137話 少女の帰還!!
国民は再び異世界の扉が開くことを期待する。それは現在の総理である喜多村総理の腕前に……だが、克己との話し合いは行われず、どうやって克己から異世界を取り上げるかと言う事で議論をしていた。
しかし、どう考えても作戦は浮かばなかった。そして再び克己を国会に召集しようという話になるのだが、克己が話す余地は無し! と言って断り、話は頓挫してしまう。
国民の願いは叶わず、再び消費税を上げるかどうかの議論が開始される。これに国民は猛反発する。それはそうだ、今まで受けていた恩恵を全て台無しにされてしまったのだから……。
これにより、円は一気に上昇し、株価は右肩急降下。完全に日本は世界から見放されるという形になり、完全に暗黒の時代が到来したのだった。
前回の克己ショックでかなりの企業が追い込まれたが、ギリギリのとこで踏み止まった企業は多く、なんとか事なき得た。だが、今回に関しては、扉が閉じられるという非常事態である。踏みとどまった企業は一気に追い込まれ、潰れて行く。
国民の眼は克己に向けられるのだが、その克己はダンマリを決め込んでいるため、救いの余地はなかった。そして半年が過ぎ、少女がパルコの街へと帰ってくる。
「やっと帰って来れた……大体10か月かな? ……皆は元気だろうか……」
少女は街を歩くが日本人の姿が見えない。
「あ、あれ? ど、どうなっているの? 日本人は?」
幾ら街を見渡しても日本人の姿は無く、少女は困惑する。そして、少女は目的地に到着する……。
「ドキドキするな……」
少女はドアを開けようとすると、ドアは先に開かれ、少女の顔面にドアがぶつかる。
「ぐわっ!!」
少女は尻餅をつき顔を押さえる。扉を開けた男は慌てて倒れた少女に駆け寄る。
「ご、ごめん! 大丈夫で……あ、アルス?」
「いたたたた……手洗い歓迎ですよ……克己様……」
「アルス!! アルス!!」
扉を開けたのは克己であり、ぶつかった少女はアルスであった。克己はアルスに飛びついて抱きしめる。
「お帰りアルス!! 疲れただろ、大変だっただろ!!」
「か、克己様……苦しいですよ……」
克己は慌てて抱きしめていた手を放しアルスの顔を見る。
「随分とボロボロになりやがって……」
「ただいま戻りました……」
「目的は果たせたのか?」
「はい……父と母の敵はこの手で討って参りました……」
「そうか……そうか……」
「か、克己様……」
アルスは目を瞑る……克己はその唇にキスをした。
「また、奥様に悪いことをしてしまいました……」
「構いませんよ……」
克己の後ろから声が聞こえた。
アルスはユックリと顔をずらすと、理恵が後ろに立っていた。
「お帰り、アルスさん……」
理恵は嬉しそうに微笑み、アルスを抱きしめる。
「お、奥様……奥様……アルスは戻って参りました……!!」
アルスは理恵を抱きしめ泣き始める。
「うん、良かった……無事で……アルスさんお帰りなさい……皆あなたを心配してたわよ」
アルスは大声を上げて泣き、克己はその頭を撫でてあげた。
「ほら、アルス……家に入ってお風呂に入り、ゆっくりすると良い」
声ともならない声で、アルスは返事をして立ち上がる。
「アルスは克己様と……奥様を片時も忘れた事は有りません……グス……」
「俺達もだよ……良かった。無事で……毎日心配してた……本当に良かった……」
克己はそう言って家の中に連れて行き、お風呂場へと連れて行く。
「ほら、ゆっくり浸かってくると良い」
「はい……克己様」
アルスは脱衣場へと入り、服を脱ぎ始める。
克己はリビングへと戻りライラに全員を招集させる。全員は慌ててリビングへと集まり、克己がアルスの帰還を報告すると、全員はホッとした顔して床に座り込んだ。
「本当に心配させる奴だよ……」
ノエル達は声を揃えてそう言って涙を流しながら喜ぶ。
「克己様……今、アルスはどこにおられるのでしょうか?」
ハミルが言うと、克己はお風呂だと答える。そしてハミルは慌ててお風呂へと向かいアルスの胸に飛び込んだ。
「ハミル……帰って来たよ。ありがとう……」
「心配したのよ……ずっと心配した! あなたが奥様をって言うからずっと奥様を守り続けてきたわ! 克己様もずっとあなたを心配していた! もう克己様を心配掛けさせないで!!」
「うん、分かってる……ありがとう……ありがとうね……ハミル……うぅ……」
二人は抱き合いながら涙を流していた。
暫くしてアルスはお風呂から上がり、自分の部屋から服を取り出して着替えると、克己がいると思われるリビングへと向かった。
アルスの想像通り、克己はリビングの椅子に座っていたが、PCを弄っている訳でもなく座っており。違和感を覚える。
「か、克己様? どうされたのですか?」
「体は大丈夫か?」
「は、はい……問題ありません……」
「そうか……良かった……おいで、アルス……」
アルスは小さく微笑み克己の横に……いつもの定位置に座る。
「お前がいない間の記録は取ってある……」
「かしこまりました……確認させて頂きます……」
「一つだけ言っておく。ここの世界に日本人はいない……」
「かしこまりました……」
アルスは真剣な目で正面を見つめる。
「今日は休め……明日から大変だぞ……」
「もう一度……」
アルスは目を閉じる。克己は再びアルスにキスをした。
「私は幸せ者です……ご主人である克己様に愛され、奥様にも、仲間たちにも愛されている……うぅ……嬉しいです……。嬉しいです! 克己様ぁ……」
アルスは泣き始め両手で顔を隠す。
「俺も嬉しい……お前が無事に戻ってきてくれて……」
克己は肩を抱き寄せ、アルスは嬉しそうに泣きじゃくる。
そして暫くすると、アルスは寝息をたて始めた……。
克己はアルスを抱っこして自分の部屋へと連れて行き、布団に寝かせてあげると、理恵がドアの隙間から覗き込んでおり、小さい声で呟いた。
「誰も寝かせてはダメだって言ったのに……」
克己は声を上げて驚きそうになったが、何とか堪え、理恵の方を向く。
「冗談ですよ……ぐっすり眠ってますね……幸せそうです……」
「あぁ……良かった。本当に良かった……。アルスが戻ってきてくれて……理恵は俺の傍から離れてはダメだよ? 俺は泣いちゃうから」
「私はいなくなりませんよ……克己さんの傍にずっといます……克己さんこそ……私を置いて行かないで下さいね」
「理恵……愛してる……」
「私だって……愛してます……」
克己は理恵の肩を抱き寄せ、理恵は克己の腰に手を回し嬉しそうな顔をしていた。
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「こ、ここは……克己様の部屋?」
「おはよう……アルス」
アルスが声をした方を見ると、克己と理恵が椅子に座ってアルスを見ていた。
「お、おはようございます……克己様……」
「ほら、着替えて来いよ……いつものように俺の傍にいろ」
「い、良いのですか? 私は一年近くも一緒に居なかったんですよ?」
「良いんですよ、アルスさん……」
「お、奥様……なぜそんなにお優しいのですか……?」
「あなたが好きだからですよ……。あなたは私を最後まで信じてくれた……」
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そしてアルスは目を覚ます。周りを見渡すと、右には克己が寝ており、左には理恵がアルスを抱きしめるように眠っていた。
「奥様……克己様……アルスはお二人を愛しております……」
そう言ってアルスは再び目を瞑って眠ろうとする……。
「ばーか、それは俺達だって同じだよ……だから早く寝て明日からまた一緒に出掛けるぞ。いつものように隣に立ってろ」
「克己様……」
「そうですよ、アルスさん……克己さんをお守りくださいね……」
「奥様……アルスは再び目を覚ましたらお二人のために頑張ります……ですから……今だけはこうして私を抱きしめていて下さい……」
「あたり前だ……お前は俺の物なんだから」
「アルスさんは私の恩人です……あなたが思うままに生きて下さい」
アルスは小さい声でお礼を言って、再び二人の温もりを感じながら眠りについた。




