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191話 情けない男!!

 噂の克己は異世界Bの村に来ていた。克己が購入した新人達を警備隊と言う名目でこの世界に派遣したのだった。その数30人程……。


 家は自分達で作れと言う命令が下り、新人達は必死で家を建てている。克己は村の電気設備を充実させるために、コアを仕様とする発電所を制作している。


 そこには里理の姿もあり、発電所のプログラムを組んでいた。


「里理ちゃん、お腹の事があるんだから無理しちゃだめだよ」


「大丈夫だよ、そのためにケーラも一緒に来てくれているんだから……。ごめんね、ケーラ」


「里理さん、水臭いですよ。私は里理さんを慕っています。悪いだなんて一つも思いませんよ!」


 里理はケーラに心を開いており、以前のような冷たい態度を取ることは無くなっていた。


「電波に関しても作業を行って良いんだよね?」


 里理は楽しそうに質問をする。


「無理しない程度に頼むよ」


「大丈夫だって!」


 そう言って普段では見られない笑顔に溢れながら作業を進める。


 村の人達は、克己たちが何をしているのか分からず、疑心に満ちた目で見ていた。


「ところでカッチャン……」


「なんだい?」


「君、世間では死んだ事になっているようだよ? 知っていたかい?」


 不意に克己に告げると、克己は動きを止める。


「は? 何で? ……理恵はその事についてなんて言っているの?」


「特に何も言ってなかったけど……。あ、浮気者って怒ってたかな。ここ最近……家に全く帰ってないでしょ? 理恵ちゃんのもとに」


「かなり怒ってた?」


「不機嫌を通り越して……」


「ごめん、後を任せる!」


 克己は慌ててアルスとハミルを呼んで、チェリーへ向かう。里理は微笑ましくそれを見て、お腹を擦ったのだった。


 克己達はチェリーの入り口前で中を覗き込む。


「り、理恵は居るか?」


 克己はビクビクしながら中を覗く。


「居りますね……笑顔です……。男性客とお話をしているようですね……」


「な、何! 笑顔で男と話をしているのか! けしからん!」


 ハミルの言葉に克己は怒り、中に入っていく。自分の事は棚に上げている事には気が付きもしなかった。


 カランコロン〜♪「いらっしゃいま……!」


 扉が開きお客が入ってきた事を知らせる音がなる。お客だと思い、笑顔で呼びかけた理恵だが克己の顔を認識して一瞬だけ嬉しそうな顔をする。だが、直ぐに顔を膨らませ、プイッと横を向くのだった。


 その行動に克己は苦笑いをして、先程までの怒りを忘れてカウンターの椅子に座る。


「ご注文は!」


 ダンッ! と水を強く起き、理恵は睨みつける。


「え、えっと……。コーヒーを一つ……」


 かなり怒っていることを理解して、克己はビクビクしながら注文し、アルスとハミルは異世界ジュースを注文する。


「理恵ちゃん、今度の休みはいつ?」


 ハミルの隣に座っていた男が理恵の休みを聞く。克己は耳をダンボにして目線だけを理恵に向けていた。


「え? 休みですか? 明後日が休みの予定にはなっていますが……」


 理恵はチラリと克己を一瞬だけ見る。克己は横目でその男を見ると、大体40歳中頃の人だと感じた。


「それが……どうかしましたか? 安岡さん」


「明日の夜……オジサンと飲みに行かない?」


 その言葉に克己はビクッと体を震わせ、アルスとハミルは顔を見合わせる。


「私、人妻ですよ~。揶揄わないで下さいよ〜」


 理恵はおちゃらけて返事すると、安岡は言う。


「だって旦那は出張中なんでしょう? 何時帰ってくるか分からないって言ってたじゃん?」


「ま、まぁ……そうですね……」


 再び克己の顔をチラ見して直ぐに安岡を見る。


「ん? 兄ちゃん、何見てるんだよ?」


 安岡は理恵が見た視線に気が付き、克己に問いかける。


 アルスとハミルは目配せして安岡という男を始末しようか伺っていた。


「あ、あの、揉め事は……」


 理恵が困ったように言うと、安岡は理恵の方に向き直り嬉しそうに笑いかける……が、どう見ても下心が見え隠れしている。


 アルスは、理恵の顔を真剣に見つめ、断ってくれと祈る。


「あ、えっと……アハ、あははは……」


 困ったとき理恵は笑って誤魔化そうとする。安岡はそれを見越して話を続ける。


「ヨシ! じゃあ明日、19時に駅で待ってるから宜しくね」


「あ、ちょ、ちょっと安岡さん!」


 安岡はお金を置いて店を出て行く。理恵は追いかけようとするが、安岡はバイクに跨がり何処かへ行ってしまった。


「ど、どうしよう……」


 理恵は困った顔してお金をレジに仕舞い克己の方を見る。


 克己はコップを持ったまま固まっており、アルスとハミルは苦笑いをしていた。


 理恵は克己に相談する事なく仕事に戻る。


 克己はどういう顔をすれば良いのか分からず目を泳がせ、理恵に何かを言おうと言葉を探す。


「い、行くなよ……」


 克己は必死で声を振り絞り、小さい声で言う。


「お、お客様(・・・)には……関係ないお話です……」


 まさかの答えにアルスは目を見開く。


「お、奥様……?」


「もう……帰ってもらえますか……お客様(・・・)


「り、理恵?」


 克己はコップを置き、理恵に近寄ろうとする。


「帰って! 帰って下さい! 顔も見たくありません! 貴方は死んだと報道されているんです!! 妻を……私を悲しい思いさせて楽しいですか……」


 理恵は克己の方を見て一滴の涙を零す。


 克己は固まり、動けなくなる。


「お、奥様、これには深い事情が……」


「あなた方も帰って下さい! 一か月近くも放ったらかしにしておいて……!! 300人以上の女性と関係でも持てばいいじゃない!! バカ!!」


 何処で仕入れたのか分からない情報……だが、理恵はそう言うと克己の背中を押して店から追い出す。


 克己は店の前で立ち尽くしていると、扉が開き克己は俯いていた顔を上げる。しかし、前を見た瞬間……水が顔にぶちかかる。


 克己はびっしょりに濡れ、立ち尽くす。


「帰れ!!」


 アルスとハミルはやばいと思い魔法を唱え理恵の前から姿を消す。


「ばか……」


 理恵は小さく呟き克己が消えた場所を見る。克己はパルコの街にある、自分の家の前で立ち尽くす。


「か、克己様……取り敢えずお着替えになったほうが……」


 ハミルが声をかけると、克己はユックリと家の中に入って行く。そして、ライラが驚いた顔してタオルを持ってきて、頭に被せる。


「風邪を引いてしまいます! 早くお風呂に入って下さい!!」


 ライラの言葉に従い、克己は風呂へ向かう。暫くして風呂から上がり、克己は椅子に座り、抜け殻のようになっていた。


「あ、アルス……このまま奥様と別れてしまう事になったらどうなるの……」


 ハミルの言葉にアルスは想像する。自分達だけを愛してくれる世界を……だが、直ぐに首を横に振る。


「あ、ありえないよ! そんなことはありえない!! 克己様に限ってそんな事……」


「だけど奥様が望んだら……」


 ハミルが言うと、アルスは唾を飲みこむ。自分だったら克己のために何でもする……そんな事を想像し、再び首を横に振った。


「お、奥様だって……大丈夫だよ……」


 アルスは自信なさげに言うと、克己は袋の中から一枚の紙を取り出した。


「あ、アルス……悪いんだけど……」


「な、何でございましょうか、克己様」


 急に呼ばれ、アルスの喋り方はおかしくなる。


「これを理恵に渡してきてくれないか……。理恵が望むなら……任せるって……」


「これって……り、離婚用紙じゃないですか……」


「お、俺は嫌だけど……理恵を心配させるくらいなら……なら……グス……」


 克己は普段見せない程情けない顔をしており、アルスは驚く。


「わ、分かり……まし……た……」


 アルスは克己から用紙を受け取り、魔法を唱える。


 店の前に到着したアルスは、扉に手を掛けるが開けることができない。


 暫くして一人の客が店から出て行くときに、理恵の眼にアルスの姿が映りむくれた表情で扉を開けてアルスの前に立つ。


「お客さん、入るの入らないの、どっち!!」


「あ、あの……こ、これを奥様に渡してくれと……」


 アルスは震える手で理恵に用紙を渡す。


 謝罪文かと思いながら理恵は嬉しそうに紙を開いて顔を青ざめる。


「こ、これ……」


「り、離婚……用紙です……」


「か、克己さんは何と言っているんですか……」


「い、嫌だけど……奥様が望むならと……奥様に心配をかけたく……ないとの事です……」


「ば、馬鹿なことを!! 何を言っているんですか! だったら心配させなきゃいいでしょ!!」


 理恵は離婚用紙をクシャクシャにして破り始める。アルスはそれを見てホッとした自分が居て、少し安心する。


「アルスさん、克己さんのところに連れて行ってください!」


 理恵はアルスの肩を掴み、真剣な表情で言う。アルスは嬉しそうに頷いて魔法を唱えた。パルコにある家に到着すると、理恵は急いで家の中へ入って行く。


「克己さん!! どこにいますか!」


 理恵は大きい声を出して克己を探す。克己はリビングで抜け殻のようにボーっとしていた。


「克己さん!! なんですかこれは!!」


 破かれた離婚用紙を突き出す。克己は油が切れたロボットのようにぎこちなく理恵を見て小さく呟く。


「ごめんなさい……」


「始めからそう言えば良いじゃないですか!! 何でこんなものを私に渡すんですか! 私の事を嫌いになったのんですか!!」


 克己は涙を流しながら首を横に振る。


「だったら……こんなものを渡さないで下さい!! 貴方は我が儘が似合うんですから……。素直に『うるさい! 俺の言う事を聞け』って言えば良いじゃないですか……皆に言っているように」


「い、言う事を……グス……聞いて……。あんな奴のとこに行かないで……」


「もう……泣かないで下さい……。行きません……明日断ってきます」


「理恵~」


 克己は理恵に抱き着き大泣きをする。理恵は困った顔して克己を抱きしめ頭を撫でるのであった。


 そして翌日……仕事が終わらせた理恵は、安岡が待つ駅へ向かう。アルスはドキドキしながら理恵の行動を隠れて見守っていた。


 克己からは行かなくても良い。理恵を信じているからと言われていたが、アルスは心配になり勝手に跡を付けてきていた。


 安岡は理恵を発見すると、嬉しそうに手を振っていた。理恵は近くまで寄って、頭を下げる。


「安岡さん、お誘いは大変うれしく思いますが、お断りさせていただきます……。私は主人を愛しております。ですので、裏切るような行動をするつもりはありません……申し訳ありません」


 理恵はそう言って身をひるがえし、直ぐに克己が待つ家へと帰って行った。

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