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280.5話 二人の行方!!

 克己がベッドで横になるとき、一瞬だけ表情を歪める。それを見ると理恵は負い目を感じる。「大丈夫です?」その一言すら出す事が出来ず、気が付かないふりして眠りにつく。克己は痛み止めを飲んではいるが、薬が効いているようには感じず、夜中は痛みに魘されていた。いつしか、理恵はそんな克己の顔や声を見たり聞いたりする事が出来ず、どんな顔をしていればよいのか分からなく、一緒に寝るのを躊躇うのだった。そして、理恵に気を遣う克己は、先に寝ようとしたり別の部屋で寝ようとしたりし始める。時間が経つにつれ二人の間には溝が生まれたかのようになり、別々に寝るようになり始める……いつしか二人は顔を合わせなくなっていた。


 顔を合わせなくなり、一か月が過ぎたころ……克己は珍しく静岡の家でお酒を飲んでいると、理恵がリビングにやって来る。


「あ……」


「やあ、理恵……久しぶりだね」


「う、うん……」


「学校は楽しい?」


「楽しいとは別だけど……そ、それなりに充実……しているかな……」


 理恵が克己の腕に目をやると、未だ包帯がまかれており理恵は胸を締め付けられる気持ちになった。


「座れば? たまには会話を楽しまない?」


「う、うん……わ、分かった……」


 そう言って椅子に座る理恵……。気まずそうにして克己からの目線を逃げるように逸らす。


「気まずい?」


「べ、別に……そんなことは……」


「ねぇ、俺達……別れようか……」


「え?」


「理恵は負い目を感じてるんでしょ? これは俺のミスでできた傷だ。誰の責任でもない……だけど、理恵がそうやって負い目を感じるのなら……一緒に暮らすのは止めよう。俺も辛いし」


「ほ、本気で言っているんですか……」


「本気だよ。理恵がその気があるなら……別れよう」


「な、何で……」


「君が俺を避けるからだよ。気が付いているよ……ワザと避けているのは……。正直……物凄く辛い」


「ご、ごめんなさい……」


「別に謝らなくていいよ……ほら、離婚用紙……」


 克己はテーブルの上に離婚用紙を置く。すでに克己が記入する場所は全て書かれており、残りは理恵が記入するところだけとなっていた。


 それを見て理恵は顔を青ざめる。前回は克己が泣きべそをかいており、離婚する気は全くないと言うのが分かる状態だったが、今回はそうでは無く……本当に何を考えているのか分からなかった。


「い、いやだと言ったら……」


「破り捨てればいいよ……。だけど、理恵がそんな態度だったら俺は一緒に暮らすことは出来ない。答えを出すのに時間が掛かるだろうから俺が帰ってくるまで考えておいたらいいよ」


 克己は立ち上がりリビングから出て行こうとする。


「ちょ、ちょっと待って……」


「俺は暫く家を空ける……数か月は帰って来れないから……それまで好きに考えてくれ」


 そう言い残して克己はリビングから出て行くと、理恵は膝から崩れ落ち何も考えることができず、克己が出て行ったリビングの扉を見つめていた。


 克己は全員を置いて、再び一人で旅に出てしまう。置いてきぼりにされたノエル達。克己が戻ってくるのを信じて異世界C・Dの防衛と発展に努めていた。


 理恵はどうすれば良いのか分からず、里理に相談する。


「理恵ちゃんはどうしたいのさ?」


「わ、分かりません……」


「カッチャンの事……好きじゃなくなったの? そんないい加減な気持ちで結婚したんだ?」


「そ、そんな事ありません!! 愛してます!! 克己さんの事を愛してます!!」


「じゃあ、考える必要ないじゃん? なんで考えるのさ?」


「克己さんの腕……あれは、私がかつて一緒に生活した仲間たちを……そう考えたら……そう考えたら!!」


 顔を抑えて理恵は涙を流し、それ以上言葉が続かなかった。


「――我が儘だよ……それは……」


 里理は冷たい声で呟くが、だが、その言葉は理恵の耳に届いていなかった。


 克己がどこに行ったか分からない日々は続く……理恵はいつになったら克己が帰って来るのか分からず、不安の日々過ごす。


 だが、一年が過ぎても克己が戻って来る事は無かった……。

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