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33話 深いため息!!

 涼介達は家に帰り着き、何もない部屋を改めて確認する。


「電気設備は未だだけど……置くだけ荷物を置いとくかな……」


 涼介はそう呟き千春から袋を受け取り、冷蔵庫を取り出す。


「スゴ~イ! 大きい! 硬い箱~」


 小春は冷蔵庫を開け閉めしながら喜ぶ。


「次はリビングのテーブルを置くか……」


 涼介は次々に袋から荷物を取り出し、室内に置いていく。


 二階には四部屋あり、涼介は各部屋にベッドのパッケージを置いて、一部屋ずつベッドを組み立てる


 ベッドが出来上がった部屋に、千春は布団をセットしていく。


「しかし涼介様、克己様には頭が上がりませんね」


「ん? そうだな……。お前の仕事も斡旋してくれたし、勉強も見てくれる……。悪いことしているな、俺は」


「俺ではありません、俺達です! 私が物欲しそうな目をしたから……」


「あいつは気にするなって言いそうだけどな、お前には」


「私には……ですか?」


「あぁ、俺にはブツブツ言うぜ? きっと。だけど、絶対にお金は請求してこない。むしろ、気にかけてくれるだろうな」


 涼介はタンスなどを取り出し、各部屋に置いていく。小春は布団の上で跳びはねながら遊ぶ。


「小春、壊しちゃダメよ! 折角、克己様が購入してくれたのだから!」


「は~い……」バキッ!


 小春が返事すると、嫌な音がなると同時に足が埋まっていた。


 固まる三人。


 涼介は、恐る恐るベッドの下を覗く。そこで見たのは中敷きの板が割れて、無惨な姿で貫通している状態だった。


 顔が青くなる涼介。振り向くと、千春も顔を青くしていた。


「その……ベッドは、い、幾らしたのですか?」


 千春が恐る恐る聴く。


「こ、これは……、小春がこれじゃなきゃ嫌だって言うから……。克己は渋々買ったやつだったよな?」


 千春は頷く。


「記憶が確かなら……、50万円するやつだったはず……」


「そ、それは幾らになるのですか?」


「早くても、日本人が何も飲まず食わずで……60日から80日くらい働いて買えれば良いかな……」


 千春は目眩がしたのか倒れそうになり、涼介が支える。


「だ、大丈夫か! 千春!」


「だ、大丈夫です……が、……克己様に何て言えば良いか……」


「正直に言うしかないだろ……。家の電気設備作業をしに来るんだから……」


「ですが、私達にはそのようなお金は……」


「お、俺が何とかするよ……それしか無いだろ……」


「わ、私の体を……初物ではないですが一度位でお許しを……」


「馬鹿を言うな! 克己はそんな奴じゃない! 笑って終わりにするはずだ! きっとそうだ……」


 小春は二人の会話を聞いて、自分のしたことが物凄い事だったと理解し、泣き出した。


「小春は千春の部屋で寝て、千春は俺の部屋で……」


「りょ、涼介様は……」


「リビングで寝るしか無いだろ……。今日はそんな気分になれないだろ? 千春は」


「で、ですが……うぅ……」


 涼介は取り合えず、荷物を整理するだけ整理して、リビングに置いてあるソファーで寝ることにした。


 その夜、涼介が寝ていると体を揺さぶられ、目を覚ました。


「んあ? ど、どうした? 何かあったのか千春……」


「やっぱり一緒に寝て頂けませんか……。一人では大きいですし、ご主人様が長椅子でお休みになるのは、私としては納得ができません」


「ち、千春……。わかった、一緒に寝よう……」


 涼介は自分の部屋に戻り、千春と一緒のベッドで横になると、千春は涼介を求めてくる。涼介は多少戸惑いながらもそれを受け入れた。


 翌朝になり、二人は目を覚まして着替えをする。


「涼介様、おはようございます」


「おはよう、千春」


 千春は涼介の口にキスをして、涼介は千春を抱き締める。


 幾度かのキスが終わり、涼介はキッチンに朝食を作りに行くと、千春も付いてきて一緒に作る。


「夢のような朝ですね! 涼介様」


「あぁ、まさかマイホームを購入することになるとは……」


「まい……ほーむ……?」


「自分の家って意味だよ。そのうち教えてやるよ」


「涼介様は物知りですね!」


 この時は自分が教える立場だと涼介は思ったのだが、若さというものは恐ろしいという事を、後々思い知らされる涼介である。


「では、私は克己様の家に……家に行ってきます!」


 千春は覚悟を決めた目で涼介を見つめ、再びキスをして家を後にした。


 克己の家に到着して震える脚を叩き、扉をノックすると克己が玄関扉を開ける。


 まさか、克己本人が出迎えるとは思ってもおらず、千春は戸惑い声がでなかった。


「およ? おはよ、朝早いね? 朝食は食べたかい?」


「え、あ、い、あ、あの、み、皆さんは……」


「食事中だよ、取り合えず上がって待っててくれる?」


 千春は不思議に思った。普通は主人である克己が出るのはおかしい。常識に考えると、奴隷である、皆の誰かが対応する筈ではないかと千春は思った。だが、リビングに行くと、お通夜のように静かに食事をしている皆。


「ど、どうしたのですか? 皆さん、暗いですよ……」


 全員はチラリと千春をみて、直ぐに食事を再開する。


「ほ、本当に……ど、どうしたのですか?」


 克己に質問するが、克己は首を傾げるだけで答えてはくれなかった。


「そこのソファーに座って待ってて。今、飲み物を持ってくるから」


 克己はそう言ってキッチンに飲み物を取りに行き、オレンジジュースを持ってきて対面のソファーに座る。


「どうぞ、飲んでよ。美味しいよ?」


 克己はジュースを差し出し、ソファーで寛ぎながらスマホをいじる。


「か、克己様……、ほ、本日はお仕事を紹介して頂きありがとうございます。そ、それで……あ、あの……謝らないといけないことが有りまして……」


「謝る? 何を? 仕事が無理になったのなら……仕方ないよ?」


「そ、そうではなくて……さ、昨日、購入して頂きました、ベッドと言う物ですが……、こ、壊してしまいまして……」


「ふ~ん、寝られるの? 壊れたベッドで」


「い、いえ……。眠る事ができません……。穴が空いてしまっているので……」


「成る程ね。使用できないのか……」


「せ、折角大金をはたいて購入して頂いたのに申し訳ありません! このお詫びは体でお支払いする事でしか……」


 千春はソファーから飛び降り土下座して謝る。


「体はいらないし、気にもしてない。涼介が体で払って来いとでも言ったの?」


「い、いえ……。涼介様は知りません……。で、ですが……お詫びするものが有りませんし、お金も有りません! 私の体で支払うことでしかありません……」


「いらない。必要ない。千春ちゃん、涼介は何て言ったの? あいつの事だから、気にするなって言いそうだけどね。克己は笑って終わりにするとか……。あいつなら言うね」


 千春は頭を下げたまま涙を流しており、顔を上げられなかった。


「ベッドに関しては、明日どうにかしよう。先ずは千春ちゃん、顔を洗ってきなよ。ノエル! 連れてって」


 ノエルは急いで克己の側に来て、千春を抱え洗面場に連れていく。


 克己がコーヒーを飲んでいると、大工が訪ねてきた。


「商業ギルドから斡旋されてきました、ハンモと言います。今日はどの様なご用件でしょうか?」


 克己はハンモを家に上げ、リビングを占拠しているやつらを退けて、椅子に座らせる。


「今回、お願いしたいのは家を増築してもらいたくって呼んだんですが、このように作ることは可能ですか?」


「ん~、珍しい作りですね……。この規模だと三日間ほど掛かりますが宜しいでしょうか?」


「随分と早いですね~」


「お客さんがかなり金額を出してくれていますからね。人数が多く手配することが出来ます。期間はそのくらいで大丈夫ですか?」


「問題ないけど、家には住めるの?」


「部屋から出ないというなら……問題はありませんが……。無理だと思いますので、宿屋にお泊まりになられたほうが良いかと思います。


「成る程」


 克己は図面に記載されている、自分の部屋だけは作業しないでほしいとお願いし、大工は不思議がりながら承諾する。


「出入りは自由で構わないでしょ?」


「それは問題ありませんが……」


「この部屋は絶対に誰も入ってはだめだからね」


「は、はい、承知いたしました……」


 話は終わると、克己は全員を呼び出し、荷物を纏めさせて克己の部屋から日本の家に運ばせる。


 皆は黙って荷物を運び、俯いて立っている。


 千春は顔を洗い、再び克己に謝るが、克己は「気にしてないから別に良いよ」と言って、頭を撫でる。


 千春はくすぐったそうにして頬を赤らめて、克己を見る。


「す、素敵な人です……」


 千春はそう呟くが、克己は軽く頭をチョップする。


「涼介に謝れ、君のご主人は誰だ? ちゃんとお金の変わりはもらうよ、あいつからね」


「な、何を……」


「内緒! だけど、千春ちゃんには涼介がいるでしょ? ダメだよ、一時期の感情に流されては。俺はそんなに良い人ではない。あいつの方がお人好しだよ」


「か、克己様……」


「さて、用件も済んだし、お店に行こう!」


 克己達はゾロゾロとお店に行くと、ペルシアが一人でお店の床をモップ掛けしていた。


「おはよう、ペルシア」


「おはようございますにゃ! ご主人様。今日はゾロゾロとどうしたんにゃ?」


「こいつらが床を掃除する」


 全員が驚いた顔をして克己を見る。


「こいつらがこの店を隈なく掃除する。一日かけて掃除する。綺麗になっても掃除する。昼抜きで掃除する。ペルシアは本日、俺と一緒に出掛けるから準備する! 分かった?」


 ペルシアはモップを落として頷き、そのほかの全員は膝から崩れ落ちる。


「か、克己様……あ、あんまりでは……」


 ノエルが言うが、克己の目は冷たいものだった。


「これで許してやるんだから感謝しろ。昨日のは、これで相殺してやる。頑張ったものには今日は一緒に寝てあげよう……」


 二人を除き、全員は物凄い速さで掃除を始める。


 もちろんライラ、ライも掃除を始める。


 昨日入ってきたばかりの二人は、ダラダラと掃除を始める。


「この子はだれにゃ?」


「本日より、この店で働くことになった千春ちゃん。ペルシアは店長代理からスーパーバイザーに昇進、今日から千春ちゃんが店長。宜しく。千春ちゃん、挨拶をして」


「え? あ、はい……。は、初めまして……お、及川おいかわ千春ちはると言います……。お見知りおきを……ペルシア様」


「ぺ、ペルシア様!! は、初めて呼ばれたにゃ! 私が様って呼ばれたにゃ!」


 ペルシアの動揺は物凄かった。


「千春ちゃん、様でも構わないけど、バイザーでもいいよ。オーナー……店主は俺だからそれだけは忘れないでね?」


「は、はい! 忘れません! 私達の恩人様を忘れるはずがありません!」


 克己は感動しそうになるが、ぐっとこらえる。ペルシアは可愛い後輩で、素直な千春の頭を撫でる。


「ご主人様、本日はどうするにゃ?」


「とりあえず……日本に行くから付いてきて」


 二人は頷いたが、日本に行くならもうちょい良い服を着てくればよかったと思うのであった。


 克己の家に着くと大工が大量に投入されていることが分かる。物凄い怒鳴り声が響き渡り、そのたびに全員が大きな声で返事する。


 克己の部屋に到着し、克己は鍵を開けて中に入り二人も後に続く。二人が部屋に入ると克己は鍵を閉めて日本の部屋へと出てくる。


 皆の荷物が散乱しており、克己は舌打ちをして家から出て駐車場に止めてある車に乗り、エンジンをかけると、今度はエンジンがかかる。


「あれ? 今度はエンジンがかかる……」


 首を傾げながら発進させてディーラーに車を持っていく。


「新しい車を見せてよ」


「馬車を買うにゃ?」


「お前が運転するんだよ、その為の車を買うの! これからはお前にも護衛奴隷を一人つけるから、二号店も様子を見にいけよ」


「わ、私がこれを動かすのかにゃ! 無理だにゃ! 難しいにゃ! できないにゃ!」


「お前だけではない、千春ちゃんも運転するんだよ、二人で頑張ってね。あ、お兄さん! 電気自動車二台ね! 直ぐに納品してくれる? 金ならいくらでもあるから優先してよ。無理ならこっちにも考えがある……後悔しても知らないよ?」


 店員は戸惑い、困惑する。


 克己は国枝に電話して圧力をかけさせた。もちろん昨日購入した金額を請求すると脅した。国枝は渋々裏から手を回し、翌日には二台納品されることが決まる。


 絶対にありえないことをやらせる。克己はニヤッとして、店から出て行った。


「本当は車検なんかもあるけど、異世界では車検とか関係ないからね。それに車は改造しないといけないし……大変だなぁ~」


「シャケンとは何にゃ?」


「ググれ」


「分かったにゃ」


 ペルシアにはそれで通じてしまうのが恐ろしい事だった。


「ご主人様、次はどうするにゃ? 正直、私達は必要ないのでは無いかにゃ?」


「良いから付いてこい」


 ペルシアと千春は不思議そうな顔して付いていく。


「二人ともズボンしか穿いたことないの?」


「えぇ、そうですね。お姫様とか、高貴な方しかドレスを着る事はできませんから……」


 千春がそう答えると、克己は顎に手を添えて考える。


「成る程……。そうなんだ。だからスカートなんかは売ってないし、穿いている人はいないのか……」


「す、すかーと?」


「うん、ほら、あれがそうだよ」


 克己は道を歩いている人を指さして教える。


「あのヒラヒラが……ですか?」


「あれがスカート」


「そうですか……縁がない物ですね……」


「そうにゃ……縁がない物にゃ……」


 克己は溜め息を一つ吐く。


「涼介は一度で良いから見てみたいだろうな……千春ちゃんがお洒落しているところ……。アルスがこの間、スカートを購入したんだよな……多分、俺に魅せに来るだろうな……あの世界ではアルスが最初にスカート姿を俺に見せてくれるのか……」


 克己が言うと、千春は聞き返す。


「りょ、涼介様は見たいのでしょうか!! 克己様」


「どうかなぁ……。涼介は変態だからな……好きなんじゃないかな~」


「ど、どんな物が好みなのでしょうか!」


「千春ちゃんは幾つだっけ?」


「じゅ、16歳ですけど……」


「そうか、高校一年生くらいか……」


「こ、こうこう?」


「学校……学び舎がこの世界にはあるんだ。6歳~7歳が、一つの部屋で知らない人達と勉強するんだ。それが15歳まで強制的に勉強させられる。これは国が定めているんだよ。そして15歳から三年間勉強がしたい人は勉強するところが高校という。さらに勉強したい人が大学……専門学校、短期大学等……そういった場所で勉強するんだ。祖言う場所を卒業……決められた試験をすべて成功させると、良い仕事にありつけるというわけだ。国枝君はこれで良い仕事にありついた訳」


「ご主人様はどうなんにゃ?」


「俺も同じ学校を出ているから本当ならいけるんだけど……やる気と、魅力の差かな? 俺はやる気がなかったんだよね」


「意味が分からないにゃ」


「そのうち理解するよ」


「そ、その『こうこう』というのは……涼介様はお好きなのでしょうか……」


「大好きだと思うよ?」


「か、克己様!!」


「それ以上言わなくていい。後でゆっくり話をしよう……」


 あんなに落ち込んでいた千春は嘘のように喜んでいる。やはり涼介の事が好きなのだと、改めて克己は思い、千春が一時期の感情に流されなくてよかったと感じた。


「さて、そんなことはどうでも良いとして、二人の芋っぽい恰好をどうにかしないといけない……」


 克己は携帯を取り出し、電話をかける。


 相手はやはり国枝。


『また無理難題を……』


「頼むよ、国枝君。俺に女性の知り合いはいないんだよ。数日間借りることはできないか?」


『お触りパブじゃねーんだぞ! お前言っている意味を理解しているのか!』


「仕方ない、国枝君が奴隷を飼っている事を世間様に教えないといけないとは……俺は友人として悲しいなぁ……」


『条件がある、国会に呼ばれている話は覚えているか?』


「あぁ、あのバカみたいな話?」


『あの話はどうにか回避されそうだ、だがな、国民のためにと叫んでいる政党があるのを知っているよな?』


「あぁ、日本国民ではなく隣の国の生活第一党だっけ?」


『余計な解釈は入れるな! それが騒いでおり、マスコミに波及しそうなんだよ、いや遅かった……タブレットを持っているか?』


 克己はタブレットを取り出した。


『そのタブレットはフルセグは使えるのか?』


「あぁ、数種類のタブレットがあるから大丈夫」


 克己はフルセグが見る事ができるタブレットを取り出し、起動させる……。そのあと、見たことに後悔をした。


『おめでとう、これでまた有名人だな。で、条件は聞いてもらえるのだろうか?』


 モニターの向こうでは独り占めはいけないと叫ぶマスコミや、コメンテーター。千春はこんな小さな小人が居るのかと思いながらフルセグを覗き込む。


「これはこれは……ご主人様が悪者になっているにゃ……」


「ぺ、ペルシア様はこれの意味が分かるのですか!!」


「まぁ……毎日、日本の情報を取り入れてるにゃ、このくらいだったら分かるにゃ」


「ですが、これは小人界の話ですよね? 日本にも希少種の小人が居るのですか・」


「にゃ? これはテレビにゃ。小人ではないにゃ……ほかの場所で記録された映像を映し出す機械にゃ」


「そ、そんな眉唾な話がある訳……」


「こんな薄い物の中に小人が入れるわけないにゃ、もう少し考えるにゃ! ここは私たちの常識が覆されている世界にゃ、適応されなければ生きていけないにゃん」


「そ、そうなのですか……涼介様はそんな恐ろしい世界に住んでいたのですね……」


「そんなに大した世界ではない!!」


 克己が通話口を抑えて言う。


『克己、どうすんだ? 国会に出るなら交渉するが……』


「異世界省の話は進んでいるの?」


『来週には報告できる。後はお前次第だよ』


「昨日話した通りだよ、それさえ守ってくれれば再契約をしてあげるよ」


『分かった、そのように話を進める。で、どうする? 証人喚問に出るか?』


「いつ?」


『お前が出ると言ったら明日にも呼ばれるだろうな』


「分かった、売られた喧嘩を買ってあげるよ。ぶっ潰す」


『分かった、三十分ほど待ってくれ』


 国枝はそう言って電話を切った。


 克己は取り敢えず、新宿にある自衛隊東京地方協力広報室へ向かった。


 新宿に到着すると、国枝から着信が入る。


『克己、承諾をもらった。新宿に行け、明日の朝、迎えに行く』


「本当に明日かよ……日本の家に来て。そっちに数日は住んでるから」


『分かった。だが、何か問題でもあったのか?』


「改装中」


『そう言う事か、俺の家も改修してくれよ、電気設備くらいはどうにかしないとあの子たちが可哀想だ』


「自分で欲しいって言ったんだろ! めちゃくちゃ高かったのに!!」


 高いというフレーズに千春は体をビクつかせる。


 克己は適当に話を合わせて電話を切り、直ぐに受付の人に話をすると、今先ほど連絡があったばかりなのに克己がすぐに表れたものだから、受付から警戒をされていた。暫く待っていると、品川がやってきて驚いた顔をする。


「ほ、本当に克己さんなんですね……」


「品川准尉もお元気そうですね」


「森田三曽とはお会いになったのですか?」


「なんで森田ちゃんが出てくるんですか……」


 克己は冷ややかな目で品川を見る。


「別に……、克己さんなら、直ぐにでも迎えに行くのかなって……」


「迎えに……って……。あ、車を出してもらえます? んで、こいつらに似合う服を選んでください、お金に糸目は付けませんので……」


「克己さん、本当にお金持ちなんですか?」


「通帳でも見たいですか?」


 品川は少し考えてから頷くと、克己は袋の中から通帳を取り出して品川に渡す。


 品川はそれを見て顔を引きつらせる。


「た、玉の輿とかそういったレベルじゃないですね……」


「お誉めの言葉をありがとう」


「誉めていませんが……」


「車を持ってきますから、ちょっと待っていてくれます? あ、そ、その子って……あの人の奴隷……」


「詮索は無用、早く車を持ってきてよ」


 克己はそう言ってまた電話をかける。もちろん国枝。


 品川が車を持ってくると、三人は乗り込み品川が運転をする。


「皆さんは元気ですか?」


 品川が話を振ってきた。


「今は罰としてお店の掃除をしてますよ」


 品川は相変わらずだと言って笑いながら運転をしており、千春は外を眺めている。


「克己様、人が一杯いますね! 凄いです! 昨日も凄いと思いましたが改めて驚きがいっぱいです!」


「そうか、それはよかったよ」


「克己さん、その子達はその格好で新宿まで連れてきたの?」


「服がないから仕方ないでしょ? 准尉みたいにお洒落をしたことない子達なんだからそれくらいは勘弁してあげなよ」


「い、いや、別にそこまで言っていませんが……」


「准尉にしかお願いする人がいないから無理なお願いをしたんですよ、おかげで明日は大変になった。全て俺の言うことを聞かない日本政府が悪いんだな、きっと」


「大変って何かあったんですか?」


「証人喚問」


「は?」


「あんたを数日間拘束するために証人喚問という取り引きをしたんだよ、あんたも責任の一つだな」


「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 私は関係ないじゃないですか!」


「面倒くさいところで働いているから……無駄な取り引きをする羽目になったんだよ」


 克己の我が儘が発動し、困惑する品川。


 ようやく青山にあるお店に到着して店内に入ると、千春とペルシアは店内の明るさに驚いていた。


「室内にも太陽があるんですか……」


「電球……いや、LEDライトだよ」


「えるい……でぃ?」


「そのうち分かるよ、そんなことより准尉の後に付いていきなさい!」


「は、はい……」


 二人は恐る恐る品川の後に付いていく。


 品川の服装はワイシャツにタイトスカートという服装。流石広報という感じで大人の女性を醸し出している。だが、克己はあまり興味がないようで、スマホをいじりながら何かを調べており、品川は屈辱を感じている。


「取り敢えず……サイズを測って、服を数着着てみましょう」


 品川の言葉に二人は頷き、初めてのスカートを穿いてみる。


「あ、足元がすーすーしますね……」


「それは慣れれば問題ないわ。うん、素材が良いから似合うわね……幾つだっけ?」


「じゅ、16です……」


「私は18にゃ」


「若いって羨ましいわ……」


「俺からすれば品川さんも若いよ」


「克己さんには三曽がいるでしょ」


「だから何で森田ちゃんが出てくるんだよ」


「早く迎えに行ってあげてくださいよ」


「知らないよ、そんなの」


 そんな会話をしていると、克己の携帯に着信が入る。もちろん国枝だ。


 克己は外に出て国枝と何かの話を始める。


 品川は色々な服を着せて選んでいく。千春はカラフルな色に目を回しながら選んでいく。


 ペルシアに至っては、新しい制服についてブツブツ言いながら選んでいる状態だった。


「千春ちゃん、これなんかどうにゃ? 新しい服にどう思うにゃ?」


「な、何に着るのですか? こんな服で戦いはできませんよ……」


「千春ちゃん……あなたはもう戦闘しなくても良いにゃん。戦闘しなくてもお金を稼げるから気にしないにゃん頑張るにゃん! お店を繁盛させるにゃん! 私はご主人様のお店を辞めないけど、千春ちゃんはいつか独立してお店を立ち上げるといいにゃん。これはその勉強と考えるにゃんよ」


「独立……ですか……。ですが、私は奴隷ですよ……そんな大それたことは……」


「克己さんが言っていたけど……、奴隷に規則はないらしいわよ」


「ど、どういう意味ですか……規則って……」


「う~ん、私が言っていいのかしら……あ、克己さんが戻ってきた。聞いてみたら?」


 克己が困った顔して戻ってくると、千春が克己に質問をする。


「奴隷に規則がないとはどういう意味ですか?」


「は? 何のこと?」


「品川さんが、克己様が仰っていたと言っていました……どういう意味ですか……」


「准尉、何の話をしているんだよ……面倒くさい話は勘弁してくれよ……」


「彼女は自分のお店を持ちたいそうよ」


「ふ~ん、持てばいいじゃん。お金を貯めて……涼介と一緒に店を開けば?」


「りょ、涼介様と////」


「ウブだな……」


 克己はそう呟き天井を眺める。


「どうしたんですか、三曽の事でも考えているんですか?」


 揶揄いながら品川は言うが、克己は真剣な目をして答える。


「そうだよ。まさにそれを考えてた。残念だったね、准尉、またよろしくね」


「ど、どういう意味?」


「近いうち分かるよ」


 克己はそう言って店員と話し始める。


「な、何がどうなってるの……」


 暫くそのお店で服を見て、克己達は近くのファミレスに入る。


「大分服を買ったわね……お金は大丈夫ですか? 克己さん」


 克己は袋の中から札束を取り出しテーブルに載っける。品川は顔を引き攣らせながらお金を見ていた。


 店員が注文を取りに来ると、店員は札束を凝視する。店員は四人の内、誰かがこのお金を置いたのだと思い、顔を見る。克己はお金を掴んで袋の中に入れると、店員は克己にロックオンした。


「お客様……ご注文は……」


 品川は明らかに自分と、克己に対する態度が違うことに気が付く。


「私はアイスコーヒーをお願いします」


「ドリンクバーですね」


 店員は食い気味に言ってくる。品川は若干イラッとしたが、堪える。


「俺は……ハンバーグセットのドリンクはコーラーで」


 品川は「ドリンクバー」と言われるのがオチだとおもった……が、店員は「かしこまりました」と返事し、驚きの顔をで店員を見る品川。


「私は……イチゴミルクが良いにゃ……これが美味しかったらお店のメニューするにゃ。ご主人様よろしいかにゃ?」


「任せる」


 店員は「ご主人様」という単語に引っかかり、かなりの金持ちと判断した。


「か、克己様……絵が綺麗で美味しそうですが……これを頂いても宜しいでしょうか……」


 店員は確信した。こいつは超お金持ちだと……。


「飲み物は何でも良いかい?」


「は、はい、克己様にお任せします……」


「じゃあ、炭火焼ステーキセットと、紅茶を……ここにはないけどアールグレイなんか作れる?」


 品川は無理に決まっているじゃんと思いながら聞いていたが、店員は「かしこまりました」と言って下がっていく。


 品川は「ありえない……」と呟き、頭を抱える。


「准尉、ドリンクバーだろ? 取ってきなよ。あ、二人もシステムを理解するために連れて行ってくれない?」


 品川はフラつきながらドリンクバーに行き、二人にシステムを紹介している。


 克己はスマホの画面を眺めながら溜め息を吐く。


 暫くすると三人は戻ってくる。


「お待たせしました」


 そういって品川は席に座り、ペルシアは周りをキョロキョロして日本のお店を理解しようと観察を行っている。


「ペルシア、使いなよ」


 克己はそういうと、袋からノートとペンを取り出し渡す。ペルシアは受け取ると、色々メモを書き始める。千春は異世界での文字では無いことに気が付き、驚きの声を上げる。


「どうしたにゃ? 千春ちゃん」


「も、文字を書けるのですか……それも日本の……」


「ご主人様に教わったにゃん。英語も習ったにゃ」


「スピードラ○ニングは凄いよな……」


 克己は余所見しながら呟き、品川は驚く。


「ま、まさか……」


「そのまさかだよ。某プロゴルファーがCMしていた奴を購入して聞かせてた。そしたら覚えた……文字については教科書を購入して渡したら辞書を買ってくれと言われた……」


「あ、ありえない……」


「ペルシアは努力家なんだよ。可愛い奴め……」


「か、可愛いって言ってくれたにゃ!! 録音しとけばよかったにゃ」


 ペルシアはポケットからボイスレコーダーを取り出しそういうと、品川は何処で仕入れたかが気になり質問する。


「ご主人様が密林の使い方を教えてくれたにゃ。支払いはご主人様の支払いにゃ」


「大した額ではないからな……店に必要なら購入を認める」


「千尋ちゃんの教材も購入してみて良いかにゃ?」


「もちろんだ、ちゃんと数学も教えろよ」


「任せるにゃん!!」


 品川は声が出なかった。まさか英語もできるなんて思いもしなかった。


「准尉、甘い。考えが甘い……スペイン語も喋れる。ちなみにラテン語もいけるそうだ……」


 品川も窓の外を見つめることにした。


「平等って何でしょうね……」


「戯言だよ……弱者の……」


「お待たせ……致しました……」


 店員はゼーハー言いながら紅茶を持ってきた。


「コーラーは?」


 克己が言うと、店員は走ってドリンクバーに取りに行く。


「変わった店員だね、准尉」


「差別って無くならないのかしら……」


「戦争をなくせる方法が分かれば無くなるよ」


 店員はコーラーを持ってきて、克己は一気飲みしてコップを置くと、店員は直ぐにお代わりを持ってくる。


「店員さん、大丈夫? 無理しなくて良いんだからね? ドリンクバーだって分かっているし、アールグレイも自腹でしょ?」


「だ、大丈夫です……」


 克己は名札を見ると、遠藤と書かれていた。


「遠藤さんは何が目的? 先ほどのお金が目的なんでしょ? 遠藤さん、店長さんを呼んできてよ……。品川さん、この人の連絡先を聞いてもらえる?」


 品川は何か言いたそうだったが、言われた通りにしたほうが良いと感じて、仕方なく遠藤の連絡先聞いてメモに記録する。


 遠藤は泣きそうな顔をして店長を呼びに行く。暫くすると、店長が困った顔をして克己のいる席にやってきて謝り始める。


「その子が何か悪い事でもしたんですか?」


 克己が店長に言うと、店長は言葉に詰まる……。


「何で謝ったの? 悪いことしたの? その子は悪いことしたんならクビになるの?」


「そ、それは……」


「早く答えなよ、ねぇ……」


 克己はどんどん追い詰めていく。


 千春は食事に夢中になり、話を聞いていない。ペルシアも興味がないようでレイアウトなどをメモしている。


「く、クビにします……」


「ふ~ん。ねぇ、遠藤さん……。君、クビだって。君、何歳?」


「ちょ、ちょっと克己さん!」


 店長と、遠藤という子は聞き覚えのある名前を聞いて一瞬考える。


「あ!」


 遠藤という子が気付いたようで、声を上げた。


「俺の素性が分かったなら答えてよ、君は幾つなんだい?」


「じゅ、17……です……」


 遠藤という子は、恐る恐る答える。


「准尉、この子に俺ん家の住所を教えてあげてくれる?」


「なっ! い、一般人ですよ!! そ、それに三曽はどうするんですか!」


「森田ちゃんは関係ないだろ! うるさいな!」


 克己が品川を睨み、品川は一瞬、恐怖を覚える。仕方なく、品川は遠藤という子に克己の土地が書かれた住所が記載してある紙を渡す。


「興味があったらここに電話して、その場所に来な。君は仕事が無くなったんだから、仕事を探さないといけない。ちゃんと履歴書を持ってきなよ」


 遠藤という子は泣きそうな顔して店長に連れられて控え室へ入って行った。


 克己は食事を終えるとレジへ支払いに行く。そうすると、店長が現れて清算をしてくれた。


「店長、さっきの子は本当にクビにしたの? 嘘だったら……」


「し、しました……きょ、今日付で辞めてもらうことに……」


「可哀想……。まだ17歳だよ? それもこの時間に働いていると言う事は、学校すら行ってない。働かないといけない理由があるんだろうに……」


「だ、だって! あ、あんたが!!」


「俺が何? クビにしろと言ったの? いつ? どこで?」


「さ、さっき、そうやって!!」


「お前は馬鹿か? 俺が聞いたのは、あの子が悪いことをしたのか? あんたが何で謝るのか? もし悪いことをしていたのならクビにするのか? それを聞いただけだろ? 勝手に先走ったのはお前だよ。俺は偉い子を雇っているねって言うつもりだったんだ。それを勝手に勘違いしてクビにしたんだろ? バカだろ、お前」


 品川は、確かに克己はクビにしろとは言っていないと思ったが、その前の行動は不自然に感じた。


 店長を言い負かした克己は外に出ると、品川に質問された。


「誘導したんですよね……さっきの」


「だったら? 何か問題でもあるの? 勝手にクビにしたのはあいつだよ?」


「そ、そうですが……」


「准尉、その住所は必要だからちゃんと後で頂戴ね」


 品川はこれ以上言っても言い負かされるのは目に見えているので言うのを止め、溜め息を吐いて車に乗り込んだ。

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