132話 生活態度!!
学校が終わり、生徒たちは下校をする。職員室の生徒指導室には雫が椅子に座っていた。
『森田、何でここに呼ばれたか理解をしているのか?』
「わかりません……」
『お前、授業中に携帯をずっと弄っていただろ!! 授業中に携帯を弄るなと何度言えば理解をするんだ!!』
雫は黙って答える事をしなかった。
『取り敢えず反省文を書いて来い!! 明日までにだ!!』
「先生……」
『なんだ!』
「私の兄が誰だかご存知ですか?」
『あ、兄?』
「私の姉が結婚したのは、異世界を発見した成田克己ですよ? そんな事……言って良いんですか?」
『な、成田……克己だと!!』
克己の名前は時折ニュースに出ているため、それなりに知名度は有り、その噂はあまり良い物ではなかった。その多くの理由は妬みが理由であるのだが……。
「先生……義兄に言って先生の存在を消してもらう事だって出来るんですよ? ……私はそんな事をしたくはなぁ……」
先生は唾を飲みこみ、動揺する。
『そ、そんな事……出来るはずないだろ……』
「先生は警察だって義兄に逆らえないというのを知らないのですか?」
先生は冷や汗を流し、目を泳がせる。
『こ、今回は大目に見てやる……次から気を付けろ……』
「は~い……」
雫は馬鹿にしたような声を出して生徒指導室から出て行く。先生は深い溜め息を吐いて項垂れた。
雫は待たせていた友人たちと下校し、これからは学校でデカイ顔ができる、先生も自分には逆らえないと思いながら帰って行く。
職員室では雫の事が問題になっており、職員会議が行われていた。
『最近、森田の態度が問題になっております。授業中だというのにお菓子ばかり食べていたり、携帯をずっと弄っていたりしている……。挙げ句の果てには授業中イヤホンをして雑誌を読んでいる始末……。担任の南田先生、どうにかなりませんか……』
『申し訳ありません……。森田の義兄が……あの成田克己なものですから……言うにも言えない状態なんですよ……』
やはり権力には勝てない……先生は遠回しにそう言う。
丁度そのとき電話が鳴り、保険の先生が電話に出る。
『もしもし……高校ですが……はい……はい……担当の者に代わりますので暫くお待ちいただけますか? ……武富先生、就職に関するお問い合わせで外線3番に電話が入っておりますが……』
呼ばれた先生は舌打ちをして電話を取る。
始めはいつものように適当に電話で話していたが、声色が変化する。
『は、はい! い、いつでも構いません!! な、成田さんがご都合の良い日で構いません!! は、はい……では、宜しくお願いします……』
先生は電話を切ると、怯えた様子で電話を切り振り向く。
『な、な、成田克己が我が校にやって来るって……』
『ちょ、な、何でですか!!』
『き、企業説明を……するって……。こ、断るわけにはいかないだろ……正式な理由で訪問するんだから……』
職員室内は騒然となり、スケジュールの確認をして当日を迎える。
当日の朝、克己が職員室へ訪れ、挨拶をする。
「初めまして、成田克己と言います。宜しくお願いします」
『よ、宜しくお願いします……』
克己はにこやかに挨拶をするが、先生方は顔を引き攣らせる。
「今回ご訪問をさせて頂いたのは……」
克己は会社について説明をして、先生は何事もなく終わる事を祈りながら話を聞いていた。
「で、もしも優秀な生徒がおりましたら、一度面接などをさせて頂けたらと思っております」
克己は説明を終わらせると、先生は早く帰ってほしそうな顔をする。
「如何でしょうか?」
克己がコメントを求めると、先生は苦笑いをして誤魔化す。
「どうか致しましたか?」
『い、いえ……な、成田さんは森田の義兄とお聞きしておりまして……』
「森田? もしかして雫……ですか?」
『ご、ご存知なかったのですか?』
「全く気にしていませんでした……。すいません。義妹がご迷惑をお掛けしておりませんか? 大丈夫ですか?」
『い、いえ……も、問題なんて……あは、あははは……』
「先生……嘘を仰っていませんか?」
克己は異常な同様に疑いを持ち、先生を問い詰める事にした。皆は無理やり職員室の先生方を空いている教室に詰め込み、克己は教壇に立つ。
「先生方、何を怯えているのか分かりませんが、はっきり言って下さい……私の義妹がご迷惑をお掛けしているのでしょう? 正直に話すまで、ここから逃がすことはありません」
先生達は困った顔をして顔を見渡す。
「さぁ……言うなら今です……何を恐れているのですか? ハッキリと言って下さい……ハミル……理恵を連れて来い」
「かしこまりました」
ハミルはそう言うと、先生方の前から姿を消して皆を驚かす。
『な、成田さん……ほ、本当に……言っても構わないのですか?』
「構いません、彼女の授業態度を教えて下さい! 私は義兄です。間違った事をしているなら叱るのも義兄の使命だと思っております」
『じ、実は……』
先生が言いかけると、ハミルが理恵を連れてきた。
再び先生方は驚くのであった。
「驚かして申し訳ありません。続けて下さい」
克己が言うと、先生たちは今までの不満を克己にぶつける。
理恵は恥ずかしくなり、顔を隠す。
「分かりました……先生、私の義妹が大変ご迷惑をお掛けして……大丈夫です、携帯は破壊します……。暫く彼女の行動を観察させて頂きます。そして、説教をさせて下さい! それで宜しいでしょうか……」
先生方は頷くしか方法が無く、克己から解放さる事となった。
『しかし……携帯を破壊するというが、どうやって破壊をするのだろうか……』
先生の一人が呟きながら職員室へ戻って行ったのであった。
克己達は家に帰り、理恵は憤慨する。
「すぐに雫を呼び出し、とっちめましょう!!」
「理恵、証拠を揃えないとダメだよ? こっからは俺がやるから、お説教をするときは一緒に説教をしようよ」
「か、克己さんが言うなら……そうします……」
理恵は唇を尖らせながら渋々了承するのであった。
そして克己は直ぐに行動を移す。克己はレミーに指示をして雫の行動を探らせる。
次に雫の携帯を使えなくするため、克己はPCの前に座る。そして口笛を吹きながら雫の携帯にハッキングをして携帯を遠隔で動かし始める。理恵には何をしているのか全く分からずただ眺めているだけであるが、絶対にただならぬことをしているのは理解できた。
「か、克己さん? 何をしているんですか?」
「雫ちゃんのスマホにアクセスしてウイルスを流し込んでる。これに引っかかると使えなくなる奴だよ。一応、雫ちゃんのデータバックアップは取ってあるけどね」
克己は当たり前に言うが、絶対にありえないと理恵は思いながら聞いていた。
そして克己は各携帯会社に電話して、無理難題を言い付けるのであった。
雫は家に帰りつくと、直ぐにいつも使っているアプリを開く。その瞬間、ウイルスが一瞬で回り、画面がブラックアウトした。
「な、何! 何が起きたの! 充電が切れたの? いや、まだ沢山あったはず!!」
そう言って電源を長押ししてみたり、充電してみたりと色々と試すが、まったく動くことは無かった。
「こ、壊れた……。お、お母さん!! 携帯が壊れた!! 新しいのを買うからショップまで付き合ってよ!!」
「ええ? 携帯が壊れたの? それは克己君が買ってくれた奴でしょ? 無理な使い方をしたんじゃないの?」
「してないもん!! お義兄ちゃんのセンスが悪いから壊れたんだよ!! 服のセンスもないしさ」
「そんな事ないでしょ? 自分を着飾ってなくて良いじゃない……貴女はもっと人を見る目を養いなさい」
母親はそう言って仕方なくショップへ行こうとすると、母親の携帯に電話が掛かる。
『お義母さんですか? 克己です』
「あ、克己君!! 丁度良かった、雫の携帯が壊れてしまったらしいのよ……」
『そうですか……それは残念ですね……。さらに残念なお話があります』
「え?」
『雫ちゃんの携帯は解約させて頂きましたので、使用する事はできません。そして各キャリヤに電話を致しまして、契約できないように手配をさせて頂きました』
「そ、それはどういう事……」
『通話料が多すぎるから使用停止したと言って下さい』
「お、横暴じゃない……」
『お義母さん、勉強する気が無いなら学校に行く意味は無いんですよ……だったら働けと言って下さい。そして、お小遣いは絶対に渡さないで下さい。もしも渡したのが発覚したら、銀行を停止します』
理恵は母親まで脅迫するのかと思いながら横で、聞いていた。
「か、克己さん! やりすぎですよ!」
克己は通話口を押さえ理恵を見る。
「理恵、先生の言うことが正しければ、雫ちゃんは先生を脅迫したことになる……。学校に行くのだってお金はかかる。勉強する気がなきゃ働けば良い」
「だからってお母さん達は関係ないじゃないですか!」
「お金を持っているから何でも言うことを聞いちゃう可能性も有るでしょ? だから、それすらさせないようにする必要がある……。親は子供に甘いからね」
「だ、だからって……」
「森田家も大事だけど、先生方が怯えながら仕事するのは間違ってるよ。先ずは証拠を集める必要がある……。それに、携帯を持たせたのは遊ばせるためじゃないからね」
克己はそう言って母親に雫に関して、お金の使用を禁止させたのだった。理恵はやりすぎと言って克己をどうにか止めようとしたが、全く話には応じなかった。
「克己さん、言いたいことは理解できました。ですが、本当にそれが本人のためになるのですか?」
「なに? 理恵は反対なの?」
「やり方に問題があると言っているんです」
「じゃあ、理恵なら言って言う事を聞かせられるというの?」
「そうじゃなく、克己さんならもっと違うやり方があると言っているんです!」
「例えば?」
「そ、それは……」
理恵は言葉が出ず、克己は再びPCの方を向いた。
「理恵、やるときは徹底的にやらないとダメだよ……それは戦いにおいてもそうだ。相手が絶対に逆らえない、勝てないというのを植え付けるんだ。服従させるにはそれが一番有効だ」
「ふ、服従って……」
「俺は別に、教師に服従をしろと言っている訳ではない。やり方がえげつないと言っているんだ。俺の名前を出すならしっかりとやってもらわない困る。俺は政治家とか、権力者じゃないんだから」
「そ、そうですが……」
「俺は身内を懲らしめるだけ……教師が調子に乗っているなら話は別だけど、そうではないなら本をたださないといけない」
理恵は唇を尖らせ納得ができない顔をして克己を見ていた。
「宏太の時のように暴力を振るう訳じゃない……先ずはレミーの調査結果を見てから論議しようじゃないか。お説教は理恵に任せるよ」
「分かりました……。ですが、お母さんに脅迫とかしないで下さい……」
「そりゃ悪かったよ……お母さんだって頭では理解してくれているとは思うよ?」
「そんなの、分かりません……。私は理解に苦しみます」
「怒るなよ……可愛い顔が台無しだ」
「直ぐ、そうやって誤魔化すんだから……バカ!」
理恵は克己の背中を叩き、克己は少し楽しそうに微笑む。
それから数日後、レミーから調査結果を貰い、克己と理恵はその調査結果を読んでいた。
「レミーの字が汚くて読み難いな……」
「申し訳ありません……」
レミーは悲しそうな顔して俯く。
「克己さん、自分の字を棚に上げて言うのは如何かと思います」
「な、ど、どうしたんだよ……急に……」
理恵が怒りだしたので克己は動揺をする。
「レミーさんは一生懸命克己さんが読みやすいように日本語で書いてくれたんですよ! それなのに汚いとはデリカシーに欠けると思います! レミーさんに謝って下さい! そうしないと、今晩は一緒に寝てあげません!」
「レミー、俺が悪かった……お前の努力を無視した俺を許してくれ……」
克己はレミーの手を握り、目を見て真剣に謝る。
「い、いえ……字が汚いのは本当ですから……そ、そんな……や、止めて下さい……。練習を致しますから……」
レミーは顔を赤らめながら言って恥ずかしそうにしていた。
「こんな俺を許してくれるのか……」
「も、もちろんでございます……。私には勿体ないお言葉です……」
「そうか、分かった……」
克己は手を放し、直ぐに報告書を眺める。
「最低です……克己さん……」
理恵は呆れた顔して克己を見て言った。
「レミーは許してくれたじゃん?」
「心がこもってない、上辺だけ……克己さんはそう言う人なんですか? 私にもそういう態度をするのですか? 自分が悪いことをしても開き直ってしまうのですか?」
「この間から随分と絡んでくるじゃないか……」
「克己さんの態度が悪いから怒ってるんです!!」
「押し付けるなよ」
「押し付けてません!!」
「理恵の怒りんぼ!」
「克己さんは無理解者です! 自分が全て正しいと思っているんです! それは間違いだと気が付いて下さい!」
「俺は選択の一つを選んでいるに過ぎない! 全部が正しいとは思ってない!」
二人が言い争いを始め、レミーはどうしようかとオロオロし始める。
「克己さんの分からず屋!!」
「理恵の……えっと……怒りんぼ!!」
「それしか言えないんですか!!」
「だって……間違ってるとは思ってないもん……」
「だったら改善して下さい!」
理恵は怒りながら克己を睨む。克己は少し困った顔してレミーに言う。
「レミー、見苦しい所を見せてごめん……大丈夫だから下がってていいよ。本当にありがとう」
「か、かしこまりました……」
レミーは慌てて部屋から出て良き、克己と理恵は二人っきりになる。
「怒るなよ……理恵」
「怒らせているのは克己さんです」
「俺が悪かったから許してくれよ」
克己はそう言って理恵にキスをすると、理恵は顔を赤らめて恥ずかしそうにする。
「もう……本当に理解して下さいね……」
そう言って理恵も克己の唇を求める。
二人は暫くの間、熱いキスを交わし、愛をはぐくんだのだが、傍から見たらただの馬鹿夫婦である。
暫くまったりしてから二人は報告書を再び読み始め、雫の活動内容に溜め息を吐いた。
「あの子……学校には遊びに行ってるような物じゃない……」
「こりゃ酷いね……涼介の方が可愛いもんだ……。あいつはなんだかんだ言ってもちゃんと勉強していたもん」
「そうなんですか?」
「俺の学校は一応進学校だったんだ。成績は気になるんじゃないか?」
「成る程……だから涼介さんも頭が良いんだ……」
「理恵……、涼介を馬鹿にしていると、痛い目を見るぞ……あいつは隠れた才能を持った変態だ……」
「へ、変態なんですか……」
理恵は乾いた笑いをして困った目で報告書を見る。
「どうしますか?」
「お説教は理恵の仕事だろ? 物質……携帯とお小遣いと言う切り札はこっちにある。理恵が好きなように言えば良いよ」
「わ、分かりました……」
理恵はそう言って、克己と共に実家へと帰って行った。




