31話 タダ食い!!
車を数時間走らせていると、徐々に王都が見えてきた。
「おぉ、あれがお城ッスか!」
森田は興奮しながら叫んだ。
克己は森田の叫びに簡単に返事をする。まったく城に興味がないため、窓の外を眺めていた。
後ろに乗っている皆は眠っており、誰一人として起きる気配は感じられなかった。
森田はお城に気を取られ前をしっかり見ておらず、克己は周りの風景が一変し、様子がおかしいことに気が付き前を見ると、岩が目の前に迫っている。
克己は森田が握っているハンドルを掴んで急いで左に切るが間に合わず、車は岩に追突する事故を起こして車は止まる。
「いてて……お、おい、皆大丈夫か……?」
克己はシートベルトを外して後ろを見ると、全員が目を覚ましており、体を打つけたのか色々な場所を押さえていたが、特に大した怪我をしたような気配は見られず克己はホッとする。
「森田ちゃん……、大丈夫か?」
克己は運転をしていた森田を確認すると、シートベルトをしていなかった森田は胸を強打したらしく、口から血を出していた。
「お、おい! 森田ちゃん! ノエル! ノエル!!」
ノエルは克己の焦った声に気が付き車から降りて助手席側に回り込む。
「克己様、どこかお怪我でも……」
「森田ちゃん!! おい、しっかりしろ!」
克己は急いで心音確認しようとして胸に手を当てる。しかし、動いている様子は感じられず、慌てて上着を破き森田の胸があらわになるが気にもせずに耳を当てて心音を確認する。
「止まってる……?」
耳を口元に近づけるが息をしておらず、克己は舌打ちをする。
「くそ!! ノエル、早く回復魔法を!!」
「ですが克己様はお怪我を……」
「馬鹿か! 森田が怪我をして息をしてないんだよ! 早くしろ!」
克己はフロントガラスを叩き割り、森田を外に引っ張り出す。そして、地面に寝っ転がらせると、再び心音と呼吸を確認するがやはり両方止まっている状態だった。
「お前はまだ死んじゃだめだ!」
克己は人工呼吸と心臓マッサージを開始し、周りのみんなはそれを見ているだけだった。克己はそれに気が付きノエルに早く回復魔法をかけるように言うと、再び人工呼吸と心臓マッサージを開始した。
暫くのあいだ蘇生処置を繰り返すと、森田は息を吹き返し蘇生するのだった。
克己は息を切らせながら大の字に倒れ、品川は森田の体にタオルを掛けて体を隠した。
「余所見なんかしてるから……馬鹿か俺は……」
克己は息を切らせながらそう呟き、アルスは克己の傍に近寄る。
「克己様、大丈夫ですか」
「アルス、暫くここから動けないからリーズ達と共に周辺警護! 品川さん、森田を見てて下さい……」
アルスは直ぐに命令に従い、リーズと共に周辺の確認を始め、品川は伊藤と共に森田の看病を始める。
「な、何が起きたんですか……克己さん」
「森田がお城に見とれていたみたいなんですよ……そんで事故った……」
「森田……お前って奴は……」
宮川は森田に怒りを現すが、克己は体を起こし宮川の胸倉を掴む。
「あんた何言ってんだ! お前だってグースカ寝てただろ……森田を責める権利はあんのか!!」
宮川は克己の気迫に押され、声が出なく克己は宮川を突き飛ばす。
「品川さん、森田の様子はどうだ?」
「い、今は安定しているようです……呼吸も安定しています」
「そ、そうか……良かった……」
克己は腰を抜かすように座り込み、周りを確認する。
「ハミル、俺の袋は?」
「はい、ここにあります……」
「サンキュー」
ハミルは克己の台詞の意味が分からなかったが、優しく微笑んで袋を渡す。克己はホッとした顔して受け取り、中から服を取り出す。
「品川さん、サイズは大きいけどこれを森田ちゃんに着させてあげて……俺は少し休む……」
「ノエル、レミー、二人はこの四人をしっかり守るように! アルスが戻ってきたら休ませて、ハミルは俺と一緒に先に休め。アルスが戻ってきたら俺達を起こしてくれ交代するから。宮川さん、アンタも少し頭を冷やせ。品川さん、伊藤さん、申し訳ないけどシェリーと交代して休憩をしてくれ」
「は、はい!」
品川は返事をして、伊藤と状況確認を始める。
克己は車から離れてハミルと寝袋で眠る事にした。
暫くして克己は目を覚ますと宮川が森田の看病をしており、伊藤と品川は近くで休んでいた。
「宮川さん……」
「克己さん、先ほどはすいませんでした……」
「い、いや……俺も言い過ぎたよ……すいません」
「いや、克己さんの言う通りだよ、気を抜き過ぎていた……部下がこんな状態なのに俺は何もしてやれなかった……すまないな、森田」
宮川はそう言って森田の頭を撫でていると、森田の意識は徐々に覚醒を始めていく……。
「か、克己さん……?」
「森田、大丈夫か!」
「に、二尉!」
森田はガバッと起き上がろうとしたが克己に咎められる。
「森田ちゃん、服を破ったから……ごめん」
森田は自分の体を見ると、まだ新しい服を着させられていなかったため胸があらわになっており、声をあげて克己の顔面を殴った。
「ぶはっ!!」
「か、克己様!!」
シェリーは克己の側に行き心配をする。
品川はその声で目が覚め、周りを見渡すと森田がタオルを抱きかかえてしゃがんでおり、克己はノックアウトされているという光景だった。
「ハレホレヒレハレ……」
克己の頭の上には星が煌めいていた。
翌朝になり、克己は目を覚ます。
全員が克己の覗き込んで見ており森田は申し訳そうに覗き込んでいた。
「あ、あれ? ここは……家?」
「はい、私のテレポートでここに運びました」
アルスの顔色が悪く、少しふらついていた。
「す、すまん、アルス……大丈夫か? 無理させちまったな……」
「大丈夫ですよ、克己様……無事が確認できてホッとしました」
アルスは腰を抜かすように座り込んで眠ってしまい、克己は直ぐにアルスを抱きかかえて自分が寝ていたベッドに寝かせてあげた。
「ありがとう、アルス……」
克己はアルスの頭を優しく何度も撫でて上げ、アルスに掛け布団をかけて椅子に座る。
「さて、状況と体調を教えてもらえますか、森田ちゃん?」
克己は冷ややかな目で森田を見ると、森田は涙目になり俯く。
「も、申し訳ありません……私の所為で……」
「無事なら別にいいけど体調はどうだい?」
克己は足を組んで頬杖を突きながら聞く。
「だ、大丈夫です……」
「まぁ、今日は無理せずにゆっくり休んだ方が良いね……アルスも眠っているし……無理をさせすぎた……」
「で、ですが……」
「命が最優先!! それが俺のモットーだよ」
克己はそう言って立ち上がり部屋を出るとノエルが傍にやってくる。
「ノエル、状況の報告を頼む」
「はい、ここは王都にある宿屋です……。昨晩、克己様が殴られて倒れた後、アルスが戻り克己様をここへ運びました」
「何回テレポートした?」
「往復三回です……」
「で、俺の看病をずっとしていたのか……」
「はい、休むように言いましたが……」
「ありがとう、ノエル。悪いがお使いを頼む」
克己は袋の中からノートを取り出し、何かを書き出してノエルに渡すと、直ぐにノエルは出かけて行った。
克己は廊下の窓から外を見るとお城が見え、溜め息を吐く。
宮川が室内から出てきて今日はどうするのかと確認をしてきたので全員休ませるように話をして室内に戻り椅子に腰かけた。
「リーズは王都に来るのは初めてか?」
克己が質問すると、リーズは慌てて返事する。
「今日はここでゆっくり休もう、全員あんまり休んでないだろ?」
克己が言うと自衛隊組以外は素直に指示にしたがい、自衛隊組はどうするか宮川の指示を待っていた。
「ここは克己さん言う通りにしよう、まずはゆっくり休んで明日に備えるぞ」
宮川がそう言うと三人は敬礼して指示に従う。克己はシェリーに全員が休めるように部屋を手配してもらうようお願いする。
シェリーは頷き、部屋から出ていくとそれに続いて皆は部屋を出ていくが森田だけはその場に残った。
「森田ちゃんもゆっくり休みな」
「私は……暫くアルスさんのお傍にいます……その許可を下さい……」
「好きにしなよ、だけど無理は禁物だからね」
「あ、ありがとうございます……」
克己はアルスが眠っているベッドの横に椅子を移動させてアルスの様子を窺い、気持ちよく眠っているのを確認してホッと息を吐く。その様子を見ていた森田は俯き佇んでいた。
「森田ちゃんもそこの椅子をこっちに持ってきて座りなよ。森田ちゃんは心臓が止まっていたんだからさ、一番無理しちゃ駄目なんだよ? それこそ俺達の努力が無駄になる」
森田は頷き、椅子を克己の横に持っていき座ることにした。
「ごめんなさい……」
森田が小さく呟く。
「森田ちゃんだけが悪いんじゃない、余所見をしていた俺にも原因がある……気にするな」
「だ、だけど……」
克己は森田を抱き寄せてそれ以上言うなと言うと、森田は克己の胸で泣き始める。
森田は泣きながら何度も謝り、克己は頭を撫でながら黙って聞いていた。
暫くすると、森田は泣き疲れたのか克己の胸で眠ってしまい、克己は軽く溜め息を吐いて森田を抱き抱えると、アルスが寝ている横に寝かせることにして再び椅子に座り二人を見つめていた。
暫くするとノエルが部屋に入ってきて克己の後ろに立つ。
「おかえり、ノエル。お前も疲れているのに悪いな」
「構いません。お側に居させて頂けることをお許しして頂けるなら……」
克己は隣に置いてある椅子を叩くと、ノエルは微笑んで椅子に座り二人を見つめる。
「克己様……」
「ん?」
「お、お二人が大切……なのですか?」
「二人じゃない全員が大切だ。勿論、お前を含んでだよ」
ノエルは嬉しそうな顔して克己の肩に頭を預け克己はそっぽを向いて溜め息を吐く。
暫くするとやはりノエルも疲れていたようで寝息が聞こえてきた。
克己はノエルを抱き寄せ寝難くないようにしてあげる。
「もう一泊するしかないかね……」
克己が呟きアルスを見ると、アルスは目が覚めたようで、目をぱちくりして天井を眺めていた。
「もう少し寝とけ……」
体を起こそうとするアルスに向かって克己が言うと、アルスは「ご命令ですか?」と聞いてきたので「そうだ」と克己が言う。
アルスは再び横になり、克己の方を見るとノエルが目に入る。
あぁ、よりが戻ったのだとアルスは思いながら克己とノエルを見ていると、克己は何かを察したのか直ぐに「違うよ」と言って、アルスは驚いた顔をする。
「悪いな、アルス……無理にテレポートさせてしまって……」
「あの状況じゃそれが最善策だと判断致しました……。勝手な行動をしてしまい申し訳ありません」
「馬鹿を言うな、お前には感謝しているよ。本当にありがとう」
アルスは顔を赤くして掛け布団で顔を隠す。
暫くするとノエルも目を覚まし、克己は部屋に戻るように指示する。ノエルは渋々指示に従った。
「か、克己様……」
「ん? どうした? アルス」
「お、お側に……」
克己は此奴もか……と、思いつつ隣に置いてある椅子を叩くと、アルスは嬉しそうな顔をして体を起こし、森田を起こさないようにゆっくりと椅子に移動して克己の横に座り、腕を絡める。
克己は絡められた腕を見たが、少し呆れた顔をして、再び森田の顔を見ているとアルスも再び眠りにつく。
寝るなら布団で寝ろよと思いながらアルスを見るが、幸せそうな顔をしているので諦めお尻が痛いのを我慢し座って二人が起きるのを待つのだった。
全員疲れていたのか、克己以外の者は翌朝まで起きず眠っていた。
翌朝になり、森田は目を覚まして周りを確認するが、克己の姿はなく、森田は少し残念そうに起き上がると扉が開いた。
「おろ? 眠り姫様がお目覚めになりましたかね?」
「か、軽いッスね……女性の部屋にノックもなしで入るなんて」
森田は心にもないことを言って少し後悔をしたが、克己は気にしている様子もなくニヤニヤと笑みを浮かべて食事を運んで来た。
「ささ、眠り姫様、お食事の準備が整いましたよ」
克己は森田の前に食事を並べると、森田は食事を覗き込み美味しそうな匂いがして唾を飲み込む。
「も、物凄く美味しそうな匂いが……」
「これでもイタリアンとかフランス、中華なんかも作ることが出来るんだぜ?」
「お、おぉぉ!! か、克己さん、以外と凄い人なんですか!」
「おいおい、一応パルコの街でお店を開いているんだぞ? 舐めてもらっては困る」
森田はそんな克己の話すら聞いておらず、森田は食事に見惚れていたので、呆れた声で克己は「どうぞ、お姫様……」と言って、森田にフォークとナイフを渡す。
森田は再度唾を飲み込んでナイフとフォークを受け取り、物凄い勢いで食事にありつく。
「モグモグモグ……、美味しい!! 美味しいですよ!! 克己さんと結婚する人は毎日こんな料理が食べれるんですか!!」
「そうか、そりゃ良かったよ、俺が作る前提での話は止めてくれる? お願いだから……」
克己は椅子に座り、森田が食事をしているのを眺めていると欠伸が出た。
「ふぁ~ぁ……」
「モグモグモ……珍しいですね、欠伸なんかするの……」
「そんな事はない、欠伸は見えないところでしているだけだよ。それよりも体調はどうなんだ? お姫様」
「お姫様は止めてくださいよ……恥ずかしいですから……モグモグモグ……もう大丈夫ですよ、この通りピンピンです」
克己は「良かった」と言って食べ終わった食器を持って立ち上がり、扉の前に行くと、立ち止まった。
「取り敢えず、お風呂に入りなよ、二時間後に外で待ってるよ」
克己はそう言って扉を開けて部屋から出ていくと、森田は返事して着替え等を荷物から取り出し、お風呂へ向かう。
急いでお風呂に入り、数十分後……お風呂から上がるとタオルで頭を拭いて手鏡で自分の顔を確認すると、森田は自分の唇を鏡で見て、指で触った。
「そ、そうだ……か、克己さんが私に人工呼吸を……」
森田はドキドキしながら自分の唇を指でなぞる……。
「か、顔を見る事ができなくなっちゃうよ……」
顔を真っ赤にして呟き、急いで着替えて緊張しながら外に出ると全員が集まっていた。
「来たな? 眠り姫様が……」
克己が腰に手を当てて言うと、品川はクスクスと笑っていた。
「これから王宮に向かうんですか?」
宮川が言うと克己は首を横に振り、商業ギルドへ行くと言って歩き出した。
自衛隊組は初めて王都を歩くため、少し緊張しながら歩く。
「二尉、何か着ている服が他の街と比べて多少異なりますね……」
品川が言うと、宮川は頷き周りをキョロキョロしてみているとシェリーが咳払いをする。
「申し訳ありませんが、そんなにキョロキョロしないで頂けませんか? 克己様の品格が疑われてしまいます……」
宮川は苦笑いして謝るが、克己ですらキョロキョロしていた。
「シェリー、先頭を俺が歩くのは良いが、道が分からん……ノエルは分かるか?」
克己が言うと、ノエルは道に迷いながら探したと言って困った顔をする。
シェリーは、街なんか一人では歩かないと言われ、どう考えても役に立たない感じだ。
克己は疲れた顔して通行人に話しかけて道を聞くと、シェリーは驚いた顔をする。
「か、克己様!! はしたないですよ!!」
「道が分からないんだから仕方ないだろ? お前が道を案内してくれるのなら話は別だけど、そうじゃないんだろ? だったら自ら協力をしろよ……こっちは眠いのを我慢してるんだから……」
森田は不思議そうに今の話を聞いていた。
「な、何で眠いんですか……? 寝てないんスか?」
森田が質問すると、克己は森田の顔を見て優しく微笑み直ぐにほかの人に声をかけて道を尋ねてしまう。森田はポカーンっとしていると品川が頭を叩く。
「この幸せ者が何を言うんだ」
「ど、どういう事ですか……?」
「三曹、克己さんはずっと三曹の看病をしていたのを知らないですか?」
伊藤がそういうと、森田は驚く。
「あなたは一度心臓が止まったからね、幾ら回復魔法で治ったからと言っても、心臓を動かすのは無理みたいなのよね……。だから夜通しで看病をしてくれたのよ」
品川が言うと、森田は顔を真っ赤にして俯く。
「三曹、顔が真っ赤ですよ? 意外と乙女なんですね!」
伊藤は揶揄いながら言うと、森田は真剣な目をしながら伊藤にビームマシンガンを向ける。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! 冗談です! 冗談ですよ!」
伊藤は両手を挙げて降参のポーズをするが、森田は「謝れ!!」と言って銃を突きつけるが、品川が再び森田の頭を叩く……今度は拳骨で……。
「い、痛い……」
森田は頭を押さえて蹲り、品川はやり過ぎたかと思い心配をするが、直ぐに森田は起き上がり涙目で品川を見て、品川は笑ってしまった。
「おい、こっちだってよ、早く行くぞ」
宮川が言うと、三人は急いで後を追いかける。
ようやく商業ギルドにたどり着き、皆は中へ入るとサンマルクの街に比べ、かなり広いギルドだった。
「無駄に広いな……」
克己は呟き、受付に行き屋敷についてお姉さんと話をしようとすると、衝撃的な一言を言われた。
「田舎者はごめんだよ!!」
克己はまさか自分の事を言われているとは思わず周りを見渡し、他に人が居ないかを確認する……。だが、周囲には克己達だけしかおらず、克己は自分の事? と指を差すと、受付のお姉さんは頷き、克己は膝から崩れ落ちた。
「か、克己様!! 傷は浅いですよ! 克己様はまだ戦えますし、田舎者ではありません! 最先端を行き過ぎている未来人です!」
シェリーは克己の側に寄り、放心状態の克己を抱きかかえると、受付に向かって文句を言う。
「この愚か者!! この御方を何方と思っているのよ!!」
「田舎ものでしょ? 服装がダサイ……アンタも……え? も、もしや……嘘!! しぇ、シェリー姫様……?」
「だとしたらどうするのよ!! 貴女の仕事は何なの? 言ってみなさいよ!! この愚か者が」
シェリーは牙でもあるのではないかと言う感じで受付の女性に向かって吠える。
受け付けの女性は慌ててカウンターから飛びだし、シェリーに土下座をしながら謝罪の言葉を並べる。しかし、アルスは剣を抜いて受付の女性に襲い掛かろうとするが、ノエルが羽交い絞めにして押さえつける。
「放せ! ノエル! 克己様を馬鹿にした奴を斬り殺す!! 許さん!! 私の克己様に暴言を吐きやがったあの女を殺すんだ! 放せー!!」
「落ち着きなさい、チビ助! 克己様は貴女の物じゃないでしょ! 私の物よ!!」
ノエルがそう言うと、普段はノホホンしているハミルがノエルの後頭部を剣の鞘で思いっきりぶっ叩く。
「ガハッ!!」
ノエルは羽交い絞めにしていたアルスを離しそうになるが必死に離さずハミルを睨む。
「な、何をするのよ! ハミル」
「あなたは馬鹿ですか? 克己様は貴女との関係を断ち切ったじゃないの……克己様は私達の物よ……」
克己は一連の話を聞いており、自分はお前たちの物ではないと言いたかったが、田舎者と言われ、もはや突っ込む気力すらなく項垂れていた。
「ひ、姫様、お許しを……」
受付の女性は完全にひれ伏し、シェリーはその女性を踏みつけると、克己がシェリーの頭を叩いた。
「シェリー、それはやりすぎ」
「で、ですが、コイツは克己様を馬鹿にしたんですよ!!」
「だけど踏みつける必要はないだろ、俺の言う事が聞けないのか?」
シェリーは直ぐに足を退けると、克己はシェリーの頭を撫でる。
「叩いてごめん、だけど踏みつけるのは良くない……それにこんなに謝っているじゃん」
「か、克己様はお人好し過ぎます! それではいつか痛い目を見る事になりますよ!」
「それならそれでも良い……俺は自分が間違っているとは思ってない。俺は一般人だよ、王様でもなんでもない……」
「ですが男爵です!!」
「欲しくてなった訳じゃない。シェリー、謝れ。この人に謝るんだ。やり過ぎてごめんなさいと……」
シェリーは納得ができないという目で克己を見るが、克己はシェリーの頭を撫でて「頼むから謝ってくれ」そういうと、シェリーは呆れた顔して女性を立たせて一言謝罪の言葉を言う。女性は泣きながら頭を下げて許しを請う。
「もういいです……。克己様が良いと言うんですから……」
シェリーは克己の横に移動し、自衛隊の四人は他人のふりして距離を置く。女性は他の受付に連れられて控え室へ入って行く、今度は違う人が受付をすることになり、克己は話を始めようとする。
新しく受付担当になった女性は緊張し、チラチラとシェリーの機嫌を確認しながら話を聞いていた。
「ですので、このくらいに金額で購入できる屋敷がありますか?」
「そ、そうですね……」
チラッとシェリーの顔を見て、不機嫌になっていないかを確認しながら物件の絵が描かれている皮紙を出して説明をする……が、姫がこんな屋敷で満足するのか、正直心配をしながら話をする受付。
克己は顎に手を添えて考えていると、シェリーが質問をしてきたので、受付は口から心臓が飛び出るのかというくらい驚き返事をする。
「この絵に描かれているお屋敷は本当に正しいのでしょうか?」
「は、は、はい……。しょ、職、職人が作製したものなので間違えは無いと思いますが……」
「ギルドで確認をしてないのですか?」
シェリーの追求は止まらない。ここは王都、シェリーのテリトリーであるのだ。シェリーは克己に悪い印象を持って欲しくはなく、どうにかして克己に認めてもらいたくて必死に確認をしているが、どう見ても受付を脅しているようにしか見えず、自衛隊の四人は御愁傷様と思いながら眺めていた。
「何でギルドは確認をしないのですか! こんな怠慢な仕事をしても良いと思っているのですか!」
再びシェリーが怒り始め、受付は涙目になりながら必死に謝罪を繰り返して言うが、シェリーの怒りは収まらない。
「も、申し訳ありません……! 姫様」
「どうしてこういう事が起きているかを言いなさい!」
シェリーの質問に対して謝る事しかしない受付。克己は話が進まないのでシェリーの口を手で塞ぎ、話を進める事にするが、受付は遂に泣き出してしまい収拾がつかなくなってきた。
克己は他の受付を呼ぶが誰も近づきたくはないらしく、誰も寄ってこない。困る克己は店長を呼ぶように言うと、他の受付は逃げるように奥の扉へと入っていく。暫く待つと、奥の部屋から厳ついおっさんが出てきたので「まさかこいつが店長か?」と、克己は声に出さずに心の中で呟く。
「何だ、さっきから騒いでる客はお前達か? 迷惑だから出ていって……」
男は言い掛けて止め、後退りして逃げようとするが、話が進まない事に苛つき始めた克己は物凄い早さでカウンターの中に入り、男の首に喉を掴み上げ話しかける。
「あんたが責任者か? いい加減話を進めたいんだが……。聞いては貰えないだろうか……」
克己はそう言うが、男は喉を押さえ付けられているため声が出せず、頷くことしかできない。克己は頷いたことを確認すると、受付の椅子に座らせた。
「さて、話を進めるとしよう」
克己が言うと、男はシェリーを見つめ脂汗をかく。
「シェリーは喋るなよ、話が進まなくなる」
「で、ですが克己様……」
この時男は気が付く。姫に命令をできるほどの人間が自分の前に座っているということに……。
「あ、あなた様は……ひ、姫の何でございましょうか……」
男は克己に質問すると、克己は不思議そうな顔して考え、男の質問に答える。
「ご主人様……かな?」
克己がそう言ってシェリーを見ると、シェリーは嬉しそうに頷く。だが、ギルド内での空気は一変とする。
男は急いで数人の受付を呼び、克己達を別室へと案内し、男は正装して克己達の前に現れた。
「さ、先程は大変失礼致しました……」
男と数人の女性が頭を下げる。
克己達全員は何が起きたのかさっぱりと分からず、全員の顔を見合わせながら状況を確認する。
「に、二尉、何がどうなっているんでしょうか……」
品川達は宮川に質問をするが、宮川が分かるはずがなく首を横に振る。
「そ、そうですよね……」
「多分、克己さんも状況を把握はしてないと思うぞ……准尉」
「で、ですよね……」
数人の店員と思われる女性たちが全員分の椅子を準備して克己達を座らせる。
克己達は椅子に座ると、男は改めて一礼し席に座る。その表情は緊張しているように感じられる。
克己は足を組み背もたれに寄りかかると、男は口を開く。
「ご無礼をお許しください……私はケフカと申します……以後、お見知りおきを……」
「俺は成田克己、よろしく」
「克己様、本日はどういったご用件でございましょう……」
「やっと話が進むよ……俺は屋敷が欲しくてね、探しているんだが……お金はこのくらいで」
克己は大白金貨を数枚取り出し、テーブルに置く。
ケフカは女性を近くに呼び、皮紙を持ってこさせると説明を始める。
シェリーは先程の質問を再度、ケフカにする。
克己はまた話がややこしくなるかと思った。しかしケフカは、室内は確認済みと言い、間取りに問題はないと話、シェリーを納得させる。克己は皮紙を見て金額を確認すると、ケフカは「姫様が……」と言うので言葉を遮り、普通の庶民と同じように扱ってほしいと話をする。
ケフカは驚きながらこの男は何を考えているのかと探って話をしてみるが、克己はただ、特別扱いをしてほしくはないと言うだけで話を終わらせる。
「克己様、このお屋敷なんて如何でしょうか?」
「どれどれ? ん~悪くはないね、ノエル、これを宮川さんに渡してくれ」
ノエルは返事をして受け取り、宮川に渡す。宮川は目を通すと、大豪邸過ぎて驚きを隠せず、手が震えながら品川達に手渡す。
品川はそれを見て「う、うそ!! 信じられない!!」と大声を上げ、森田も声が出ないくらい驚く。伊藤に関してはどうやって克己を口説こうかと考え始める始末だった。
「じゃあ、この屋敷を見せてくれるかな?」
「分かりました、ただいま準備を致しますので表で待って頂けますでしょうか」
克己達は女性の店員に連れられて外に行き暫くケフカを待つと、ケフカが店の中からやってくる。
「お待たせいたしました、こちらになります」
克己達はケフカの後に付いて行き、全員は皮紙を見ながら色々な話をしている。特に盛り上がっているのは品川、伊藤の二人だ。家具について話をしているが、克己はどうしてそんなに盛り上がれるのかが分からなく、森田はどんな顔をしているのかと思いチラッと見てみると、森田と目が合い、森田は微笑んだ。
克己は一瞬その顔に見とれてしまい、慌てて前を向いてケフカの後を追う。
アルスはその光景を見て、少し胸が痛くなり俯きながらついて行くと、屋敷が見えて来たらしく、品川や伊藤は声をあげて喜んでいた。
「ここになりますが……如何なさいましょうか」
「そうですね、ここで構わないかな? 城からそんなに離れているわけでもないし……」
「素敵ですわ……克己様!!」
シェリーは克己の腕を掴んでそういうと、品川達と家の中に突撃しに行ってしまった。
「ハミル、レミー、ノエル、お前たちは今からお掃除の時間だ」
克己はニヤッとして言うと、ノエル達はげっそりした顔で「え~!!」と声をあげて中に入って行った。
克己と残ったメンバーは商業ギルドへ戻り、お金を支払った後、宿屋へ部屋を出ていく話をするため、宿屋へ戻って行く。宿屋に到着すると、アルスが椅子に座って「ぼー」として森田の顔を眺めており、宮川と森田が声をかけるが返事しなく、アルスはじっと森田の顔を見ていた。
「三曹、お前……何かやったのか?」
「い、いや……何もしてないっすよ……さっきから私の顔を見ているので不安になりますが……」
遠くで克己がアルスを呼ぶと、その声にアルスは反応して立ち上がる。それに驚く二人だが、そんな事は気にせずアルスはルンルン気分で呼ばれた声のした方向へと歩いて行った。
「な、なんだと言うんだ……?」
「あれは恋ですね……」
リーズが言ってきた。
「こ、恋?」
宮川が聞き返すと、リーズは頷く。森田と宮川は考えるが、何故森田の顔を眺めていたのかが分からず、森田は体を震わせた。
「も、もしかして私の体が目当て……?」
「まさか……れ、レズ……?」
宮川と森田はそんな話をしながら荷物の整理を始め、屋敷へと運び始める。
「車があると楽なんですけどね……」
「ないものを強請るなよ、事故ったのはお前だぞ……。それも心肺停止になりやがって……。克己さんが居なかったらお前はあのまま死んでいた可能性があるんだぞ、ちゃんとお礼を言ったのか?」
「そ、それは……その……」
「お前の事だ、どうせ謝っただけでお礼は言っていないのだろう? 時間を見てお礼を言えよ」
「う、ウス……」
「体育会系で喋ったり、女の子になったりと大変なやつだな、お前って奴は……」
宮川は呆れながら言うと、森田は立ち止まった。
「ど、どうしたら……私を見てもらえますかね……二尉……」
「どういう意味だ?」
「そ、その……男女関係として……です……」
「今度は乙女かよ……面倒くさい奴だな……俺は分からんけど、あそこまで心配をしてくれるのだから脈はあるんじゃないか?」
「そ、そうですよね! きっと大丈夫ですよね……」
森田はそう言ったが、不安要素があり俯く。
宮川はそんな事は気にせず屋敷に荷物を運び入れると、品川達に荷物を取りに行くように命令して、森田と共にアンテナ設置の工事を開始した。
暫くすると、克己達が屋敷に到着して、自分が寝泊まりする部屋に荷物を置いたら宮川達の作業を手伝い始めた。
その日は片付け終えたりすると、食材を買いに出かけたり、色々な作業をして一日が終わった。
その夜、克己がリビングでいつものようにPCで作業をしていると、アルスがリビングにやって来た。
「まだお休みにならないんですか?」
「あぁ、まだ調べたりすることがあってね……」
「そ、そうですか……。ここに座って見ていても宜しいですか?」
「構わないよ、だけど楽しくはないと思うけど?」
「それでも良いんです……」
「ふ~ん、そう」
アルスは椅子に座り克己の作業を眺めてみていると、克己がアルスに話しかける。
「なぁ……質問していいか?」
「はい? 何でしょうか……」
「ここの世界では一夫一人制なのか?」
「いっぷいちにんせい? それはどんな意味なのでしょうか?」
「一人の人しか結婚してはダメみたいな話だよ」
「ん~、多重婚ですよね? それは問題ないはずですよ? この国はどうか分かりませんが、私のいた国では多重婚は当たり前でしたから……男はそうやってお金を使っていくのでお金が無くなるんですよ……それが如何いたしましたか?」
「いや、確認したかっただけ。ありがとう……」
克己は作業を止めてアルスを見つめると、アルスは慌てて目を逸らす。
「何で目を逸らすの?」
「え? えっと……は、恥ずかしいです……。私、森田さんやノエルのように綺麗でも可愛くもないですから……」
「そんな事はないよ、アルスは可愛くて綺麗だよ。俺はお前の事をそう見ている」
「か、克己様……も、もう部屋に戻って寝ますね! おやすみなさい!」
アルスは慌てて逃げるように部屋へと向かう。
「か、可愛いって言われた……////」
アルスはそう呟き部屋に入った。
森田は陰に隠れてその話を聞いていて、俯きながら部屋に戻った。
翌日になり、克己達はようやくお城へと向かう事にする。
「つ、ついにお城っスか!!」
森田は興奮しながら言うと、克己は大した場所ではないと言って先を歩き始める。
「二尉、そういえば、パルコの街では携帯を販売してるんですか?」
森田が宮川に確認すると、代わりに品川が答える。
「えぇ、パルコの街で販売するため取り寄せているはずよ」
「そうなんですか……。では、王様に話をするんですか?」
森田が再び聞くと、宮川は頷き克己に目をやる。
「克己さんが王様と話をしている最中に、携帯電話の話をしてもらうことになっている」
宮川が言うと、森田と伊藤は「成る程……」と言って、頷く。
正面の門に到着すると、門番兵が克己達を引き留める。
「本日はどういったご用件でしょうか」
門番兵の一人が質問してくると、シェリーが前に出てくる。
「私が帰ってきたというのにそういう態度をとるのですか!! あなた方は」
「ひ、姫様!! 大変申し訳ありません!」
「あと、克己様はお父様に呼ばれてやって来たのです! あなた方は何も聞いてないのですか?」
「し、失礼いたしました!!」
門番兵は自分たちの不手際を謝罪し、克己達を通して王の玉座まで案内をする。
王がいる謁見の間の扉まで案内され、伊藤が呟く。
「こ、この先に王様がいるんですか……。緊張します!!」
伊藤は身震いして言うと、克己は呆れた顔をしている。
「そんなに固くなることはない、絶対に俺達にどうでも良い話だ……それに敬意を払う必要もない奴だから硬くならなくていい。話をするのも俺だけだし」
克己が言うと、シェリーは克己の裾を引っ張る。
「あぁ、すまん」
克己は言葉も選ばず言った事について謝り、シェリーは克己の手を握る。
伊藤は何故か克己とシェリーの手を外させた。克己とシェリーは不思議な顔をして伊藤を見ると、伊藤はにこやかな顔をして二人を見ている。
克己は溜め息を一つ吐き、謁見の間に入って行く。
中に入ると、王は驚いた顔をしたが、直ぐに平然とした顔に戻った。
「お久しぶりです。陛下、今回はどのようなご用事でしょうか?」
「おぉ、克己よ! よく来てくれた! 実は、お主にしか頼めない案件があってな……」
「絶対にそれは嘘でしょ? 絶対に嘘! 俺じゃなくても良いと見た!!」
克己は否定するが王は話を続ける。
「近くにドラゴンが現れたとの報告が入ってのぅ」
ドラゴンと聞いて、克己を除く全員が固まる。
「今回はドラゴンの駆除ですか? そんなのどっかの傭兵か冒険者に依頼してくださいよ。俺は民間人、一般人ですよ?」
「わかっておる! だが、貴様しか倒せないではないか! あんな巨大な化け物は!!」
「何言っているんですか、前に言っていたセリフとは全く逆じゃないですか! 俺が倒したドラゴンは弱いドラゴンだって言ってたらしいじゃん!!」
「知らんなぁ~」
「遂にボケたのか? 糞ジジイ……」
克己は暴言を吐くと、自衛隊組は自分の背中に冷たいものが流れ落ちるのが分かった。
「それは……言葉の文じゃ」
「はぁ? 使い方を間違えているぞ! と言うか、信じてなかっただけだろ! 俺は嫌だね、行かないよ」
「頼む、克己! お主しかおらんのじゃ! シェリー、お前からもお願いしてくれんか……」
王様はシェリーにお願いするが、シェリーは首を横に振る。
「な、何故じゃ!! 何故嫌がる!」
「あ、相手はドラゴンですよ! いくら克己様でもそんな奴倒せるはずないではないですか!」
克己はそのセリフを聞いてカチンとしたのか、急に行くと言い出す。全員は驚いた顔をして克己を見るが、王様は大喜びをする。
「ただし、こっちにも条件がある」
「わかった、わかった、何でも聞いてやるから早く行ってこい……」
「相変わらず上から目線ですよね……陛下って。魔王は椅子とかお茶とか出してくれるのに」
「うるさい! 早く退治してきてくれ!」
「はいはい、分かりましたよ。それで……そいつは何処に居るんですか?」
「大臣に聞いてくれ、山の麓にいるとの報告を受けただけじゃ」
「そんないい加減な情報で……いなかったら怒りますからね! だれか確認しに行かせたのですか?」
「そんな恐ろしい場所に派遣できるはずないじゃろ! いいから早く駆除してきてくれ、また襲われたらたまったものじゃない」
「条約を結んでいるんだから襲われることはないのに?」
「魔物がいつ裏切るかわからんだろ!」
「俺は人間のほうが裏切ると思いますがね?」
「頼むから早く駆除してきてくれ」
「分かりましたよ、行ってきますって……。乗り物がなく歩きになっちゃうから時間が掛かりますからね」
「おぉ! 行ってくれるか!」
「……うるさい奴だ。何でも良いから証拠を持って来れば良いんですよね?」
「頼むぞ! 克己よ!」
「偉そうに……」
克己が話を終わらせると森田がツッコミを入れる。
「克己さん、何か克己さんの方が偉そうだったスよ」
「俺は民間人だから良いの! 魔物退治はあんたら軍人の仕事でしょ! あとは頼むよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺達は関係ないじゃないか!」
宮川が慌てながら克己に言う。
「ど、ドラゴンだろ? 映画に出てくるゴジラとか、ウルトラマンに出てくるような怪獣みたいな奴じゃないのか? そんな奴に俺達が勝てるはずないだろ!」
宮川が必死に言うが、克己はニヤニヤして笑っている。
「なら屋敷で待ってますか?」
克己がそう聞くと、宮川は難しい顔して品川の顔を見て首を横に振る。
「い、行きますよ! 行けばいいんでしょ! ……民間人を守るのが我々の仕事ですからね。品川准尉、すまんがそう言う事だから理解してくれ」
「大丈夫です、克己さんが承諾したときから覚悟は決めてます……ですが、まずは本部に連絡をしないといけませんね」
宮川達はドラゴンについて色々な話をしながら屋敷へと戻り、出かける準備を始める。
「洗濯機があれば私も迷彩服を着れるんですが……」
森田は自分の格好を見て品川にそう言うと、品川は流し目で森田を見る。
「別に良いんじゃない? 愛しのダーリンが着てた服を着れるんだから……」
「じゅ、准尉!! ど、どうしてそうなるんですか!!」
森田は焦りながら品川に言うが、品川はニヤニヤして準備をして部屋から出ようとする。
「三曹、無線機を忘れないで持ってきてね」
車が大破したときに取り出して持ってきたが、正直、荷物を運ぶのが大変になるため持っていきたくはないのだが、上官の命令のため森田は渋々無線機も荷物に詰め込ぶ。
「こんな所で無線は使えるのかな……?」
森田は呟きながら荷物を担いで部屋から出て行った。
克己は国枝に電話して、王様からドラゴン退治を依頼されたと話し、国枝は少し考えてから折り返し連絡をすると言って電話を切る。暫くして国枝から折り返しの電話があり、マスコミに発表するから死骸を回収したいと言ってきたので克己は自衛隊に言ってくれと言うと、国枝は宮川に代わってほしいと言った。克己は直ぐに宮川に代わると、国枝は宮川に何かを説明しているようで、宮川は「はい……、はい……」と、返事をしているが、顔色はどんどん悪くなっているように見えた。
再び宮川は克己に携帯を渡すと、大きくため息を吐いた。
「国枝君、分かっていると思うけどマスコミに報道するときは……」
『分かってるよ、自衛隊の広報が取材をするに決まってるだろ』
「なら構わないけど……ねぇ、今どこで話してるの?」
『お前の店だよ』
「もしかして……俺の友達と言ってタダ食いをしてないだろうな?」
『くふふ……』
「お、おい! ふざけんなよ! 金払えよ! お前高級……」
克己が話している途中に電話が切れ、直ぐにペルシアに電話をすると、慌てた声でペルシアが電話に出る。
『ど、どうしたんにゃん?』
「国枝君がしょっちゅう来てないか?」
『毎日来てるようだにゃん、ご主人様のお友達だから毎回タダで飲食してるにゃん』
「ちょっとまて……ペルシア!!」
克己は友達だからと言ってもちゃんとお金を請求するように話をすると、さらなる事実を知る事になる。
『あの偉い人がしょっちゅうやってきてご主人様に許可を貰っていると話してお金を払ってないにゃん』
「ま、まさか、その偉い人って……お前を口説いていた……」
『そうにゃん』
新田元外務大臣も同じことをやっているらしかった。克己は金を請求するように命令したら、今話に出た新田と国枝が飯を食っているとの話だったので代わらせた。
新田は嫌そうな顔してペルシアの携帯を受け取り電話に出ると、克己は怒鳴り声をあげて文句を言う。一通り文句を言って、これからはちゃんとお金を払うように口酸っぱく言う。一通り(一方的に)話をしたあと、ペルシアに代わってもらい、今後二人からちゃんと代金を貰うように話をする。ペルシアは従業員の賄いもお金を取るのかと聞いてきたので、それは別と説明して電話を切った。
暫くすると宮川の携帯に電話が掛かってくる。
宮川は電話に出ると、誰と話しているのかは分からないが困った顔をして返事しており、品川は不思議そうに見ていた。
電話を切った宮川は、深い溜め息を吐いて品川の顔を見る。
「に、二尉……どうしたんです?」
「ここで俺達の旅は終わりそうだ……」
「え? ど、どういう事ですか! だってこれからじゃないですか! 私達の旅は……」
「森田と伊藤を呼んできてくれ」
品川は急いで二人を呼びに行き宮川の前に連れてくると、宮川は困った顔をして説明を始める。
森田の顔がどんどん青くなっていく。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 二尉! 私は……私は嫌ですよ! だ、だってこれからじゃないですか!」
森田は必死で宮川に話をするが、命令だから仕方がないと宮川が言う。
「か、克己さんは何て言ってるんですか!」
克己なら覆せるのではないかと森田は思い、宮川は無駄だろうなと一言呟き、克己に説明をする。
「成る程、それは仕方ないですね……資源探索と言う名目だったが資源を一つも見つけられないんですからね。多分、佐藤一佐の仕返しでしょう。ねちっこい奴だ……」
宮川は森田の方を見て、ホラな? と言う目で見ると、克己は言葉をつづける。
「まぁ、今回は仕方ありませんね、ドラゴンを倒したら回収しないといけませんし、乗り物もない。一回、パルコに帰って色々準備をしないといけないから都合が良いかも知れませんね」
「「え?」」
宮川と森田は何を言っているのか良く分からず声を出すと、克己はさらに言葉をつづける。
「ここでは道具が少ないから物が作れないんですよ、やはり機材は必要だと言う事ですね。それに歩いて旅をするのは嫌でしょ? 皆」
克己はこのメンバーで旅を続けるつもりで話を続ける。
「い、いや、克己さん……戻り次第……隊は解体されますよ……きっと……」
「資源が見つかる方法さえ分かればいいんでしょ? なら大丈夫、俺に任せて下さいよ。さて、皆がそろったので行きましょうか……」
宮川達は重たそうな荷物を担いで出発しようとしたが、克己は立ち止まってその様子を見ていた。
「どうしたんですか?」
宮川が疑問に思い、克己に質問をする。
「重そうだなって思ったのと、無駄な荷物だなって思っただけです」
「む、無駄ですか……」
「失礼、言葉が悪かったですね……」
克己は何かを考えながら歩き始めると、シェリーが隣に並んできたので顔を見る。シェリーは何か言いたそうな顔をしていたので克己は質問してみると、シェリーは王都の食を改善してくれないかと話をしてきた。
「克己様のお店ならお父様も何も言えないと思います、だからどうかなって……」
シェリーはそう言うと、克己は少し考えてからシェリーに「分かった」と言い、ノートに何かを書き込んで再び歩き始める。
城を出るときに大臣から地図を貰ったので、それを確認しながら克己達は山を目指して歩いて行く。
魔物が出ると、宮川達が始末してコアを回収する。
そんな事を繰り返しながら二日が過ぎ、目的地付近である山の麓に到着する。
「さて、ドラゴンは何処に居るのかな?」
克己はそう呟きながら周りを確認するがドラゴンの姿は見えない。
これは騙されたかな? と、克己は思いながら周りを見渡すと洞穴らしき場所が見える。
「二尉、あそこに洞穴が見えますが、双眼鏡で中は見えますかね?」
宮川は双眼鏡で克己が指さす方向を見るが洞穴らしきものは見えない。
「どこです? そんなのは見えませんよ?」
「ん? 見えない? そうか……、俺がいち早く魔物を見つけるのが得意なのはそういう理由か……」
克己は一人で納得し、頷く。
宮川は何のことだかさっぱり分からず首をかしげる。
「もう少し近づきましょう」と、克己が言って歩き始め、100メーター位歩いたら克己が手で制しする。
「見つけた……」
全員は驚いた顔して周りを見渡すが何も見えない。
「ど、どこに居るんですか!!」
四人は銃を構えて周りを見渡すが何も見えず、再び克己に質問する。
克己はビームスナイパーライフルを袋から取り出し地面に寝そべると、スコープを覗きこむ。
「チッ、裸眼の方が見えるってどう言うことだよ……」
克己はそう呟き、スコープを取り外す。
「良い子だ……そのまま永遠に寝てな……トカゲ野郎!」
克己はそう言ってトリガーを引く。銃口から放たれたビームは光の筋となり消える。克己は「よし!」と言って、寝そべったまま軽くガッツポーズをするが、全員は何をしたのか分からず、顔を見合わせる。だが、誰も答えは分からなかった。
克己は起き上がり一人で歩いていくと、全員はその後を追いかけるように付いていく。
数時間歩き、克己の目的地付近に辿り着くと、克己がしたことの意味が分かり、全員が驚愕した。
全員が見る目線の先にはドラゴンの死骸が転がっていたのだ。
ドラゴンの死骸を調べると頭が貫通されており、一撃で仕留めたのが誰にでも解る状態であった。
「こ、これがドラゴンですか……やっぱり巨大怪獣じゃないですか! 克己さん……」
宮川はライフルを構えながらドラゴンの死骸に近づきペタペタとドラゴンの体を触り、森田は無線の準備をするため荷物を下ろし、無線を組み立て始める。伊藤は品川に言われて、カメラで死骸を納めていた。
克己は心臓部辺りにビームサーベルを突き刺し、体の中からコアを取り出していた。
「体のわりには随分と小さいコアだな……」
取り出したコアを眺めながら克己は言うと、森田がコアを見つめており、克己はコアをずらしてみるが、森田の視線はコアから離れることなく、克己は森田にコアを差し出して見ると、森田は顔を緩ませて受け取る。
「こ、これでお金持ちに!!」
やはり金が目的だったか……克己はそう思いながら森田からコアを取り上げ袋の中にしまった。
「宮川さん、チヌークを呼んでくれませんか? 次いでに車も持ってきてもらいましょう」
「あ、は、はい」
宮川は森田に無線を指示し、森田は通信を始める。
「繋がりますかね……」
森田は心配そうにダイヤルを弄りながら宮川に聞く。
「地球と違って色んな電波が飛んでる訳じゃない、大丈夫じゃないか?」
宮川は無線について詳しくないようで、どうやって二尉までなれたのか不思議に思いながら克己は聞いており、森田はチューニングを合わせて本部と連絡をとろうと頑張っていた。
「克己さん……、討伐したら証拠を持って帰らないといけないのですよね? 基地に死骸を持って行かれる前に回収した方が良いのではないでしょうか」
品川が珍しく克己に言う。
森田は通信が繋がりホッとして宮川に報告し、あとはチヌークが来るのを待つだけとなった。
克己はドラゴンの鱗を数枚引っ剥がし、これで良いだろうと品川に言って袋に仕舞った。
全員は周囲を警戒しながら数十メートルあるドラゴンの死骸を触ったりしていた。
時間をもて余す中、伊藤は克己に近寄り質問をする。
「克己さん、恋人はいらっしゃるのですか?」
伊藤の言葉で女性陣は立ち止まり克己の言葉に耳を傾け、徐々に克己達の側に近寄る。
「今は居ないよ」
女性陣はホッとした顔をして微笑み、周囲を警戒する振りをしながら耳を傾けている。
「このメンバーの中で気になる人はおられますか?」
伊藤の質問は続く。
「……秘密」
克己は棒を持ち、地面に何かを書きながら答えると、伊藤は更に質問をしてくる。
「総資産は? こっちの世界でも構いません」
女性陣は唾を飲み込み、耳を傾ける。
「何時までこの質問は続くのかな?」
「これが最後ですよ」
克己はジト目で伊藤をみて、暫く考える。
「通帳を見ないと分からないのと、ペルシアに聞かないと分からない。最後に通帳を確認した時は一千億を超えていた記憶はあるけど……日本政府が確りお金を払ってくれたら、兆は超えてるんじゃない? こっちのお金はどうかな……最後に確認した時は……王都にある屋敷が二個くらい買える金額はあったと思った。二号店を合わせたら幾らかは不明だね」
耳を澄ましながらその話を聞いていた女性陣。克己は伊藤に「これ以上聞かないでね」と、お願いしタブレットPCで何か作業を行い始める。
品川は森田の傍により、耳打ちをする。
「三曽、結婚したら玉の輿とかそう言ったレベルじゃ済まないわ……。今日から貴女も敵ってことよ……」
森田は口を金魚のようにパクパクさせて品川に指を差す。
「冗談よ……」
品川はニヤニヤしながら言うと、ヘリの音が聞こえてくる。
「やっぱり克己さんの恋人になるしか方法はないみたいね……」
伊藤はそう呟き、遠目で克己を見ていた。
徐々にチヌークが寄ってくる。数は二機。
皆の動きが慌ただしくなり、チヌークは空で待機している。
上空から空上自衛隊の隊員が降りてくる。
「宮川二尉、お疲れ様です」
「ご苦労様、どうやってこのデカ物を回収するんだ?」
空上自衛隊の隊員は三尉で宮川より階級は下、宮川は自分より年下と判断してタメ口で話をする。
「二尉は車を手配されていましたが、ここで降ろすことは出来ません。自力で街へ戻ってください!」
「お、おいおい! 話が違うじゃんか!」
「仕方ないでしょ! 場所が悪いんですから!」
克己は黙って話を聞いており、口出しはしなかった。
「街に付いたら連絡を下さい! もう一回、空送いたしますから!」
三尉は叫ぶように言うと、ドラゴンの体にアンカーを取り付ける作業を開始し、宮川達も手伝わされ大変な思いをする羽目になった。
チヌークは数tもあるドラゴンの死骸を持ち上げてゆっくりと運び始める。
克己達はそれを見送ってから撤収作業を開始した。
暫く歩いていると、宮川が克己に質問をする。
「克己さん、裸眼でドラゴンを視認したんですか?」
「えぇ、そうですよ」
「俺が双眼鏡を覗き込んでも見えなかったんですよ! なのに、どうして克己さんには見えたんですか!」
宮川は納得が出来ずに克己に言う。
克己はレベルが高いからではないかと説明して話を終わせるが、宮川は余り納得をしていなかった。
しかし、克己はそれしか考えられない。神経が敏感になっているのが分かるし、剣技もかなりのものになっている。それに射撃能力も上がっているからレベルが関係していると克己は判断した。
「な、なら、俺もレベルが上がればあんなオリンピック級の技が出来るようになるんですか?」
宮川が質問する。
「ほら、よくいるじゃん? 茶苦茶遠い場所からでも必ず当てる人とか……それと同じではないかと思いますよ? それは基本能力が高いからじゃないかな?」
克己がそう言うと、なんか納得したように宮川が頷いた。
もう、空にはチヌークの姿は見えず、克己達は山の麓から離れて行った。




