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288話 悪者に名乗る名前はない!!

 リーズは緊張した顔で克己の前に座っていた。


 その姿は怯えた子猫のように身を小さくして震えており、俯いている。


「リーズ……」


「は、はい!」


「随分と……ギャルになっちまったな……化粧は濃く塗っちまって……」


「うぅ……そ、そうでしょうか……い、いえ……申し訳……ありません……」


「別に謝ることは無い……。生活はどうだった?」


「せ、生活ですか……」


 リーズの脳裏に浮かぶ同伴出勤の数々……食事を奢ってもらったり、ブランドバッグなども買ってもらったりとした楽しい日々等が思い出される。


「ま、まぁ……そ、それなりに……」


「だけど……キャバクラねぇ……チヤホヤされるのは一時だけだから別に構わないと思うが……」


「ど、どういう……意味ですか……」


 少しムッとした顔で克己を睨むよう見つめる。


「なにムッとしてるんだよ? 本当の事を言っているだけだろ? チヤホヤされるのは若いうちだけだ。それ以外は恋愛感情くらいでしかない……後は遊びと割り切った付き合いだな。世間のおっさん共はお前の体を目当てで通っているだけだ。一度体を許しちまったらしつこく誘いの連絡等、色々やって来るだろうな……。変な奴に掴まると、借金がなんて話をしてお前に迫ってくる奴なんかもいるかもな」


 克己の言葉にリーズは再びムッとする。


「み、皆、克己様より優しいです!! 勝手に何処かへ行ったりもしません。そんな言い方をしないで下さい!!」


「成る程……お前……男に体を許したろ?」


「こ、答えたくありません……」


「まぁ……好きにしたら? 困って泣いても俺は助ける事はしないよ……その優しいと言う皆に助けてもらえばいいだろ?」


「わ、私達を置いて行ったくせに!! 勝手な事を言わないで下さい!」


「それとこれは話が別なんだが……まぁいいや……これからのお前について話をしようか……」


「したくありません……」


「なら良いよ……好きにしたら? 最後に一つ……お前はどっちで暮らしたいの?」


「ど、どっちで……?」


「ガラトーダと日本……異分子的に考えると……お前が日本にいる方がおかしいのかも知れないけどね……」


「そ、それは私の自由だと思います……」


「分かった……お前の意思に尊重するよ」


「お話は……これで終わりですか……」


「お前は俺の元を離れるのか?」


「……分かりません……」


 リーズは冷たい目で席を立ち、自分の家へと戻って行く。克己は溜め息を吐いてどうしたものかと考えていた。


 自衛隊を追い出したことによりパルコの街の緊張は解かれ、人々はホッとする。パルコの街では自衛隊という組織に対し、良い印象が無くなっていた。


 これはガラタゴス大陸全体で自衛隊が好き勝手やっていたことが原因である。克己はペルシアに連絡すると、ペルシアはホッとした声を出して仕事の話をする。そして、克己の会社は持ち上げ直し、活気を取り戻すのだった。


 翌日、リーズはお店で出会った男とデートをするため待ち合わせの場所へと向かう。そして、若い男が現れリーズと共に歩き出し買い物や食事などをしていた。だが、お金は全てリーズが払っている。


 そう、リーズは男に貢いでいるのだった。克己が旅に出てしまい、それぞれが仕事を始めた時、初めはスーパーでレジ打ちなどをして仕事をしていた。そして、そこで出会ったバイト仲間が誕生日と言う事で、そのパーティに誘われた場所がホストクラブだった。初めてのホストクラブ、リーズは今まで味わった事がないほど男にチヤホヤされ、有頂天になってしまったのだ。


 そこで出会ったホストクラブの男とメール交換したことにより交際するようになったのだが、男はまだ下っ端と言う事で、リーズはその男のために生活費を稼いだりしていた。駄目な男だから自分で支えないといけないと思い、離れる事が出来なくなっていたのだった……。


 リーズは嬉しそうに男の腕を掴んでホテルのとある一室へ入って行った……のだが……そこには複数人の男が部屋の中にいたのだった。


「あ、あれ……? 元町……さん……こ、この人たちは……?」


「リーズちゃん……実は……俺って借金が沢山あるんだよ……」


「し、借金?」


「そうそう……大体200万あってさ……?」


 元町と名乗る男は悲しい顔で首を振りながら言う。


「でね、この人達がリーズちゃんと「一回だけ」関係を持ったら、それをチャラにしてくれるって言うんだよ……」


「ち、ちょっと待ってよ……この間だって10万円も渡したじゃん……」


「利息って知ってる? それを払ったらなくなってさ……」


「り、利息……」


「な? 頼むよ~リーズちゃ~ん」


 リーズは後退り、克己の言葉を思い出す。


『借金なんて話をして迫ってくる奴もいるかもな……』


「か、克己……様……」


 リーズは助けを請うように呟く……。だが、昨日の言葉が再び蘇る……『好きにしたら? 困って泣いても知らないよ?』と……。


「たかが数時間、リーズちゃんが我慢すれば俺の借金はチャラになるんだよ? リーズちゃんはただ気持ち良い事をしてそれで終わるの。そしたら俺はリーズちゃんと一緒に暮らせるし、リーズちゃんがキャバクラで働かなくても良くなるんだ……だから頼むよ~……ね?」


 自分を囲んでいる人達を叩きのめそうとするのは簡単だが、日本には法律が沢山あり、どんな手段に出られるのか分からない。それは入り口を取られたときにリーズ達が十分味わった事だった……。


「ど、どうすれば……」


「俺を助けると思ってさ! な? 頼むよ~」


 出口を見ると他の男が塞いでおり逃げるのは難しい状態。リーズは諦めるしかなく……数時間、男達に体を弄ばれるのを我慢すればと……上着に手を掛けようとする。だが、リーズの眼にベッドの横に置かれているカメラが写り込む。


「か、カメ……ラ……?」


 リーズは自分の記憶を呼び起こす。リーズと付き合い始めた記念として、元町はカメラでリーズとの行為を撮影していた。二人でそれを見て楽しんだこともあった……。そして、気が付く……それを元手に自分は売られたのだと……。再び奴隷となり、自分は売られたのだと。今度はただの奴隷では無く、性奴隷として生きていく……リーズはそれを一瞬で理解してしまった。そしてアルトクス兵がやっていた街での行為を思い出し恐怖する。


「い、いや……嫌!! わ、私……やっぱり出来ない!! 出来ない!! か、克己様!!」


 リーズは叫ぶ……ホテルの部屋は防音になっているため音は漏れることは少ない……のだが……。


 コンコン……。


 リーズの叫びが終わった瞬間、扉がノックされる。扉の前に立っていた男は気が付くのだが、お楽しみを邪魔されるのはよろしくない……なので聞かなかったことにしてシカトするのだが、再び扉はノックされた。


 男は舌打ちをして仕方なしに扉の方へ近寄り要件を確認する。


『ルームサービスはいらないよ!!』


 男はそう言って再びリーズの方を向き直ろうとしたのだが……再びノックされ、男はイラつきながら扉を開けて断ろうとした。


『いらねぇって言ってるだろ!!』


「そうですね、ルームサービスはいりませんよね。だけど、あげるのは鉄拳だよ!! 糞野郎!!」


 男はいきなり殴られ、奥まで吹っ飛ばされる。皆は何が起きたのか分からず扉の方を見ると、右腕に包帯を巻いた男が立っていた。


「全く……だから言わんこっちゃない。リーズ、帰るぞ……お前は俺の傍に居るべきだ。今までの事は謝るよ、悪かった……」


 助けてほしい……。確かにリーズはそう願った……。主の言う事は正しかった事に気が付き、主に助けを求める。それは叶わぬ願いと知りつつも願ってしまう……。リーズは目に涙を浮かべ右腕に包帯を巻いた男を見る。包帯を巻いた男は首をコキコキと鳴らして中へ入って行く。


『お、お前……い、一体何者だ!!』


「悪役はいつもそう言うんだよな……そして、ヒーローはこういうのさ……『馬鹿に名乗る名前はない!!』ってね……。あれ? 違ったかな?」


 お茶らけた言葉を吐きながら首を傾げ、笑う男……。リーズは自分の目を疑いながらも呟く……。


「な、何でここに……」


「お前は俺の物。だけど、言い方を変えれば俺はお前の物だからだよ……なんだかんだ言っても愛する女を馬鹿な奴にくれてやるほどお人好しじゃない……。騙されているなら尚更だ。それから助けてあげるのもお前の物である俺の役目だ」


「わ、私の……ために?」


「お前以外に誰がいるんだ? 俺は男を助ける趣味はない!! 助けるとしたらお前達だけだよ」


『何ブツブツ言っていやがんだ!!』


 男達は一斉に襲い掛かる。右手に包帯をしている男は簡単に攻撃を躱してカウンターで男達を伸ばしていく……。


「さて……お前には聞きたいことが山ほどある……黙っているなら死んでもらうが……。おっと、俺は不思議な事に完全犯罪が出来てしまうんだよ……面白い話だろ?」


 包帯を巻いた男は元町に笑いながら言う。


「お、俺に手を出したらどうなるか分かっているのか!!」


「知らねーよ……だって、お前が死んじまったら喋る奴がいなくなるだけだからな……暫くして、人の記憶から消えるだけさ……な? 簡単な話だろ?」


 包帯を巻いた男はヘラヘラと笑いながらユックリと近寄って行く。


「帰るぞ……幾らお前が俺を嫌っていようが、こんな奴にお前をくれてやるわけにはいかん。お前にはちゃんとした奴が似合ってる……真面目な奴がお前には一番似合ってる」


 リーズは首を振る。


「な、何だよ……そいつが良いのか? それなら余計な事をしちまったか? お前が俺の名前を呼んだから入って来たんだ。それに嫌がっていたし……」


「か、克己様が……克己様が私を……」


「売り言葉に買い言葉だ……悪かったよ。お前達を置いてどこにもいかないよ……これからは一緒に旅に出よう」


 リーズは克己に駆け寄り泣き出してしまう。元町はカバンから拳銃を取り出し克己に向ける。


「無駄な事を……撃ちたきゃ撃てよ。そんな物は効かないよ……俺は……滅茶苦茶強いぜ? 小僧……」


「う、うっせー!!」


 元町は震えながらトリガーを引き、銃弾を発射させる。だが、克己はその銃弾を左人差し指と親指で掴む。


「普通だったら指が弾け飛んじゃうかもしれないけど、そうならないのが俺の指なんだよね……。で、お前……どうやら死にたいらしいね。リーズにしたことを洗いざらい喋ってもらおうとしたんだけど……仕方ないね。死んじゃえよ、お前」


 そう言って克己は袋の中から小さい球体を取り出す。


「じゃじゃ~ん!! 新兵器!!」


 克己はそう言って球体を握りしめ元町に近寄って行く……。元町は怯えながら後退り、足を躓き転んでしまう……。


「ほら……辞世の句でも詠んでくれないか? もしくは遺言なんかありゃ聞くぜ? 聞くだけだけどね……」


 悪戯っぽい笑みを浮かべ、克己は元町に顔を近づける。


「や、やめてくれ……」


「嫌だね……お前の罪は……俺の女を泣かしたことだ。それは万死に値する……」


 克己は元町の肩に手を乗っけると、持っていた球体が光り出す。


「実験の肥やしになってくれよ……アデュ~」


 その言葉が元町の聞いた最後の言葉となったのだった。


 家に戻る間、二人は何も喋らず克己はリーズの手を引っ張って歩く。リーズは泣いていたのだが、その手を離そうとはせず、もう離さないかのように力強く握り締めていた。そして克己達は家に戻ると、再びリーズと話をすることになった。


「――何もされてないか?」


「は、はい……」


「そうか……良かった……。普通に愛を確認し合っていたらどうしようかと思ったんだが……。予感が正しくって良かったよ……」


 体の力が抜けるように椅子に寄り掛かる克己。


「な、何故……あの場所に?」


「お前を付けていたんだよ。キャバクラって言うと、相当な事だからな……。俺はお前が……リーズは素直な子だから、誰かのためにそういった場所で働いていると思ったんだ。だけど、そういう奴に限ってロクな奴じゃない。俺を含めてね」


 リーズに微笑みかけながら克己は言う。


「ご、ごめんなさい……克己様……克己様が仰有る通りでした……」


「たまたまだ……もしかしたら、あいつは真面目な奴だったかもしれない。だけど……心配だったんだ。お前……いや、リーズ=ケレオルって子が、心配だったんだよ。俺は……だって俺はリーズが好きだからね。浮気性と言われても仕方ないけど……お前が好きだよ……リーズ」


 初めて真正面を見て好きだと言われ、リーズは声を上げて泣きだす。克己は困った顔してリーズの傍に寄り、リーズの体を抱き寄せ泣き止むまであやすのだった。

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