163話 深まる謎!!
「どけ、ノエル……」
扉を開けようとしたノエルは動きを止める。
「ど、どうかされました?」
克己の目が真剣で、ノエルはそれ以上何も聞かずに一歩後ろへ下がる。克己は扉に近寄り蹴破った。
扉は吹き飛び扉の上からギロチンが落ちて来る。アルスのトラウマスイッチが入り、顔を青ざめへたり込む。
『お父様! お母様! 嫌! 連れて行かないで!』
記憶の扉が開かれ、アルスは胃の中の物を吐き出す。
「う、うぇ……うぷぅ……ぐぇ……」
ハミルは声が出ないがアルスの側により背中を擦りタオルを差し出す。
「ご、ごめん……ハミル……」
ハミルは悲しそうな顔して首を横に振り掠れた声でアルスに大丈夫かと囁く。
「う、うん……。も、もう大丈夫……」
克己は中を懐中電灯で中を照らすがあまりよく見えない。
「克己様……ありがとうございます」
ノエルはあのまま中へ入ったら自分の首が落とされていたと思い、背中に冷や汗を流していた。
「なんとなくだよ……少しだけ違和感をあった。ギロチンなんてトラップを仕掛けてやがったか……本当に胸くそが悪い……。お前が死んだら俺は泣くぞ」
「か、克己様……」
「それだけお前は大事な存在だって事だ。なんだかんだ言ってもお前は俺の者だ。俺に黙って何処かに行かせはしない。ずっと傍にいろ。お前達もだ! 勝手に死ぬな。傍から離れるな、俺を一人にするな! これは絶対命令だ! 分かったな!」
皆は驚き、声を発しない。克己は前を向いたまま再び言う。
「絶対命令だ! 返事をしろ! 一人にするな! 分かったか!」
慌てて全員は返事をする。
「約束だ……守れよ」
「我々は一生を克己様に捧げます……。奥様も含め守り、お傍に仕えさせて頂きます……」
ノエルが代表して言うと、皆は頷く。
「ありがとう……皆」
お礼の言葉を言って克己は一歩中へと踏み込む。ノエル達は武器を構え直ぐに対応できる準備をする。
「こ、これは……!!」
克己は言葉を失う……。
「どうかされましたか……」
ノエルは克己の傍に寄り中を伺う。そこで見たものは……。
「エ……エルフ……?」
「い、いや……せ、正確には『エルフだったもの』……だな……」
克己が言うと、皆は恐る恐る中へ入る。そして……漂う死臭。
中に広がる光景……それはエルフを使って何かを実験した後であった。
「う、うぇ……」
ガルボが耐え切れず胃の中の物を吐き出す。
「リーズ、ガルボを連れて扉の外にいけ……。お前にもキツ過ぎるだろう」
「ありがとう……ございます」
リーズは青い顔してガルボを外に連れて行き、克己はカメラを取り出し写真に収めていく。
「この世界にも気が狂った奴がいる様だな……。ノエル、レミー部屋中にガソリンを撒き散らせ」
二人は返事をしてガソリンを部屋中に撒き散らし、克己は火薬を大量に撒き散らす。
「部屋から出るぞ! ハミル、脱出魔法は唱えられるか?」
ハミルは人差し指を立て頷く。
「アルス、お前が彼等を供養してやれ。あのままは……残酷過ぎる……」
克己は悲しい顔してアルスに言う。アルスは頷き、ハミルの顔を見る。ハミルは意図をくみ取り頷く。そして全員が一箇所に固まり、アルスの指先に灯が灯る……。
「助けられずに……ごめんなさい……」
アルスは一言呟き小さな火の玉を部屋に投げ入れて、ハミルは掠れた声で魔法を唱え、克己達の体は光に包まれる。
(感謝する、幼き魔法戦士達よ……)
小さな声が皆の頭に響き、克己を除く皆が驚いた顔して立ち尽くす。だが、いち早く克己が叫び皆は我に返る。
「アルス! 何処でも良いから直ぐに飛べ!」
アルスは体をビクッとさせ、慌てて移動魔法を唱え皆の体が消える。タイミングを計ったかのように地面が破裂し、大爆発を起こし洞窟は跡形も無く消し飛んだ。
次の瞬間克己達は街に現れ、全員が地面に座り込む。
「さ、最後の声は……」
リーズが呟く。
「さてな……。だが一つ分かったことがある……」
「はい……」
克己の言葉にノエルが同調する。
「MADな馬鹿野郎がいて、そいつを見つける必要があるって事だ」
克己が言うと全員は頷き、立ち上がる。
「帰りましょう……。考えるのは明日にして、ハミルを休ませる必要があります……ルノールの魔法では治らないようですから」
アルスの言葉にノエルは首を振る。
「魔法も万能じゃ無いわね……」
そう呟きグッタリしているガルボを支え、家がある方へと帰っていく。克己は遠くに見える黒煙を見て呟いた。
「救えなくてごめん……」
「克己様! ラスボスがお待ちしているはずですよ!」
先を歩いていたレミーが叫ぶ。
「忘れてた……本当の戦いはここからだった……」
克己はげんなりして家に帰り、リビングの椅子に座っている理恵の前に座った。
「お帰りなさい。朝帰りですか……」
「お、起きて待っていたのか?」
「その前に何か言うことがあるのではないですか? あなた達もそこに座りなさい!」
理恵はテーブルをバンッ! と叩き、全員を椅子に座らせる。
全員は震えながら恐る恐る椅子に座り、俯く。どんな魔物よりも怒った理恵が怖い……全員はそう思いながらチラリと理恵を見て驚きの表情をする。
「無事で良かった……。急に一人にしないで下さい! どんなに心配をしたか……こんなに一杯の人数を心配するんです、直ぐに老け込んじゃいますよ……」
理恵が一瞬だけ安堵の表情を見せる。
「ご、ごめん……」
「謝って済むなら魔王なんか存在しません! 心配をかけないで!」
再びテーブルを強く叩く。
「お、奥様……お、落ち着いて……」
「アルスさん! 貴女もその一人何ですからね!」
理恵は威嚇するように三度テーブルを叩く。
アルスは体を飛び跳ね、体震わせて怯える。
「せめて出かける前に一言言ってください……。理由が分かれば怒りません。せめて一言……」
理恵は声を殺し泣き始める。克己達はいたたまれない気持ちになり申し訳ない顔をする。
「悪かったよ……。これからは気を付ける」
「や、グス……約束してくれますか……グス……」
「す、するから……なぁ……皆」
克己が言うと、皆は慌てて頷く。
「わ、わかり……ました……グス……」
理恵は立ち上がり、自分の部屋へと戻っていく。全員は顔を見合わせバツが悪そうな顔をして皆も自分の部屋に戻っていく。最後に克己だけがリビングに残っていた。
(しかし……あれは一体何だったのか……嫌なことが起きなければ良いが……)
背もたれに寄り掛かり天井を見上げる。結局、考えても何も分からないと言うことが分かっただけだった。
翌朝になり、レミーがリビングの椅子に座って雑誌を読んでいると、克己が起きて椅子に座った。
「おはようございます。克己様……」
「おはよう……。何を読んでるの?」
「ファッション紙です。里理さんがくれました。たまには読んだほうが良いと言って……」
レミーは恥ずかしそうに笑う。
克己は両手でファインダーを作り、レミーを見る。レミーは何をしているのか分からず首を傾げた。
「レミー、その髪型は何か理由があるのか?」
「か、髪型ですか? 特にありませんが……」
「そうか……。短くしてみようとは……」
「考えた事もありません……。克己様は短い方が……好みですか?」
レミー少しだけ顔を赤らめながら聞く。そう言えば、奥様やアルスは短かったと思いながら克己を見つめていた。
「好みで言えば……短い方が好きかな。でも、その人が似合うなら……長くても良いと思ってる。ノエルやハミルがその典型だな」
「な、なら……私はどちらになりますか?」
レミーは雑誌を閉じ、克己の前に移動する。
「困る質問だ」
「こ、困る……ですか……」
「あぁ……レミーやアルスは長くても、短くても似合いそうだからな」
そこでアルスも出て来るのか……とレミーは思い、少しだけ肩を落とす。
「ガルボも長めが似合うよな、ケーラもリーズも……。だけどさ、両方似合うのはお前達二人しかいないよ」
「そ、そう……ですか……」
「だけどさ、大人っぽい服が一番似合うのはレミーだよな。どんな髪型をしても、どっちも似合う。流石レミーだよ。アルスやノエルでは幼さが残るからな」
「そ、そうですか……ありがとうございます……」
褒められたのかな? そう思いながらレミーは返事した。
「この後の予定は?」
「え?」
「この後の予定だよ。二人で服を買いに行くって言ったろ? 渋谷に」
「ほ、本当……に……よろしい……のですか?」
「何故だめな理由がある?」
「い、いえ……そ、そういう訳では……」
「じゃあ準備をしてくれる? 一緒に買い物へ出かけよう」
「ふ、二人……で、ですよね?」
「そうさ、二人で出掛けるの。たまには良いだろ?」
「は、はい!! 直ぐに用意致します!」
レミーは嬉しそうに立ち上がり、急いで部屋へと戻る。克己は顔を洗いに洗面所へ向かい、出かける準備を始めた。暫くして二人は一緒に渋谷駅へ向かい、人の多さにウンザリした顔をする。
「人が多いですね……相変わらず……」
レミーが呟く。レミーの服装はフレアワンピースにカーディガンといった格好で、大人の女性を醸し出していた。髪は珍しく普段しているポニーテールではなく、ゆるふわウェーブをしており芸能人と間違われてもおかしくはなかった。そのため周りの視線を集めている状態であった。
「なんか……皆がお前を見てるな……」
「そうですか? 克己様を見られているのではないでしょうか?」
「イヤイヤ……そりゃないでしょ……」
克己は笑いながら言う。だが、不釣り合いということで、違う注目を浴びていたのは確かだった。克己の服装はヨレヨレのシャツにボロボロのジーパン。髪はボサボサだが、髭は生えてはいない。昭和の人間を醸し出している容姿だった。
克己は首を捻りレミーと歩き始めるが、どう見ても注目を浴びているのは間違いなかった。
「流石レミーだな……皆の注目を浴びている……」
「え~、克己様を見ているんですよ! 皆は克己様の格好良さに見とれてるんです!」
嬉しいことを言ってくれると思いながら腕を組んで歩き始めると、数人の男が二人に絡んで来たのだった。




