140話 混沌とする日本!!
日本は今までどのように世界と付き合っていたのかを忘れてしまっていた。
株価は下落し7,500円まで落ち、円は65円となり、戦後最大の円高となった。
日本は不景気から抜け出すためにあらゆる手を考えるが、抜け出すことはできず下げた消費税を上げるという方法を採ろうとしていた……。
そして、最後の希望として克己を国会に召集して決めると事になったのだ。結果、克己はしつこい国会召集に応じる事にした。
「三度ここに立とは……」
克己は国会の天井を見つめる。
『成田氏はどうして異世界の門を開けようとはしないのだ! こちらはこんなにも頭を下げているのに!!』
「質問ですが、それのどこが頭を下げているというのですか? それに、何であそこに足を踏み入れたのでしょうか……それを教えて頂きたい」
織が呼ばれてどや顔で言う。
「我々の友好国を招待して何が悪い……異世界は我々と友好を結んでいるではないか……」
「確かに結んでおります。ですが、彼方方はあの契約書をしっかりと読まれたのでしょうか?」
「勿論。読ませてもらい、理解しているよ……君の友人である我々と友好を結びたいと……君の友人である我々を怒らせた場合は全ての契約は破棄と書かれていたはずだ……。我々とは彼らを差している言葉であり、日本を差している言葉でない。日本は彼らを怒らせたつもりはない。勝手に君が怒り、扉を閉めただけだ!!」
「ほほう……しっかりと理解をしているようには聞こえなかったですね……ここに、現地人がいます……彼女に読んで頂きましょう……」
克己はそう言ってアルスを呼ぶ。アルスは緊張した表情で克己の横に立つと、堂々と条約書を読み始める。そして皆が一番重要としている破棄の部分を読み始めると、克己を除く全員が顔を青ざめさせる。アルスが読んだ文章は……。
「なお、友人の克己を怒らせた場合は、全ての契約を破棄し、我々は日本に対して宣戦布告する事を宣言する。これは克己の号令があり次第、決行するものとする……」
アルスは笑顔で宣戦布告をしたのであった……。
「な、ど、どういう事だ!!」
「どういうこと? これに書かれている全文ですよ……ほら、ここにサインをされてますよね? 内閣総理大臣の文字が掛かれておりますよね? どうですかね? 書類のコピーは全員にお配りしておりますが……。分かりますか? 私の一言で戦争が起きるんですよ……平和ボケしている日本人……。憲法九条が世界を救うってほざいてる政治家!! これが現実だよ!! 扉の前には沢山の騎士団がいるだけだと思っているのか? 甘いよ、魔物だって侵略したいんだよ……新しい土地が欲しいに決まっている!」
「き、貴様だって日本人だろうに!!」
「そうですよ……日本人です。ですがね、俺には彼らを守る権利がある。発見したからには彼らを守る義務がある!! そうでしょ! 彼らが住んでいる場所を奪う権利はないでしょ! それに、これに書かれている通り、契約は破棄だ!! 俺は日本国と契約を結ぶつもりは無い! 一般企業となら契約を結んでやるよ……その方が向こうの利益になるからね……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
「待つ? 幾らでも待ってあげますよ……。扉を開いてほしければ、異世界に関してすべて私の言う事に従ってもらう……。これが呑めるのなら、直ぐにでも以前の状態に戻してあげますよ」
克己はそう言って全ての話を終わらせた。
国会は騒然となり、国民は猛反発をする。
テレビの街頭インタビューでは……。
『何様のつもり? 自分が王様にでもなったつもりなの! 異世界なんかには頼らないわよ!』
『まじで神にでもなったつもりかよ……最低だな』
『あれが独裁と言うんですよ……』
『攻めれるものなら攻めて見なさいよ!!』
などなど、克己は日本国民から批判されていた。
当の本人は……。
「と、日本の国会で言ってきた」
克己は謁見の間で椅子に座って話をする。毎回、魔王城へ行くと豪勢なもてなしをされるというので、渋々侍女達は克己に椅子だけ用意するのだった。
「ふむ……それは任せるが……お主は大丈夫なのか?」
「何が?」
「日本中がお前の敵になっておるだろう?」
「なってるね」
「それは大丈夫なのか? 祖国であろう……」
「大丈夫かと聞かれたら……少しは堪えるけど、ここを悪いようにするのは間違いでしょ?」
「そう言ってくれるのはありがたいが……」
「大丈夫だよ、向こうが折れるから」
克己がそう話すと、王はお前に任せると言って話は終わった。克己は家へと戻り、アルス達に心配されるが、同じように答え皆に微笑みかける。
克己に生放送のオファーが舞い込んでくる。それは討論番組で、普段であれば克己は断るのだが、その時は何故か受ける事になった。理恵は克己に質問するが、全てが上手くいくと言って頭を撫でられるだけだった。
そして生放送の討論番組が始まる。討論には各党の代表が参加しており一斉に克己を攻撃し始める。
克己はのらりくらりと攻撃を交わし、皆は苛立ちを覚え始める。
「貴方は何故、日本のためにしようとは思わないのですか! どれだけの会社等が潰れているか知っているんですか!」
民明党の枝尾がテーブルを強く叩きながら言う。民明党とは、選挙で大敗し、党の解散を余儀なくされ、新に作り直した党である。
「なら……何故、当時の総理があんな暴挙に出たんですか? あんな事しなければ日本はそのまま資源大国だったじゃないですか?」
「そ、それは……日本は日本人だけの物ではない!」
「ちょっと待ってくださいよ、そりゃどういう意味ですか? あんたは今さっき俺になんと言ったんですか? 日本のためにって言ったのに、日本は日本人だけの物ではないと……。俺は日本人ですから、日本人のためにだけ行動しま……あ、ちょっとまってください……HELLO……」
克己は生放送だと言うのに携帯で話し始め、周りは騒然とする。
暫く話をして克己は電話を切ると、不敵な笑みを浮かべる。
「いや~、申し訳ない。どうやって調べたのか知らないが、アメリカから電話が掛かってきましたよ」
「アメリカから?」
スタジオ内はざわめきに包まれる。
「アメリカは要求を呑むそうですよ?」
克己が携帯を見せながら枝尾に言う。スタジオは混乱に包まれた。
「よ、要求を呑むと言うのは……」
仮民党の福田二図子が動揺を隠せず質問をする。
「アメリカは異世界について俺に任せるそうです。だからアメリカに移住してほしいと大統領からの電話ですよ……。アメリカも資源には困っていますからね……。昨晩はロシア、一昨日はフランス……各国が要求を呑むと仰有っていますよ。どうするんですか? 皆さんは……。先に言っておきますが、土地を取り上げても無駄ですからね? 俺は開け閉めができるんですから」
「あ、開け閉めとは?」
政治評論家の田中田が質問する。
「皆さん勘違いされているようですが、現在、異世界の入り口は消滅しているんですよ?」
「な、なんだと!」
「これ以上はお話をしませんが、取り上げたくても入り口はありませんよ……自宅以外の土地は売ってあげても構いませんよ?」
「で、では……どうやって異世界へと……」
「そりゃ、国家の機密機関でも使って調べたら如何ですか? 教える気は更々ありませんよ……約束を守らない人達とは」
「君はどうやって……」
「教えないって言ってるじゃん。しつこいよ?」
意外な言葉を聞いてざわめく中、討論は終了したのだった。
翌日のニュースや新聞の一面では、討論番組で克己が言った異世界への道が閉ざされたとの記事が報道される。日本経済並びに国民は再び混乱に包まれ、希望が無くなってしまうのを感じる。
再び株価は下落を始める。世界は資源のない日本に求めるものはなくなっていた。政府は何も手を打つことは出来ず、経済の回復の兆しは全く無かった。再び国民は異世界に、克己に期待する。そして遂に政府は克己の要求を呑み込んだのだ。




