338話 円滑な仕事!!
アルスの魔法で家へ戻り、克己は固っ苦しいネクタイを外してソファーに腰掛ける。この後はどうすれば良いのか分からないアルスは、ソファーに腰掛けた克己を見つめながら困った顔をしていた。
「悪かったな、アルスだってパーティーを楽しみたかっただろ」
そう克己は言うが、周囲の警戒をしていたので楽しむどころでは無かったが、アルスは苦笑いをするのだった。
「しかし、どうしてあのシエルは、あんなに興奮してやがったんだろう。まぁ、興味が無いからどうでも良いけどな。さて、ようやく時間ができたので、面倒な仕事でも片付けるかな……」
面倒臭そうな声を出しながら克己はソファーから立ち上がり、着替えるために部屋へ戻ることをアルスに伝えると、アルスも着替えるために自分の部屋へ向かい、着ていたドレスを脱ぎ捨てると、タンスからラフな服を取り出して着替えると、急いでリビングへ戻って行った。
アルスがリビングへ戻ると、すでに克己が着替えて待っており、アルスは謝罪の言葉を述べたが、克己は気にしてないと言って、パルコの街に繋がる扉を開けて移動すると、アルスは袋から剣を取りして装備してから克己のあとを追いかけるようにパルコの街へ向かった。
克己は本当に面倒臭いと思っているのか、普段よりも歩く速度がゆっくりで、ポケットに手を突っ込みながら欠伸をしており、アルスは珍しそうに克己を見ていた。怠そうに歩いていた克己が足を止めたのは、商業ギルドの前だった。
深い溜め息を吐いたあと、嫌そうな表情をしながら克己は商業ギルドの中へ入っていくと、アルスは苦笑いをしながら後を付いて行く。
商業ギルドの中は結構賑わっているらしく、商いをしていると思われる人が沢山おり、ギルド職員は商人の対応に追われているようで、冒険者ギルドの職員とは、随分と異なっているように思える。
どうして商業ギルドに来たのか。どうして嫌そうな顔して溜め息を吐くのか。その意味に関してアルスは理解しているため苦笑いしており、克己は職員と話をするため適当な列に並んで自分の番を待つこと小一時間、ようやく克己の番になって、職員に話かける。
正直な話、克己が割り込んで話かけても対応してもらえるのだが、日本人は割り込みをする様なことをする人種ではないので、当たり前のように列に並んでいたのだが、そんな常識が通用する世界ではないが、アルスが睨みをきかせており、誰一人として割り込みする者はいなかった。
「あのぉー、俺は成田克己という者なのですが、ギルドマスターと話がありまして……」
パルコの街で暮らしている者で、克己のことを知らない奴は誰一人としていないのだが、礼儀として話かける。
職員は少し驚いた顔をしながら、慌ててギルドマスターのいる部屋へ案内してもらい、ギルドマスターが居る部屋のドアをノックして中へ入って行くと、ギルドマスターは色々な書類に囲まれながら克己とアルスの方を見た。
「どうも、お疲れ様です」
克己は軽い会釈をすると、アルスはしっかりと一礼した。相手はギルドマスターなので、克己の品位を落とさないようにアルスは心掛けた。
「おう、克己か……。今日はどうしたんだ?」
直ぐに書類へ目を落としながらマスターは返事をした。
「個人的にはお茶を飲んで帰りたいんですけどね、お隣のマスターが面倒臭いお願いをしてきたので、商業ギルドで対応してもらえたらって思っているんですけど……」
「それで、糞エルフが何だって?」
隣のマスターと言っただけで、不機嫌そうな声で聞いてくるのだが、書類にサインをする手は止めない。
「宿屋の数が足りないらしく、俺に増やしてくれないかって言っているんですよ。ですが、店を開くには商業ギルドの許可が必要ですし、そういった事は商業ギルドの仕事じゃないですか、宿屋を増やして欲しいので対応してもらえないですか?」
「ふん! 糞エルフに言われなくとも、こちらとて宿屋を増やしたいのは山々何だがね、人手が足りんのだよ。街が急激に発展を遂げやがったんで、ギルドの職員も人手が足りん」
平和な街として、急激な発展を遂げたパルコの街。その平和をもたらしたのは目の前で立っている克己であるが、街が発展したのには克己の知らぬことである。
「人手が足りないのなら、うちの従業員を雇うの如何ですか?」
統率がとれている克己の従業員たちは魅力的なのだが、ギルドとしては奴隷を雇う訳にはいかないので、ギルドマスターは断るしか選択肢がないが、他に方法がないか問い掛ける。
「例えば?」
断られる事くらい分かっていたが、他の方法を求められるとは思ってもいなかった。
「あの行列をどうにかできんか?」
ギルドマスターの言葉に克己は少し考え、「うーん……まぁ、できなくは無いですよ」と答えると、ギルドマスターは作業を止めて克己を見る。
「本当か?」
「列を無くす事くらいはできますが、根本的な解決になりませんよ?」
そんな事くらいは理解できているが、割り込みがおきると揉め事になり、余計な仕事が増える。それを止めるのも職員の仕事となり、数人で騒動を止めるために手が止まってしまうので無駄な仕事が増えてしまい、作業効率が悪くなってしまうのである。そのことを克己に説明すると、克己は報酬が貰えるのなら直ぐに対応できることと、克己の従業員を三人ほど雇うのを許可してくれればと話すと、ギルドマスターは少し考えてから了承したが、宿屋を増やすことについては、克己が行うことで話が終わり、克己とアルスの二人はマスターの部屋から出ていく。
面倒臭いことを頼まれたが、金になるのならこれは立派な仕事であり、新たな事業展開もできる。克己は家に戻って皆が帰って来るのを待ってから仕事をしようか考えたのだが、今回のパーティーは長いだろうと思い、取り敢えずペルシアへ事情を説明するため電話を掛けた。
事情を把握したペルシアは、適当な従業員を呼び出して克己のもとへ行くよう指示を出し、克己は商業ギルドに戻って受け付けの改装を行い始めると、ペルシアから派遣された従業員数名がやって来て、克己はアルスにお願いして事情を説明させると、派遣されてきた従業員は仕事内容を理解したらしく、スーツに着替えるため急いで戻っていく。
それから暫くして、受け付けの発券機や番号表示パネルが取り付けられると、翌日から克己の従業員が発券機から番号を取り出して商人たちに渡し、番号が呼ばれた人から職員が対応するシステムへ変更された。
順番待ちに納得ができず、職員に文句を行ってくる輩が現れることも考えられたので、説明する護衛者も配備しており、秩序が保たれる仕組みとなり、商業ギルドの仕事はかなり楽となってギルドマスターとの約束通り、職員たちの仕事が円滑に回るようになったのだった……。




