188話 差し押さえ!!
新人達はスペルスクから2週間程の旅を命じられ、それぞれパーティーを組んで旅立っていく。
その中にはモールという少女もいた。
モールはキリコ、ザスパ、パルチ、ケシカの5人で旅を命じられ、森の中を彷徨っていた。
「モール、しっかりしてくれないと私達全滅しちゃうじゃん! 気をつけてよ〜」
「ご、ごめん……」
ケシカの言葉にモールは謝る。先程、ゴブリンジールドと遭遇したのだが、ゴブリンジールドは仲間を呼び、モール達は苦戦したのだった。ケシカはモールの指示が悪いと言って怒っていたのだった。
「アルス様が見ていたら、怒られるでは済まないわよ!」
パルチが被せて言う。
その言葉にモールは半ベソをかき始めた。
「わ、私だってやりたくて責任者やってる訳じゃないもん……」
言い終わるとモールは泣き出してしまい、皆は困った顔をしてお互いを見合わせる。
他のチームでも似たような事が起きており、三日で旅を辞めて帰ってくるチームもおり、モール達のチームも同じ結果になってしまった。
「情けない……」
地面に正座させるアルス。
「お前らは克己様の顔に泥を塗ったんだぞ……分かっているのか!」
出戻り組は俯き顔を上げることをしない。
「アルス、そんなに怒っちゃだめじゃん。この子達にだって言い分が有るでしょ?」
アルスが振り向くとレミーが困った顔して近寄ってくる。
「レミー、克己様の命令は絶対なんだよ! 二週間と命じられたら遂行しなきゃだめじゃん!」
「あんただって帰れと言われたのに追いかけて行ったじゃん。命令無視に独断行動……。あんたは克己様の顔に泥どころじゃないわね……」
「私は良いの! 愛が全てなの!」
「命令は絶対なんでしょ? その克己様からの命令が下ってるわよ……私と交代だってさ」
「な! 何で!」
「あんたにゃ向いてないってことでしょう……三日間の風呂掃除、宜しくね」
「な、何で私が風呂掃除なのよ!」
「……あんた、携帯のメールを確認してる?」
「え?」
「数時間前にあんたを呼び出すメールが入ってたけど……あんた、応じてないでしょ? メチャクチャ機嫌が悪かったわよ……。私は知らないからね」
レミーの言葉にアルスは電池切れのロボットの如く携帯を取り出し確認する。着信一件、メール三件入っており、アルスの顔は真っ青になる。
「れ、レミー……。か、克己様は?」
メールの内容を確認しながらレミーに聞くと、レミーは何も答えない。全てはメールが教えてくれたのである。
「ど、どうしよう……レミー……」
「帰ったら謝るしかないね。新人達相手に気が付きませんでしたと……。克己様は謝れば許してくれるよ……たぶん……」
最後の多分だけが不安になるが、今さら取り繕っても仕方がない。アルスはそう思いながら家に帰り、克己の帰宅を待つことにしたのだった。
その克己はというと、ハミルと共に内閣府へと足を運んでいた。
「成田と言います。総理に呼ばれたのですが……」
克己とハミルはスーツ姿で受付に立っており、ハミルは少しだけ緊張していた。
「ま、まさか私が……」
「アルスがいないのなら、ハミルに頼るしかないだろ? ノエルだっていないし……」
「わ、私は三番目何ですか?」
「順番なんか決めてないよ、ただ経験をこなしているのがアルスとノエルが多いからだよ。いじけるなら帰ってくれるか?」
「べ、別にいじけてなんか……」
「そう……むくれるな。可愛い顔が台無しだよ」
「ほ、本当にそう思っていますか……」
「ハミルは綺麗で可愛いよ。最近ますます美人になっている。怒らなければもっと綺麗に、可愛くなるだろうね」
この言葉にハミルは真剣な表情で克己を見る。
「本気で言ってますか?」
「理恵が怒っているところを何度見た事がある? 理恵はますます可愛くなっているぞ」
「い、言われれば……そうかも知れません……」
「じゃあ、そういう事だ」
何故かハミルは納得し、案内を待つ。しかし、30分待っても自分達を呼びに来ないので怪訝な顔をする。
「遅くないですか? 誰も呼びに来ないし、案内すらありません……」
「確かに……」
克己達は指定された時間の5分前に到着しており、時間を違えている訳でもなかった。だが、全く呼びに来る気配もないし、遅れている説明も無い。克己は首を傾げ、国枝に電話をする。
数回コールし、国枝は電話に出る。
『もしもし……』
「もしもし? 国枝君?」
『おう、克己か……どうした? 話し合いは終わったのか?』
「それすら……の話だよ……。かれこれ40分程待たされてるんだが……時間と場所を間違ってはないよね?」
『内閣府で話し合いだろ? 間違ってないよ』
「では、相手が遅れているという事で良いの?
『そうだと思うが……。受け付けで待ってくれと言われたんだよな? ……一応確認するから待ってくれるか?』
「悪いね、忙しいのに……」
『経済の回復が最優先だよ』
そう言われて国枝からの電話を待つこと30分……受け付けそばで待たされる克己とハミル。
「遅いです……国枝さんは誰かと話しているから仕方ないかも知れませんが、これは待たせ過ぎじゃないですか?」
「確かに……」
克己は痺れを切らし、再び受け付けに声をかける。
「すいません、いつ頃総理と面会できるのでしょうか?」
『確認いたします……』
受け付けの女性は内線で確認を行い、受話器を戻す。
『まもなく見えられるとの事ですので……もう暫くお待ち頂けますか?』
「わ、分かりました」
克己は首を傾げハミルのもとへ戻るともう少ししたら来ると説明をし、待つことにすると、国枝から着信が入る。
『もしもし、克己?』
「待ってたよ、国枝君」
『待たせて悪いな、もう少ししたら迎えに行くそうだ。何やら打ち合わせが長引いてるようでな』
「そうなんだ……仕方ないよね。でも、一言くらいあってもよくないか?」
『俺に言われても困るが……。次、同じ様なことがあったらそのように伝えるよ』
電話は切れ、克己はポケットに仕舞う。
更に30分が経過する。二人は受付前で立っており、呆れた顔をしていた。
「い、一時間半も待たされてるんだが……」
「確認しようがありませんよね……」
克己が再び受け付けに話しかけようとすると、ようやく迎えがやって来る。
『成田……さんですか?』
「あ、はい……」
『コチラにどうぞ……』
そう言われ、克己とハミルは迎えに来た男の後ろを付いていくが、何か納得できないでいた。
二人は個室へ案内され、男はソファーに座って待つよう言って部屋から出ていく。
「事務的だな……」
「一体、どんな話をするのでしょうか……」
二人は言われたようにソファーで待つこと30分……。いい加減、我慢の限界であった。
「ハミル、帰ろう。これは失礼過ぎる」
「かしこまりました」
二人は立ち上がり、扉の前に行くと、克己が開けるより先に扉が開き、総理と複数の人が立っていた。
「あ、あれ?」
自分の予期せぬ出来事に克己は一瞬焦りを見せる。
「何をしているんだね? 君は……」
そう言ったのは梶田総理であった。
「あ、いや……あははは……」
克己は笑って誤魔化し、ソファーに座り直す。ハミルも同じ様にソファーに座り、すました顔をする。
梶田総理はソファーに深々と座り脚を組む。
「今日来てもらったのは、異世界の事だ……」
梶田総理は、威圧的な目で克己を見る。ハミルはその目が気に入らず、梶田総理を睨みつけた。
梶田総理はその目に気が付き、ハミルを見下し、舐め回すような目で品定めをする。
「ふん、上玉だな……」
梶田総理は小さい声で呟き、克己は怪訝な顔をする。
「確かに……俺を呼んだということは、異世界の事しか無いですよね……。で、要件はなんです?」
「政府であの土地を抑えることが決まった」
「あの土地?」
「異世界の入り口がある、あの土地をだ! もう、貴様の好きにはさせん」
「ふ~ん……。巨大な扉があるあの土地ですか……。どうぞご自由に……俺は政府を不法行為で訴えるだけですよ」
「好きにしろ……我々に勝てると思っているのか?」
「別に……勝つ、負けるとかではなく無駄な話なんですよ……。あの土地を差し押さえるのは」
「どういう事だ?」
克己は首を横に振り、答えようとはしなかった。
「残念な政府ですね……梶田総理、任期……まで頑張って下さいね? 辞任や解任されても私のせいではありませんから……」
克己はそう言って立ち上がり、ハミルと共に部屋を出て行こうとする。
「負け惜しみか? だがな、扉を開けると言っても今更遅いからな!! 来週には全ての手続きが整い、お前たちを追い出してやるからな!!」
「あ~……その時は泣きっ面を拝ませて下さいね。楽しみにしてますよ。あ、じゃあ……自衛隊は明日にでも全員帰らせますんで……兵器とかも全てこっちに送ります。国民が知ったら何て言うでしょうかね……特に、左翼や隣の国とかは……」
克己はそう言って扉を閉め、ハミルの魔法で魔王城へ移動した。




