4話 剣士ノエル!!
翌日、克己は銀行に通帳記入しに出かけた。
銀行に到着して、長い列にうんざりしながら日付を確認すると、五十日だと気が付き、自分の愚かさを呪った。
「別に今日じゃなくてもよかったな……」
克己は独り言を言いながら列に並び、自分の番を待っていた。
ようやく自分の番になり、なんでこんなに苦労してまで通帳記入をせにゃいけないのか考えながらATMに通帳を入れて記入をさせる。
出てきた通帳を確認すると、宝石商から2,000万程が振り込まれており、長く並んだかいがあったと思いながら銀行を出て行った。
克己は歩きながら再び通帳を見て確認していると、今回お店に使った費用はコアを売った分で全部チャラになっていた。
お金が戻って気を良くした克己は、携帯からアクセスしネット通販サイトでマシンガンライフルのエアーガンを購入し、ついでに新しいエアーガンとエアーバズーカーもネット通販サイトで購入した。
暫くして克己は車に乗り、ホームセンターへと向かう。お店で色々な物を購入して家に戻り、さぁ! クローゼットの中へ! ……と、入ろうとしたら携帯に着信があり誰かと確認する。
ディスプレイを見ると、涼介からであり、克己は仕方なく電話に出てみると、涼介は暫く有休を取ったから俺も連れて行けとの事だった。
克己は仕方ないので涼介が来るのを家で待っていると、物凄い速さで涼介はやってきた。
「お待たせ、彼女も連れてきたから!」
そう言って涼介は少女を前に出して克己に挨拶をさせると、克己はこの間購入した奴隷ちゃんじゃん……と思った。
少女の名前はエミリーという名前らしいが、日本では外国人の名前っぽいので、涼介は勝手に千春と命名して呼んでいた。
克己は名前の由来を聞いたが、それは教えてもらえなかった。
エミリー……いや、千春は先日あった時よりも綺麗に……可愛くなっており、本当にあの時の奴隷か? と思ったくらいだった。
克己は溜め息を吐いて、涼介達とクローゼットの中に入って行く。
克己のお店はかなり繁盛しており、ペルシアが変装して、日本と異世界を行き来して、食材などの材料を搬入していた。
克己はペルシアに主任という役職をつけ、給料を皆よりも上げた。
だからその代わりに、ペルシアは皆よりも責任がある仕事をして頂くことにしているのだが……。
ペルシアは主任の意味を理解しておらず、意味を質問してきたが克己は適当に偉くなったと言った。
克己はペルシアに異世界でも野菜が栽培できないか、もしくは仕入れることはできないか確認してもらったりしていた。
「野菜の方はどうにかなりそうにゃ! だけどビールってお酒は難しいにゃ! この味を作れる人がいないにゃ」
ペルシアに確認したらそう言っていたので、ビールとカレーのルー、シチューのルーだけ、は日本で確保することにした。
店の客席に座っていた涼介がこの間の宝石はどうやって手に入れたのかと聞いてきたので、克己は涼介に説明したら涼介は目の色を変えて克己に武器調達を依頼してきた。
「涼介、ゴブリンは恐ろしいやつだぞ! 素人が戦える相手ではないよ……」
「克己ならそこをなんとかできるだろ? 頼むよ!」
「できなくはないが……仕方ないなぁ、涼介にはいっぱい世話になったし……」
そう言って克己はレーザーガンを見せて使い方を説明した。
涼介は喜びながら切れ味の鋭そうなサバイバルナイフを持って、森の中に消えていった。
克己は売り上げの確認をしてみると、売り上げは上場で白金貨3枚分になっていた。
「おお! まだ一週間も経ってないぞ! これは凄いな……」
ペルシアに人の補充は大丈夫かと確認したところ、料理人の人数が足りないとの報告が入ってきたので二人ほど補充することを許可した。
また、ペルシアが使われていない、2階はどうするのかと聞いてきたので克己は宿屋にする話をして、涼介が戻ってきたら工事を進める事にした。
数時間が経過し、克己は店内を確認してみると、お客さんの回転は速いがスタッフの人数が足りないように感じる。
これでは休憩に入ることができないのではないかと心配になり、ペルシアに言って、あと六名ほどスタッフを確保してほしいと話し、ペルシアは料理人とウエイトレスを雇うために、商業ギルドへとチャリを走らせた。
商業ギルドは克己の店から歩いて30分くらいで、自転車だと数分で着く距離であるため、ペルシアは直ぐに戻ってきた。
ペルシアは克己に、明日には新しいスタッフがやってくると報告し、それに期待することにした。
タイミングを計って、今いるスタッフに休みが取れているかと確認してみたら、あまり休みが取れていないとの事だったので、克己の予測は当たっており、増やして正解だった。
克己がPCで状況をまとめていると、涼介が街の外から戻ってきた。
涼介の服は返り血で凄い状態になっている。警察に見つかればなんて言われるか分からない状態だった。
「こんなにコアを稼いだぞ! 俺はこれで金持ちになるんだ!」
涼介はそう言って直ぐにクローゼットから出て行き、宝石商に連絡していた。
克己は涼介を追いかけて話をする。
「おい、涼介、武器を返せよ」
「克己、これをくれないか?」
「何を言っているんだよ、こんな危険なもの持ち歩かせるわけにはいかないだろ? あと仕事を手伝ってくれよ」
「仕事って何を手伝うんだよ?」
「2階を改装して宿屋にする」
「また面倒くさい事を……。どっかの大工に金を払えばやってくれるだろ?」
「涼介、お前……もしかして金に目がくらんだのか?」
「俺はこれで金持ちになって向こうで暮らすことにする! お金は親にでも預けて……」
「おい! 涼介! 目を覚ませ!」
「いくら克己の言う事でもこればかりは聞けないよ、悪いな」
「じゃあ、せめて武器だけでも返せよ!」
「わかった! じゃあ、この武器はお金が入ったら買う事にするからこのまま貰うぜ」
「お、おい涼介!」
「悪いな、克己!」
そう言って涼介は逃げるように車に乗り込み、家に帰ってしまった。
「全く、金に目がくらみやがって……」
克己は溜め息を吐きながらクローゼットの中に入りお店に戻った。
「ペルシア仕事はどうだ?」
「あ、ご主人様! 順調だにゃ! 人数も明日で揃うし、これで交代制の仕事ができるってものだにゃ!」
ペルシアがご機嫌よく答えた。
「ペルシア、大工の知り合いはいないか?」
「大工かにゃ? 商業ギルドに行けば斡旋してくれると思うけど……どうかしたかにゃ?」
「涼介の奴が金に目がくらんで手伝ってくれなくなった」
「それはそれは……まぁ、仕方ないことだにゃ。ご主人様もだいぶお金持ちになったんだから護衛の一人でも雇うなりした方が良いんじゃにゃいかにゃ?」
「護衛?」
「そうだにゃ、お金持ちはよく山賊に襲われるにゃ! そのため、剣士とかナイトとかの奴隷を護衛に付けている貴族は多いにゃ!」
「それについてはもう少し経ってから考えるよ。今は大工だな……ペルシア、時間が空いているなら商業ギルドまで付き合ってくれよ」
「了解にゃ!」
克己とペルシアは商業ギルドに行って家の改装と2階の部屋の改装をお願いする事にした。
「大工さん、すまないが家のクローゼットだけは弄らないで欲しいんだ」
「ん? かなり古いですが良いのですか? ……了解しました、旦那様!」
「これで金貨20枚が飛んでいったが、店が繁盛しているのでそんなに気にしないでお金が使えるのはいいよね」
「そうだにゃ、お金は使わないとただのゴミと一緒だにゃ」
ペルシアの考え方は、経済を回す考え方だと克己は思った。
「ペルシアは廃屋の監修を頼む、俺は荷物が届いているか確認してくるから」
「了解にゃ!」
クローゼットから戻ってくるとネットから荷物が届いていおり、届いた荷物を開封したところ、今朝頼んだ物だった。
「おいおい、届くのが速くね?」
克己はそう呟きながら、それを分解して、新たに強化版として作り直し、異世界側の家の2階に、改造マシンガンライフルと改造バズーカーを置いた。
「ご主人様! コップの在庫が切れそうにゃ! 買いに行ったほうがいいと思うにゃ」
ペルシアが焦って言いに来たので、克己は店の厨房へと向かい確認してみると、洗い物がたくさん溜まっていた。
「これは食洗機があったほうが良いかもしれないな……」
克己がそう言うと、ペルシアは「食洗機ってなんにゃー!」と叫んでいた。
「ペルシア、空いているスタッフに洗い物をさせるんだ、俺は食洗機を買ってくる」
そう言って克己は商業用リサイクルショップ向かい、店で家庭用食洗機を購入して、車に無理やり乗せて家に帰り、台車を使用してすぐに取り付けた。
食洗機で食器を洗うためスムーズに仕事が捗っていき、食器が不足することが無くなった。
数日後、涼介から電話連絡があり、涼介は「俺、金持ちになったー!」と言ってきた。
正直、克己は金に目がくらんだ男はウザいと思いながら涼介の話を聞いていた。
「んで、俺はあっちの世界で暮らすからよろしくな」と、張り切っていう涼介。
「勝手にしろよ、俺はどうなっても知らないからな」
克己は溜め息を吐きながらそう言った。
「大丈夫だって、お前には迷惑を掛けないから~!」
涼介はそういうが、既に迷惑をかけていることに気がついていなかった。
翌日、涼介が克己の家にやってきて、涼介達はクローゼットの中に入って行き、克己の家の前で別れるとそれっきり涼介と千春とは連絡が取れなくなった。
克己はペルシアに言われたように、確かに護衛や、改装した家を掃除する人が欲しいと思い、奴隷商館へと足を運んだ。
克己が扉を開けて中に入ると奴隷商が話しかけてきた。
「この度はどのような人をお探しで?」
克己はこの街で少なくとも顔が知られている人物となっているため、奴隷商人は鴨がネギをしょってやってきた気分だった。
「護衛ができる剣士兼家政婦みたいなのが欲しいんだよね」
「承知しました、暫くお待ちください」
そう言って奴隷商人は何人かの女性を連れてきて話をさせてくれた。
「この方はナイトで、しかもエルフです。大変素晴らしい魔法が使えますよ」
克己はこの時初めて魔法の存在に気がついた。
前にペルシアは魔法使いと言っていたのは、お伽噺にしか聞こえなかったからだ。
「魔法が使えるんですか! 凄いですね、他の人は?」
「使える者と使えない者がおりますが……エルフは大抵魔法を得意としておりまして……」
「そうなんですか……あ、この子の職業はなんですか?」
「この子ですか? この子はヒューマンですよ? 一応、本人は自称勇者と名乗っておりますが……私どもでは魔法剣士となっておりますね。年齢は16歳ですね」
「ん~、では、この子を買いたいと思います」
「分かりました、その子は意外とじゃじゃ馬なので扱いに気をつけてください」
「じゃじゃ馬? 分かりました、気をつけます」
克己は自称勇者に話しかけた。
「これからよろしく! 俺は克己って言うんだ、魔法は何が使えるの?」
「私は勇者ノエル、山賊にやられてこうなってしまった。特技は回復魔法だが、多少攻撃魔法を使うことができる。奴隷として売られたからには、これからはあなたの奴隷として尽くすことにしよう」
ノエルはそう言って克己に買われたが、克己は勇者の癖に山賊に負けるなよと思っていた。
「まずは装備からだよね、ノエルさんは剣士なんでしょ?」
「一応、剣を得意としていますが……」
「では、まずは武器屋に行き、武器と防具を選ぼうか? あんまりお金はないけど……俺はお店をやっているからあまり狙われることはないと思うんだよね……用心棒は必要ってうちのスタッフが言うから……」
ノエルの容姿は髪が長く透き通った肌をしているが、克己はノエルが山賊に負けた後、悪戯とかされたのだろうなと思いながら、家で自分の服を着せて武器屋へ行き、ノエルに武器を選ばしたら結構安い剣を購入していた。
コイツは大丈夫か? そう思いながら克己は武器の性質見極めて、自分用の剣を購入した。
「ノエルさん、護身用に剣術を教えてくれませんか? 何かあったとき自分でも戦えるようになりたいんですよね」
「承知しました、あとでギルドの練習場で稽古をつけてあげましょう」
お店から出ると、克己達はギルドの練習場へと向かい、練習場で木剣を使い打ち合っていたが、ノエルはかなり弱かった。
何度やっても克己が勝ってしまう。
「もしかしてノエルさん、弱い?」
「そんなこと……」
「だけど俺の方がどう見ても剣の使い方が上手いし……」
克己は思う……。これは失敗したのではないだろうかと……。少し考えて、エルフを選べばよかったと思うようになった。