145話 出発!!
空は雲が覆い、人々は外出を避け始めたのか人が少なくなっていた。二人はそろそろ時間だと言う事でギルドへ戻ると、アルスはジュースを飲みながら待っていた。
「あ、お待ちしておりました。この後はどういたしますか? このまま旅立たれますか?」
二人はアルスの話より、飲んでいるジュースが気になり凝視する。
「ん? どうかいたしまし……? これですか? 飲まれます?」
二人は顔を見合わせたあとに頷いた。
二人は席に座り、アルスはジュースを頼みに席を立つ。
「北村さん……アルスさんが言う様に、この後はどうしますか?」
北村は少し考える。少女の母親が受けた毒はどの位危ないのかが分からない。毒と言うのだから、早く採取しに行った方が良いと判断する。
「ジュースを飲んだらすぐに出て、距離を稼ごう……母親に残された時間は少ないかも知れないから」
「そ、そうですね……」
二人が予定を決めるとアルスがジュースを持って戻ってくる。
「同じもので良いのか分かりませんが……」
アルスは自分が飲んでいた物と同じジュースを持ってきた。
「あ! ありがとうございます!」
「ありがとうございます……」
北村は嬉しそうに言うが、有川は取り敢えずお礼を言っておこう的にお礼を言った。
「いえ、構いません。それで……予定はどうなっておりますか?」
「少し休憩してから出発をしたいと思います」
「分かりました」
北村が言うとアルスが返事する。
二人がジュースを美味しそうに飲み始めると、外からポツポツと音が聞こえ始める。
「あ……。雨が降り始めたようですね」
アルスが外を眺めながら二人に言うと、北村が慌てて外を確認しに行く。
「あちゃ~……」
北村は頭を掻きながら椅子へと戻ってくる。
「残念ですが、出発は明日にしましょう……」
北村は椅子に座るとアルスに向かって言う。アルスは動きをピタリと止め、北村の顔を見る。
「中止……ですか?」
「はい、雨が降ってきているので……」
「雨で……中止するのですか……成る程……」
アルスは呆れたような声を出しながらジュースに口を付ける。
「な、何が言いたいんですか……」
有川がアルスの態度に喰いつく。
「別に……中止するんだと思ったので言ったまでです……。それが何か?」
「別に? いちいち口に出さない頂けます? 関与しないんでしょ……」
「そうですね……申し訳ありません……」
アルスは無表情でジュースを飲み干し、黙り込む。
「睦月ちゃん、言い方に気を付けなさい。アルスさんは心配をしてくれてるんだから」
「この人は自分から好きにしろと言ったんですよ!」
「だからってそう言う言い方をしてたら、信用できなくなっちゃうよ?」
北村の言葉に有川は黙り込む。
二人はジュースを飲み干し、アルスは二人のコップをカウンターへと持っていく。
アルスは何も喋らず椅子に座った。
三人の空気は気まずくなり、北村は不安を覚える。
「取り敢えず宿屋に一泊しましょう……明日の朝、急いで出発をして距離を稼ぎ、先を急ぐことにしましょう」
北村は立ち上がると、有川は返事をして立ち上がる。そしてアルスは黙って立ち上がった。
宿屋へ到着するとアルスが受け付けでお金を払い、三人は部屋へと案内される。
「部屋は一人ひとり取っておりますので、一人でゆっくり休むことができます……」
アルスはそれだけを言い残して、自分達があてがわれた部屋へと入っていく。北村は少し困った顔をして自分があてがわれた部屋に入り、明日の予定を相談するためアルスの部屋を訪ねた。
「少し相談させてもらっても宜しいですか?」
「いえ、お二人で考えて下さい」
アルスは少しだけ部屋の扉を開けて言い放ち、直ぐに扉を閉めた。北村は唖然として立ち尽くす。
「あ、アルスさん!! お、お話だけでも!!」
北村は我に返り扉を叩く。
「お断りします。主人をけなされ、我が儘を言っている貴女方のお遊びに付き合っているだけでも感謝して下さい。相談するなら有川さんと話をして下さい」
扉越しに聞こえるアルスの声。北村はそれでも扉を叩く。
「あ、アルスさん! 私が代わりに謝りますから……お願いします!!」
「そう言った問題ではありません。冒険ごっこを楽しんでください。私は疲れているんで先にお休みさせて頂きます。明日だって早いんでしょ? 北村さんも早く休んだ方が良いですよ」
扉越しに感じるアルスの気配が無くなったように北村は感じ、諦めて自分の部屋へと戻って行く。アルスは溜め息を吐き、袋から地図を出して眺めていた。
北村は少しだけ睡眠を取り、目を覚ましてから食事へ行く。食堂では有川が座っており、先に食事をしていた。
「北村さん……ここの食事はあまり美味しくありませんね……」
有川は北村に気が付き、苦笑いをしながら言う。
「というか、この世界の食事はそこまで美味しい物は無いわね……アルスさんが買ってくれたジュースだけが美味しかった」
「そうですね……早く文字を覚えないといけませんね……」
北村は食事を受け取り、有川の前に座る。そして食事を始めると、有川が言う様にあまり美味しくは無かった。暫くすると、アルスがやってきて、店の人から食事を受け取り二人とは少し離れた場所に座る。そして袋から調味料を取り出してかけてから食べ始めた。北村と有川はそれを見つめており、アルスは横目で二人をチラリと見て、無言で二人に調味料を渡した。
「多少はマシなりますからお使いください」
アルスは素っ気なく渡し、食事を再開させる。
「あ、ありがとうございます……」
北村はお礼を言って調味料をかけると、有川もかけて食べ始める。
「む、睦月ちゃん……明日の朝なんだけど……6時起きで出かけようかと思うんだ……」
「は、早くないですか?」
「今日進めなかった分、明日取り戻さないといけないから……」
北村が言うと、有川は「う~」と唸って渋々頷く。
「ちなみに……明日も雨が降ったらどうするのですか? 今日みたいに中止にするのですか?」
アルスが横目で見て、冷たい声で言う。
「い、いえ……明日は何が起ころうとも出発をしたいと思います……」
「え~!! 濡れちゃいますよ~……雨が降ったらもう一泊しましょうよ~」
北村の提案に有川が異議を唱えた。
「いや、少女の母親が何時までもつか分からない……だから明日の朝には出発したい」
北村の言葉に有川は唇を尖らせ了承し、アルスは食器を片して部屋へ行こうとする。
「明日の朝6時に宿屋の前で待っていれば宜しいですよね……」
アルスはそう言うと、北村は嬉しそうに返事し、アルスは部屋へと戻って行く。
部屋へ戻ったアルスはメモ帳を取り出し、何かを書きこみだした。暫くしてそれを袋に仕舞い、今度は目覚まし時計を取り出してタイマーをセットする。そして体や顔を拭いてベッドに寝そべり、克己の写真を見てから就寝した。
北村は顔を洗い、髪の毛を湯浴みしてから就寝につき、有川は体を拭いてから顔を洗い、髪の毛を湯浴みさせてから就寝した。
翌朝になり、北村は眠いのを我慢して宿屋の前に行くと、既にアルスが待っていた。
「おはようございます。本日も生憎の雨です……」
アルスが空を見上げ、合羽を羽織っていた。
「これは北村さんの分、こちらが有川さんの分です……私からの物は受け取らないかと思いますので北村さんから渡してもらっても宜しいですか?」
アルスは悲しそうに微笑み、北村に合羽を差し出す。
「す、すいません……雨具を用意しておりませんでした……」
「気にする事はありませんよ……私も言われなければ準備をしていませんでしたから」
「そ、そうですか……」
北村はアルスから受け取った合羽を羽織り、有川を待つ事にする。アルスは時計を見ると、すでに時間は6時半に差し掛かっていた。
「遅いですね……」
北村が呟くと、アルスはチラリと北村を見る。だが何も喋ろうとはしなかった。
それから30分程が過ぎ、北村がいい加減呼びに行こうとすると、有川が慌ててやって来た。
「お、遅くなりました!! ね、寝癖が直らなくって……」
「もう! 一時間の遅刻だよ! これを着たら出発するから早く準備して」
「お? 合羽じゃないですか!! 流石北村さんですね! ありがとうございます!」
有川は北村にお礼を言うと、急いで合羽を着始める。北村は申し訳そうにアルスを見るが、アルスはずっと空を見上げていた。
「準備ができました。さぁ! 出発をしましょう!」
有川が先頭を歩き、北村がその後に続く。アルスは溜め息を一つ吐いて二人の後を追いかけて行った。
村を出て直ぐに魔物が現れる。アルスは何もせず、そして何も言わずに見ているだけで、二人は戸惑いアルスを確認する。
「あ、アルスさん……」
「早く倒したら如何ですか?」
北村が助言を求めると、アルスは突き放すように二人に言い放つ。
「な、何ですかその言い方は!!」
有川がアルスを睨みつける。
「戦闘は何度も行っております。いちいち私に聞かなくとも倒せるでしょう。克己様の武器があるのですから」
アルスは遠回しに二人でどうにかしろという。仕方なしに北村は鋼の剣を取りだし構える。有川もアックスを取り出して構える。
「はぁぁぁ……」
北村は駆け出し魔物に斬りかかると魔物は北村の攻撃を避けて反撃に出る。しかし、アルスは全く動く気は無いようで、立ち尽くし、ただ二人の動きを見ていた。
北村をフォローするため有川はアックスで攻撃を仕掛けるが、カウンターで攻撃を受ける。
「ガハッ!! こなくそ!!」
有川は倒れずに堪え、アックスを振り回す。
魔物は攻撃を避けると北村に一撃を加え、アルスに攻撃を仕掛けに行こうとする。駆け寄る魔物にアルスは目にも止まらぬ速さで魔物を細切れにし、魔物は空中に拡散した。地面に落ちたコアをアルスは拾い上げ、二人を見る。
二人は自分達が手も足もでなかった相手を、あっという間に倒してしまったアルスを見つめ、二人は茫然としていた。
「先を急ぎますよ……」
そう言うとアルスは歩き始め、二人は慌ててアルスの後を追いかけていったのだった。




