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152話 屈する!!

 自衛隊の街へやって来たカリノスとロミール。


「で、殿下……お体は……」


「私はもう皇女ではない……私に尽くす必要はないのだ……」


「そ、そんな事は有りません! 私は一生殿下にお仕え致します!」


 カリノスはロミールに泣きながら抱き着き、ロミールは悲しい目でカリノスを抱きしめた。


「さて、国枝君……彼女たちをどうするよ?」


「お前が連れてきたんだろ……お前が責任を取れよ。異世界の権限はお前が持っているんだから」


「う~ん……だけど今回の件で政府が何て言ってくるかな~。なんか面倒なことを言ってくるような気がする……」


「確かに……小泉さんは面倒くさそうな人だからな……マスコミを使うのは得意だし……」


「なったらなったときだな……」


 克己はそう言ってロミールを見る。


「皇女さん……いい加減、名前を教えてくれる?」


「そう言えば一度も名乗った事は無かったか……。私の名はロミール……ロミール=ラスベルだ」


「良い名じゃないか、俺は成田克己。これから面倒は俺が見る事になる。まずは日本語を勉強していこう」


「分かった……」


 ロミールは少し偉そうに言う。


「あと、態度も直さないとな……皆が引いちまう」


 国枝は呟いた。


 そして克己は家に連れて帰ると、理恵は頬を膨らませていた。


「ど、どうしたんだよ……頬を膨らませて……」


「また女性を連れてきた……」


「仕方ないだろ……行くところが無いんだから……理恵のところで働かせてあげれないか?」


「い、いやですよ!!」


「理恵がそう言うとは思わなかった……理恵ってそう言う冷たい人だっけ?」


「だ、だって……最近克己さんは一緒に居てくれないですし……」


「成る程……暫くはどこも行かない予定だったんだけど……二人の仕事を探さないといけないのなら……また出かけるしかないかな~……チラ」


 克己はそう言って理恵を見る。


「う~……克己さんの意地悪~!! わかりました! 私のお店で働いてもらいます! これで良いんでしょ!! もう!」


「流石俺の愛する妻だ!!」


 克己はそう言って理恵を抱きしめる。理恵は頬を膨らませるが、少し照れくさそうにしていた。


 数日後、ロミールとカリノスは理恵のお店で働く事になった。


「ひ、ヒラヒラな服だな……」


「殿下、お似合いですよ」


「そ、そうか?」


「とても良く似合っております!」


「お前も良く似合っているぞ」


「あ、ありがたきお言葉!」


 カリノスは片膝をつき頭を下げる。


「頭を下げんでも良い、事実を言ったまでだ」


 立ち振る舞いは皇女だったときと同じで、全てが上から目線。里理は横目で見ながらコーヒーを飲んでいた。


「里理さん、先ずは日本語を教えないといけませんね!」


 理恵は元気一杯に言う。里理は二人から目線を戻して理恵を見た。


「理恵ちゃんはお人好しだからな……カッチャンの口車に乗せられちゃうんだもん……どうするの? バイトの子は……」


「や、雇いますよ……」


 元気一杯だった理恵は、直ぐに表情を曇らせ唇を尖らせる。


「バイトの子にお守りさせるのは無理だから……二人で交代をしながらやらなきゃ……だね」


 里理は溜め息を吐いてコーヒーを口にする。


 ロミールはコーヒーを飲んでいる里理を見て質問をする。


「おい! お前……。その飲み物は何だ?」


 里理は横目でチラリとロミールを見る。だが、そのままシカトして再びコーヒーを口にする。


「お前! 殿下の質問に答えろ!」


 カリノスが凄みを利かせて言うが、里理は動じない。


「君達、その格好で凄んでも迫力が足りないよ。それに、ロミールちゃんは既に、皇女では無いんでしょ? 威張って言われても困るだけだし、雇い主に対する口の利き方では無いね」


 そう言ってコーヒーを口にする。


「あわわ……さ、里理さん……!」


「動揺しすぎだよ、どんなに暴力を振ってこようが、理恵ちゃんに敵うはずはないんだから……。君はどんな格闘家が来ても、叩きのめせる力があるのを忘れているのかい?」


「そ、そんな大袈裟な……」


 理恵が照れていると、カリノスが里理の肩を掴む。だが、カリノスはどんなに強く引っ張っても里理を動かすことが出来なかった。


「これがテコでも動かないってやつかな?」


 里理は笑いながら言ってコーヒーカップを置く。そして、カリノスのお腹に肘内をして、カリノスはお腹を押さえ崩れ落ちる。


「ガハッ! ……ウ、ウェ……」


「カリノス!!」


 ロミールは駆け寄りカリノスは悶え苦しむ。


「私は理恵ちゃんと違って優しくないよ、言葉と態度に気を付けなさい……。貴女達は既に一般人、誇りを持って生きるのは良いけど所詮それは過去の物……それを忘れないことね」


 里理は再びコーヒーを口にする。


「き、貴様!!」


 ロミールは里理を睨み付ける。


「貴様じゃなく、里理さん……もしくは副店長でしょ? 貴女はバカなの?」


 里理がバカにしたように言う。ロミールは悔しそうな表情で里理を睨んでいた。


「さて、ブレイクタイムは終わりにして……仕事でも始めるかな……」


 里理は立ち上り、足を引き摺りながらカウンターの奥へと歩いていく。


「あ、足が悪いのか……」


 ロミールは里理の後ろ姿を見ながら言う。


「貴女達には関係ないでしょ? 私の手足になりながら働きなさい。先ずはその子が吐き出した嘔吐物を掃除してよ」


 里理は振り返り、冷たい目でロミールを見ながら言う。


「クッ……」


「もう……里理さんたら……。ロミールさん、改めて自己紹介をさせていただきます。私はこのお店を管理している……えっと……主って言えば良いのかな? えっと、成田理恵と言います……。宜しくお願いします」


 理恵は優しく微笑み、手を差し伸べる。


「あ……よ、宜しく……。私はロミール=ラスベルだ……よきに計らえ……」


 ロミールは胸を張って言う。理恵は苦笑いをして差し伸べた手を引っ込める。


「そ、それじゃあ……先ずは掃除を始めてくれますか? 道具はこっちにありますので……」


「掃除? 私がか?」


 ロミールは首を傾げながら言う。


「貴女以外に誰がいると言うの? 貴女は皇女では無いって言ったでしょ……働きなさい」


 カウンターの中で掃除をしている里理が言う。ロミールは里理がいる方を見て睨む。


「仕事は徐々に覚えていけば良いですから……。あ、アハハは……」


 理恵は苦笑いをしてフロアに出て嘔吐物の掃除を始める。


「理恵ちゃん、甘やかしてはダメだよ! こう言った相手はとことん理解させないといけないんだから!」


「そう言っても……そろそろお店を空ける時間だし……」


「理恵ちゃんは優しすぎるよ……」


「ごめんなさい……」


「それが良いところだから謝らないの!」


「は、はい……」


 理恵は少し落ち込みながら掃除をして、カリノスを起き上がらせる。


「大丈夫ですか?」


「さ、触るな! 自分で起き上がれる。ゆ、油断をしただけだ……」


「油断……ね……」


 里理は小さく呟いた。


 掃除が終わり、理恵は音楽を流しクローズの札をオープンに替えて店を開ける。


 音楽が流れ出すと、カリノスとロミールは辺りを見渡す。


「ど、何処に人が隠れているんだ……」


 カリノスはロミールを守るように前に立ちはだかり、警戒をする。


「バカか……。機械から音楽を流しているんだよ、田舎者」


「き、キカイ? イナカモノ?」


 ロミールは怪訝な顔をする。


「音は彼処から出てるの! 田舎者はあんた達みたいな世間知らずを指していってるんだよ、バーカ」


 里理はコップを拭く手を止めてスピーカーを指差して言う。


「で、殿下に向かってなんと言う口の利き方を!」


 カリノスは自分の腰を触り、剣を探すがそんなものはある筈はなく、里理は知らん顔してコップを拭き始める。


「そんな顔をしないで下さい。徐々に覚えていけば良いのですから……。先ずは椅子に座って日本語の勉強をしましょう!」


 理恵は紙とペンを取り出し平仮名を書いていく。


「な、何だ、その暗号は……」


 カリノスは平仮名を見て言うと、理恵が説明をする。


「これは日本の文字です。平仮名と言います。初歩中の初歩、基本と言うやつですね」


「こ、この文字が基本だと……!」


 ロミールは衝撃を受けた顔をしており、理恵は親切丁寧に教えていく。


 時間は経ち、昼になるまで客は来なかった。


「本当にここは店なのか? 客が来ないではないか」


 ロミールは周りを見渡しながら理恵に言う。


「し、仕方ないですよ……今日は平日ですし……皆、仕事をしていますから……」


 理恵は涙目になりながら言うと、店の扉が開いた。


「いや~、人使いが荒いんですから……全く」


 店に入ってきたのは人間に化けた魔王だった。


「いらっしゃいませ、魔王さん」


 理恵はパタパタ音を立てて席へ案内する。


「あ、いつものお願いしますね。あれ? 克己さんは? 呼ばれてやって来たのに……」


「そろそろ来ると思いますよ」


 理恵は笑顔で答え、里理にオーダーを言う。


「最近、城へ帰ってないから書類が溜まっているんですよね……明日は休んで書類の整理をしないと……」


 魔王はスマホを見ながらブツブツ言い、ロミールとカリノスは首を傾げる。


「おい、あの者は何を言っているのだ?」


 ロミールは里理に質問する。


「オイ……じゃないだろ、里理さんと呼ぶか、副店長と呼べ。言うまであんたの昼飯は無しだよ」


「な、何だと!」


「殿下、私のお昼をお食べください」


「あんたも無しに決まっているじゃない。そうやってロミールにあげることは目に見えているのよ」


 二人は衝撃を受けた顔をして里理を見る。


「文句があるなら、里理さん、又は副店長と呼びなさい!」


 里理はそう言って食事を作り始め、二人はそれを食い入るように見ていた。


「貴女、元皇女でしょ? プライドは無いの? そんな卑しい顔して見ないでよ」


「い、言わせておけば……」


 カリノスはワナワナして里理を睨む。


「文句があるなら言いなさいよ。私は間違っていない!」


 里理はそう言って魔王が注文した物を理恵に渡し、理恵は運んでいく。


「お待たせ致しました~」


「随分様になってきましたね。あとは客だけですかね」


 魔王が理恵に言うと、理恵は沈んだ顔をする。


「あ、い、いや、そ、そういう意味じゃないですよ! 今日からバイトも来るんでしょ!」


 魔王は慌てて話を変える。


「はい、もう少ししたらやって来る予定です」


「良い人が入ってくると良いですね~……」


 魔王は先程の話を無かったことにして話を終わらせると、克己が来店する。


「あ! 克己さん! いらっしゃいませ!」


「やあ、理恵。調子はどうだい?」


 克己は理恵に近寄り挨拶をする。


「いらっしゃい、カッチャン」


「やあ、里理ちゃん。二人の相手は大変そうだね」


「まぁね、田舎娘の相手は疲れるよ……」


 里理は日本語で言う。二人はキョトンっとして克己と里理を交互に見ていた。


「おい、成田! こいつが昼を出さんと言っている。どうにかしろ」


 カリノスが克己を睨みながら言う。


「そりゃ無理だよ。二人が我が儘言っているからくれないんじゃないのか?」


「その通りだよ。そいつが私達を呼び捨てにするんだ。序列を思い知らせないといけない」


「成る程ね……ロミール、ここは彼女たちの仕事場だ……だから彼女たちが言う事が全てだよ。彼女が食事抜きと言うなら、食事抜きなんだよ」


 二人は絶望的な顔して克己を見る。


「そんなに食べたかったら買えばいいじゃないか。そしたら作ってやるよ」


 里理が言うと、二人は納得した顔をする。


「そうだな、では売ってくれるか」


 ロミールが言うと、里理は真顔で聞き返す。


「ところで……貴女達はお金を持っているの?」


 ロミールはカリノスを見て、カリノスはロミールを見る。


「で、殿下はお持ちではないのですか?」


「持っているはずないだろ! お前は持っていないのか!」


「持っているはずないじゃないですか! ど、どうするんですか! 殿下」


 カリノスが泣きそうな目でロミールを見ると、ロミールは克己に何かを訴えかけるように見た。だが、克己は魔王と何かを話しており、二人の事は既に忘れているようだった。


 それを見たロミールは決断する……。


「里理さん……お許しください……」


 屈したのだった……。

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