43話 レベル上げ!!
数日が経ち、マスコミの報道は過熱を増す。
全ては延田総理が裏で糸を引いていたのだが……。
「奴からは何の連絡はないのか!」
朝からステーキを食べながら唾を飛ばして言う。
「は、はい……。全く音沙汰もありません」
秘書の男はメモ帳を見ながら慌てて答える。
「あの男に交渉しておった奴からも無いのか!」
「えっと……国枝……と言う官僚ですね……そちらも音沙汰なしです……」
延田はテーブルを叩き、コップが倒れて水が床へと流れ落ちる。
「奴は舐めているのか!」
「そ、そう言われましても……」
「癌の件だってあの男に矛先を向けさせているから良いものを……」
「ですが、マスコミの報道は過熱を増しておりますので……」
「だったら折れて泣き付くだろうが!!」
延田は再びテーブル叩き、秘書は脅える。
そんな中、克己は何をしているかと言うと、マジックバックを作っていた。
「何で俺がこんな事をしないといけないんだよ……」
「申し訳ありません……克己様」
克己が愚痴を溢すと、千春が謝る。
「別に千春ちゃんが謝る必要はないよ、あそこで試食と言う名のタダ食いをしている奴等が悪い」
新人の奴隷達がマニュアル通りに作った、店の料理を必死に食い散らかす国枝とその奴隷達。そして涼介ファミリー。
「これは塩味が……どう思うよ? 国枝」
「そうだな、肉の素材を壊してしまっている気がするな」
克己は呆れながら二人を見る。
「お前ら仕事しろよ! 何で毎日人の家でタダ食いをしてんだよ!」
「俺はお前を説得と言う仕事をしているぞ?」
国枝が楽しく飲み食いしながら言う。
「飯食って帰るだけだろうが……お前は……」
「……俺は……そう、俺はお前の護衛をしているんだよ!」
肉を頬張りながら涼介は言う。
「死ね! お前は死ね! お前に守ってもらうほど弱くない俺のレベルはお前の倍はある! 死ね! 金払って死ね!」
「おいおい、克己……。小春達に『死ね」は酷いと思うぞ?」
小春は驚いた顔で克己を見る。その表情は恐怖に満ちていた。
「違うよ、小春ちゃん。そこの変態に言ったんだよ? 小春ちゃんじゃないよ。小春ちゃん達は一杯食べて良いからね」
「良かったな、小春」
「金は貴様から請求するに決まっているだろ! 穀潰しが!」
克己はそう言いながら袋を作っている。
「克己様、大変申し訳ありません……。全て私が……」
「千春ちゃんが悪いんじゃない、あいつが悪いんだ!」
チクチク縫いながら克己は言う。
「しかしオーナー、器用ですね……」
「私よりも裁縫が上手い……」
遠藤と、新垣が言ってきた。
「馴れだよ、馴れ。で、遠藤さんは引っ越しが済んだの?」
「はい、オーナーが購入してくれた団地に引っ越しました。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません……。借金まで支払ってくれて……」
「早く返さないと、増えちゃうからね。だけど、新垣さんも引っ越すとは……」
「引っ越し代を立て替えて下さり、ありがとうございます」
「その分、仕事に集中してくれるなら安いもんだよ。で、今日は二人共何をするの?」
「街を探索してみようかと思います。それにレベルも上げないといけませんから、少しだけ街の外に出て、魔物を討伐しようかと……」
「ふむ……」
克己は自分の袋から銃を二丁、柄を二つ取り出してテーブルに置く。
「これを使いなよ。これで戦闘すれば直ぐにレベルが上がるはずだよ」
「じゅ、銃じゃないですか!」
遠藤はそう言って銃を掴み色々な角度から見る。
「ま、魔物ってそんなに恐ろしい生き物なのですか?」
新垣は遠藤に質問する。
「気持ち悪い容姿の奴もいますよ、近寄るのも気持ち悪いくらい」
「最低でもレベルを一でもあげた人が言う言葉だよ、遠藤さん」
克己は笑いながら言うと、顔を赤くして遠藤は俯く。
「まぁ、裏を返せば近寄るのもおぞましい奴が出るって事だろ? 克己」
お腹を満腹にした国枝が言ってくる。
「そうかもね」
「上に報告するから俺達にも武器をくれよ」
克己は嫌そうな顔して袋から三丁の銃を取り出す。
「コアは俺にくれよ、誰かさん家の電気設備に使うんだから。それに、武器のレンタル料と、食事代として寄越して貰うからね」
そう言って、柄も三つ取り出してテーブルに置く。
「ガメツイ奴だな」
「君に言われたくないよ。レミー、リーズは遠藤さん達に、ハミル、シェリーは国枝くんの護衛をしてくれ」
四人は嫌そうな顔して克己の方を見るが、逆らう事はできないため、渋々頷く。
「よ、宜しくお願いします。レミーさん、リーズさん」
遠藤は頭を下げてお礼を言うが、二人は何も答えなかった。
暫くして、遠藤達は店から出ていき街をブラつく。街の人はレミーを見て、声をかけてくる。
「レミーさん、お店は何時からやるんだい? あの味が恋しいよ、早く店を開けるように克己さんに言ってくれよ」
色々な人からそう言われて、レミーは頭を下げて謝る。
「遠藤さん、随分と人気があるようですね……ウチの店って」
新垣が言うとレミーはようやく二人に口を開く。
「克己様はこの世界に革命を起こしているお方だ。そこで働けることは名誉な事と肝に銘じて欲しい」
「か、革命……ですか……」
遠藤が戸惑いながら言う。
リーズは溜め息を吐き、レミーに言う。
「無駄だよ、レミー。最近は克己様の味を真似する輩も増えてきているし、この人達は日本人……。私達が食べた事無いものを食しているんだ、舌は肥えているんだよ」
「そうだったね」
遠藤と、新垣は顔を見合わせて、自分達は嫌われているのかもと思い始める。
二人はメモを取りながら街を歩き、レミー達に質問するが、素っ気ない答えしか帰って来ない。
「遠藤さん、仕方ないから自分達で何とかしよう……」
新垣はスマホを取り出しディスプレイを確認すると着信が入っていた。
「だ、誰だろ……」
新垣は確認すると、前に勤めていた会社の同僚からだった。
「こ、こんな場所でも電話が通じるんだ……」
呆れながら電話を掛け直してみると、いきなり罵詈雑言を言われる。その理由は、今回の件で売り上げが大幅減したらしく、リストラされたとの事だった。
「わ、私が悪い訳じゃ……」
『あんたが仕事できない癖に、いつまでもしがみ付いているのがいけないんでしょ! 残りたかったんなら我慢すれば良かったじゃない! 私達を巻き込むな! バカ!』
最後にそう言われて電話を切られる。
新垣は何も考えられずにスマホを落として立ち尽くす。
レミーはスマホを拾い上げ新垣の手を掴み握らせる。
リーズはそっぽを見ており興味がない顔をしていた。
「ど、どうしたんですか? 新垣さん……」
「い、いや、その……」
「私達を巻き込むな、そんな貧相な体くらい許せば良いだろ、自己責任……そんな話をされただけですよ。別に大した話じゃない」
傍観していたリーズは冷たい声で遠藤に言う。
「そ、それって酷い話じゃないですか! どうしてそう簡単に言えるんですか!」
「私が言った訳じゃない、この人が言われただけでしょ! 私に言うのは筋違いよ」
「だ、だけど!」
「貴女が聴いてきたから教えただけでしょ? 私は悪くない! だったら聞かないで流せば良かったじゃない。私は聴いてきたから答えた! それだけよ」
「さっきから何なの貴女達は! 私達と一緒にいるのが嫌なら帰れば良いじゃない! 命令か何か知らないけどバカじゃないの!」
「私達には命令は絶対だ! ここで股を開けと言われれば喜んで開かなきゃいけないの! 貴女達と違うの! 一つ一つが真剣な出来事なんだ! 死ねと言われれば喜んで死ななきゃいけないんだ! その程度で落ち込んでいる余裕はないの!」
リーズが捲し立てて言うと、遠藤は怯む。
「リーズ、言い過ぎよ。克己様が聴いていたら怒られるわよ」
「いや、怒んないよ。その程度じゃ」
四人が振り向くと、克己と涼介、アルスが立っていた。
「まぁ、言うならば、道の真ん中で騒ぐな……程度だろう」
「「「克己様!」」」
「取り敢えずさ、場所を変えよう。さっきも言ったが道の真ん中で騒ぎ話じゃないだろ。涼介、放心状態の新垣さんを頼むよ」
「はいよ」
涼介は放心状態の新垣をチョップして見るが、心ここに在らずの状態で、ボケーっとしていたので、仕方なしに腕を引っ張り連れていく。
克己は近くにあった喫茶店っぽい店に入る。
「で、何を揉めていたんだ?」
レミーと、リーズは答えないため、遠藤が説明をする。克己と涼介は黙って話を聞き、アルスはマタービミルクをチビチビと飲んでいた。
「ふ~ん、成る程ね。そんなことがあったのね」
克己がチラリとレミー達の方に視線を向けると、二人は顔を背ける。
「アルス、お前はどう思う」
「私はレミー達の言い分が分かります。奴隷ですからね。ご主人様の言うことは絶対。こう習っていますから」
「バカらしい……」
遠藤はそう呟く。
「そう言うことだな、二人の言い分はどちらも正しいだろうな。お互いが仕事を理解してないから」
「ど、どう言うことですか?」
「遠藤さん、会社の命令は絶対じゃないの?」
「ろ、労基に違反してなければ……」
「うん、そうだよね。日本ではそうだよね。だけど、ここにはそんなのは無い。王様が決めたことが絶対なんだよ……。この世界は王政だからね」
アルスは頷きながらミルクを飲み干し、克己のオラニンを見つめる。
克己は視線に気が付き、アルスに飲み物を渡すとレミーがアルスの頭を叩き、アルスは頭を押さえて涙目になる。しかし、克己の飲みかけたオラニンを手放しはしない。
「だ、だからって……」
「だから何?」
「そのまま犯されろって言うんですか!」
「極論だね、それは。遠藤さんには答えが白と黒しかないの? 俺達は日本人。レミーが言うように別の考え方を持っている。遠藤さんが言うように労基があるからその中で話をするのが当たり前。だけど、彼女らに労基何て物は存在しない……。王政が続く限りね。だったらどうすんのか……。遠藤さんは王政を破壊すれば良いと考えているかも知れないけど、その生活を拒んでる人がいないのがこの世界……」
「じゃあ、どうしろと言うんですか!」
「感情を剥き出すのは良くないね。副店長でしょ? 店員にそうやって感情をぶつけるの? 違うよね? 前の仕事でもそうやって感情を表に出していたの?」
「ち、ちが、そ、そんなつもりじゃ……」
「まぁいいや、遠藤さんの感情論はどうでも良い話だったね。今は新垣さんか……」
新垣は俯き何も言葉を発せ無いでいた。
「新垣さんは気にする必要は無いんじゃないの? 確かにしがみ付いていたかも知れないけど、それしか仕事が無かったんでしょ? 急に辞めても直ぐに仕事が見つかるわけではないし、相手を見返してやりたい気持ちも分かる」
新垣は悔しくなり涙が出てきた。
「わ、私が悪いんですか……。オーナー」
「いや? 悪くないよ。普通の気持ちだろ? なぁ? 涼介」
「そうだな、結局は金がないから働くんだからな。新垣ちゃんが頑張ろうと言うのは当たり前で、向こうは八つ当たりだな。気にするこたぁ無い」
「ありがとうございます……」
克己達は新垣が落ち着くまで店でゆっくりすれば良いと行って、何処かに行こうとする。
「あ、レミーとリーズは帰ったら話がある」
「な、わ、私達が何かしたと!」
「いやいや、そうじゃない。別に怒るとかそんな話じゃない」
「ですが……」
「今は仕事に集中しろよ、最低でもレベル2以上にして帰ってくること! これは約束」
「わ、分かりました……」
「そんな顔をするなよ……」
克己は二人の頭を撫でてから店を出て行った。
「頭を撫でてもらった……」
二人は複雑な気分でお互いを見る。
「ごめんなさい、二人共」
「い、いえ……克己様が言うように早くレベルを上げましょう! 何だかんだ言っても、リーズだってレベルが低いですからね。貴女も少しはレベルを上げなさい。克己様の足手まといになるわよ」
「は~い」
「お二人もレベルが上がれば心が強くなるかもしれませんし、ムカつく奴を殴ることができますからね!」
レミーがそう言うと、遠藤達は笑いながら頷き店から出ていく。
「じゃあ、オーナーに良い報告を出来るように頑張ろう!」
遠藤が三人言い、三人は「オー!」と、声を上げて街から出て行った。
その頃国枝達は……。
「ハミルさん、レベルが上がったようなんだが……」
「先程の魔物はゴブリンと言う魔物です。通常はレベルが5位無いと戦えません。私のような魔法使いであれば、話は変わりますが……」
「ほほぅ。魔法使いは攻撃魔法があるからですか?」
「そうです。ですが、一匹を倒すのもかなり苦労いたしますよ」
「それは何故です?」
「魔力が少ないからです。一撃必中で倒すつもりでないと、たぶん勝てないかと……」
「克己はどうやって倒してレベルをあげたんだよ……」
国枝はそう呟くと、ハミルはシェリーと顔を見合わせて笑う。
「何か変な事でも?」
「いや、克己様に追い付くのは大変な事ですよ。だって、ドラゴンにも恐れずに立ち向かう人ですからね」
「ドラゴン……ね。そんなに現れる生物何ですか?」
「こんなに出るのは数百年に一度だと思います。私が産まれてからドラゴンが現れたと言う話は、一度もありませんでしたから。書物で記載されているか、言葉で言い伝えられているか……。そのどちらかになりますね」
国枝は納得して先に進むと、ゴブリンの群れを発見してアンジェとオルカノは国枝の後ろに隠れる。
「おいおい、お前達は護衛じゃないのかよ? 後ろに隠れてどうするんだよ」
「だ、だって……気持ち悪いじゃないですか……」
国枝は銃を構えてゴブリン達を撃ち殺して、ハミル達はコアを回収しに行く。
「国枝様、大体は心臓辺りにコアがありますが、魔物によっては場所が違いますので、その都度確認が必要になります」
「これがコアか……」
「克己様のご指示通り、こちらのコアは私達で保管させて頂きますね」
シェリーはそう言って、克己からもらったマジック袋の中にコアを仕舞った。
「国枝様、ゴブリンを三体も倒したのですから、レベルが上がっているのではないでしょうか?」
ハミルが国枝に聞くと、国枝は目を瞑ってレベルを確認する。
「おおぉ! レベルが4まで上がったぞ!」
「おめでとうございます!! これで克己様に何も言われることはありませんね!」
ハミルが拍手しながら言う。
「そ、そうかな?」
「街に住んでいる人は、大抵2~3ですから、同じくらいにはなれましたね。喧嘩しても一発で倒される事がなくなりますよ」
「ま、街の人でもレベルが3もあるのかよ……」
「レベルが1と言う事は、大事に育てられすぎているのか、世間知らずな人がそのレベルですね。一般的にはレベル2以上はあります」
シェリーが補足していうが、アンジェとオルカノはレベル1だと国枝は思い、二人を見る。
二人は後ずさりして、国枝を見る。
「国枝様の奴隷ですが、一人は元姫という話ですが……」
シェリーはアンジェを見て笑う。
「な、何ですか……何が言いたいのですか」
「いえ? 別に? ただ……だから滅びたんだと思っただけですわ」
「あ、貴女に何が分かるというのです! 貴女だって奴隷でしょ!」
「私は奴隷じゃないわ! あなたと同じにしないでくれる?」
「じゃあ何で言う事を聞いているのよ!」
「私は貢ぎ物だから。だけど奴隷じゃないし帰っても良いと言われているわ! あなたと違って帰る場所があるのよ! 一緒にしないでよ」
「貢ぎ物? 奴隷と何が違うというのよ?」
「さっきも言った通り、私は自分の意志でここに残っているの。あなたは元王女でしょうが、私は現在も王女よ。一緒にしないでよ、下郎が!」
「クッ!!」
アンジェはシェリーを睨み見るが、軍配はシェリーに上がっている状態だ。
「あなたはレベルが1……同い年の時でも私のレベルは10あったわ。私の国では武道を学ぶように言いつけられており、たまに狩りにも同行させられるのよ、貴女みたいに甘ったれた生活はしてないし、国の防衛を第一として、自分の身は自分で守る術を身につけさせられるの……。だからこの国は他の国から攻め込まれることがないのよ。わかった? 下郎」
「そこまでにしてくれないか? シェリーさん」
「く、国枝様……。国枝様がそうおっしゃるのなら……」
シェリーはそう言って、一歩後ろに下がる。
「アンジェも……だ。お前は現在奴隷なのだから俺の言う事を聞くんだろ?」
「御意……」
「だったらレベルを上げてくれ」
アンジェは悔しそうな顔して頷き、オルカノはアンジェを見ている。
「オルカノもだ。二人共、レベル5になるまで帰らせないからな」
国枝がそういうと、オルカノは泣きそうな顔をする。
「ご、ご主人様……お許し……頂けませんでしょうか……」
「性奴隷になるのと護衛を選べ」
このとき、ハミルとシェリーは克己が主人で良かったと思うのだった。
「ハミル、克己様は絶対にそう言う事は言わないわよね……」
「はい、シェリー様」
「やっぱり克己様で良かったわね」
「はい……」
二人は小さな声で話しながらアンジェとオルカノを哀れな目で見る。
「どうだ? それなら許してやる。選べよ」
「そ、そんな……」
「両方とも嫌だと言う答えは無しだ」
「ご、護衛を……」
「なら、次はお前が戦えよ」
「は、はい……わ、分かりました……」
オルカノは涙目になり、俯いた。
「オルカノ、俯いていたら敵が見付けることが出来ないぞ」
国枝が言うと、涙を流しながら顔を上げて前を歩き始める。
「ハミルさん、奴隷は自分で何になるかを選ぶ事ができるのか?」
「はい、可能です。選べるのは個人の自由です」
「じゃあ、何故護衛を選ぶのか?」
「一番我が儘が通るからですね」
「我が儘が通る?」
「はい、大抵の購入者はお金持ちが多いです。飾りで購入する人が多いのです。克己様や涼介様のように冒険を中心で買う人は少ないでしょう」
「で、我が儘と言うのは?」
「男の人は大抵、容姿で決めるので玩具が壊れないようにすると言われています。ですからある程度の我が儘が通ると言われております」
「言われている? それは誰から聞くんだい?」
「奴隷商から言われます。皆はそれで一部の希望を見て選択するのですが……」
「ですが?」
「あ、魔物ですね……右側斜め前に大体80メートル向こうにいます」
「オルカノ! 出番だぞ」
オルカノは体をビクッとさせて、怯えながらナイフを握る。
「それじゃない、チョイスを間違えている。このくらい離れているんだ、銃を選べ」
オルカノは慌てながらナイフをしまい、銃を取り出すが使い方が分からないので余計に慌てるのである。
国枝は溜め息を一つ吐き、オルカノの手を握るとオルカノは、銃を落としてしまう。
「あ! も、申し訳ありません!」
「落ち着け、相手は気が付いてない。俺が使い方を教えてやるから銃を拾え」
「は、はい!」
オルカノは返事をして慌てて銃を拾おうとする。国枝は敵の距離と、ミルとシェリーの様子を見て心を落ち着かせる。
ハミルはイザと言う時のために柄を握り、敵との距離を測る。シェリーは他に敵がいた場合を考え、周りを見渡し警戒をする。
国枝は二人が戦い馴れしていることにホッとしてオルカノに話しかける。
「力を抜いて、優しく握るんだ……。そう……。大丈夫、俺が一緒に支えてやるから……」
「こ、こんな感じでしょうか……」
「そう、この場所を見て標準を合わせる……」
国枝は後ろから抱き締めるように体を固定させ、オルカノの手を握る。
オルカノの心臓は鼓動を早くして、更に緊張させる。
オルカノの指と、国枝の指はトリガーに引っ掛ける。
「さぁ、よく狙って撃つんだ」
オルカノは震えながらトリガーに引っ掛けている指に力を入れ、強く引いた。
「ビューン」と、小さく音をさせて光の道が出きる。
オルカノは驚き、手から銃を離そうとするが、国枝が手を上から握っているため離すことが出来なかった。
「オルカノ、未だだ。まだ敵はいるからもう一回狙って撃つんだ」
「は、はい!」
オルカノは先程の感覚を忘れないようにもう一度発射させ、魔物の体を貫通させる。
「よく頑張ったな、オルカノ!」
国枝はオルカノの体から離れると、腰を抜かしてしゃがみ込んだ。
「オルカノ、ナイフはイザと言う時のため、直ぐに取り出せる場所に置くのよ」
「は、はい……」
ハミルが言うと、オルカノは返事して立ち上がろうとするが、腰が抜けているため立ち上がることができずにいた。国枝は手を差しのべる。
「良く頑張ったな。偉いぞ」
「あ、ありがとうございます……」
オルカノは手を握り国枝に起き上がらせてもらい、お尻などに付いた砂をはらった。
「次からは自分でやれそうか?」
「ま、まだ自信は……無いです……。で、ですが、が、頑張りますから……」
「分かってるよ、小さい体でよく頑張ったな」
オルカノの頭を優しく撫で、頬に手を添える。オルカノは顔を赤くし、ドギマギして国枝を見る。
「国枝……様……////」
「うん? 怪我も無いようだし、コアを拾いに行こう」
「は、はい!」
オルカノは先頭を歩いて死骸の方へ進み出した。




