171話 英雄は遅れてやって来る!!
チヌークの時速は260km。
克己達は偵察機からの連絡により、先回りに成功する。自衛隊はチヌークの護衛に回り、克己達は車で移動して2km付近まで近寄る。
「さて……お前達も新型のレーザーガンを装備したか?」
克己はチラリとアルス達を見る。アルス達は頷き、克己に銃を見せる。
「よろしい。流石、俺の可愛い彼女達だ……。おい、バカ猿……準備はできてるのか?」
克己は隣にいる涼介に問いかける。涼介はチヌークに乗り込んで暫くすると、トイレに行きたいと言い出した。克己は呆れながら簡易トイレ(車とかで使用する袋タイプ)を渡し、涼介は隅に行って尿を足す。
袋は縛り暫く涼介が持っていた。その間、皆は涼介から距離を取り近寄らないようにしていた。
そんな経緯があり、全員は鼻を抓んで白い目で涼介を見ている。
「そ、そんな目で見るなよ……克己だってションベン位するだろ……」
「克己様の尿は聖なるものですから、涼介さんのアレとは違います。同じにしないで下さい」
リーズは冷たい目で涼介を睨みつけ、涼介はガックリする。
「何だよ……こいつ等……」
とほほ……そんな感じに涼介は落ち込み、銃を取り出しレーザーサイトを取り出す。
「取り敢えず試し撃ちは必要だ。照準を合わせろよ」
克己が言うと女性陣は全員返事をして、涼介は口笛を吹きながらテストをする。
「おい、返事をしないか! ションベン野郎!!」
ルノールは涼介に足蹴りする。それを見た克己は、どうしてこの子はこういう風に育ってしまったのだろうかと思うのであった。
蹴りを入れられた涼介はルノールの蟀谷を両拳でグリグリやって仕返しをしていた。
全員は助ける事はせず、馬鹿が二人いると思いながら試し撃ちをしていた。
「おい、ルノールと涼介。早く練習をしろよ。自衛隊から連絡が来たら直ぐに作戦に移るぞ」
克己の言葉に涼介は手を放し試し撃ちを繰り返す。ルノールは何度か涼介の背中を蹴飛ばしてから練習を開始しする。
暫く練習を繰り返していると自衛隊から無線連絡が入る。
「了解しました。確認してから襲撃に移ります。終わったら連絡をしますので迎えに来てください」
克己はそう言って皆の方へ向き直る。
「聞こえたと思うが、自衛隊の準備は完了した。これから作戦に移る……奴らは人質を囲むように陣を組んでいるから俺達はそれを囲むように動く。持ち場につき次第……殺れ。それから暫くして先発隊の涼介とレミー、アルスが襲撃に……残りは三人のフォローするように。特に終わったときが一番油断するんだ……終わりに気を付けよう!! じゃあ、仲間や人質になっている者を最優先で攻撃する。涼介、分かってるだろうな」
「分かってる。相手指揮官を狙う……しかし、相手が火を消したらどうする?」
「もし、相手が明かりを消したら……これを使おう」
克己はそう言ってスコープが付いた鉄帽を取り出し皆に配る。
「一応改良してあるが……距離は大体、1kmまでだ。お前らは使った事が無いよな? 今度の洞窟探検時に使おうかと思っていたんだ。一応ノエル達には渡してある。結果を聞いてから改良して使用してみようかと思っていたんだけど……」
そう言って克己はルノールに被らせて使い方の説明を始める。
「これって……暗視装置か?」
涼介は装備して覗き込みながら聞いてきた。
「ご名答……どうだ? 具合は」
「バッチリ見える。逆に火を消してもらった方がやりやすいかもな」
「そればかりは何とも言えないな……注意する事は二つ。一つは前ばかり気にしていたら横からやられたりすることがある。敵だって馬鹿じゃないだろう偵察部隊くらい出していると考えられる……。それに気を付ける事……。二つ目は魔物だ。今はこうやって纏まっているから問題は無いが、ここから先は各自がバラバラに移動する。だからそれにも気を配ってくれ」
涼介を除く全員が返事をする。涼介は道具を見つめながら何かを考えていた。
そして涼介は克己を見つめ、皆は不思議そうな顔をする。
「お前……これを何に使うつもりだった?」
「冒険に使うつもりだって……」
「違うな……。嘘を言うな。お前はこういうことを想定していたんじゃないのか? 用意周到すぎる」
克己は涼介の言葉に黙っている。
「涼介さん、今はそう言う事を言っている状態ではないと思いますが……こうやって克己様は奥様に怒られる覚悟で協力してあげているんです。黙って任務を遂行したら如何ですか」
レミーが冷たい目をしながら涼介に言う。
「それに、克己様に断りもなく日本の方々をレデオウィールに連れて行ったんです……。今は経済制裁とかいうのをやっている最中ですよ? 日本は克己様に牙を剥けたんです。協力する義務はないはずです。それを理解しながら話しているんですか?」
リーズが続いて涼介に言う。涼介は舌打ちをしてそっぽを向く。
「チッ! 分かったよ……これ以上は聞かねーよ……」
暫く無言になり、克己は小さく溜め息を吐く。
「ふぅ……。じゃあお前達……持ち場についてくれるか?」
全員は返事をして散開する。しかし、涼介だけはその場から動かなかった。
「克己……」
「分かってるよ……。終わったら話すよ。二人で話をしよう」
克己が言うと、涼介は溜め息を吐く。
「別に責めている訳じゃない。お前がこれを何に使うかが知りたいだけだ。悪いことに使う訳じゃない事は理解しているが、どう考えたって用意周到過ぎる。これはどう考えたっておかしい。何をしたいかだけを教えてくれればいい」
「心配してくれてるのは理解している。感謝してるよ」
涼介は顔を少しだけ緩ませ、克己とタッチを交わして自分の持ち場へと向かった。克己も同じように自分の持ち場へと向かい、周りの状況を確認していた。
ガルボは持ち場付近に近づき周りを確認すると克己が言ったようにアルトクス兵が明かりを持って偵察を行っていた。
「アルトクス兵!! 克己様が言うように……偵察をしていた……」
ガルボは物陰に隠れ様子を窺う。そして、その手に持っている明かりに注目をする。
「あ、あれ? あの明かりは……ライト?」
アルトクス兵が持っているのはレデオウィールやラスベル等では見られないものを使用しており、考えを張り巡らせるが答えは出ず行動に迷いを生じさせていた。
「私は考えるのが苦手だからここはアルス達に頑張ってもらおう!!」
最終的にそう考え、ガルボは偵察兵を始末して休憩をしているアルトクスたちの様子を覗う。
アルスも同じ様に偵察していたアルトクス兵を始末していた。
「これは……コアで作られているライトか? 一体どうやってこんな技術を……イヤ、我々だってコアを使っての技術はある……が、小型化された物は無い……」
アルスはライトを持ちながら考えていたが、今はそういった状況ではない事を思い出し、作戦に移る。
ルノール達は持ち場に付き、周りを確認したあと状況を覗う、指揮官兵の探りを入れていた。
「指揮官……テントの中に居そうね……こういった場合、どうすれば良いか聞いてなかったなぁ……」
ルノールは失敗したという顔して見ていた。
「さて……克己は持ち場についているのかな?」
涼介はそう呟き様子を覗う。
「指揮官なら外にゃ居ないだろうな……こういった場合、テントとかで休んでいるもんだろう……」
周りを見渡し、状況を探りながら距離を縮める。
「誰も攻撃をしようとしていない……指揮官を探しているからか?」
物陰に隠れながら様子を覗うと、涼介もライトに気が付いた。
「電球を作る技術があるのか? アルトクスには……」
涼介は袋の中から無線を取り出し克己に連絡を取る。
「克己、聞こえるか!」
ジーッと音がして克己が喋り始める。
『聞こえる。どうした? トラブったか?』
「いや、お前の位置から見えるか? 奴ら、ライトを持っていやがる。レデオウィールやラスベルなんかより技術が発達していると考えて良いだろう……どうする?」
『成る程ね……。ガタラゴス大陸よりも科学の技術レベルが高いと言う事か……成る程ね。涼介、帰ったら策を練ろう。今は姫さん達を救出する事だけを考えるんだ! 場合によってはライトを破壊するんだ』
「りょ~かい!! じゃあ作戦に移るぜ」
涼介は無線を腰につけレーザーサイトで相手にポイントを突け、攻撃態勢に移った。




