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番外編 アルスの冒険録⑤

 皆が目を覚ますと再び辺りは暗くなっていた。


「ギルファート……いい加減にしろ……。何でお前は火の番をする事が出来ないんだ」


「これが……アルスの魔法道具がおかしいんだ。俺は悪くない」


 時計を手に取り地面に叩き付けて破壊する。ギルファートの行動にソルシアは最低な奴だと心で呟く。アルスは時計を壊された事に対して文句も言わず、カポックがどうするのかを待つ。


「アルス、光を出してくれないか」


「私は協力する必要があるのですか? 食事すら分けて貰えないのに?」


 暗闇で、誰がどこに居るのかも分からない状態でアルスが言う。カポックはヒステリックに叫び、命令をする。


「……次はありませんからね……」


 アルスは懐中電灯を取り出し、明かりを付ける。カポックは松明を拾い、アルスは懐中電灯を仕舞う。


「なんで消すんだ! 松明に火をつけるんだ」


「なら、私にも食料を下さい。それが条件です」


 その言葉にカポックは黙ってしまう。実は、三人とも食料をあまり持ってきてはいなかった。正直、洞窟を舐めていたのだった。


 克己が聞いたらなんと言うだろうかとアルスは思いながら、諦めて火をつけると、カポックは先に進むと言い出す。


「食糧が尽きかけているんですよ! 自殺行為だ! 脱出しましょう」


 ソルシアが言うが、カポックは話を聞かず先に進もうとする。


「脱出魔法は俺しか使えないんだ……黙って俺に付いてこい!」


 茫然とする二人を尻目に、アルスは黙って付いていく。幾度となく戦闘を続け、いい加減武器が壊れてもおかしくない状態になっていた。


 そして、一つの扉が姿を現す。


「こ、ここに宝が……」


 カポックはノブに手を掛け、緊張した声で扉を開ける。中は真っ暗で、何か唸るような声がするだけであった。


 アルスは直ぐに対応できるよう袋に手を突っ込み、武器を手にする。


 扉の前でアルスは立ち止まり、三人は扉の中へ入る。そして、松明をかざし、室内を照らすと巨大な何かがそこにはいた。


 三人は固まり、ユックリと大きな塊を見つめる……すると、大きな塊は動き出す。


『グォォォォォ……!!』


 そこに居たのは地竜……三人は蜘蛛の子を散らすように逃げるのだが、狭い部屋の中……逃げられる場所は決まっている。


 カポックは一か八か攻撃を仕掛けるのだが、その武器は劣化が激しく直ぐに折れてしまう。


「な! お、俺の武器が!!」


 カボックは武器が壊れてしまって茫然と立ち尽くす。だが、ドラゴンにはそんなことは関係なく尻尾でカボックを吹っ飛ばし壁に激突する。


「ぎ、ギルファートさん! ど、ドラゴンを倒して下さい!!」


 ソルシアが叫ぶが、ギルファートは逃げ惑う。


「こ、こんな奴倒せるはず……」


 逃げる途中にドラゴンの攻撃に合い壁まで吹っ飛ばされ激突する。


「グゥ……こ、こんな奴……か、勝てるはず……ない……ガハッ!」


「ギルファートさん!!」


 ドラゴンは次のターゲットをソルシアに決めたようで、体をソルシアの方へ向ける。


「あ、あぁ……。も、もうダメだ……」


 ソルシアは尻餅をついて後退る。そして壁にぶつかり逃げ道がない事に気が付き頭を抱えた。


「全く……。ドラゴンバスターが聞いて呆れますね……。私の知っているドラゴンバスターはどんな相手にも逃げはしませんでしたよ……」


 刃先が無く、白く丸い柄だけの物を握りアルスはゆっくりとドラゴンに近付く。


「あ、アルス……?」


「先ほど思い出しましたが……ギルファートさんが三匹のドラゴンを倒したと言うのは嘘ですね……。ガタラゴス大陸でドラゴンを倒したのは克己様……。こっちに来て間もない頃、倒したと聞いています……」


 余裕を見せているアルスにドラゴンは気が付き、ソルシアからアルスに標的を変える。


「に、逃げて! アルス、逃げて!! こんな化け物に勝てるはずがない! 貴女だけでも逃げて!!」


 ソルシアの叫び声が室内に響き渡る。


「それは困った話ですね……。私はお金が欲しいので大きいコアが必要なんですよ。面倒なことは早く終わらせてパルコに戻って克己様に会いたいんですよ……」


 アルスは困った顔してソルシアを見る。ソルシアはアルスが何を言っているのか分からず茫然として見つめる……そして、ドラゴンはアルスを叩き潰す勢いで前脚を振り落とそうとしていた。


「や、止めてーー!!」


 ソルシアは目の前でアルスが潰されそうになるのを見て叫ぶ……だが……。


「やれやれ……。この程度のドラゴンに私は負けませんよ……」


 アルスが持っていた柄から光る何かが出てきており、振り落としていたはずのドラゴンの脚を斬り落としていた。


「さぁ、生活の礎となれ! ドラゴンよ!」


 アルスはニヤリと笑みを浮かべ、ビームの出力を上げてドラゴンに襲い掛かり斬り刻む。ドラゴンは呆気なく倒され、何が起きているのか理解ができないソルシアは茫然として見つめる。


「やれやれ……。まさかこんな洞窟にドラゴンがいるなんて……困ったものですね」


 アルスはビームサーベルを仕舞い、袋の中からミスリルの剣を取り出す。


「み、ミス……リル?」


 あまり見かけない武器にソルシアは呟く。アルスはミスリルの剣でドラゴンのコアを取り出し、次にドラゴンの死骸を袋の中へしまっていく。これは肉を食べるために回収しているのだった。


「な、何を……」


「何をって……見て分かりませんか? 肉を回収しているんですよ。ドラゴンの肉は美味しいですからね。唐揚げにして食べるのも良し、ステーキにして食べるのも良し……更に……カルパッチョもイケます。毒があるため火を通す必要はあるんですがね」


「か、カラアゲ? す、ステ……?」


「まぁ、取り敢えずこんな場所から出ましょうか……。これで皆さんも自分達の実力が分かった筈ですし……」


「あ、貴女は……一体……」


「私は冒険者……。ある目的がありこの地へ帰って来ました」


「目……的……?」


「大した内容ではありませんよ……ですが、人に言える内容ではありませんから……」


 アルスは苦笑いをして頭を掻いた。


「さぁ、二人を回収して脱出魔法でここから出ますよ」


 二人は倒れているカポックとギルファートに近寄るソルシアは回復魔法を唱え、重たそうにカポックを抱き抱えるのだが、アルスは軽々とギルファートの体を持ち上げる。


 二人を回収してアルスは脱出魔法を唱える。そして、四人は洞窟から脱出するのであった。


 カポックは目を覚まし、体を起き上がらせる。


「こ、ここは……」


「洞窟の外ですよ」


 ソルシアが答える。アルスは夕食を作っており、満天の星の下での食事になりそうだった。


「そ、そうだ!! ど、ドラゴンは!」


「それは……」


「命からがら逃げてきましたよ……。あんな奴に勝てるのは本物もドラゴンバスターか、相当の強者だけです。ギルファートさんは偽者のドラゴンバスターだったみたいですからね」


 アルスがシチューをカポックに差し出す。


「に、逃げれた……のか……」


「二人を回収するのには骨が折れましたが、何とかなりましたね」


 アルスは優しく笑いかけソルシアはアルスを見る。


「あ、アルス……」


 アルスはソルシアにウインクをして話を合わせるように目配せをし、残り二人のシチューを注いで差し出した。


「これで今回の冒険は終了です。早くベッドでゆっくり休みたいですね……」


 そう言って自分の作ったシチューを食べるのだが、自分のイメージした味とは異なっており首を傾げる。


 だが、まだ起きぬギルファートを除き、二人はアルスの作ったシチューを口にして満足した顔をする。食事を終えた二人は疲れた横にして体を休ませ、アルスが不寝番をするのであった。


 翌日、四人は魔法で街に戻り、今後について話し合いを行う。それは……もう一度洞窟にチャレンジするのかどうかという事……。


「本当にドラゴンがいるんだ、俺は下りる……」


 カポックが言うと、ギルファートが同意する。


「私は挑戦しようと思います。お金が必要ですから……」


 アルスの言葉に三人は驚く。


「今まで入った洞窟の中で、それ程難しさを感じませんでしたからね……。皆さんとはここでお別れです。短い期間ですが、ありがとうございました」


 アルスは立ち上がり、軽く会釈してその場から離れて行こうとするのだが……。


「わ、私も挑戦する! ま、待って! アルス」


 ソルシアも立ち上がりアルスを追いかけていく。二人の男は黙って二人を見送る事しかできなかった。


「良いのですか? 洞窟は大変ですよ?」


「貴女が入れば攻略できるんでしょ? 私も冒険者、お金が欲しい! それにレベルだってあげたいし……ダメ?」


 アルスは少し考え、ソルシアに言う。


「なら、私の言うことは守ってくださいね? それが守れるなら……ソルシアさんを守り、必ず洞窟を攻略する事を約束しますよ」


「もちろんだよ!」


 ソルシアは元気よく返事をして、二人は武器と食料を買いに出かける。


 こうしてアルスはお金を稼ぎながら旅を続ける羽目になり、克己の元へ戻るのに時間が掛かるのだった。


 アルスの復讐の旅はまだまだ続く……。

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お仲間(足手纏いな)が増えましたね。
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