると皆が起きてきて、寝ぼけ眼で朝食を取り始める。
「皆に相談があるんだが……」
相談と言われると、全員が食事をするのを止めるが、ライだけは止めなかった。
「新しい奴隷を買おうかと思うんだけど……」
「その理由は……?」
ノエルが眉を顰め質問する。
「考えてみたら回復や補助魔法が使える奴がいないって思ったんだ。この先どんな強い奴が現れるか分からないし、毒などあったら大変だと思ってね」
「ですが、誰がどんな魔法を覚えるか分からないですよ?」
「そうなんだけど……」
「ノエル、良いじゃん。克己様が必要って言うなら必要なんだよ。私達は黙って付いて行けばいいよ」
アルスが言うと、皆は少し考えて頷く。
「あと、ガルボ……」
「は、はい! イタ!」
急に名前を呼ばれてガルボは慌てて立ち上がり、テーブルに膝を打つけて涙目になる。
「だ、大丈夫か?」
「うぅ……大丈夫です……」
「なら良いけど……」
「そ、それでお話は何でしょうか……」
「あ、あぁ……。今日はお前も一緒に出掛けるぞ」
「「「「え?」」」」
アルス、ノエル、レミー、ガルボは驚き声を上げる。
「だ、だって私は日本の事がほとんど分かりませんし……る、ルノールの方が……」
「ダメだ! お前が来るんだ」
「わ、分かりました……」
「アルスとノエル、レミーはガルボの服を着替えさせるんだ」
「は、はあ……分かりました……」
ノエルが返事をして食事を再開する。
「あとの皆はレベル上げをしてくれ、それと洞窟探し」
残りのメンバーは返事をして食事を再開した。
ガルボは生まれて二度目のスーツだった。一度目はスーツを作ったとき。そして二度目は今となる。克己はその姿を見て、意外と似合っているじゃん? と思いながら四人を見て微笑む。
「あ、歩きにくいというか……穿きなれない物なので……」
「アルス、歩き方の指導を頼む」
「はい!」
アルスはガルボに歩き方を説明し、靴を履くと少し歩きにくいと説明する。電車や乗り物に乗った際には股を開かないよう気を付けるようにと言うと、ガルボは不思議そうな顔をしたのでアルスは実例を見せる事にした。
「椅子に座ってこうやって足を開くと、前に居る人に股の中が見られることがある。下着を穿いているから気にしなくて良いかと思うけど……、日本ではこういった行為は、はしたないの。克己様が人前に出して良い女と思われているから貴女は連れていかれるのよ? 克己様が恥をかく行為はするのは止めてね」
「う、うん……」
「じゃあ、歩く練習をしてみよう……」
ガルボは歩く練習をアルスと行い、椅子に座り方や最低限のマナーを習った。
「アルスは凄いね!」
「克己様が教えてくれるんだよ……」
「そ、そっか……」
「一緒に出掛けるんだから頑張ろうね!」
「う、うん!」
遠くからアルスを呼ぶ声が聞こえ、アルスは返事をしてガルボと一緒に向かった。
「アルス、ちょっとこっちに来い! 忘れていたことがある」
「は、はい」
アルスは克己の傍に行くと、アルスを羽交い絞めにして胸を揉みまくった。
「あ、ん! あ……か、克己様……ん……」
「これで良し! この間揉まれた胸と弄られた乳首は俺が揉み返した……これで再びお前の体は俺の物だ」
「は……は……い……。か、克己様の物です……ハァハァ……ありが……とう……ございます……ハァハァ……」
ガルボは急に克己が胸を揉んだのを見て、一歩後ろに下がる。
「ん? どうした? ガルボ」
「い、いえ……急な出来事だったので……」
「あぁ、刺激的な物を見せてしまったな。悪かった。アルスはこの間、変態に胸を揉ませたから俺が揉み直したんだよ。あのオッパイは俺の物。俺以外が触るのはダメ! もちろんガルボのだってそうだよ。お前の物であり、俺の物でもある……だから気安く人に揉ませたり見せたりしてはダメだぞ。下着だって同じだ。恥じらいを持って行動をしてくれ」
「は、はぁ……」
克己は自分の手を見つめ、アルスのオッパイは柔らかいなぁ~っと思っていた。
暫くして五人は傘をさして出かける。
ガルボは歩きにくそうにしており、克己はゆっくりと歩く。
「ノエル、場所は何処だっけ?」
「えっと……」
ノエルは袋の中から手帳を出そうとすると、アルスが答える。
「東京駅です」
「ん、ありがとう……間に合わなそうだな……。アルス」
「はい、東京駅まで飛びます」
アルスはテレポートを唱えて東京駅に克己達は急に表れると、近くにいた人たちは腰を抜かして驚く。
「ありがとう、アルス」
「いえ、当然の事です……」
「ノエル、場所は調べてあるか?」
「あ、……っと……」
ノエルはスマホを取り出し住所を調べる。
「ノエル、ノエル……あそこの建物が目的地だよ……」
アルスが小さい声でノエルに教える。
「え? ほ、本当?」
「あそこの宿屋にある食事処で打ち合わせを行うんだよ……ほら、早く克己様に報告して!」
「あ、貴女が……」
「良いから早く!」
「あ、あそこの宿屋になります」
「丸の内側……高級ホテルか……じゃあ、行こうか」
克己は歩き始めると、四人は克己の後を追いかけるように付いて行く。
「ノエル、受付を済ませて……」
「え? う、受付?」
「克己様じゃなく、私たちがやるんだよ。秘書なんだから」
「そ、そうなの? だ、だっていつも克己様が……」
「ノエルが知らないからだよ、ほら、克己様が受付に行く前に済ませるよ! 一緒に行ってあげるから」
アルスとノエルは受付に向かい、アルスが説明する。受け付けの女性が確認すると、ホテルマンが緊張しながら現れて克己達を案内する。
「克己様、こちらになるそうです……」
ノエルはアルスが言うように克己に説明すると、克己は嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、二人とも」
「お、お礼を言われた……」
ノエルは自分に笑みを向けてくれたことに喜びを感じていた。
ホテルマンは克己達をレストランの一角に連れていくと、数人の男性が座っていた。
「お待たせしました……」
克己が声をかけると、座っていた男性たちは克己の方を見て緊張した表情で立ち上がり、握手を求めてきた。
「初めまして、成田克己です。今日は呼んで頂き感謝します」
「い、いや、こちらこそ来てくれて感謝するよ……」
男たちはそう言うと克己に座るようジェスチャーをする。アルスは克己が座る椅子を引き、克己はその椅子に座る。
男たちはその一連の行動に驚きを見せる。
「よく教育をされていますね……」
男の一人が言うと、克己は嬉しそうな表情をする。
「彼女らは勉強熱心ですから……言わなくても自主的にやってくれるんですよ……俺には勿体なく素敵な秘書と護衛です」
克己がそう言うと、ノエル達は照れるだけだが、アルスは会釈して「勿体ないお言葉です……」と、答える。
それを見て、ノエル達も真似するように同じ行動をする。
男たちは笑い、食事が運ばれてくる。
「すいません、彼女たちにも食べさせてあげたいのですが……。こんな料理は滅多に食べる事ができませんから……」
克己が言うと男たちはホテルマンを呼び、大きい場所に移動することとなった。
「すいません、我が儘を行ってしまって……」
「なに、可愛いお嬢さんたちだ……君がそういうのも仕方がない……」
ノエル達は可愛いという言葉に反応し照れるが、アルスは微動だしなかった。
アルス達の前に食事が運ばれてきて、ノエル達はアルスの行動を見る。しかし、アルスは食事に見向きもせずに全員の動きを観察する。
「お前達、食べて良いぞ」
克己が言うと、ガルボはフォークを持ち、行き成り肉に突き刺す。アルスは克己の顔を見て困った顔をする。
「すいませんね、食事のマナーは教えてなくて……気に障るのなら謝ります」
「いやいや、彼女たちは『異世界人』なのだろ? この間のテレビを見させてもらったよ……君の奴隷なんだって? マナーについては今後学んでいけば良いさ」
「感謝します」
克己は頭を下げ、アルスは後でガルボに説明をしなければと思い、残りの二人を確認する。アルスはそれを見たら泣きそうになった。二人はガルボと同レベルで肉を食らい付いていた。
「の、ノエル……汁が飛ぶからナプキンを付けて……」
アルスは小さい声でノエルに言うが、席が離れているため聞こえ難く、ノエルは不思議そうな顔をしていた。仕方なくアルスは自分だけナプキンを膝に置き、ナイフとフォークを使って大きく口を開けないために小さく切って口に運ぶ。男たちはそれを見て小さく声を上げて驚きの表情をする。
「俺の隠し玉ですよ……素敵でしょ?」
克己が言うと、アルスは少し照れたが顔に出さないようにして男たちに小さく礼をする。
「彼女はまだ15歳……そっちの子は16歳と15歳、一番端っこに居る人だけ23歳になります」
「まだ若いのですね……」
男たちは年齢に驚き、ノエルの胸を見て唾を飲みこむ。
「彼女らは俺の物ですからね。誰にも渡したり触らせたりはしませんよ……たとえ『先生』方でもね……」
克己の眼は鋭く男たちを睨む。
男たちは戸惑いながら水を口に含み、落ち着きを取り戻すために一息つく。
「さ、さっそく本題に入りたいのだが……」
「はい、どうぞ……」
「政権について……君はどう思っている?」
「興味ありせん……政には興味が無いですね……好きにしたらいい。ですが、俺に楯突くなら容赦はしませんよ……それは民心党で分かっていると思いますがね……」
男たちが唾を飲み込む音がアルスたちに聞こえてくる。
「こ、今回……政権は我々自明党が握る事になる……」
「そうですか、おめでとうございます……」
「そこで国枝という官僚から話が合ったのだが……」
「あぁ……『あの』話ですか……」
「そう、自衛隊についてだ……。こちらとしては君の言うとおりにしても良いとは思っているのだが……」
「『だが……』?」
「入り口を開けてもらえないだろうか……」
「それは構いませんよ……ですが……」
「分かっている、君が望む通りの契約書を作ろうじゃないか!」
「話が早くて助かります……が、何を企んでいるんですか?」
「……中にある資源の提供を……」
「成る程……。取り分は俺に10%、それと王国側にも30%……それで王と交渉……これが条件の一つですね」
「さ、30%……少し多くないか……」
「そう思いますか? 妥当だと思いますがね……その中に自衛隊の街を作るというので話をしてみるというのは如何でしょう?」
「街を作る事によって税金は……?」
「ありません。その代わりギルドを作る必要がありますが……王の管理下に置かれるという意味になります」
男たちはヒソヒソと話し合う。
克己はその間に食事を進め、味の確認を行うが、自分が作った方が美味しく感じるのは何故なのかと疑問に思い、アルスに確認する。
「アルス……これって俺が作ったのと、どっちが美味しい? 正直に答えろよ……贔屓とかするな」
「正直に……ですか……信じてはもらえないかと思いますが、克己様の方が……好みですね……」
「成る程……試験はいつだっけ?」
「二週間後です」
「そうか……受かると良いな……」
「受かりますよ……克己様なら受かります!」
アルスは真剣な目で克己を見る。
「そうだな、ありがとう。アルス」
克己が微笑みながら言うと、アルスは顔を赤くさせた。
「成田さん、ギルドを置かないとなるとどうなる?」
「多分交渉は決裂でしょうね……。もしも大丈夫だとしても、人が移住してくることはないでしょう」
「その理由は?」
「ギルドは王が作る機関。王国の収入源なります……。そして、仕事を求める者はギルドに仕事を探しに行きますので、無いのならお金を手に入れる方法がなくなってしまうから誰も近寄らなくなります」
「成る程……取り分はどうにか……」
「なりません……俺だって面倒な交渉をするんですから……ガメツイって思われますけど、こちらからお願いをしている訳ではありません。前から言っていますけど、嫌なら関わらないで下さい」
男たちは難しい顔をして考え込む。
「まずは政権を握ってからだと思いますけどね……」
克己が言うと、それは大丈夫と男達は笑いながら言っていた。余程自信があるのだろうと克己は思いながら水を口に含む。
「政権を握ってから行動すると時間がかかるから今のうちに実行に移せるようにするんだよ……」
「成る程……」
「分かった、君の言う通りにしよう……王様とやらの交渉は君に任せるよ」
「失敗したらこの話はなかったことになりますよ……それだけはご了承ください」
克己はそう言って、軽く頭を下げてから席を立つ。
アルスはそれに続き立ち上がるが、ノエル達は慌てて食事を止め立ち上がり、席を後にする。
アルスは男たち一礼をして克己の後を付いて行く。
外に出て、アルスは大きい溜め息を吐いた。
「どうしたの? アルス」
ノエルが質問すると、アルスはノエルを睨む。
「もう! 克己様に恥をかかせないでよ! 恥ずかしいったらありゃしないよ……」
アルスは怒りながら言う。
「アルス、それは仕方ないだろ。作法を教えてない俺が悪いんだから」
「そ、そんな事はありません! 普通は勉強してくるものです! スマホで調べる事が出来ます! レミーやガルボは仕方ないかも知れませんがノエルは別です! 時間が沢山あったのだから……」
「お前ができてりゃ十分だよ、そんなに言うなよ」
克己が言うと、ノエルは克己に抱き着いた。
「流石克己様! お心が広いです!」
「ノエル、今の話は馬鹿にされているんだよ……」
レミーがあきれながら言う。
「それよりもノエル、この後の予定は?」
「あ、そ、その……ちょっとお待ちください……」
ノエルはノートを取り出し確認をする。
「国枝さんとお会いする約束ですね……場所は新宿のxxマンション605号室ですね……」
「国枝君の家かよ……」
克己は疲れた顔して呟く。
電車で新宿三丁目に行き、国枝の住んでいるマンションのエントランスに到着し、克己はインターホンを鳴らす。暫くするとスピーカーから女性の声が聞こえてきた。
「成田です。国枝君はいますか?」
『あ、成田君? ちょっと待ってね』
そう言ってインターホンは切れて自動ドアが開き、克己達は中に入っていく。
エレベーターに乗りガルボは怯える。ガルボは箱が勝手に上や下へと動くのに納得ができていなかった。エレベーターは6階に到着し克己達は605号室の前に到着すると、再びインターホンを鳴らした。
少しすると扉が開き、一人の女性が出迎えてくれたが、その女性の服装は乱れた姿であった。
「久しぶりだね……成田君」
「どうも、里理ちゃん。相変わらず家だとだらしない格好でいるようだね。国枝君はいるかい?」
「紀一は中に居るよ……どうぞ」
克己達は靴を脱ぎ、中へと入っていくとアンジェとオルカノがあられもない姿になっていた。その姿を見てアルス達は絶句した。
「何をやってんの? 裸で……」
克己が呆れながら三人に言う。
「克己か……」
国枝がオルカノの腰を掴み、自分の腰を振っていた。
「克己か……じゃない。何をしているんだよ……」
克己が呆れながら言うと、里理が後ろから克己に抱きつく。
「成田くんも自分の奴隷ちゃんに……どう?」
克己は里理を引き剥がし椅子に腰掛ける。傍では喘ぎ声が響きわたる。
「しませんよ……。と、言うか里理ちゃん……、君は彼氏に何をさせているんだよ……」
「何って……『ナニ』だよ。私を愛しているなら二人を犯せって言ったの。二人は嬉しそうに紀一を受け入れて腰を振っていたわよ?」
「君は何をしたいんだよ……」
「紀一が喜ぶことがしたいだけよ」
嬉しそうに里理は言う。
「じゃあ、君が相手になれば良いじゃん……」
「私? 私もさっきまでしていたよ? 君が来るから着替えたの。紀一以外の人に裸は見せたくないからね」
里理は嬉しそうに言う。
「その行為は何時になったら終わるのさ? 俺は呼ばれてやって来たんだけどね……」
「呼んだのは私。紀一じゃないよ」
「は?」
「ンフフ……。紀一に頼んで呼んでもらったの」
「い、いや……それは今聞いたから……」
国枝は中で果てたようで満足した顔をしており、オルカノはぐったりしていたが、アンジェは二人の体を引き剥がし国枝のそれを綺麗に舐めて掃除を始める。アルス達は目を反らすことが出来ず、声もでない様子でただ、その気が狂っている光景を見ていた。
克己がアルスの袖を引っ張り、アルスは我に返る。
「こ、これは……」
「言うなよ、アルス……。この子の考え方は変わっているんだ。常識という物差しで考えちゃだめだ」
アンジェは自分の中に国枝を入れて上下に体を動かし、気持ち良さそうな声を出していた。
「薬なんて使ってないだろうね……。異常すぎる……」
「使って無いよ、二人には本能のままに動きなさいと言ったまでよ……それだけ紀一を気に入っていたのでしょ?」
何をするのも自分の勝手だと思うが、正直こいつらは残念過ぎると克己は思いながら里理を見た。
「で、要件は? 正直こいつらの教育に悪いから、さっさと帰りたいんだけど」
克己が言うと、里理は嬉しそうな顔して言う。傍ではアンジェの気持ち良さそうな声が響き渡り、気が狂っているとしか思えなかった。
「私のお願いは一つ。私も異世界に住みたい……」
「危険な場所だよ。君は足を患っているんじゃなかった? 大変な生活になるよ」
「構わない……こんな世界にいるくらいならそれで構わない!」
里理は悲痛な顔して克己に訴えかける。
「何で君はそんなに変わったんだ? 君はもっと……」
「成田くんには関係ないよ……。それとも言わないといけない? 成田くん、君が一度でも私を言い負かせた事があったかな?」
全敗の記憶が呼び起こされる。
「紀一を言い負かせても私は無理だよ。君は優しすぎるからね……」
「報酬は?」
「紀一を自由に使っているでしょ? それ以上を望むの? 紀一は何時も私に泣き付いてくるのよ?」
「成る程ね、君が後で……ね……」
「紀一は良い子よ……。私には勿体無いくらいに……」
「分かったよ、その代わり君は俺に協力することを約束してくんない?」
「ノー・プロブレム……問題ないわ。好きよ、物分かりが良い君は……」
「俺は君が苦手だよ……」
「誉め言葉として受け取っておくわ、それじゃあ話は終わり。混ざりたければ混ざって良いわよ……」
里理は足を引き摺りながら冷蔵庫からビールを取り出し飲み始める。アルス達は里理に対して恐怖を感じていた。
「帰るぞ……。里理ちゃん、来るときは先に連絡をくれよ……」
克己は、ノートの切れ端に自分の携帯番号を書いて渡すと、嬉しそうな顔して言う。
「そうだよね、この子とヤっている時に来られたら迷惑だもんね」
里理はアルスに指を差し、アルスは戸惑う。
「違うよ、色々と準備が有るだろ……。車椅子とか……」
「成田くんは優しいね~。何時もそうだよ……。いつかそれが仇になる日が来るかもね。覚えときなよ……お嬢ちゃん」
里理はアルスしか目に入っていないようで、アルスは戸惑う。
「そ、その時は……わ、私が御守りしますから……」
「貴女は我慢できるのかしら? もう一人の女に……」
克己を除く四人は驚いた顔をする。
「里理ちゃん、それ以上言うとさっきの話は無しにさせてもらうよ」
「おぉ怖い! 成田くんが怒っているよ」
里理は笑いながら言う。
克己は立ち上り玄関へと向かっていく。
「荷物の整理が終わったら連絡をするわね」
里理は足を引き摺りながら見送りに来てくれるが、克己は嫌そうな顔をして振り返り里理の顔を見る。
「出来れば二度と連絡が欲しくないね……。何が里理ちゃんをそのようにしてしまったんだい?」
先程まで笑顔だった里理が冷たい目をし、克己を睨む。
「さっきも言ったでしょ? 君には関係の無いことだって……。知りたいのなら私の犬にでもなってくれたら教えてあげるかもね……」
「願い下げだよ、じゃあね」
克己はアルス達を先に外に出し、自分は最後に出ていこうとすると里理が一言呟き、克己の動きが一瞬だけ止まる。
「過去の話だろ……」
克己はそう言って玄関から出ていった。
「愛しているよ……成田くん……」
里理は閉まった玄関にそう呟き、足を引き摺りながら国枝達の気が狂っている現実へと戻って行った。




