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337話 バーサーカー!!

 珍しく克己はリクルートスーツではなく、少し地味なタキシードを着ており、克己の側近である六人と理恵の七人は、華やかなドレス姿でパーティー会場に来ていた。


「一応、招待状を貰ったから来たけど、俺には場違いじゃないか?」


 部屋の隅でシャンパンような飲み物を手にしながら克己は呟く。何故、克己がこの様な場所へ来ているのかというと、シエルの婚姻式に招待されたからである。


「克己さんの知らない人ではないので、楽しんだらよいのでは?」


 このようなパーティーに呼ばれたことがない理恵は、少し楽しげに言う。


「シエルのことは覚えてるけど、良い印象が無いんだよね。今となっては、妹のシェリーが何をしているのかすら分らんし、こんな日でも来てない。どうなってんの? この家族は……」


 呆れた顔をしながら克己は呟くのだが、理恵の耳には届いていないらしく、雰囲気を楽しんでいるように思えた。他の面子は周囲を警戒しているのか、克己の側でグラスを持ちながら変な輩はいないか確認している様子だった。


「皆も、理恵みたいにこの場を楽しんで構わないぞ。この大陸で俺にちょっかいを出す奴なんていないだろし……」


 克己が警戒している六人に言うのだが、六人は克己に微笑みながら「我々は大丈夫です」と、声を揃えながら言っているのだが、克己は美女に囲まれている状態で、正直に言うとかなり目立っており、色々な人たちが克己の方をチラチラみているので恥ずかしさがあるのだった。


 それから暫くして、ようやく主役が登場するのだが、シエルは以前と異なって大人しそうにしており、少し大人になったように感じた……気がしたのだが、克己の存在に気が付くと、シエルは克己の側へやって来る。


 理恵は目を輝かせてシエルを見る。眼の前にいるのは、本物のお姫様なのだから仕方が無いが、シエルは笑みを絶やさずに克己の前に立ったので、克己は何かしら挨拶をした方が良いだろうと思い口を開けようとした瞬間、シエルは克己を睨むような目に変わって平手打ちしようとしてきたのだが、しかし反射神経が桁違いに良い克己は、その平手打ちを素早く躱した。


「何で避けるのよ!」


 ヒステリックにシエルが叫ぶ。まさかの出来事に会場の全員が言葉を失っており、克己は呆れながら答える。


「いやいや、何で殴られなきゃいけないんだよ。意味が分かんねーよ。俺はお前に感謝されることをしてやっただろうに……」


克己(あんた)がしたことは絶対に忘れないし、許さないんだから!!」


「はぁ? ……意味が分かんねー。お前、自分がしたことの意味を理解しているのか?」


克己(あんた)こそ、自分がしたことを忘れているんじゃないの!」


 何を言われているのかサッパリ理解ができない克己に、何かを思い出したかのようにノエルが耳打ちしてきた。


「――克己様、多分なんですけど……返却したことを言っているのではないでしょうか?」


 そのことについては覚えていて、我慢の限界を超えてシエルを城へ返却したが、それはシエルに問題が有ったので、克己は自分に責任など無いと思っている。


 しかし、シエル(相手)は自分に非が無いと思っているらしく、いつの日か克己を殴ってやろうと思っていたのである。


(わたくし)の何処に問題があると言うのよ!」


 その言葉で克己は呆れた表情になって、口を開く。


「どこの世界で献上された奴が、我が儘したい放題する世界があるんだよ。お前は俺に差し出された時点で、奴隷同然だったんだぞ。それなのに、お前は食っちゃ寝ばかりして、見るに堪えない状態だったんだ。返品されても仕方がないじゃんか。まだ、お前の妹の方が役に立ったよ!」


 顔を引き攣らせながら克己が言うのだが、シエルは噛み付くかのように再び殴り掛かろうとして、ノエルたちが慌てて取り押さえる。


「何故、お前如きのために魔王と約束をしなきゃならんと言うんだ。王の頼みだから仕方なく契約を結んでやったが、こんな事をされるなら、契約をするんじゃなかったぜ」


 吐き捨てるように克己は言うと、隙を見つけたのかシエルは克己に向けて唾を吐きつけようとしたのだが、これも克己は避けて、深い溜め息を吐いた。


 周囲はざわめき何が起きているのか理解するのに頭を使っている中、理恵はどうして良いのか分からずオロオロしており、克己はこれ以上、シエル話をしても無駄だと思いアルスを呼ぶと、アルスは慌てて克己の側へとやってきた。


「これ以上、せっかくのパーティーを邪魔する訳にもいかんだろうし、話をしても無駄だろうから、俺はこの場から離れることにする。ハミル、後のことと理恵の事を頼んだぞ。アルス、悪いが俺を家まで送ってくれ」


 アルスは戸惑いながら、克己と共にテレポートして会場から居なくなる瞬間、シエルは克己の名を怒気のこもった声で叫ぶのだった……。

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