240話 ヘタレ!!
初めに覚悟を決めたのは石橋だった。
「な、ナイフで解体するんですよね……」
そう言って袋の中からナイフを取り出して、ゴブリンの死骸にナイフを突き刺す。
「大体、心臓の近くにあります。コアには色が付いてるから分かるはずです。色は三つ、赤いコアが炎のコア、黄色いコアが電気のコア、青いコアが水のコア。何かに癒着しているから引き千切って回収するんです」
石橋は顔を歪めながらコアを探す。中を弄くり回すと、光る何かが見付かり、それを取り出した。
「こ、これが……コア……」
青いコアを掌に転がして眺める。
「思ったより小さいですね……」
大変な思いをして取り出したコア。それを握りしめポケットに仕舞い込んだ。そして次のゴブリンへと取り掛かる。
「二人は手伝わないんですか? それとも、監視される生活を送るんですか?」
離れてみている二人に冷ややかな目で見つめながら栞が言う。
それでも動き出すことができない二人……栞は更に挑発する。
「石本君、君は口だけの人間なんだね……。出来もしないくせに殺してやるとか言わないことね。田舎ヤンキーは地元でバイクにでも跨がって粋がっていれば良いのよ」
「な、なんだと!」
「根性が無いくせに、粋がるなって言ってるのよ! ヘタレは布団に入って震えながら寝てろ!」
栞の迫力に後退りする石本。
「君はどうするの? 木村さん……」
木村は唾を飲み込み一歩前に出てナイフを取り出す。そして石橋の横へ行きやり方を習うのだった。
「君はヘタレ君に決定だね。二度と生意気な口を利かないでね、ヘタレ君」
石本は栞を睨みつけ、震える足を一歩前に出してガクガクしながら二人とは別の場所で死んでいるゴブリンに近寄る。
「こ、この俺を舐めんじゃねー!」
石本は叫び、ナイフでゴブリンの胸を強く刺した。そして震える手で体を大きく捌き、コアを探すのだった。40分程してコアの回収が終わり、洞窟の奥へと進んでいく。
退屈すぎるサラミとルー。暇潰しは無いかと考えながら歩く。すると、砂に埋もれた宝箱を発見し、二人は飛び付いた。
「これは私が発見したものよ! 離しなさい! ルー!!」
ルーは離すものかと宝箱に覆い被さり、サラミに触らせようとしなかった。
サラミは溜め息を吐いて諦め、ルーは嬉しそうに宝箱を掘り出した。
石本達三人はそれを眺め、何が入っているのか確認しようとするが、ルーは蓋を小さく開け、中に何が入っているのか見せようとはしなかった。
急いで中身を袋に入れ、ニンマリした顔で立ち上がる。
「お、おい……。何が入っていたんだよ……」
チラッと石本を見て首を横に振り、大した物では無い事をアピールしていたが、頬の緩みだけは隠すことができず、ニタニタしていたのだった。三人は気になるのだが、ルーは答えようとはせず先に進み始める。再び魔物が現れ、三人は武器を構えた。
相手はスケルトンで、骨の隙間からコアが見える。三人はあっという間に倒し、コアを回収するのであった。
先に進むにつれ、三人の口数が増える。戦いやコアの回収に慣れてきたのだろうと、栞は思いながら歩いていく。
エリオはお腹を押さえながら歩いており、サラミが少し気にしていた。
「エリオ、どうかしたの?」
「お腹空いた……」
残念そうな言葉を聞いて、サラミはガックリする。
「そうね、そろそろ昼にしましょう。エリオ、準備を始めるよ」
エリオの声が聞こえていたらしく栞は昼休憩を提案する。三人はホッとした顔をして歩くのを止めた。
「じゃあ、三人で何かを作ってくれる? これも経験ですから」
エリオが道具を出し、三人は戸惑いながら準備を始める。サラミとルーの二人は、我慢ができなかったようで隠れながらお菓子を抓んでいた。
「ど、どうすりゃ良いんだよ……」
「と、取り敢えず、お米を砥ぐところから……」
「こ、米? そんなをの作ってたら時間がかかるだろ……もっと他のにしたら良いんじゃねーか?」
「じゃ、じゃあ……焼きそば?」
「お、おう……」
作る物が決まったらしく、作業に移る三人。だが、どうやって火をつけるつもりなのか四人はニヤニヤしながら見ていた。
「エリオ、私達も作ろう。多分失敗をするはずだから」
その言葉を聞いて、エリオは赤いコアを取り出した。栞は三脚を取り出し、上に鍋を置く。そして、水筒の水をコアにかけると、コアから水が溢れ出す。エリオはライターを取り出し赤いコアに近づけ火を灯す。
手際よく作業を進めていく二人に対し、三人は悪戦苦闘をしていたのだった。
先に昼飯を作り終えたのは栞達だった。栞はルーとサラミに食事をよそい、二人はお礼を言って食べ始める。いざとなったらレトルトだと二人は思っていたが、ちゃんとした食事が出て満足していた。だが、二人は食事など何も手伝っていないことをエリオにバラされ、ノエルに大説教されると言う未来が待っていることを知る由もなかった。
美味しそうな臭いが辺りを包み込む。三人は羨ましそうに四人を眺めていた。
「早く作ったら如何ですか? 私の話を聞いていたら作れるはずですよ?」
栞の言葉が重くのしかかる。三人は聞いているようで聞いていなかった事を痛感するのであった。栞は食べるのを止め、三人の側による。
「じゃあしっかり話を聞いてね……。こんなところで焼きそばを作るというのは無謀な話だから。だから、お肉中心の食事になる。勿論、洞窟だから野菜なんてあるはずは無い」
三人は納得し、肉料理と切り替える。
「だから一番大切なのは調味料になるの。これが無いと味気ない肉ばかりを食べる事になるわ。だから調味料は沢山買い揃えておく必要があるの。会長はどんな料理を作るかは知らないけどね……レミーさんは野菜を沢山持ち歩いていたかな……」
克己が作る料理……もちろん野菜がある。初めの頃は味気ない料理ばかりだったが、直ぐに調味料を購入し、使用していた。その後は大量の野菜を袋の中に入れ、野菜もしっかり摂るようにしている。
三人はようやく食事にありつけ、味わいながら食事を楽しむ。
「結局……宝箱の中には何が入っているんですか?」
「ん? お金類が殆どかな……たまに防具が手に入るんだけど……ここでは皮の帽子とか、皮の盾……かな? あとは……槍とか、ナイフとかそんな物よ」
木村の質問に栞が答える。木村は先程手に入れた宝箱の中身は一体何だったのかと、ルーを見つめる。
ルーは視線に気が付き、袋の中から銅貨をチラッと見せ、木村は声を上げそうになった。
「オイ、あいつのレベルが幾つか知ってるか」
「あいつ?」
石本の質問に首を傾げる栞。
「会長だ……あいつは幾つなんだよ」
「会長……? そういえば聞いた事がないな……サラミさんは知ってる?」
ルーに聞いてもはぐらかされると思い、サラミに質問する。だが、サラミは首を横に振って、分からないと答えた。
「265……」
「え?」
一瞬、ルーが喋ったように聞こえたのだが、皆はルーに限って喋るはずは無いと思っていた。
皆がルーを見るが、ルーは興味を無くした猫のようにそっぽを向いて、ストレッチを始める。
数時間が経過し、宝箱を手に入れる事はできなかった。何故なら、全てルーが発見し、独り占めしたからである。サラミは大人気ないと言っていたが、気にした様子はなく、金貨などを見せびらかしていた。
石本は偽物かメッキのどちらかだと推測し、鼻で笑っていたのだが、正直羨ましいと思っていたのだった。
洞窟での冒険は終了し、三人は疲れた顔して洞窟から脱出する。
そして、街に戻ったところで本日の研修は終了したのだった。




