154話 嫌です!お断りします!!
その後、克己達は一旦パルコの街へと戻ってきた。アルスは部屋に閉じこもり、姿を見せずにノエル達は心配そうにしている。
「克己様……アルスは……」
「放っておけ。自分のしたことを後悔するなら初めからやるなと言いたい。起きた出来事はやり直しが利かない。それは自然の理だ……お前だって分かるだろ? ノエル」
「そ、そうですけど……」
「ノエル、お前は山賊に復讐をしたいと思わないのか?」
「そ、それは……」
「奴らにも家族がいるかもしれない……それでも復讐をするのか?」
ノエルは言葉に詰まる。
「お前も優し過ぎるんだよ……。ちなみにノエルを襲った山賊はもう存在しません!!」
「はい?」
「俺が始末してきた」
「え? な……」
「俺がお前の代わりに復讐してきた……家族もろとも全員ね……別に後悔も何もしてません! ムカついたから始末しました!!」
「で、ですが……か、家族は関係ないのでは……」
克己は冷たい目でノエルを見る。
「だから? 殺さない理由にはならないだろ……。相手は山賊。再び山賊が生み出される可能性がある訳だ。それを始末しただけだよ。それにお前が受けた苦しみ、悲しみはそれだけでは償えない。お前の手を汚させるのは嫌だったし、お前にはそういう奴になってほしくなかったんだよ」
ノエルは驚いた顔して克己を見る。
「それに、あいつらはお前の事は覚えていたしね。思い出すだけでも胸糞が悪い。悪いな、お前の手でやりたかったかもしれないけど……」
「い、いえ……」
「そう言う事で、お前が復讐する人物はもういないよ。山賊との出来事は忘れるんだ。お前の体は汚れてなんかいない、綺麗な体だ。俺はそう思っているよ」
「あ、あの……あ、ありがとうございます……」
ノエルは何を考えて良いのか分からずお礼を言う。
「さて、あそこをどうするかが問題だな……。涼介、何か提案はあるか?」
「どっかが統治してくれるのを待つしかないだろな……」
「統治か……」
克己は腕を組んで考える。
「統治するところが無いのであれば、自衛隊が統治すれば良いのではないでしょうか?」
レミーが何気なく言う。
「それも構わないんだけど……日本がなんというか……。それが問題になるんだよ」
「どういうことですか?」
リーズが首を傾げながら聞く。
「政府のアホ共はこの世界が欲しんだ。自分達の物にしたいんだよ……だから統治と言いう事は避けたい。だから街を作る程度で終わらせたいんだ」
「なら街を作ればよいじゃないですか……」
たまたま居合わせたシェリーが言う。
「何処かが攻めてきたらどうする? それに、あそこは魔王の支配下じゃない……新たに魔王と交渉する必要がある」
「そう言う事ですか……だからどこかが統治してくれた方が良いのですね?」
ガルボが頷き納得する。
「私が統治したら如何でしょう?」
シェリーが言う。
「はぁ? 何を言っているんだよ」
「だ、だって私……王族ですし……」
「これだからお嬢様は……」
涼介は呆れた声で首を横に振る。
「ど、どういう意味ですか……」
「どうやって統治するんだよ? お前の国はここだろ? 兵士はどこから連れてくる」
「お、お父様に言って……」
「現状で考えたらそれは無理な話だろう。現在、王国は平和な状態だ。レベルもそこまで高い奴はいない、ただ殺されるだけだ」
シェリーは黙り込んでしまう。
「やっぱり街を作るしかないのかな……自衛隊を置かない街を……」
克己が言うと、全員が克己を見る。
「ど、どういう事ですか?」
「言葉の通りだよ。自衛隊ではなく、俺の街を作る。俺が管理する、特別な街を作ればよい話だろ? 最初は何もない場所に作るんだから大変かもしれないけど……」
「なら……私が指定する場所に街を作ってくれませんか……」
声がする方に目をやると、アルスが立っていた。
「あ、アルス!! 貴女大丈夫なの……」
ノエルが心配そうに聞く。
「考えたってしょうがないかなって……心配かけてごめん……ノエル……」
アルスは目元を赤くして泣いていたのが分かる。そして、困った顔して微笑む。
「その業は一生背負って生きていくんだ……忘れるなよ」
涼介が言うと、克己がコアを投げつける。
「アルスを苛めるな。こいつは俺のだ」
「甘ちゃん」
「うるさい。おいで、アルス」
克己がアルスを呼ぶと、ルノールが唇を尖らせて文句を言う。
「アルスばっかりズルい!! 私も抱き着く!!」
ルノールは克己に飛びつき、克己は飛びついてきたルノールの頭が顎に当たる。克己は口の中を深く切ってしまい、そして口から血が垂れてくる。
「わーーー!! 何してるのアンタは!!」
ノエルが叫び! アルスが目を開き驚く。リーズはルノールに対して何か投げるものを探し、レミーはダッシュでルノールを引き剥がしに向かう。ガルボはタオルを取りに走りシェリーは椅子から転げ落ちる。ケーラは里理に相談の電話をかけ、涼介は今晩の食事は何かを千春に確認し、千春は献立を考える。小春はジュースのお代わりを求めリリスと望は家の大きさに緊張していた。
その夜、理恵が家に帰ってくると、克己がリビングの椅子に座って待っていた。
「ただいま帰りました。今日はリビングにいらしたんですね」
「うん。たまには理恵とゆっくり話がしたくてね」
「いつもしていると思いますが?」
「ベッドの中で?」
「克己さんのエッチ」
理恵はそう言って隣の席に座る。
「お話は何ですか?」
「たまにはお酒でも飲みに行かないか?」
「どういう風の吹き回しですか?」
「いや、考えてみたら一緒にお酒を飲んだことが無いなって……」
「私、酒癖が悪いんですよ? ご存知だと思いますが……」
「酒癖が悪いんじゃなく、取り巻く環境が悪かっただけでしょ?」
「う~ん……別に構いませんけど……里理さんとかは……」
「二人っきりで」
克己が真面目な顔で言うと、理恵は少し顔を赤くした。
そして、二人は日本へ帰り鳥専門店の居酒屋に入る。
「こうして二人でお食事するのって……初めてですかね……」
「そうだな……たまにはこういうのも良いもんだな。夫婦水入らず」
「ふ、夫婦水入らず……」
理恵は顔を赤くし、メニューを見る。
「最初は生ビールで乾杯をしますか?」
「そうだね、適当に串焼きを頼んでおこう。それとサラダね」
「分かりました! 克己さんは塩とタレ、どっちが良いとかありますか?」
「いや? 特にないな~……両方頼めば?」
「そうします。すいませ~ん……」
理恵は店員を呼び、ビールと串焼き、そしてサラダを頼んだ。少しすると、お通しと共にビールがやって来る。
「それじゃ……かんぱーい!」
「かんぱ~い!!」
二人はグラスを軽くぶつけ、飲み始める。
「久しぶりにお酒を飲みましたね……。直ぐに酔っぱらいそうです」
「そうだな~……酔っぱらった理恵は色っぽいだろうな~……」
「え~、どうしてですか~」
「だって、普通にしてても可愛いしけど、お酒が入って目がトロンってしたら~」
「克己さんのエッチ~」
二人はお酒を飲み干し、直ぐに次の物を注文する。
「あのさ……少しの間、家を留守にしても良い?」
「留守って……私と里理さんを置いてですか?」
「うん。二人は置いて」
「嫌です」
「だよね~」
「です」
二人は無言になり焼き鳥を食べ始める。
「焼き鳥ってさ……」
「はい、焼き鳥がどうしたんですか?」
「何でお祭りの焼き鳥はタレばかりなんだろうね」
「急にどうしたんですか?」
「いや、ふと思って……」
「さぁ~……塩だと乗ってないとか文句が出るからじゃないですか? あとはコストの問題とか……」
「あ~……成る程……。可能性はあるよね……でさ、暫く家を……」
「ダメだって言ってるじゃん!! 何で置いて行くことばかり考えるんですか?」
「危険だし……」
「みんな危険じゃないですか……ノエルさん達だって危険だし……。一体何をやるつもりなんですか?」
「……街を作ろうかと……」
「作ればいいじゃないですか。私も協力しますよ?」
「ドラゴンが出るかもしれないし……」
「異世界でドラゴンが出ない場所があるんですか? あるならそこで暮らしましょうよ」
「今のところありません……」
克己は言い負かされ、言葉を探す。
「危険危険と言いますが、何処にいたって危険です。それに、克己さんがその危険から守ってくれる約束です! 私も……私ができる、最善の事をやるつもりです。民間人の誘導や、それを守るだけの力は有ると思っています。貴方が家を留守にするときは……私を外敵から守るために、何かを討伐する時だけです! それを忘れないで下さい……。私が頼りないかも知れませんが……」
「分かった! 分かったから……。ごめん……」
「それに、克己さんは一人で背負い込み過ぎなんです。もっと周りを信じても良いのではないでしょうか……」
「ごもっともなご意見です……」
「私は貴方の妻です。せめて私だけでも信じてください」
「はい……」
返す言葉もなく、克己は返事をする。
「じゃあ……街を作るから一緒に……大変な暮らしになるけど、付いてきてくれ」
理恵は優しく微笑み答える。
「もちろんです! 克己さんが付いてきてくれと言ったのなら、私は拒否しません。何処までも一緒に……愛してる貴方の傍にいます」
そして顔を赤くした。それから二人は美味しく焼き鳥などを食べ、理恵は酔っ払う。
「克己さんは皆の事をどう思っているんですか?」
「平等に扱っているつもりだけど?」
「そうじゃないんだよね~。克己さんは彼女達をどうしたいかって聞いてるんです……。奴隷のままなんですか? 解放をしないんですか?」
「解放……ねぇ……」
「彼女達には彼女達の人生があるじゃないですか……。一生奴隷のままでいさせるんですか?」
「……」
「答えなさい! アルスさんはどうするの!」
「理恵……酔っぱらってる?」
「誤魔化さないで真面目に答えろ! 成田克己!」
理恵はビールジョッキを強めにテーブルへ置いた。
「じ、ジョッキが割れちゃうだろ……理恵……」
「何で誤魔化すんです! アルスさんとルノールちゃん、ガルボさんの三人と関係は結んでいません! 何か理由があるんですか? そりゃ……できれば私だけの克己さんでいて欲しいけど……」
「ルノールとガルボに関しては年齢的に若い。アルスは……何て言うのかな……手を出し難いと言うのかな……」
「根性が足りませんね……。他の人を抱く癖に……」
理恵の言葉に克己は唇を歪ませる。
「そんなに抱き難いなら私と一緒に寝れば良いじゃないですか。私がアルスさんを可愛がってあげますよ」
理恵が淫靡な目で克己を見る。克己はその瞳に誘われるかのように唾を飲み込んだ。
「そ、そろそろ出ようか……」
「そうですね。食べ物もかなり食べましたし」
悪戯っ子がする目で克己を見て理恵は笑う。
克己は精算を済ませ、手を繋いで店を出る。
「この後はどうしますか? 何処か寄りますか?」
理恵は克己の腕にしがみ付き胸を押し当てて聞いてくる。克己はその感触を味わい、頬を弛ませる。
「克己さん? どうしたんですか?」
「り、理恵……少し休憩していくか?」
「え?」
理恵は克己の顔を見て顔を赤くする。
「う、うん……克己さんが仰有るなら……」
理恵は緊張し、体を固くさせた。
二人は緊張した表情でアミューズメントホテルへ入り、中を見渡す。
「へ、部屋はどれが良い?」
「ど、何処でも……構いません……」
「こ、これなんか……どうかな?」
「す、素敵だと思います……」
克己は部屋のボタンを押す。すると部屋の番号が書かれた紙が出てきたので克己は震える手でそれを掴み、理恵の手を握りながら部屋へと向かう。
室内はプラネタリウムのような部屋で、天井には満天の星が映し出されており、理恵は天井を眺めながらベッドに腰を下ろした。
「偽物でも綺麗ですね……」
「はい、飲み物……」
克己は隣に腰を下ろし、一緒に天井を眺める。
「たまにはこう言うのも悪くないね……」
「ほ、ホテルが……ですか?」
理恵は顔を赤くして克己の顔を見る。
「ち、違うよ! 空を見上げて満天の星を眺めることだよ……」
「ふ~ん……。今度、本当の夜空を眺めましょうね……」
「そうだな……。こうして二人きりで出掛けることも少ないし……ごめんな」
「気にしないで下さい。傍にいられるのであれば後はどうでも良いです。私は幸せです」
理恵は体を起こして、克己に貰った缶ビールのプルタブを開ける。プシュっと音を立て、理恵はビールを口に含んだ。
「飲みすぎじゃないか? 大丈夫か?」
克己も体を起こして理恵を見ると、理恵は克己に抱きつきキスを求め、克己は理恵の唇にキスをすると、口の中に含んでいたビールを克己の口に移す。
「ングング……チュパ……」
克己は飲み干し理恵の舌と絡める。
「愛してますよ……克己さん。だから、置いていかないで下さい……ずっと傍にいさせて下さい。危険な場所でもずっと……」
理恵は克己のズボンに手を掛け二人は休憩ではなく宿泊し、朝まで愛し合ったのであった。




