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277話 その頃クラブでは!!

 克己の作ったサッカーチームは順調に勝ち星を重ねていく。地域リーグ3部に初参戦とは思えない程圧倒的な強さを見せていた。


 トップチームだけでなく、ユース、ジュニア、レディースも設立しており、Jも見逃すことは出来ない存在になっている。また、観客動員数も規定をクリアしており、地域からも応援してもらえ、尚且つスポンサーも付いてくれるようになったのである。


 何故、スポンサー等が付くかと言うと、年代別代表選手とA代表を輩出してしまったからであった。まさかの代表選手とは、横浜に期限付き移籍をしていた藤田智也である。期限付き移籍延長打診を受けていたのだが、社長を務める飯倉が突っぱねたのであった。


 飯倉はJ初の女性社長を目指す事を命じられ、会社から出向させられていたのだが……意外や意外、本人はかなり乗り気でクラブを盛り上げるために頑張っていた。


 試合当日にはスタジアムに顔を出し、何が悪いのか調査及び目視で確認……スタッフの教育等に精力的に力を入れている。


 だが、藤田達代表選手を放出しないことに対して協会から圧力をかけられ、苦悩する事も多かった。


「――ですから言っているじゃありませんか! どこのクラブにも出すつもりはありません! トップリーグに上がったら海外クラブに移籍させるんです! それ以外は手放しません! 本人も出て行くつもりは無いと言っています!!」


 そう言って電話を切り、深い溜め息を吐く。


 新聞でも選手の飼い殺しと揶揄されており、立場が悪い状態であった。


「こんにちは、飯倉さん。調子はどうだい?」


「か、会長!」


「疲れた顔をしているね……ちゃんと寝てる?」


「移籍の話がしつこくて……。ひっきりなしで電話がなるんですよ……」


「クラブから? それとも……」


「協会からです……もう! また電話が……」


 電話を取ろうとした飯倉の手を、克己は制止し、克己本人が電話を取った。


「もしもし?」


『日本サッカー協会ですが……』


「協会がなんの要件ですか?」


『社長はおられますか?』


「社長より上の会長ですが、それではいけませんか? ご要件をお話し頂きたいんですけどね……」


『か、会長……。ゴホン……えー……そちらのクラブに所属している代表選手が数名居られますが……もっとレベルの高いリーグでプレイさせた方が良いかと思うのです……つきまし……』


「ですよね~! 私もそう思っているんですよ!」


 克己は相手が喋っている途中で口を挟み同意する。その言葉に飯倉が驚き声を上げそうになるのだが、克己が手で制止する。


『な、なら……』


「なら特例措置をつけてくださいよ……我がクラブがトップリーグで戦えるように」


『な、何を!!』


「だって埋もれさせるのは忍びないんでしょ? 代表選手を地域リーグに出させるのは……」


『だ、だから移籍を――』


「と言うか、おかしな話じゃありませんか? 協会やリーグが所属しているチームに連絡し、無理矢理移籍をさせようとしているのは……こっちも契約があっての話なんですよ。とやかく言われる筋合いは無い! 文句が言いたいのなら、J3に参加させてから言ってくれ」


『出来たばかりのクラブが入れるわけ無いでしょ!』


「上がらせてくれたら……選手の移籍させてやるよ。本人が出て行く気があれば」


 その言葉に沈黙が流れる……取り引きというよりも、選手を人質にしている言葉だった。


『り、リーグと話し合いを行わせて頂きます……』


 そう言って電話を切られ、克己は受話器を置き飯倉に目を向ける。


「移籍させるって……本気なんですか! 会長」


 目くじらを立てながら克己に詰め寄る飯倉。克己は胸から数枚の紙を取り出し飯倉に渡す。


「な、何ですか……これ……」


「オファーだよ。海外クラブから声がかかっているんだ」


「だ、だって私達は地域リーグですよ……」


「青田買いだよ。と言っても年齢が高いけどね……。本人にも話をしてある。だが、契約は守ってもらわないといけないことも伝えてある。J3だって立派なプロリーグだ。それに参加できたら彼らは解放させてやらなきゃって思ってる……。だけどね、本当なら地元の工場に就職が決まっていた奴等だぜ? それが今や世界からお誘いが来るなんてな……」


 克己は笑いながら言う。飯倉にとっては笑えもしない話であり、そんな特例措置が通用するとは思ってもいなかったのだが……代表選手を抱えるクラブなだけに、リーグと協会は条件付きで特例措置を取ることにするのだった。


 一週間後、飯倉の元に電話が入る。今度はリーグからだった……。内容は特例措置の件と、条件だった。条件とは、天皇杯でベスト16まで入らないと特例措置の話は無しというのと、選手を移籍させると言う事であった。どう転んでも代表選手を移籍させたいリーグと協会……飯倉は克己に電話してその内容を伝えると、克己は条件を受け入れるのであった。


「どっちにしても海外へ移籍させるだけだ。問題ない。Jでなければ駄目だとは一言も言っていないんだから約束は有効だよ。相手側にもそれは伝えておくよ。選手が移籍をする気があれば……の話だけどね」


 その言葉は軽く、まったくの説得力はない。本当に天皇杯でベスト16に入れるのかもわからない状況に、飯倉は不安そうな顔をしていたのだった。

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