42話 新しい生活!!
「新垣さん、もしも……仕事に困っているならここに電話頂戴。俺の店で雇ってあげるから」
「……」
新垣は無言でメモを受け取るだけ受け取って、警察官と一緒にパトカーに乗って静岡県警に連れていかれた。
克己達はそれを見守るだけしかできずに東京へと戻ることになった。その際に、もう一人の女性と別れが訪れる。
「か、克己さん……」
「また会えるよ、森田ちゃん。身体検査……大変かと思うけど頑張ってね。何かあったら連絡頂戴ね」
「克己さん……私……」
「大丈夫だよ、また会えるから。必ずまた会えるよ」
「は、はい……お元気で……」
「あぁ、じゃあまたね」
「は、はい……いつの日か……」
克己は困ったように微笑み、直ぐに会えるよと耳打ちして手を振って車に乗り込む。
「か、克己さん!」
しかし克己は車から出てこなかった。
「か、克己……さん……」
克己を乗せた車は出発し、克己達は東京へと戻っていった。
翌日、とあるホテルに克己は現れる。
「どうも、延田総理……先日は素敵なパーティーにお招きして頂き、大変感謝していますよ」
「ふん、それは嫌味で言っているのか?」
「どう捉えてもらっても構いませんよ、ではお話をしましょうか……」
「まず言っておく、我々は譲歩する気はない」
「では帰ります。お疲れ様でした。さようなら。延田総理」
克己は席を立ち、扉の方へ向かう。
「お、おいちょっと!」
「はい? 何でしょう? 交渉は終了ですよ。話を聞かないんでしょ? 異世界省……無駄に終わりましたね。あぁ無駄な税金を使ってしまい国民はなんていうでしょうね? それではさようなら」
克己はそう言って部屋から出て行ってしまった。
翌日の新聞やニュースでの報道は「克己氏総理との話し合いを行わずに帰る! やはり金の亡者だった」という見出しで報道され、克己が悪者になっていた。
「やっぱりこうなるか……」
克己はテレビを見ながら一人呟く。
「どうするのですか? 克己様」
「何もしない。こっちの世界では当分仕事をしないだけだよ」
「どういう意味ですか?」
「まずはアルスたちの世界で地盤を固める。店を再開させるんだよ。そのためにはアパートの建設が必要になるね」
「あぱーと? ですか?」
「うん、アパート。遠藤さんの家が遠いからね。こっちに引っ越してもらう事にするんだ」
「『あぱーと』とは、家の事ですか?」
「共同住宅だね。同じ建物内で敷居を作り、そこに住んでもらうんだよ。いま、異世界側でも作られているんだよ。監修はペルシアがやっているね」
「ぺ、ペルシア様は何でもおやりになりますね……」
「あぁ、流石だね。あそこまで適応能力が高いとは……怖い怖い……」
「うれしそうですね……」
「そうか?」
「か、克己様……? 今、二人っきりなんですよ? ご存知ですか?」
「アルスはいつからそんなに甘えん坊になったの?」
「克己様が甘えん坊にしたんですよ……」
アルスはそう言って克己に抱き着く。
「まったくもう……こっち向けよ」
「うふふ……克己様♡チュッ……」
克己とアルスは暫くの間熱いキスをしていた。しかし、それは急な訪問で邪魔される。
「ドンドンドン! 克己! 開けてくれよ! 異世界側に行けないだろ」
「もう! 国枝様は!!」
アルスは膝をがく付かせながら扉の前に行き、鍵を開ける。
「克己、俺ん家にも異世界に行けるようにしてくれよ」
「国枝君、住居不法侵入だよ。人の家に勝手に入ってはいけないんだよ」
「そう言うなって、じゃあ、俺は行くから」
「向こうの出入り口を使えばいいだろ?」
「こっちにも都合があるんだよ」
国枝はそう言ってクローゼットの向こうへと消えていった。
「か、克己様、つ、続きは……」
「仕事に行くぞ! 店を再開さるんだから」
克己もクローゼットの向こうへと消えていった。
「もう! 克己様のバカ!」
アルスはそう言って、テレビを消して克己を追いかけていく。
新しくなった克己の家。珍しく今日は雨が降っている。
「今日は雨か……」
克己はそう呟いてリビングへ行くと、全員がそろっていた。
「おはよう、みんな」
克己が挨拶すると、全員は克己を見て挨拶する。
「克己様、本日は何を致しますか?」
「本日は冒険なんて如何でしょう?」
ノエルとレミーが言ってくる。
「雨の中でする冒険は嫌! 今日はゆっくりお話でもしませんか?」
ハミルが言う。
「今日はお店の準備をするため、奴隷を……ん? 電話? 誰だろ……」
克己は電話に出る。
「もしもし? どちら様ですか?」
『あ、あの……新垣と言います……』
「新垣? あぁ……バスガイドの……」
『は、はい……正確に言うと、バスガイドだった……になりますけど……』
「どういうこと?」
『昨日で会社を退社いたしました。あんな事があっては会社としても、私としても働く事は……』
「まぁそうだよね」
『そ、それで……この電話番号に連絡を……』
「うん、わかった。じゃあ、履歴書を持ってうちに来ると良いよ。住所はね……」
克己は住所を告げると、新垣はお礼を言って電話を切った。
「誰か来られるのすか?」
「うん、この間のバスガイドがやってくるんだ。さて、店に行くぞ」
全員は返事をして出かける準備を始める。店と言っても隣なので、直ぐに到着してしまう距離である。
「ペルシア様、『いんたあねっと』というので制服を作るのでしょうか?」
「そうにゃん、それで作ってもらうにゃ。もう依頼は出してあるから問題ないにゃ!」
千春とペルシアが話している。
「店長、何時位に従業員を雇う予定にしてるんですか?」
「そ、それは克己様次第に……」
「大丈夫にゃ! サンマルクと王都にお店があるからそこで稼いでいるにゃ! ここが営業してなくても生活に困らないにゃ」
「な、なら良いですけど……」
「それよりもメニューは覚えたにゃん?」
「は、はい。バイザーの言われた通りに覚えましたが……営業してないのに覚えるのは虚しいですね……」
「大丈夫にゃ、ご主人様とお話して今日にも買いに行く予定にゃ」
「ほ、本当に奴隷を購入して店を切り盛りするんですか?」
「本当にゃ! 賃金は低価格! 言う事は必ず聞く! 逆らうことはない! まさしくうってつけの店員にゃ」
ペルシアがそういうと、店の扉が開き克己達が入ってくる。
「随分と降っているなぁ……こんなに雨が降るのは初めてじゃないか?」
「こういう季節にゃん暫くは雨が降ったり止んだりするにゃん。皆この時は水の有り難みと、怖さを知るんだにゃん」
「怖さ?」
「食べ物が腐るにゃん。普通の家は冷蔵庫なんて持っていないから物が腐りやすくて、食中毒を起こす人が多いにゃん。だから魔法使いの人が大儲けするにゃん」
「魔法使いが?」
「そうにゃん。回復系の魔法には毒の治療する魔法があるにゃん。結構高いけど皆お願いするにゃ。子供がかかる病気の一つにゃ」
「へぇ~」
「だから魔法使いはお金持ちになる人が多いにゃん……」
ペルシアは残念そうにハミルを見る。
「私はまだ覚えてないですから……。多分覚えないと思います。回復系の魔法は一つも覚えていませんから」
克己のパーティーで唯一の魔法使いだが、回復の魔法を使用する事ができない。今のところ、回復の魔法を使用できるのはシェリーとノエル、アルスの三人だけである。しかもアルスとシェリーに関しては初期の回復魔法のみで、簡単な怪我を治せるが中度の怪我は治せない。ノエルだけが中度の怪我を治すことが可能なのだ。
「じゃあ……二人に期待するしかないか……」
克己は二人の顔を見てそういうと、二人は克己と目を合わせないようにそっぽを向く。こういうところは早めに慣れてくれたことに、克己は喜んだ。
「二人ともレベルを最低でも30まで上げないとダメだな……。ペルシア、二人の奴隷はどうしたの?」
「キッチンで料理を作ってるにゃ。この店の味を作らせるにゃ」
「レベルは?」
「二人とも3にゃ。正直使い物にならないレベルにゃ、本当に弱くて殴りたくなるにゃ」
「遠藤さんは?」
「……レベル1です……」
「何やってんの? 言ったよね? レベルを上げるようにって!」
「だ、だって……怖いんですよ! 魔物って怖いじゃないですか!」
「職業は? それくらいは分かるでしょ?」
「ま、町娘……」
全員は大爆笑した。初めて聞く職業だったからだ。ペルシアですら剣士の職業を持っているのに、遠藤は町娘という……。
「初めて聞いたにゃ! 副店長、本当に町娘かにゃ? 武器はオタマかにゃ?」
ペルシアは馬鹿にしながら聞く。
「だって……剣は重いですし……杖は魔法を使用できないので使えません……だったら包丁しか持てないじゃないですか!」
「普通は盗賊が付くにゃ! 包丁はナイフと同じ扱いになるにゃん……野菜でも切るにゃん? にゃははは!!」
ペルシアは腹を抱えて大笑いをするのであった。
「ペルシア様、お食事ができました……」
「にゃはは……ん? できたかにゃ? 持ってくるにゃ。ナズベ」
ナズベと呼ばれた少女はペルシアに作った食事を差し出すと、ペルシアは箸を器用に使いおかずを摘み上げると、口に入れた。
「モグモグモグ……ダメにゃ……ご主人様の味にはまったく勝てないにゃ……」
そのセリフを聞いて克己は思う。
(俺と張り合ってどうする……。俺だって修行を積んでここまで出来るようになったんだぞ……そんな直ぐに作られたら意味ないだろ……)
「ダメにゃ……この料理では私を満足させることはできないにゃ! レベルが低いからにゃ……きっとそうにゃ!」
ペルシアはレベルと何か関係があるのではないかと思っていたが、遠藤は技術の差にしか感じていなかった。
「店長、日本で勉強させたら如何ですか?」
「そ、それは名案です!!」
「ダメに決まってるだろ……」
二人は克己を見る。
「どうやって入学させるんだよ……」
「お、オーナーが学校を購入するとか……」
遠藤は冗談で言う。
「購入? そうか……その手があるか……成る程……。買うか……」
克己は遠い目をしていると、携帯が鳴る。
「ん? 誰だ? ……もしもし?」
『あ、あの……新垣ですが……』
「あ~、はいはい……もう到着したんですね。早かったですね。今誰か向かわせますんで、少しお待ちして頂けますか?」
『あ、は、はい!』
克己は電話を切るとアルスを向かわせる。アルスは何故自分が行くのかと疑問に思いながら迎えに行く。
「あ、こ、この間の……」
「はい、私は克己様の秘書、アルスと申します。どうぞ、こちらへ……」
アルスは新垣を家に上げると、鍵を閉めて奥の部屋へと連れていき、クローゼットの向こうへと誘った。
「こ、こんなところを通るのですか?」
「はい、お店はこの先にありますから」
「ほ、本当にお店があるのでしょうか……」
「ありますよ、立派なお店が」
「ほ、本当ですか……?」
「本当です。この先へ行けば分かりますって!」
アルスは面倒になって、新垣を抱きかかえて中へと入っていく。
「ちょ、ちょっと待って下さい!! こ、心の準備が……」
アルスはクローゼットを潜ると、克己の部屋に出てくる。そのまま玄関へと向かい、お店へと担いで持っていく。
新垣は抵抗すらせず、なすがまま連れて行かれるのであった。
「お待たせいたしました、克己様」
「ご苦労。アルス……って、おバカ……」
「はい? 何か間違った事でも致しましたか? 私」
「しまくりだ。お前は拉致したんだよ。大丈夫? 新垣さん」
「もう……好きにしてください……私を殺すんですよね……」
「はい? どうしてそうなるの?」
「だって、私を誘拐して……」
「帰りたければ帰ればいいよ。俺は強制も何もしないし。だけど君は就職の面接をしに来たんだよね?」
「はい……ですが……」
「ですが?」
「犯罪組織だったとは思いませんでした」
「何でやねん!」
克己は頭に突っ込みを入れた。
「冗談はここまでにしましょう……」
「いやいや、アンタがね……」
新垣は履歴書が入った封筒を克己に差し出し、克己はそれを受け取って封を開けた。
「フムフム……。新垣香奈枝さん、21歳ね……。沖縄県出身なんだ……。へぇー……。一応、車の免許は持っているんだ……成る程……。高校卒業と同時に町田に引っ越してきたのね。そうか……、車は持っているの?」
「はい、一応持っています。軽自動車ですが……」
「十分だよ。遠藤さんは免許すら持ってないからね」
「遠藤……さん? ですか……?」
「わ、私です。まだ17なので免許は取れないんですけどね……。オーナー」
「あれ? そうだっけ? 副店長だからもう少し大人だと思っていたよ」
「店長は16ですよ……オーナー」
「千春ちゃんはどうでも良いんだよ、涼介の物だから。年齢なんて関係ない」
「か、関係ない……ですか……」
千春は肩の力がガクッと落ちて凹んだ。
「私は18だにゃ。スーパーバイザーだにゃ!」
ペルシアが言うと、新垣は驚いた顔をする。
「皆さん10代何ですか!」
「たまたまね。俺の趣味じゃないよ。ペルシアに関しては、求人を申し込みに行ったら居たからそのまま雇っただけだし……。それがスーパーウーマンだっただけで。今まで不採用にしていた奴は見る目が無いよ」
克己が言うと、ペルシアは嬉しそうに克己の腕に、自分の腕を絡ませる。しかし、ノエル達が引き剥がし、離れた場所に連れていく。
「にゃー! 何するんだにゃ! ご主人様は渡さないにゃ! お前達奴隷の癖に自我を持ちすぎだにゃ!」
「ペルシア、こいつらは奴隷であって、奴隷ではない。それを忘れるなよ」
「あ、あのぉ~面接の方は……」
「嫌な事を聞いて良いかな?」
「え? あ……、ど、どんなことでしょう?」
「運転手さんに何されたの? と言うか、どこまでされたの? あ、大丈夫。この発言はセクハラだって理解しているし、答えたくなければ答えなくても構わない。だけどね、今後同じことが起こらないとも言い切れない……。その力に抵抗する力は欲しいよね? それを与えられるよ! って、言ったらどうする? 欲しい?」
「……ほ、欲しいです……。二度とあんな屈辱な思いをしたくありません。力が欲しいです……」
「じゃあ、何されたの?」
「答えなければいけませんか……」
新垣は俯きながら言う。
「いや、答えたくなければ答えなくて良いよ。それは心の傷だ……。ノエル、お前は答えられるか?」
ノエルは首を横に振り言う。
「それはご勘弁を……。二人っきりでなら」
「じゃあ、いいや」
ノエルはガクッと肩を落として、リーズはニヤリと笑う。
「ノエル、克己様は見向きもしてくれないよ。諦めたら?」
「そうよ、ノエルならもっと他にも素敵な男性が現れるでしょ? ……克己様ほどではなくても」
ハミルとリーズはニヤニヤしながらノエルに言う。
「う、うるさい! 克己様でないと嫌なんだ! 分からないだろ! お前達には!」
ワイワイと皆でノエルを弄りまくり、ノエルは体育座りをしていじける。
新垣はポカーンっとそれを見ていた。
「ペルシア、事務員にどうだろうか?」
「力を求めているにゃん」
「この世界で働くなら必須条件だろ?」
「うーん、そうにゃんね~」
「なら決まりだな。新垣さん、お願いしたら何時から来られるのかな?」
「え? い、何時でも構いませんが……一体何をするお仕事なのでしょうか……」
「ウチは料理屋……レストランだよ」
「で、ですが、私は料理が苦手ですし、接客も下手くそで、会社のお荷物でしたが……」
「事務だから問題ないよ。縁の下から店長を支えてくれよ」
克己が言うと、千春は頭を下げ微笑んだ。
「は、はい、頑張ります!」
「新垣さんはPC使えんの?」
「スマホ程度しか使用したことはありません……」
「じゃあ、持ってる? PC?」
首を横に振る新垣を見て顔が引き攣る克己だったが、遠藤も持っていないとの事で、克己は肩から力が抜けた。
「じゃあ、今日は二人でパソコンを買ってください。勿論、俺の金で構わないから……」
「お、オーナー! ほ、本当に購入しても良いのですか?」
「と言うか、Excelと、Word位使えるようにならないとね。他の会社に就職は出来ないよ? 最低限は使えるように勉強してください。千春ちゃんもね! 折角買ったんだからさ」
千春は困った顔して言い返す。
「克己様、残念ですが家には黄色のコアが無いのと、コアを設置する場所がありませんでした」
克己は残念な顔をする。
「あのバカは今日、何をしてるの? 千春ちゃん」
「あのバカとは?」
「……涼介は何してるの?」
「涼介様はバカではありません! 訂正して下さい! いくら克己様でも言って良い事と、悪い事が有ります!」
「じゃあ、大バカだな。異論は認めない」
「涼介様は家でお休みになっています。昨日、激しかったものですから……ポッ///」
千春は顔を赤くして両手で頬を押さえるように触る。
克己は、大バカは良いのかよと思いつつ、こいつもバカだと理解して溜め息を吐く。
「バカ達は放置しておいて、新垣さんは今日、やること有るなら帰っても良いよ。無いならPCでも観に行ってくんない? あとスーツを新調してね」
「や、やることはハローワークに申請書き出すつもりでしたが……本当に宜しいのですか?」
「じゃあ、出してきて。そしてPCも購入して自分の家にセットしてくんない? ネット環境も契約して良いから。遠藤さん、付き添ってあげてくんない?」
「分かりました」
「ペルシアと千春ちゃんは、俺と一緒に従業員の選定に行くから準備して」
そう言うと、一瞬だけノエル達の空気が変わる。
また奴隷を購入すると言うことは、敵が増えると言うこと……これは厄介だと思いつつ、全員は顔を見合わせて、頷く。
ペルシアや千春は傘を用意して、遠藤達は克己の家へと向かった。
奴隷商館へと到着した克己達。
「雨が強いな……」
「今日、一日降り続けるかもしれないにゃん……」
そんな話をしながら克己達は、商人に案内された別室へと入っていく。
「奴隷の皆さんは何処にいるんだ?」
「克己様、それは地下でございます」
「地下か……」
「薄暗い場所です。早く自分を買ってくれないかと祈る者が多く、心が挫ける場所です」
アルスが真剣な表情で克己に教えた。
「成る程ね……」
そんな話をしていると、商人が二人程入ってきて挨拶をする。克己達も挨拶をして再び椅子に座ると、商人が喋りかけてきた。
「本日はこの天気の中、お越し頂きありがとうございます。本日は20人程の奴隷を購入お考えと言う話ですが……」
「えぇ、そうですね。この金額で何人くらい購入が可能ですか?」
克己は大白金貨20枚ほど魅せると、商人の顔が緩む。
「克己様は私共、商館のお得意様でございます。その分、幾らかになってしまいますが、お値引きをさせて頂きますよ」
商人は、お金から目を離さずに克己に言う。余程お金が好きなのだろうと克己は思いながら話を進めていく。
「では、準備が出来ましたのでこちらへどうぞ……」
他の商人が呼びに来て、克己達は部屋を移動する。
そこには100人程の奴隷が並ばされており、10歳から30歳位の女性ばかりが並んでいる。
「あれ? 男の人は?」
克己はキョロキョロ見渡しながら言う。
「申し訳ありません。男は昨日、鉱山へ連れていきました。入荷は未定です」
「どうする? ペルシア」
「構わないにゃ、どうせ直ぐに使い物になるわけではないし、数日は魔物退治に行ってもらいレベルを上げてもらう必要があるにゃ。店で何かあったら自分たちで対処しないといけないにゃ」
「それもそうだな。じゃあ商人さん、この中から選ぶことにするよ」
克己達は一人一人に話しかけ、選定していく。
「克己様! 年齢はお幾つ位を目処に……」
千春が大きい声で言うので、克己は呼びつける。
「千春ちゃん、モラルを考えようね? この場合、若い子を選んだ方が良い。だけど、ここに要るのは30歳位の人がいるんだ。俺が幾つまでと決めたら、千春ちゃんはその年齢以外は除外してしまうだろ? だったら呼ばないでよって思うわけだ。じゃあ、何でその年齢まで入れる必要があるのか……。それは、比較対象が必要だからだよ。勿論、選ばないわけではないが、数は限られる。お客さんは若い子を見に来る人もいるし、そうでない人もいる。だけど、大抵の人は若い女性が好きな人ばかりだ。そこら辺を考慮してモラルを持って質問をしてくれ。二人きりや、ペルシア、遠藤さん新垣さんたちと、内緒話をするのであれば必要は無いけどね」
「も、申し訳ありません……モラルというのは良く分かりませんが、常識不足は理解しました。確かに年齢を決めてしまって選定したら呼ばれた人の意味はありませんでした……。申し訳ありません」
「常に勉強だから気にしないで。これから覚えていけば良いから」
「は、はい……」
千春は落ち込みながら話しかけており、奴隷があたふたしている。
「メンタルの問題か……こればかりは馴れだからな」
克己はそう呟きながら数人選び、ペルシア達を見ると、丁度人数が揃っていた。
「商人さん、これで大丈夫です」
克己が言うと、選ばれなかった人達はトボトボと戻っていく。
「千春ちゃん、君も体験した事あるでしょ? 選ばれなかった時の絶望。さっきの君はそれを殆どの人に言ったんだよ。この光景は忘れてはダメだからね。君は涼介の奴隷だけど、選択者でもある。それを忘れてはダメだよ。いつの日か意味を理解する時が来ると思う。だから頑張ってね」
千春は小さく頷き、地下牢へ戻っていく人を見ていた。
「克己様、こちらがお釣りとなります。お受け取り下さいませ」
商人はそう言って克己にお金を戻し、克己達はぞろぞろと店を出ていく。
外は雨が降っており、奴隷の皆さんはずぶ濡れになるのかと思いながら空を眺めていると、克己が傘を配り始める。
初めて見る傘。使い方がわからずにいる奴隷の皆さん。ヒラヒラが付いたスピア何ぞ渡して何がしたいのかと思っていると、ペルシアが傘を広げる。
全員から驚きの声が上り、真似をして傘を広げる。
所々から「開いた!」や、「おぉ!」等の声が聞こえる。傘が画期的な物なのかと克己は思いながら呟く。
「傘は紀元前から作られているものだぞ……」
その呟きを聞いてペルシアが言う。
「傘なんて世界を一周しても思い付かないにゃ。片手が塞がるから戦闘に不向きだにゃ……。街中では必要だにゃ」
「成る程ね……平和が生み出す知識か……」
「そういうことにゃ」
二人はそう言って歩いて戻る。
店に到着すると、皆は傘を折り畳み手で持っている。克己達は傘立てに入れると、全員は入れて良いのか迷いだし、キョロキョロする。
「傘立ての数が足りないな……。皆、適当に傘を置いてくれ!」
克己が言うと、全員は適当に……本当、適当に傘を投げ置き、適当な椅子に座る。
克己は少しだけイラッとした。
「コホン、これから君達が働く職場がここになる。綺麗に使うように! これから一人一人面接を始める。控え室に来るように!」
克己とペルシア、千春の三人が控え室に入っていくと、今回買われた人達はざわめき、困惑する。
「では一列になって並んで下さ~い!」
アルスは、克己の指示通りに言うと、新人の皆さん方は困惑しながらも並んで一人一人順番に入っていく。面接が終わり、出てきた新人は少し嬉しそうにしており、まだ入っていない新人は不思議そうにその人たちを見ていた。
中では克己達が名前や、身長、体重、服のサイズ等を測り、給料の話をして、カメラで写真を撮り、PCに記録していく。他にも要望があれば聞いており、奴隷としては異例の待遇で扱われている。
そんな話をされているのだから、出てきた者達が嬉しそうな顔をしているのは当たり前である。
種族はバラバラで、猫族もいれば犬族もいて、ウサギ耳の女性までもいる。
全員はお互いに何を聞かれたか話をしたり、自己紹介をしあったりしてコミュニケーションを深めていた。
全員の面接が終了し、皆は嬉しそうにしており、克己達はこの後どうするかを話し合うことにした。
「先ずは寝る場所でしょ? そこは大事だよね。次に衣服と、食事。皆、お腹が空いているようだし、あの格好でいるのはヤバイでしょ?」
「じゃあ、黒山かにゃ?」
「黒山だと下着が少ないからGYUUに行くか? あそこは最近出来たばかりで、歩いてでも行ける。サンダルも売っているから丁度いいだろ? 宿は、この間泊まったビジネスホテルを借りて、数日間そこで寝泊まりさせよう」
「初期費用が随分掛かるにゃ~」
ペルシアは電卓を弾きながら言う。
「でも、仕方無いだろ、こう言ったものは初期費用が掛かるものだ。これでも人が足りないんだからな」
「ご主人様が日本でお金持ちだった事が良かったにゃ」
千春は二人の話に付いていけずに俯き、落ち込むが、克己とペルシアの話は続く。
「ペルシア、アパートの方はどうなってる?」
「この雨だからにゃ……数日は無理だにゃ……来週になるにゃ」
「それは残念だな……いや、丁度よいかも知れないな……まずは日本で色んな事を学んでもらおう」
「なら、ジョナズンにゃ? それともゴスト? デリーズも捨てがたいにゃ……」
「そうだな、最初はファミレスで、次にちょっと高級な店で、その次はもっと高級なお店で接客を受けて貰い、『おもてなし』のレベルを学んでもらおう」
「なら最初はどうするにゃ?」
「まずは衣・食・住を固めるから服を買いに行く! 次に、ファミレスで飯を食う! その次にビジネスホテルを借りる! 分かった? 千春ちゃん」
「あ、あんまり……難しい話に聞こえました……」
克己とペルシアは『何故?』と不思議そうな顔をしてお互いを見るが、答えは出なかった。
克己達は新人達に説明をすると、やはり全員意味が分からないようで、不思議そうな顔をする。
「俺についてこい!」
最終的にはそのセリフで全員克己の家に入っていく。
新人達は不思議に思っていた。何故付いてこいと言って隣の家に行くのだろうと……しかしそこで見たのは不思議な世界だった。
物入れを潜ったら別の部屋に繋がっている。
「な!」「こ、ここは……」など、色々な声が聞こえてくる。
新人達は新しい世界を体験するのだった。




