176話 置いてけぼり!!
克己が出かける準備をしていると、アルスが悲しい顔して克己の前にやってくる。
克己はチラリとアルスを見るが、直ぐに荷物整理を行い部屋から出ていこうとする。
「か、克己……様……」
「帰れ、邪魔だから……。傍にいる命を解く。パルコに帰って風呂でも洗って楽しく暮らしとけよ。守れなかったのを人の責任にする奴とは一緒にいたくない」
「だ、だって……」
「自分が成すべき仕事をしろ……。理恵に言っといて。帰るのが遅くなるって」
克己はそう言い残して部屋から出ていき、アルスは崩れ落ち泣きじゃくる。
城の外に出て、克己は車を袋の中から取り出しエンジンをかける。そしてドアを開けて車に乗り込んで発進させた。たった一人でアルトクスへ行ってしまったのだった。
涼介は慌てて城の外へ出ていき克己が走り去った後を見つめる。
「常に貧乏クジを引きに行くのは止めろよ……いい加減」
涼介はそう言って自分のクルマを袋から取り出し、後を追いかけていく。
城の中ではハミル達が集まりどうするかを話し合っていた。
「アルス、いい加減泣き止みなさいよ……」
泣きじゃくるアルスにリーズが言う。
「だ、だって……い、いらないって……私が必要ないって……」
声を上げて泣きじゃくる。
ルノールは膝を抱え座り込んで顔を隠している。
「私達が復興の手伝いをしている間に何が起きたのよ……」
ハミルが呆れた声を出し二人に問いかける。既に克己が旅立っている事をハミル達は知る由もなかった。
「傍に……、傍にいなくて良いって……帰れって……」
「だからどうしてそうなったのよ……。結論からして私達が油断していたのが悪いって話になったじゃん」
レミーが困った声で言う。
「涼介さんが……」
ルノールがボソリと呟き、全員がルノールに注目する。
「涼介さんが……謝ったから……ムカついて……」
「ムカついてなんて言ったの……」
「勝手な行動をするなって……」
「それを聴いていたくらい怒る方じゃないでしょ……他に何て言っていたのよ……」
「アルトクスに攻めるって……」
アルスとルノールを除く全員がガタッと立ち上がる。
「な、何て答えたの……」
ハミルが恐る恐る確認する。
「涼介さんがいるなら行きたくない……って……そしたら……全員帰れって……」
ルノールの言葉にハミルは嫌な予感がして慌てて部屋を飛び出す。リーズはルノールに質問する。
「ほ、他に何て?」
「涼介さんに責任を押し付けるなって……。もう……私達は必要がないって! だから……怪我しても治さないって言った」
ルノールの言葉にリーズは言葉を失い、目を泳がせる。レミーは再び椅子に座り込み茫然とする。ガルボはオロオロしてハミルが戻って来るのを待っており、アルスは泣く声を大きくして廊下まで声が響かせていた。
暫くしてハミルが青い顔して戻ってくる。
「い、居ない……克己様と涼介さんが……居ない……」
全員が顔を上げハミルを見つめる。
「冗談……だよね……?」
ハミルは首を横に振る。
「ほ、本当にいないの……ど、どうしよう……」
ハミルは頬を引き攣らせて言うと、全員が立ち上がり城内をくまなく探す。しかし、望に聞いても分からず、二人の姿は無かった。
「ま、まさか二人で!」
ガルボが言うと、アルスが思い出す。
「そういえば……荷物の整理を……グス……ほ、本当に置いていった!」
アルスは再び泣き始める。
「このバカ! 今更思い出すなんて!」
ハミルはアルスの頭を叩き、リーズは座り込む。
「間に合わない……の?」
ガルボは目を泳がせながら質問する。
「無理に決まってるじゃん! 多分車で移動してる……。移動してる乗り物に飛ぶ事はできないよ……」
ハミルは床に腰を下ろして俯きながら言った。
「じゃ、じゃあ……追い掛けるのは……」
レミーは座り込み考える。この後、自分達はどうすれば良いのか……どのように行動をすれば良いのか……。だが、答えは出なかった。
アルスは泣きながら立ち上がり扉のある方へと駆け寄る。
「あ、アルス、どこに行くの!」
ガルボが声をかけると、アルスは振り向いた。
「追い掛ける! 寝ないで走らせれば追いつくかもしれないもん!」
そう言って部屋から出て行く。ハミル達も立ち上がりアルスを追い掛ける。
外に出ると、アルスは直ぐに袋からオートマチックの赤いスカイラインを取り出し運転席に飛び乗る。
ハミル達は慌ててアルスのスカイラインに飛び乗りアルスはアクセルベタ踏みしてタイヤはキュルキュルキュル……と激しく回転して、勢いよく車は発進する。運転席に座っているアルス以外は、一瞬の遠心力に負け体勢を崩しオタオタする。
「何処までも一緒にいるんだから!」
アルスは泣きベソをかきながら大声で叫び、何処まで先に進んでいるか分からない克己たちを追い掛けて、車を走らせた。
その頃克己は……。
「タイヤがパンクするとは……」
走っている最中、ハンドルが取られる動きをしたので車を停めて確認したところ、前輪のタイヤに釘が刺さっていた。克己は肩を落としスペアタイヤと交換していると、後から追いかけて来た涼介が克己の横に車を停め、窓を開けて話しかけてきた。克己はシカトしようと考えていたが、涼介の言葉は想像していた言葉の斜め上を話し始める。
「お兄さん、パンクっすか? ツイて無いっスね〜。この辺りにはスタンドなんか無いッスから修理も交換も出来ないっすよ。どうです? アルトクス迄だったら送りますよ」
克己は横目で睨みながら涼介を見る。涼介はニコニコしながら克己を見ていた。
「そうですね……。そこにもスタンドは無さそうですが、甘えさせて貰いたいと思いますよ」
克己はニヤッと笑い車を袋にしまう。
「じゃあ、乗っちゃって下さいよ」
涼介の言葉に頷き、克己は助手席に座り、涼介は車を発進させる。
「疲れたら交代だからな」
涼介が言うと、克己は窓の外を見て言う。
「分かってるよ……その代わり先に寝るぞ」
克己は背もたれを少しだけ倒し眠りにつこうとして、涼介は懐メロをかけ始める、その曲は学生時代に流行っていた曲で、克己は笑って目を瞑った。




