36話 襲撃!!
克己達はファミレスから洋服の黒山へ向かった。
「服ができていると助かるが……」
克己はそう呟きながら店の扉を開ける。
店員が克己に気が付き、緊張した表情になる。
「い、いらっしゃいませ……」
「服で来てます? それに清算していませんよね? 幾らになりますか? 予定外な出来事があり、それが直ぐに必要になりましてね……今から着させてもらってよろしいですか?」
店員は頷くことしかできずに、涼介達はスーツに着替えた。
「おお! 二人とも似合うね! この店はやればできるじゃん。店長を呼んできてよ」
「て、店長は……体調不良で早退してしまいました……」
「ふ~ん、あっそ。それじゃあ仕方ないね」
克己はそう言って携帯カメラで三人を映してあげて見せると、千春とアルスは顔を赤くしていた。
「克己様、アルスばかり贔屓にして……私達はお荷物ですか!」
ノエルは全員を代表して克己に言う。
「そんなことはない、大丈夫。お前達の事は考えてある。安心しろ。アルスの分は緊急を要するから作ったまでだ」
「本当ですか? 信じて良いですか?」
「もちろんだ」
ノエルは渋々納得し引き下がる。
「さぁ、もう一度ファミレスに行かなければ……その前に、お前たちをホテルに連れて行かなきゃな。まずは家に帰り、数日分の着替えなどを取りに行くぞ」
克己はそういうと、全員はホテルとは何だとザワつきながら荷物を取りに帰る。
荷物を回収すると、克己は近くにあるビジネスホテルへと向かった。
「いらっしゃいませ……」
「予約した成田ですけど……」
「はい、成田様でね。お待ちしておりました……」
「じゃあ、皆は彼女の言う事を聞いてくれ。今日から数日間、ここで寝泊まりするんだ」
「ここで……ですか?」
ハミルが不思議そうに質問してきた。
「そうだよ、ここは宿屋。ちょっと高級な宿屋だから、好きにしていいよ」
「こ、ここが宿屋? まるで王宮並みじゃないですか!!」
シェリーは驚きながら言うが、正直そんな大それたものではないと克己は思った。
「ご、ご主人様……わ、私がこんな素敵な場所に居ても宜しいのでしょうか……」
ルノールはビクビクしながらそう言ってガルボにしがみ付く。
ガルボもどうして良いのか分からず、ルノールにしがみ付き、二人で怖がっている。
「問題ない。お姉さん、彼女らは田舎者だから細かく説明をしてあげてくれ」
「かしこまりました……」
お姉さんが礼をする姿が優雅に見えて、シェリーは一流の宿屋だと思っていたが、ただのビジネスホテル。
アルスと千春、涼介、ペルシアは克己の後ろを歩きながらついていく。
「どうして私たちはこんな格好をするのでしょうか……涼介様」
「面接をするからだろ? 正装で相手をもてなすんだよ。相手は俺たちの身なりを見て、この仕事は大丈夫かと判断する材料の一つになる。そう言う事なんだろうな、きっと」
「流石は涼介だね。その通りだよ。涼介とアルスは俺の護衛……本来は必要すらないけど。だけど、千春ちゃんやペルシアは俺が雇っているんだからそういう格好をしないとダメだよ。これからは毎日その格好をしてもらう。その姿に慣れてもらうためにね」
「こ、この姿に慣れる……ですか……」
「涼介はそういった服も好きだからね。変態だし」
「ほ、本当ですか! 涼介様!」
「か、克己! 変なこと言うなよ!」
「じゃあ、嫌いなの? 俺はアルスのその姿はそそられると思うけど……」
「そそられる?」
「興奮するってことにゃ」
「か、克己様が私に……こ、興奮ですか……」
アルスは顔を真っ赤にして両手で顔を隠す。
「そ、そりゃ……千春は可愛い……ぞ……」
小さい声で涼介は呟く。
千春は涼介の腕に手を回し、手を繋ぐ。
「ありがとうございます、涼介様……私はこの服に慣れるように努力します!」
「お、おう……」
「涼介様もそのお姿はお似合いですよ?」
「お、おう……あ、ありがと……」
「ハイハイ、ごちそうさま。お店に到着するから離れてくれる? 中に入ったらすぐに打ち合わせを行うからな」
「あ、あぁ……」
克己達は再び中に入り、席へと案内される。
五人はジュースを注文して、喉の渇きを潤す。
「でだ、話は俺がするから皆は黙っているように。特にアルス。お前は俺が許可するまで喋るな。飲み物は注文してもかまわん。それだけは喋ることは許可しよう。トイレに行くときも自由にして良い。さっき確認したけど、家のトイレと似ているから使用に支障はないだろう……」
「私も黙っているのですか?」
「挨拶程度かな? 名前を言うくらいだね。ペルシアも」
「承知したにゃ!」
「名刺は切れているということにして……」
「名刺とは?」
「帰ったらベッドの上で涼介に確認して」
そう言ったら二人は顔を赤くした。
アルスは少し羨ましそうに聞いていた。
暫くすると、一人の少女が店内に入り、キョロキョロしている。
少女は店員に人を探していると伝えて探し始めると、克己を発見し、顔をこわばらせる。
「ほ、本当にいた……」
少女の口はそう動いたかのように克己には見えた。
五人に対して一人。
少女の緊張はピークに達しそうになっていた。
「あ、改めまして……え、遠藤綾香と言います……」
「どうも、存じていると思いますが、改めて挨拶させていただきます。成田克己です」
克己は軽く会釈をして、遠藤を席に座らせる。
「さて、履歴書は持ってきたかな?」
「あ、は、はい……」
遠藤はカバンの中から履歴書が入った封筒を取り出し、克己に渡そうとした。
「涼介、カバン」
「ん、分かってる」
克己がそういうと、涼介は目にもとまらぬ速さでカバンをひったくる。
「な、何を!!」
「これは何だ?」
涼介がカバンの中から取り出したのは、タオルに包まれた包丁だった。
「あ!」
アルスは小さく声を上げる。アルスは包丁に気が付かなかった。
克己は気にしていないようにその包丁を受け取り、袋の中にしまう。
「面接で犯罪とはね……帰りの時まで預からせてもらうよ。それにこれは人を刺す物ではなく、料理に使用する物だよ」
遠藤は俯いて体を震わせている。
「さて、履歴書を確認させていただこうかな……」
克己は何もなかったかのように、履歴書の封筒を開けて紙を取り出して確認する。
「遠藤綾香さん、17歳……家は近くだね……電車で5駅くらいか……ずいぶん遠くまで通っていたんだね。前の職場には……成る程……」
涼介は履歴書をチラッと見て、千春のほうが写真写りは良さそうだと思った。
「二人とも、挨拶を」
「私はペルシア=アギノス、猫族にゃ。今はスーパーバイザーという役職についてるにゃ」
「わ、私は及川千春と言います。て、店長を務めさせて頂きます……。これで宜しいのでしょうか……涼介様……」
「ば、ばか、それ以上言わなくて良いの! さっき言われたろ?」
「あ! そ、そうでした……」
「あはは、すいませんね。急な人事でこうなってしまったんで……」
克己はフォローを入れる。しかし、遠藤は俯き震えている。
「アルス、彼女のために何か飲み物を注文して」
「は、はい……す、すいません……」
アルスはメニューを見ながらコーヒーを頼んでみた。これで良いのか分からなかったが、臭いで落ち着くような気がして注文した。
「成る程、本当に中卒……なんだ……」
遠藤は体をビクッと小さく飛び跳ねる。
「遠藤さんから何か質問はありますか?」
遠藤は俯きながら喋る。
「な、なんで咎めないんですか……」
「咎めるというと? さっきの包丁の件?」
遠藤は小さく頷く。
「必要がないからだよ。正直、このような物が俺に刺さるなんてありえない話だと思うけど……新人教育のために一応やらせただけだからね」
「わ、私が持ってくると言う事が分かっていた……と言う事ですか……」
「多少は……ね? まぁ、包丁が包まれたタオルがチラッと見えたから確信したんだけどね」
「な、なんで……」
「君がクビになった原因は俺にあると考えたから……だよ。とんだ言いがかりだけどね。殺そうとしたことを後悔させるのが俺の趣味のひとつかもしれないね」
克己はニヤニヤしながら言った。
「も、もう面接は終わりでしょ? どうせ不採用なんだから包丁と履歴書を返して!」
「誰が不採用と言ったの?」
「だって私はあなたを殺そうとしたんですよ!」
「そうかもしれないけど……大丈夫だよ。俺はいつも命を狙われてるみたいだから」
「ど、どういう事ですか?」
「君はおかしいと思わないの?」
「え?」
「いや、思わないなら構わないけど……『君が働いていた店のお客さんがここに居る』のはおかしいよね?」
千春はそのセリフを聞いて周りを見渡すと、服装や髪型が変わっているが、似たような人が数人いることに気が付き、声を出そうとしたが涼介が先に千春の体を押し倒す。アルスもそれを見てペルシアの体を押し倒す。
克己は遠藤の足を掴み自分のほうへ引っ張ると、銃声が響き渡った。
「千春! 魔法! 眠りの魔法を唱えろ!」
涼介が言うと、千春は混乱しながら詠唱を開始して、魔力を解き放つ。
克己達を除く周りのみんなは眠りについた。
「ありがとう、千春ちゃん。アルス、もう少しだけ警戒を強めてくれよ。これではいる意味がないだろ?」
「す、すいません……な、なんか調子が出なくて……」
「初めての事ばかりだから仕方ないけど……。涼介、流石だね」
「そんなことはいいから警察を呼べよ」
「警察だけではなく、国枝君にも電話をしないといけないね……」
克己はそう言って警察に電話をかけ、そのあと国枝に連絡すると、国枝はタクシーを飛ばしてやってきた。もちろん支払いは克己が行うのだが……。
「随分と派手にやっているじゃんか? 克己」
「何処の連中? こいつら」
「取り敢えず眠っているからな全員……店員含めて。これが魔法か?」
「そうじゃないかな? アルスはこんな魔法が使えるとは聞いてないけど。千春ちゃんじゃないか?」
「魔法か……使用者が善人であると良いが、悪人が使用するとしたらヤバイな」
「レベルに関しても同じことだと考えられるよ、潜在能力向上になるからね」
「異世界は危険……と言うことだな」
「全ての……じゃないと思うけどね」
「どういう意味だ?」
「異世界は一つじゃないってことさ」
「それは実験と検証した結果か?」
「いや、存在までは確認しているが実験まではしてない。落ち着いたら確認する予定だよ」
克己と国枝が話していると、警察官が現場保存して、店には誰も入れないようになってしまう。
克己達も事情聴取されるため警察署へと連行される事になった。
取り調べは何故か克己一人。
刑事が数人、克己を囲むように立ち、無言の圧力をかけてくる。
「お巡りさん、他の連中は?」
克己が椅子に座らせられている状態で質問すると、刑事は答える。
「上からの命令で、な……。調べるのはお前だけだよ」
「成る程ね。やってくれるよ……。明日は忙しいのに」
「じゃあ、名前と生年月日……」
克己は聞かれたことに関して説明すると、刑事は異世界について納得が出来ないらしく、声を荒くして喋る。
「実際にそうなんだから仕方ないでしょ? 明日は……と言うか、今日になったか……まぁ、いいや。証人喚問を受けるから解放してくんない? お巡りさんもニュースで異世界があることは知っているでしょ?」
一人の刑事が本当かどうかを確認しに行くが、他の刑事は克己が薬物をやっていると思い、詰め寄る。
克己は黙りを決め込んで喋らないでいると、刑事は机を叩き圧力をかけてくる。
暫くすると、先程確認しに行った刑事が戻ってきて、上司と思われる男に耳打ちすると、克己はようやく解放される事になった。
「やれやれ、怖い人たちに囲まれているから大変だったよ」
解放された瞬間に喋る克己。刑事の一人が胸倉を掴んで壁に押し付けてくる。
「警察を舐めるなよ!」
「はいはい、お兄さんは正義感が強いんだね。でも知ってる? これって違法取り調べってやつなんだよ? 次は裁判所で会いたいなら構わないけどね。汚い手を離してくれる? それに、タバコとコーヒーの臭いが混ざりあって臭いからそれ以上喋んないでよ。そろそろ我慢の限界だから」
克己は挑発すると、刑事はブチ切れ、克己の顔面を一発殴った。
「痛て! ……あ~あ、やってしまったね。次は裁判所で会いましょうね。取り敢えずお巡りさん、この人を捕まえてよ。暴行罪でしょ?」
「い、いや、ちょ、挑発したのは……」
他の刑事が言うと、克己の態度は豹変した。
「隠蔽? 成る程ね。じゃあ、今日の国会を楽しみにしてなよ。アンタ達が暴力を振るって無理矢理ない罪を押し付けてきたって証言をするから。楽しみにテレビを見てなよ。お巡りさん。裁判所でも構わないよ。これって何か分かる?」
克己がポケットから取り出したのは小型の録音機であり、しかも数時間前から作動しているようで、デジタルの秒数が動いている。
青褪める刑事達。
克己はニヤニヤしながら扉を出ていく。
扉の外には涼介達がおり、千春とペルシアは疲れにより眠ってしまっていたが、アルスは心配そうに駆け寄ってきた。
克己は顔を擦りながら大丈夫と答え周りを確認する。
「アルス、遠藤さんは?」
「隣の部屋で、国枝様と一緒にいると思います」
アルスがそう言うと、克己は隣の部屋を開ける。
「よお、終わったか?」
「気を利かせてくれるなら、聴取を受けない方向にしてくれるとありがたいんだけどね」
「一人くらい受けさせないと煩いんだよ、それが仕事だからな。涼介には出来ないだろ? こんな仕事は……」
克己は仕方ないと思いながら周りを見ると、遠藤が机に伏せて寝ていた。
「その子を連れて帰るけど……別に構わないよね?」
「あぁ。だが、面接がどうのって言っていたぞ?」
「うちの店でチーフマネジャーとして働かせるんだよ」
「異世界に連れてく気か?」
「まぁね。面白そうな素材だったからね」
克己はアルスを呼び、遠藤を担がせる。克己はペルシアをお姫様抱っこすると、アルスが「あっ……」と小さく声を出して悲しい顔をする。
克己はアルスの反応に少し困った顔をしたが、状況的には仕方ないのでそのまま警察署から出ようとすると、涼介が写メを撮る。
国枝はタクシーを三台手配してくれていた。(勿論お金は克己持ちで)
タクシーに乗り込み、運転手に行き先を告げると、タクシーは発進する。
タクシーは暫く走ると克己の家に到着し、克己達は降りて家の中へ入った。
ペルシアと遠藤は異世界側の部屋で寝かせて、日本側で克己達は休む事になったが、涼介達は家に帰ることにした。
「朝9時迄には家に来てくれよ」
「分かってるって」
涼介はそう言って千春を抱っこしながら家に帰って行く。
「アルス、お疲れ様」
「いえ、克己様こそ遅くまでお疲れ様です」
「さてと、俺達も風呂入ってさっさと寝るか!」
克己は体を伸ばして言うと、アルスはモジモジしながら付いてきた。
「ん? アルス、先に入るか?」
克己が聴くと、アルスは顔を赤くして俯きながら克己の袖を掴む。
「い、一緒に……一緒に入りませんか?」
「はい?」
「だ、だって、待っている間の時間が勿体ありませんし……」
「ふ~ん、でも、アルスが先に入りなよ。掃除とかで疲れているだろうし」
「わ、分かりました……」
アルスはショボンとしてお風呂へ向かい、シャワーの音を立てる。
克己は次にお風呂へ入る準備をして、部屋で漫画の本を読み、時間を潰していた。
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涼介が千春を抱えながら歩いていると、千春が徐々に目を覚ましていく。
「ん? 目が覚めちまったか?」
「こ、ここは……」
「家の傍だよ、もう少しで家に着くからゆっくりしていいぞ」
「も、申し訳ありません……」
「気にすんなよ、今日一日大変だったんだろ? しょうがないだろ」
涼介は笑いながら言う。
「わ、私の服……、どうですか?」
「似合ってるよ、とても……」
「う、嬉しいです……」
その後は二人とも黙って家に帰り、そのまま一緒の布団に入り千春はその服のままで涼介を求めてきた。涼介は千春を抱いて眠りにつくのだった。
翌朝になり、二人は裸で目を覚ます。
「おはようございます! 涼介様」
千春はそう言って涼介にフレンチ・キスをする。
「ぷは、おはよう。千春……んぐっ」
千春は物足りなかったのか、キスを繰り返す。
二人は朝からお互いの体を求めあい、愛し合った。
一通り行為が終わり、時間を確認すると8時半。二人は叫び声を上げて着替えを行う。
「ヤベェ、風呂に入る予定だったのに!」
「昨日の服は涼介様の愛で着れなくなってしまいましたから、新しいのにしましたけど、匂いは大丈夫でしょうか……」
千春は体の臭いを嗅ぎながら克己の家に走っていく。
「お、遅くなりました!!」
千春達が克己の家に到着すると、克己は大工の作業を確認していた。
「おはよう、千春ちゃん」
「お、おはようございます。遅くなって申し訳ありません……」
「すまんな、克己」
「エロ猿、クセーから近寄んなよ。早くうちの風呂に入ってこいよ。イカ臭いんだよ! エロ猿。全く……盛りやがって」
二人は顔を真っ赤にしてお風呂場へ向かい、急いでシャワーを浴びるが、若さとは怖いものである。千春は小悪魔な顔をして、涼介のモノを弄ぶと、涼介のタガが外れてしまい、お風呂から出るのに40分以上かかってから出た。
勿論、克己は激怒して涼介の頭を思いっきり殴り、涼介は頭を押さえて踞る。
「だ、大丈夫ですか! 涼介様」
千春は涼介の側に寄り、殴られた場所を擦る。だが、克己は千春の頭を掴み、デコピンをした。
「い、痛っーた~!」
「痛いじゃない! 常識を考えろよ! 二人共。人ん家の風呂でヤんなよ! バカ野郎! 早く準備をしろ! 盛りついた猿共!」
二人は黙ってイソイソと準備をした。




