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126話 日本とは??

「これが……自衛隊の街か……随分賑わっているな……」


「そりゃ……税を納める必要はないからね……。それに、この街には貴族がいない。そんな奴らに気を使わないで生活できるから……。家もプレハブだが、自衛隊が用意しているようだしな」


 涼介が指さす方に住宅街があるようで、勝手に自治会の様な物を作っているようだった。


「涼介様~!!」


 涼介を呼ぶ声がして振り向くと、セデルが走ってくる。


「げぇ!! セデル!! まだ帰っていなかったのかよ……」


「涼介様!! 最近全く会ってくれないではないですか~……セデルは寂しいですよ……」


「セデル、この間話したろ? 文化をって話だが、お前らは言葉を……日本語を理解していない。まずは言葉を理解してから日本を学ぶって……」


「ですから~ここで日本語を学んでいるのではないですか~」


「こ、ここで?」


「あっちの方で私達の国で作っている特産を売っているのです! 是非一度見て下さい! もし良ければ日本へ売り込みして下さい!! 今すぐ確認してください!!」


「お、おい! セデル! 押すんじゃない!!」


 涼介はセデルに背中を押されて何処かへと連れて行かれた。


「あ、あれは……一体……」


「あれはレデオウィール城の姫様だよ。日本と繋がりが持ちたいらしい……」


「レデオ……ウィール?」


「ここからかなり遠くに離れたところにある城だよ。自衛隊の街を噂で聞いて、遥々やって来たらしい。どうやって特産を持ってきているのかは分からないけどね」


「そ、そうなのか……日本……か……」


 皇女が呟くとヘリが戻ってくる。


「あれは?」


「ん? あれか? AH-64アパッチだな……攻撃ヘリコプターだよ。他にもここで新しい兵器を作って運用テストなんかをしてるよ」


「運用テスト?」


「日本で試したりする場所が無いし、訓練するにも住民に気を使ったりしないといけないからね……ここでは実戦も経験できるから……」


 皇女は何も言えなかった。


「で、いい加減……名前を教えてくれない?」


 克己が名前を問いかけるが、皇女は答えようとしなかった。


「まぁ……いいけどね。レデオウィールは大きくなるんじゃないか? 自分たちの底を理解しているようだし……。君達はどうか分からないけどね……」


 そう言って克己は何処かへと行ってしまい、皇女は独り立ち尽くす。


「我々の……底……だと?」


 皇女が呟き俯くと、離れた場所から砦で響いた音が聞こえ、皇女は顔を上げ走ってその場所へと向かう。だが、それは金網の向こう側……一般の人が入れるわけではなった。


「クソ!! 強さの秘密を見せろ!! 卑怯者!!」


 皇女は金網を叩きながら叫ぶが、その声はヘリや他の音に掻き消されるのであった。


 克己は離れた場所から皇女を見ており、ノエルが克己に質問する。


「これからどうなるのでしょうか?」


「さてな……力の差を見せつけられたんだ、戦いを挑んでくることは無いと思うが……気になる事がある」


「気になる事……ですか?」


「あぁ……ラスベルの砦で戦った相手だよ……。そこの動きが気になるな……」


「確か……アルトクス……という奴らでしたよね……」


「アルトクス……少し注意をした方が良さそうだな……」


 克己は目を細め顎に手を添えて呟く。


「涼介さんにも言っておいた方が……克己様ではセデル姫は話を聞いてもらえないかと……」


「頼めるか?」


「お任せを……」


 ノエルはそう言うと、克己の傍から離れ涼介のいる場所へと向かった。


「さて……あの皇女様を家に連れて帰らせなければいけないな……」


 そう呟き、皇女の元へと向かう。


「皇女さん、そろそろラスベルへ帰ろうか……」


 座り込んでいた皇女は立ち上がり、克己を見る。


「我々はお前達に勝てない……父に話をしよう……」


「成る程……で、何が目的(・・・・)なんだ?」


「日本を……一度、日本を見せて欲しい……」


「あんた一人で見たって夢物語として扱われるだけだぜ?」


「そんな事分かっている! 一旦帝国に帰り、信用が出来る者を連れて行く……それで良かろう……」


「偉そうだが……それしかないんじゃないか?」


 皇女は悔しそうな顔して克己を睨む。


「そんなに睨むなよ……今日はゆっくりして明日、連れて行ってあげますよ……。皇女さんの宿は手配してあるよ」


「分かった……」


 皇女は悔しそうな顔して克己の後を付いて行く。暫くして、皇女は住宅街にある一室に連れてこられた。


「この辺だと一番良い部屋らしい。今日はここに泊まって下さい」


 部屋は六畳半と狭いが、キッチンとトイレが付いている部屋であった。


「これが庶民の……家なのか?」


「仮設住宅というんだよ。まぁ……これで十分過ぎるいう奴らもいるらしいけどね」


「こ、これはどうやって使うんだ?」


「水道の事?」


 克己は水道のハンドルを回し、蛇口から水を出すと皇女は驚いた顔をして流れる水に顔を近づけた。


「ど、どういう仕組みなんだ!!」


「説明しても分からないよ……これだけでも分かるでしょ? 君が住んでいる帝国と、ここの文明が大違いだって事が……」


 克己は水を止めて出入り口へと戻る。


「じゃあ、明日の朝迎えに来るから……」


 克己はそう言って立ち去って行った。


「ぶ、文明の……差?」


 皇女は何度も水を出したり止めたりして水道の凄さを、身をもって体験していた。


 夜になり、皇女は食事をとるため商業地区へ足を運び、日本食が食べられると書いてあるお店に足を踏み入れる。


「いらっしゃい!!」


 踏み入れたお店は、日本式の料理店と謳っているところであったが、現地人が勝手に看板に書いてあるだけで有り、まったく日本の料理とは掛け離れていた。客は看板に騙され入って行くが、味はそこまで悪くはないため店はソコソコ繁盛している。


「ここは日本の料理を出すと書いてあるのだが……」


 皇女は店の者に確認する。


「そうだよ! 俺は日本で料理の勉強をしてきたんだ! だから間違いはない!」


 店の者は嘘を言って客を騙しているが、殆どの者は嘘と知っているため笑っている。


「ほ、本当か! に、日本はどんな場所なんだ!!」


「え? あ……い、いや……そ、そりゃ……スゲー場所だったよ……うん……」


 見た事のない世界だからそれしか言えない。


「ど、どんなに凄いのだ!!! 教えてくれないか!」


「あ、い、いや……そ、そう! 教えてはいけない決まりなんだ! 教えたら俺が自衛隊に捕まっちまう! だから教えられない!! うん!」


 店の者はそう言って誤魔化すが、他の客は笑って話を聞いていた。それそのはず、日本の事が知りたければ自衛隊に聞けばそれなりに教えてくれるからだ。


 皇女は俯き、椅子に座ってメニューを眺める。すると、他にも客が入って来た。


「いらっしゃい!!」


 店の者は元気よく言って客を見ると、自衛隊員が客としてやってきていた。


「伊藤、今日はここで食べるのか?」


「小宮山士長、克己さんの店は込んでいて入れませんよ? 諦めましょうよ……いい加減……」


「たまには日本食が食いたくなるだろ……この街ではあそこかレレリックの街でしか食べる事が出来ないのだから」


「両方かなり混んでますけどね……」


 伊藤と小宮山は皇女の隣に座り、適当に食事を頼む。


 皇女は二人の会話を聞いて質問をする。


「こ、ここは日本の食事を出してくれる店ではないのか?」


「は? だ、誰? あんた……。ここはこの土地ならではの料理しか出ないぜ? 日本食が食べたいのなら……成田さんがやっている店に行くしかないな。あそこしか日本食は食べる事は出来ないからな。ここはインチキな店だよ」


「い、インチキ?」


 皇女は店の者を見ると、店の者は目を逸らす。


「味はそんなに悪くないから許してやれよ……騙される奴も悪い。この世界で日本に行けるのは俺たち自衛隊と、成田さんの関係者だけだからな……一般人が日本へ行くことが出来ないよ」


 小宮山が出てきた食べ物を受け取り食べ始める。


「お、お前は日本へ行った事があるのか……!!」


「な、何だ? こいつ……。あるというか、俺は日本人だからここに俺達が居るのがおかしい話なんだよ……」


 小宮山と伊藤は苦笑いをして食事をする。


「に、日本人……。教えてくれ! 日本とはどういう国なんだ!!」


「日本がどういう国? 難しい質問だな……。人のために何かをやろうとする奴が多いかな……。批判される事があるけど……伊藤はどう思う?」


「団結力がありますよね……困難な事があったら国がではなく、国民がそれに立ち向かっていく……そんな国だと思います」


「あ~……納得。あと……食に煩いとか、細かいこだわりと、技術レベルが世界トップクラスとかな!」


 小宮山と伊藤は笑いながら話をして、店の者は真剣に頷いていた。


「に、日本……か……」


 皇女は立ち上がり店から出て行く。


「お、おい! 何も食べなくて良いのかよ!!」


 店の者はそう言って皇女を呼び止めるが、皇女は振り返らずに店から出て行ったのだった。


 翌日になり、克己は皇女が泊まっている部屋へ行き、皇女に帰り方を説明する。


「取り敢えずチヌークで運んでもらえる手はずを取ったから、近くまでそれで行こう。その後は車で移動して帝国に戻る……」


 克己が説明を終えるが、皇女は意味を理解していない。


「取り敢えず、空から帰るって言う事だけ覚えておいてください」


「そ、空から……?」


 皇女は首を傾げながら聞き返す。


「空からです。飛んで帰りますから数時間で帰れると思いますよ」


「す、数時間で!!」


「それでは付いて来て下さい」


 克己が言うと、皇女は恐る恐る付いて行く。


「お、お前……」


「克己……そう呼んで下さい」


「か、克己よ……日本とは……どんな場所なんだ?」


「豊かな国……かな? 自然は少ないですけどそれなりに住みやすいかな……」


「ゆ、豊かな……国か……」


「と言っても、先ほども言ったように自然はありません。家が一杯ある場所ですよ」


「そ、そうなのか」


 皇女は日本への思いを膨らませながら、昨日は入る事の出来なかった金網の向こうへと入って行く。


「こ、これが日本の……」


「違いますよ、ここは前線基地……皇女さん達が言う砦みたいなものですよ」


「これが砦と言うのか……」


 周りを見渡しながら皇女は驚いた声を出す。


 暫く歩いて行くと、皇女の前に大きい鉄の塊が置いてある場所に案内される。


「これで帰りますよ」


「て、鉄の塊ではないか……」


 皇女が小さく呟く。


「克己様、準備はできているようです!!」


「分かった……直ぐに乗らせる」


 ノエルが言うと克己は答え皇女をチヌークに搭乗させようとする。


「じゃあ皇女さん、乗って下さい……帝国まで送って行きますよ」


「こ、これに入るのか……?」


 皇女は後退り、怯える。


「大丈夫、そんな簡単に落ちたりはしませんから」


「落ちる事だってあると言う事ではないか!!」


 皇女は逃げようとするが、克己に捕まり無理やりチヌークに乗せられ、果てしない大空へと飛び立った。

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