313話 意地悪!!
山中希が新入社員として入ってきて、克己は社宅へ案内してから遠藤さんにあとを任せる。このあと、彼女はひたすら地獄のレストランが待っている事だろうが、それさえクリアすれば、問題ない生活になるはずだ。
涼介に呼ばれてローロスーにやって来た克己たちは、人の店で相変わらずのタダ飯を食っている奴の席に腰掛ける。
「お前は馬鹿なの? 何で人の店で飯を食っている訳?」
「他の店ではこの味が出せないから、仕方が無いだろ?」
「そう言って俺が支払いするんだから、良い迷惑だ。それで、今日は何の用事だよ?」
「お前が持っているエルフの秘薬って、あとどれくらい有るの? それに、それの量産の目処は付いてるのか?」
「秘薬はあと一つで、量産に関しては秘密だ。お前に渡すと悪用されかねんから渡さん。それが要件なら、俺は帰るぞ」
「ちょっと待てよ、ただ聞いただけだろ。異世界Dに関して、何か分かったのか知りたかっただけだって」
「くだらねーな。取り敢えず、向こうの方は少しだけ進展が有ったが、お前にゃ関係ないだろ」
「もう少し、儲け話をくれても構わねーだろ」
「普通に働いて、借金を返してから言え。俺はそれなりに忙しいんだ」
克己はくだらないことで呼ばれたのに、少しだけ苛立ちながらレシートを手にして店を後にした。
実際のところ、エルフの秘薬に関しては研究している最中で、涼介にはあと一つと言ったが、実際はまだ何個か持っている。ある程度のことが解りだしてきているが、公にするのは世界的に問題があるため公表は控えるが、造れる事は分かってる。
若返って魔王にあった時、エルフの秘薬について聞いたら、魔王も知っていたようではあるが、作り方までは分かっていなかった。
子供に関しては理恵に任せており、克己は稼ぐ事に専念している。学校に関しては日本の学校に行かせる予定だが、将来に関しては本人に任せるつもりだ。
それに関しても、ドラゴンの魔王に関しての情報が入って来ないし、旅に出た時も魔王に関して何の情報が入ってこないのも気になるが、相手は傷を癒やしている最中なのだろう。
免許の更新時期になったので、免許センターへ行き書類を書いて更新を行うと、自分がどれだけ若返ったのかが分かる。これはどう見ても高校生だろうが、そのうち成長するはずだから気にしないことにして、皆と一緒にバスへ乗り込んで駅へ向かい、皆がたまには買い物をしたいと言ってきたので、取り敢えず腹ごなしがしたいと言って、マッキュナルドに入ると、ガルボとリーズが席を確保すると言うので何を頼むのか聞いて、二人は席を確保しに行った。
二階へガルボとリーズが行くと、二人は呆れた表情をして離れた場所に席を確保するのだが、どうして呆れているのかというと、行く先々に何故かいる公安警察の白田圭介と、その仲間たち。
数が多いため、出来上がったら持って来てくれると言う事で、克己たちはリーズとガルボがいる席に向かうのだが、公安の存在に気がついたアルスたちは、その席に座っている公安を睨みながら席に座り、運ばれてくるの待っていると、公安の白田が克己の側へやって来た。
「日本人は異世界へ行くことが出来ないのに、異世界人は日本を闊歩する。これは狡いと思いませんかねぇ。成田さん……」
「異世界へ行きたいのなら、自衛隊にでも入ったら如何ですか? 白田さんのような人は、うちの会社では雇えないでしょうから、それが早いと思いますよ」
薄ら笑いをしている白田に対し、アルスたちは突き刺すように睨んでおり、白田は「怖い怖い……」と言って、店から出ていく。
多分だが、免許センターから付けていたのだろう。克己は要危険人物として、警察だけではなく、自衛隊も行動を追っている。余計な手出しをしない分、自衛隊の方がマシだろうが、ライフルで常に狙ってきているのは止めて頂きた。
女性の買い物に付き合うのは、根気が必要だと思わされる。理恵は必要な物を先に決めているため、買い物は意外と早く終わる。昔からの癖なのだと思うが、こいつ等は違う。
色々な物に目移りするらしく、化粧品に関しても店側の話を一生懸命聞いており、しかも、店側は売りたいためにサンプルを使い化粧のレクチャーしており、皆は色々な化粧品を買っていくのだが、リーズとハミル、ルノール、ガルボの四人はよく使っており、アルスとノエルの二人は、面接の時以外は化粧などしない。この二人には必要は無いと思うが、買うと言いはるので、仕方がなく購入してあげる。
次は服選びになるが、ここは完全にリーズの独壇場になる。流石、元キャバ嬢であり、ファッションリーダーだろう。
リーズは化粧の選びも上手で、自分の好きなブランドがあるらしく、それを選んでいたし、服のコーディネートも随分と研究したのだろうと思うほど、よく似合っている。
皆はそれを真似るかのように服を購入するが、もう少し金額を気にしてもらいたい。金額の桁が凄い……リーズ以外は今まで、どうやって生活をしていたのか気になってしまう。
買い物が終わり家に戻ると、それぞれは部屋に戻って自分が購入して……と言うか、克己が全額支払っているので彼女たちの財布はノーダメージである。
疲れた顔をしながらリビングの椅子に腰掛けると、ライラがお茶を入れてくれたのだが、何処かで見たことがある人がリビングに座っており、克己は取り敢えず会釈してみるのだが、相手は緊張している様子で会釈を返してくれた。
誰なのか思い出しながら座っていると、突然話かけてきた。
「あ、あの! そ、その節は本当にありがとうございます!」
「い、いえいえ……。どの節なのか分からないけど、気にしてませんので……」
どこの誰かすら分かっていないのに、お礼を言われるのは難しい。
変な空気が流れている中、理恵がやって来て椅子に腰掛けると、ようやく見知らぬ人が誰なのか、分かったけど声に出す事はせずに、席を外そうとしたら、理恵に止められた。
「克己さん実はですね……彼女は自衛隊を退官したのですが、次の仕事が見つからないと言っているんですよ」
「へー、大変だね。頑張って探さなきゃじゃん」
遠回しに仕事を斡旋してくれと理恵は言っているのだが、克己は嫌だと遠回しに言っている。
少し理恵が怒った様な口調していたが、克己は全く興味を示すことがなく話を終わらせようとしたが、理恵が頬を膨らませながら言う。
「斡旋して下さい!」
そう言いながら少し強めにテーブルを叩いた。
「それは駄目だと前にも言ったよ。忘れたの?」
いつもの雰囲気とは異なる声で克己は言う。
「理恵に頼れば仕事を斡旋してもらえると思っているのが気にいらない。しっかりと履歴書などを持って来てから、出直して来い。松田香織」
克己は立ち上がり見下した目で松田を見てから、研究室へ行くのだが、理恵は克己を追い掛けて行き、どうして意地悪するのかと言ってきたので、克己は小さく貯め息を吐き「面接するのに書類がなきゃ意味がないでしょ?」と、呆れた声で言うと、理恵は急いで松田がいるリビングへ行くのだった。




