127話 いざ日本へ!!
チヌークで大空を飛んでいく。皇女は恐怖で悲鳴を上げる。初めての大空……。外を見る余裕はなく、早く地上へと降りたい気持ちでいっぱいであった。
「空から見るとこういう地形になっているんだな……」
克己は窓の外を見ながら呟く。
「我々の世界はどのようになっているのでしょうか……」
リーズも外を見ながら呟く。
「あっちはここより遅れてはいるけど、いま滑走路などを作っているから……そのうちしっかりと見れるかもね」
「アルスの奴も滑走路が出来てから帰ればよかったのに……」
「あいつはやる事があるようだったし……仕方がないよ……。リーズも心配なんだな」
「そりゃ……仲間ですから……心配です。私に仕事を教えてくれていたのはアルスですから」
リーズは寂しそうな顔して窓の外を見ていた。
皇女は徐々に落ち着きを取り戻し、窓の外を見始める。
「これが我々の住んでいる世界か……」
「そうだよ……意外と広く、大きい場所だろ?」
克己が言うと皇女が頷く。
「皇女さん、あそこに見えるのが砦だな……俺達が初めて会った場所だ」
「あ、あれが砦だと……! も、もう到着したのか! 時間は数刻しか経ってはおらぬではないか!」
「そりゃ……使っている物が違うからだよ。エンジンも違ければ邪魔されるものが無い……と言っても理解はできないよな……」
皇女は話を聞いておらず、窓にへばりついて外を見ていた。先ほどまでビビっていたのが嘘のようだった。
「さて、皇女さん……あんたを帝国まで送って行くとしよう……その後はどうするんだ?」
「へ? て、帝国に戻ってからか?」
「そう言っているつもりなんですけどね……」
「私は父上たちに自衛隊の街で見てきたものを報告する……明日には私が調査隊を準備して連れて行く……それでどうだろうか……」
「じゃあ、タイムリミット……約束の時間は明日一日だ。それを過ぎたら俺達は街へ帰るからな。やる事が沢山あるし」
「分かっている……」
暫くするとチヌークは着陸態勢に入る。皇女は緊張しながら物に掴まり恐怖を抑え込んだ。
それから小型四輪駆動車で帝国の傍へと近寄り、皇女は帝国へと戻って行った。
「克己様……大丈夫なんでしょうか……」
ノエルが克己に質問する。
「さぁね……こればかりは何とも言えないよ」
二人は皇女の後ろ姿を見送った。
皇女は帝国に戻り、皇帝に会いに行く。
「おおぉ!! ロミール……戻ったか。心配したのだぞ……」
「皇帝陛下……私は自衛隊の街と言う所へ行っておりました……」
「何と!! 我々に逆らう不届きな街か!!」
「彼等の街では技術が進化しており、遠く離れた敵をも近付けぬ攻撃をすることにございます……」
「そ、それは真であるか……」
「はい……我がこの目で確認いたしました」
「お、おのれぇ……! 妖術使い共であったか……」
「皇帝陛下、それだけではございません……。彼の者達は捻れば水を出すことも可能なのです……」
「捻れば……水を出す? どう言うことだ……」
「井戸から水を汲み取るのではなく、こう……手で捻るだけで水を出す仕掛けを作り、井戸などを使用せずとも水を自動で汲み上げる仕掛けでございます……」
「ま、眉唾もの話だな……ロミールよ……お前は妖術で幻でも魅せられたのではないのか?」
「皇帝陛下! 私に今一度、彼の街に行かせては頂けないでしょうか! 何名かで調査をさせては頂けないでしょうか! ロミールのお願いでございます!」
皇帝は目を閉じ考える。
「私が聞くところによりますと、彼の街に攻めた兵達の一部は捕虜になっています。私が面会しましたので確かです……。彼らを救い出すためにも、私を派遣させていただきたい!」
「捕虜か……。分かった、騎士団を数名連れていき調査を命ずる! ロミールよ、無事に戻ってくるのだ!」
「かしこまりました……」
ロミールは頭を下げ、部屋から出ていく。
「ロールトよ……先の話、お主はどう思う?」
ロミールが部屋を出たのを確認し皇帝が言うと、部屋の影から一人の男が現れた。
「何とも言えませんが……水の話は本当かもしれません……調査に行った者も同じ様なことを言っておられました」
「そ、そうなのか……遠くの敵を攻撃する武器については……」
「恐らく真かと……」
「分かった……下がるがよい……」
ロールトと呼ばれた男は部屋から出ていき、皇帝は溜め息を吐いた。
ロールトは廊下に出て、ほくそ笑み侍女を呼び皇女のいる部屋へと向かった。
「皇女殿下、陛下からお話を聞きましたところ、変わった街へ行かれるとか……」
「ロールトか……そうだ、私はこれから日本という場所へ行くことになる……変な気を起こすのではないぞ」
「変な気とは?」
「私は父上と違ってお前が好かぬ……貴様は何を考えている?」
「私は帝国の発展だけを考えております……」
ロミールは少し考える。
「……私は父上ほど、お前を信用しておらぬ……その目が信用できん」
「さ、左様でございますか……分かりました……」
ロールトは部屋から出ていき、ロミールは扉を見つめていた。
「小娘が……」
ロールトはそう呟き侍女と共に部屋から離れて行く。
暫くして騎士団がロミールの部屋へとやって来た。
「殿下、陛下から言われて参上いたしました……」
「ご苦労……少数精鋭で行く! さっそく準備にかかれ!!」
「ははぁ……」
騎士団は頭を下げ部屋から出て行く。
「日本……。一体どういう場所なのであろうか……」
ロミールは日本に対して幻想を抱きながら出かける準備を開始した。
翌朝になり、チヌークが着陸している場所にロミールは馬車を走らせる。人数はロミールを合わせて十名ほど……。
「ん? 来たか……」
克己は昼を食べながら遠くを見ていた。
「皆さん、出発の準備と戦闘準備をお願いします。マシンガンで一斉掃射出来る感じで……」
克己が指示すると、隊員は素早く準備をする。
馬車はチヌークの傍に止まり、ロミールが馬車から降りてくる。
「皇女さん、許可が下りたんだね? それは良かった……だけど、人数が多い。行くなら皇女さんを合わせて五人だね」
「な、何だと!!」
金髪の騎士団員が剣に手を掛けて言う。
「止せ……分かった……ルマネル、お前を除く2人を選べ。カリノスは連れて行く」
カリノスと呼ばれた赤髪の女性騎士は膝をつき頭を下げる。
ルマネルと呼ばれた金髪の騎士は屈強な騎士を二人選び、他の騎士団たちは心配そうな目で見ている。
「じゃあ、あれに乗ってくれる? レミー、案内を……警戒は怠るなよ」
「かしこまりました……」
レミーは克己の指示でロミール達をチヌークへ案内し、乗り込んだ。
「あなた方はこのままお帰り下さい……。気を付けて」
克己はそう言ってチヌークへ向かうと、残された騎士たちは悔しそうな顔して克己達を見ており、騎士たちは何も出来ぬままチヌークは飛び立つ。
チヌークの中は騒然としていた。
「は、箱が浮かぶ!! どんな妖術なんだ!!」
克己は説明が面倒になり、取り敢えず座らせて暴れないように指示した。
「暫くの間、空の旅でも楽しんでくださいよ」
克己はそう言ってタブレットを取り出して何か作業をはじめ、ロミールはそれを珍しそうに見ていた。
数時間が経過し、チヌークは街にある滑走路へと到着する。
「着いたようだな……」
克己が外を見ながら呟く。
「これから着陸しますので何かに掴まって下さい、揺れますから」
克己が言うと、皆が慌てながら何かにしがみ付き、怯える。
チヌークはユックリと着陸し、克己達は降りて行く。騎士団たちは腰を抜かしているのか、這いずるようにチヌークから降りた。
「こっちです……」
克己はスタスタ先へと進んでいく。しかし、騎士団たちはしっかり歩けないのか、フラフラしており、ロミール残念そうな顔をした。
「あれ? 克己?」
克己は名前を呼ばれ、そちらを向くと涼介がセデル達と一緒に居た。
「涼介……何やってるんだ?」
「姫様たちを日本へ連れて行くところだよ……。丁度良かった、姫さんが、特産品を日本に卸したいと言っているんだ。相談に乗ってくれないか?」
「えぇ? 俺は帝国の皇女を日本へ連れて行き案内をするところなんだよ……上手くいけば争いのタネが一つ無くなる。お前が仕事をしてくれたらもっと楽なんだけどな」
克己は涼介に嫌味を言うが、全く涼介は聞いている様子はなく、話を続ける。
「なら、セデル達も一緒に案内してくれよ」
「お前ってやつは……勝手にしろよ……」
克己が言うと、涼介は財布の中身を気にしないで済むと思いながら付いて行った。
日本への入り口に到着し、直ぐに行われるのは金属探知機による検査。セデル達の騎士団は前回の経験を踏まえての装備で難なく通過するが、ロミールが連れてきた騎士団は、もちろん検査に引っかかり、文句を言っている。
「我々も始めはあんな風だったな……。涼介様が服を用意してくれなければどうなっていたか……」
セデルの騎士団、マルルはロミールの騎士団を見ながらそう呟く。
「姫、今日はどこに連れて行ってもらえるのでしょうか?」
セデルの騎士団、黒髪でセミロングのアルデスは質問する。
「はて……それは聞いていませんでした……涼介様? 今日はどんな場所へ連れて行ってくれるのでしょうか?」
「え? あ、あ……か、克己……」
「チッ!! 温泉だよ、温泉!! 箱根に行って温泉に入る! そして大涌谷の黒たまごを食べるんだよ! お前は京都の二年坂&三年坂で転んで来い!!」
克己は舌打ちをしてからそう言って先へと進む。涼介は全く気にした様子はなくセデル達に説明する。
自衛隊員は克己を見て敬礼をする。しかし、涼介を見ても誰も敬礼しない事にセデルは違和感を覚える。
「何であの人達は克己に挨拶をして涼介様には挨拶の一つもしないのです?」
「克己の事が好きなんじゃないの? 俺は男に興味はないから別に構わないよ」
「成る程……そうですよね、男同士が愛し合うのは気持ち悪いですものね! その点、涼介様には私がおりますし!」
涼介は意味が分からないという表情をして首を傾げる。
検査は幾度も行われ、騎士団の格好は肌着のみとなっていた。
「これで街を歩いたらお巡りさんに掴まっちゃうね……困ったものだ……」
克己はそう呟き、タクシーを手配して検査が終わるのを待っていた。
あられもない姿のロミールの騎士団。それに比べて清楚な格好をして美しいセデルの女騎士団たち。
セデルはロミールを見て鼻で笑った。
「な、なんなの? あいつは……」
ロミールは苛立ちながらカリノスを見る。カリノスはレミーに上着を借りて恥ずかしそうにしていた。
「カリノス! お前は何という格好をしているのだ! はしたない!!」
「も、申し訳ありません!! 殿下!」
カリノスは膝をつき謝罪をする。
「皇女さん、その無い胸に隠している物を出してくれる?」
克己がイラつきながら言うと、セデルは嬉しそうに涼介を見る。
「涼介様、我々は日本と交流がしたいと思います……これは父も了承している事でございます……是非、日本と交流の場を設けて頂けませんか?」
涼介はチラリと克己を見ると、珍しく機嫌が悪いように感じられる。政府との話をと言いたいが、言ったら八つ当たりをされそうなのでどうしようか考える。
「早く行こう、その格好だと警察に捕まる……外に車を用意させているから……皇女さん、急がせてくれる?」
「す、すまない……」
ロミールは克己がイラつき始めているのに気が付き、騎士団を急がせる。
「殿下、我々がそこまで気を使う必要があるのでしょうか……」
カリノスはロミールに言うと、克己が睨みつける。
「そこの騎士さん、こっちは招待したつもりはないんだよ……嫌で文句あるのなら帰ってもらっても構わない……というか帰ってほしい。滅ぼした方が早い」
克己が笑えないセリフを言って、涼介は乾いた笑いをするしかなかった。
ようやく検査が終わり、出口に移動するために乗り物に乗る。
「こ、これは自動で動くのか!」
ロミールは驚き、周りを見ながら言う。
「ちゃんと御者がいるではありませんか……大声を出して端ない人ですね……」
セデルがニヤニヤしながらロミールに言う。
「き、貴様……!!」
カリノスが腰に手を当てて武器を探すが、その武器は自衛隊にとられている。
「何がしたいのかしら? そんな端ない恰好で……うふふ……」
セデルは馬鹿にしたように笑い、ロミール達を見ていた。
「く、屈辱だ……」
ロミールはそう呟き、俯いて怒りを我慢するのであった。




