234話 嫌がらせ!!
吉岡は手ぶらに近い状態で空港にいた。吉岡の荷物は全て袋に入れてあり、ほぼ手ぶらに近い状態で搭乗手続きを済ませることが出来たのである。そんな吉岡を、理恵とハミルは見送りに来ていた。
「店長、それでは行ってきます……」
「瑠衣ちゃん、気を付けて行ってくるのよ! 何かあったらすぐに連絡してね!」
理恵は泣きそうな顔して吉岡の手を握る。
「頑張ってライセンスを取得してきます。私、頑張ります!!」
「無理だけはしちゃだめよ!」
「はい、店長もお元気で……」
吉岡はそう言ってバルセロナへ飛び立った。
「異国の地は大変ですからね……文化や環境……」
「瑠衣ちゃんなら頑張れる……そう信じましょう」
ハミルは小さく頷き、理恵と共に家へと帰った。家には雫が遊びに来ており、克己の屋敷ではしゃいでいた。
「ただいま〜。あら……雫、あんた仕事は大丈夫なの?」
「今日は遅番なの。大丈夫だよ。お姉ちゃんこそ大学は大丈夫なの?」
「里理さんも一緒に来てくれるから大丈夫よ……それに私は二十歳を超えてるのよ? あんたと同じにしないで!」
暫く二人は話をして雫は仕事へと向かった。
その頃克己はというと、内閣府に呼ばれていた。
面倒くさそうな顔してアルス達と受け付けの前で待たされている。
「またこの状態かよ……いい加減にしてくれないか……」
イラつきを隠しながら待っているのだが、かれこれ一時間待たされており、ルノールは不貞腐れた顔をして克己に抱き着いて甘えていた。
更に30分程待つが、やってくる気配は無い。ルノールは苛立ち受け付けに文句を言いに行く。
「あんた達が呼んだくせに何で出迎える事無く待たせるのよ! 常識ってもんがないの! 馬鹿にしているのなら帰るわよ!」
受け付け台を叩き、叫ぶ。
「ふん、少しくらい待たされたかと言って目くじらを立てるなんて……教育がなっておらんな!」
克己達は声がする方を見ると、梶田総理が踏ん反り返りながら立っていた。
「交渉ごとで時間にルーズなのは如何かと思いますよ……梶田総理」
睨みつけるように見ながら克己は言う。他の者達も敵意を剥き出しにしており、直ぐにでも殴りかかりたそうにしていた。
「交渉? 何を言っている……これは命令だ! 異世界に通ずる装置を渡せ!」
「何を言っているんですか? 渡すはず無いでしょ」
「ふん、金か? 幾らだ?」
金と言われ、克己は装置を取り出す。梶田総理はニヤリと笑い手を差し出す。
「結局は金か……。初めからそう言っておけば良いものを……」
だが、克己は装置を手で丸め始めた。その光景に梶田は唖然とする。
「な、何をしてるんだ……お前は……」
「見て分かりませんか? 壊してるんですよ……」
その光景を携帯で動画を撮っており、ルノールはYouTubeに投稿していた。
投稿された動画は直ぐに閲覧数が伸びて行く。
梶田総理はその事に気がついてはおらず、ただ茫然としている。
「じょ、冗談だろ? お、玩具じゃないのか……」
冗談と言われ、克己は袋から厚さ10mmの鉄板を取り出して、叩いて本物かを確認しする。誰がどう見ても鉄板であり、叩いた音は鉄を叩いた音だけが響く。
「な、何を……」
梶田総理が言いかける……克己はニヤリと笑い、鉄板をマシュマロのように潰し丸めて梶田総理の前に差し出す。政府関係者は目を丸くして声を出す事ができなかった。
そして、再び丸めた装置を差し出し、梶田総理に渡す。
「はい、これが装置だったものですよ。これが欲しかったんですよね?」
克己は満面な笑みで差し出し、梶田総理は震える手で装置だったものを手にする。それは重量感があり、確かに金属類であった。
「ちなみにそれが最後の一個です。これで異世界に行くことは出来なくなりましたね! 総理のおかげで醜い争いが起きなくなりました。流石総理です!」
克己は馬鹿にしながら言う。アルス達は何個か装置があると思っていたらしく、楽観視していたのだが、克己が最後の一個と言って大声で驚いた声を上げた。
これは他の人が動画を撮っており、大慌てでYouTubeにアップするのであった。
瞬く間に話は世界に広がる。
だが、この事すら梶田総理は気が付いていなかった。目の間で起きている現実を直視する事が出来ずにいたのだった。
「じゃあ、総理……。これで日本は元の生活をしないといけなく成りましたね。全ては政府が悪いんですよ? 約束を破り、脅迫をする……。その挙げ句に強奪して国民に嘘ばかり並べて俺を悪者にした……。許しませんよ……約束を破った政府を……。俺も一般企業と取り引きする事にしますよ……。そうだ、言い忘れてましたけど、装置に関してのデータなんかあると思うなよ? 俺の家を探しても無駄だ! 今日は全部の入り口を閉めてきたんだからな……」
克己は大笑いして梶田総理を指差す。梶田は唖然として克己を見つめていたのだった。
内閣府を出て、克己はアルスにお願いし秋葉原へと向かう。そして電気街で色々な物を買い込んでいく。だが、アルス達の元気がない事に克己は気が付き不思議そうな顔をした。
「どうした? お前達……」
「か、克己様……。我々はガラトーダに帰る事は出来ないのですか……」
ノエルが悲しそうな顔して質問した。
「できるよ」
「そ、そうですよね……装置が……え?」
「できるよ。コアがあればできるよ」
「ど、どう言う……」
「次元の入り口には膨大なエネルギーが必要なんだ。それにはコアが必要になる。ゴブリン程度のコアでも大丈夫なんだけどね。この世界……地球にはコアなんてものは無い……。全てはガラトーダにある。そして、コアは全て俺が回収しているから日本政府……いや、どこの国でも作る事は出来ない。作り方を知っているのは俺だけだ……そして、その準備は今やっている。安心しろよ。お前らを故郷に帰してやるからさ……」
ノエルの頭をポンポンと手でやり、ノエルは顔を赤くする。
「私はダメでも克己様と一緒にいられるなら構わないけどね……」
ルノールはジャンクパーツを手に取りながら呟く。
買い物が終わり、アルスは魔法を唱え家に帰ると、克己は鼻歌を歌いながら装置を作り始める。
装置は一時間程で出来上がり、再び入り口を開く。皆は嬉しそうな顔して入り口の中へ入り、いつもの生活に戻っていく。克己はリビングの椅子に座ると、ライラが鼻歌を歌いながら克己にお茶を差し出した。
それを飲みながら克己は自分のやるべき事を頭の中で考え、予定を組み立て始めるのだった。




