125話 一方的な戦い!!
『間部総理、我々は同盟国ではないのかね?』
「同盟国ですよ……ですが、我々も契約と言うものがある……。それがある限りは、手の打ちようがないんですよ」
『それをどうにかするのが君の仕事だろう……甘い汁を我々も頂きたいんだよ……近隣諸国に攻め込まれないのは誰のおかげだと思っているんだ?』
「それはこれと関係ないでのでは? 我々だって、そちらには大分安い金額で出しているんですから……」
『我々は直接取り引きをしたいと言っているんだ……聞き入れてくれないのなら、こちらにも考えがある』
「か、考えてとは……」
『それを言ったら意味が無いではないか……』
「大統領、一つだけ言っておきますが……彼を怒らせない方が身のためですよ……」
間部はそう言って電話を切り、溜め息を吐いて天井を見上げる。
その頃、克己は異世界Bに来ていた。
「帝国はどこら辺にあるんだ?」
車を走らせながら克己は呟く。
「捕虜の話だと馬を走らせること4日と言っていたけどな」
涼介はダッシュボードに足を乗っけ、背もたれを倒して横になっている体勢で言う。
「涼介、後ろは大丈夫か?」
「付いてきてるよ、問題ない。随分と運転が上手くなっているんじゃないのか? 自衛隊は当たり前だとして」
「オートマだからな。アクセルを践むだけなら誰だってできるだろ。自衛隊は除く」
「お前はアルス以外には厳しいのな」
「皆、同じように接しているつもりだけどね」
「ふ~ん……あ、砦? っぽいのがあるな……」
「あれが言っていた奴かね?」
「そうかもな……どうする?」
「普通にしていりゃ問題ないだろ?」
克己達はそんな話をしながら車を走らせ砦付近に近づいた。
克己達は車から降り、周囲を確認する。
「さて、どんな奴がここには居るのかな……」
「成田さん、我々はどういたしますか?」
「東雲二尉、警戒は怠らないで下さい。あと、選抜メンバーを選んで我々と潜入……と言うか、中へ入り確認をしましょう」
「了解いたしました!」
東雲は三人ほど選び、克己に紹介する。
「三橋二曹、江成曹長、剣崎一士の三名です。宜しくお願いします」
東雲が紹介すると、三人は敬礼をして克己に挨拶をする。
「俺は自衛隊ではないので敬礼する必要ありませんよ」
克己は微笑みながら握手をして、三人は克己のあとについていく。
「じゃあ、砦の中を確認しましょうか……」
克己が言うと、皆は頷き中へと入って行った。
「誰も居なさそうですね……」
リーズが周りを見渡しながら言う。
「捕虜の話だと……ここは拠点の一つで、数名は留まっているとの事ですが……」
江成は銃を構えながら言う。
「相手に飛び道具はないのでそこまで警戒を……」
克己が言いかけると物音が聞こえた。自衛隊員に緊張が走り警戒を強める。
克己達は耳を澄ませ音を確認すると、誰かが話している声がする。
「人がいる?」
克己が呟き、涼介を見る。涼介は頷いて一人先行して確認を行うと、壁を見ながら数人の若い男女がブツブツ話をしていた。
「なんだ? あいつら……」
涼介はもう少し先へと近寄り、周りを警戒する。
先程まで涼介がいた場所にはレミーがおり、目配せで涼介は安全の伝えると、レミーは近寄ってくる。
「涼介さん……いかがでしょうか?」
「あいつらは何かを調査しているようだな……」
「調査?」
「あぁ……。歴史学者ってところだと思う……話している内容がそんな感じだ」
「そうですか……敵……では無さそうですかね?」
「それは何とも言えない。捕まえて尋問するのが早そうだけどな」
「そう……ですね……」
レミーも集団を見つめながら答え、克己達の元へと戻っていく。
レミーは状況を説明すると、克己は少し考える。
「接触してみよう……。話してみないとどうなのかも分からない」
克己が言うと、全員は頷きゆっくりと先へと進んでいく。
男女らは克己達に気が付かず、壁を叩いたりして話をしていた。
「動くな!」
ノエルが男女らに強い声で言う。
男女らはゆっくりとノエル達の方へ振り返り顔を強張らせる。
「お前達は何者だ!」
リーズが銃を構えながら問いかける。男女らはそれが何かは理解できないが、自分達が包囲されていることを覚る。
「な、なんだね……き、君達は……」
リーダーらしき老人の男が声を震わせて言う。
「それは我々の質問だ……。お前達は何者だ」
レミーが問いかける。
「ま、まさか……お前達は蛮族である王国側の人間か!」
他の男が言うと、女達は男達の後ろへ隠れる。
「その言い方だと、お前達は帝国側の人間……か?」
ノエルが言うと、男達は後退る。
「俺達はどちらでもない。中立の街からやって来た者だ。そちらが争う気が無ければ、こちらも何かするつもりは無いよ」
克己は武器を構えるのを止めるように指示すると、全員が銃などを下におろす。
「き、君達は何者……なんだ……」
男の一人が怯えた声を出しながら質問する。
「自衛隊の街からやって来たものさ」
涼介が言うと、男達は驚いた顔して警戒する。
「突如現れた……あ、圧倒的な力を持った新勢力!! 我々をどうするつもりだ!」
「どうもしませんよ。我々は争いを好みません……出来れば話し合いで解決したいのです」
克己が言うと、男女らは顔を見合わせどうするかを決めかねているようだった。
克己は彼らの装備を確認する。
(ピッケルのようなものに物差し……服装は薄着で武器になるようなものは剣以外無し……女性も同じ感じだな……ここの世界は服に関して乏しそうだな……。足元も草履のような物を履いているし……)
克己の品定めが終わる頃に男が答えた。
「わ、分かった、その言葉を信じよう……だが、我々はどうなっても構わないが、彼女らは危害を加えないでくれ……」
「勿論です。立って話をするのもなんですから、食事をしながら……ではいかがでしょうか? お昼時ですし……」
克己が言うと男達は警戒を解き、頬を緩ませる。克己達は簡易的な調理道具を出して準備を始め、自衛隊員達は全員砦の中へと入ってきて交代で周囲の監視を行う。
帝国の者達は腰をおろし何かを話している。克己等は食事を作り皆に配り始めた。
「出来合い物になってしまったけど許してください。ですが、それなりに美味しいですから……」
克己はそういって帝国の人達に食事を配る。作り始めて30分も経っていない運ばれてきた料理にその者等は驚いていた。
「俺は成田克己。宜しく」
克己が挨拶をして帝国の人達の傍に座ると、涼介達も近くに座った。
「私はカムラン……帝国の調査隊だ」
「調査隊?」
カムランは頷き、話を続ける。
「この砦は随分古い頃からあるものなんだ……。それをいつまでも使っている分けにはいかないと言うことで、どうするかを調査しに来たのさ……。君達はどうしてこんな場所に?」
「帝国が街を攻撃してくるから話し合いにね……」
「成る程……。いい加減抵抗をするのは止め、帝国の支配に措かれた方が良いと思ったわけだな?」
「いや別にそう思ってないよ。これ以上争いを続けるなら殲滅することを伝えに向かっているんですよ」
克己が言うと、後ろの方にいた女性が声を上げる。
「せ、殲滅だと!」
「ん? なんだ? あの子は……」
克己が首をかしげると、カムランは慌てて誤魔化すように話し始める。
「相手は数万もの軍を率いる帝国だ、いくらなんでも殲滅なんかは出来るはずは無いだろ……」
「いやいや、街にミサイルを配備したから場所さえ特定できればいつでも攻撃が出来るんだ。それに、滑走路が完成したから戦闘機が使えるようになったし、街の範囲を拡げて格納庫も大分出来た。アパッチやコブラも続々と配備されている。俺が考案した最新機銃はドラゴンも殺せる……。はっきり言えば、帝国も王国も数日あれば陥落することが可能ってことだ。だが、俺達は殺したくはないから交渉するために行く。そこを勘違いしないでくれ」
「き、君が何を言っているのかは分からなかったが……一つだけ理解が出来た。争いは好まない……それで良いのか?」
「かなり話を省かれたけど……そう言うことだね」
克己が言い終えると、後ろの方にいた女性が大声を上げて怒りだす。
「貴様は何を言っておるのだ! 我々帝国が負ける筈無かろう! 争いを好まぬ? そう言って敗北を認めるのが怖いのであろうが!」
「こ、皇女殿下! お気を確かに! い、今はこらえてくださいませ! これは彼等の戯言でございます!」
皇女殿下と呼ばれた女性は剣を抜き、克己に襲い掛かろうとするが、回りの者が必死になって止める。
「皇女殿下? まさか皇帝の娘か! お前は……」
克己は驚きながら言うと、ノエル達は戦闘態勢に入る。しかし、自衛隊員が慌てて克己の元へとやって来た。
「成田さん! 大変です! 何処の者か分かりませんが数百の軍勢がこちらに向かっております!」
「今度はそっちかよ! 涼介、何処の者か確認を頼む!」
「分かった、自衛隊の皆さんはここを防衛するよう準備を始めて!」
涼介は指示を出すなり走って周りが見渡せる場所へと向かう。
「さて、こっちはどうするかな……」
帝国の人達は必死で皇女を止めている。
「貴様! 勝負しろ! 我々が負ける筈などない!」
「皇女殿下、落ち着いて下さい! 状況的に相手の方が有利でございます! 落ち着いて下さいませ!」
「やれやれ、血気盛んなお嬢さんだ……。どうしたら落ち着いてくれるかな……」
克己は困った顔して考えていると涼介が戻ってくる。
「克己! 相手は帝国でも王国でもない! 第三勢力だ!」
「なんだと? マジかよ……。皇女さん、俺達は争っている場合じゃなくなったようだぜ? 先ずはあんた達も確認をしてくれよ。お仲間だったら良いけどな……」
克己が言うと、調査隊の一人が涼介に連れられて確認しに行く。
「ここは我々の領土……我等の仲間に決まっておる! 命乞いをしても許さんからな……」
皇女は不敵に笑い、克己を睨む。そして調査隊の一人が慌てて戻ってきた。
「殿下! アルトクス兵です! アルトクスが攻めてきました!」
「な、何ですって!! ここは我らラスベル帝国の領土であるぞ!! どういうことだ!!」
「最近聞いた噂では……アルトスク王国は国力を高めているという話を聞いた事がありますが……」
「だからって我領土で大きい顔されてたまるものか!!」
「ですが我々は……戦いが得意では……」
「に、逃げましょう! 殿下!!」
「逃げると言っても何処に逃げるというのだ! それでもお前らは帝国の人間か!!」
皇女は大きい声を上げて仲間に言うが、仲間は怯えておりどうにもならない状態であった。
「やれやれ……俺達で戦うか……皇女さん達は安全な場所で見ててくれよ」
克己はそう言って状況を確認しに見晴らしの良い所へと移動する。
「大絶景だね……。周りは囲まれているのか……」
「ふん! これでお前達も一巻の終わりだな……」
「そうだと良いね……」
そう言って克己は前線に向かう。
「ば、馬鹿な!! 何をする気だ!」
「東雲さん……突撃をして来たら一斉攻撃でやっちゃいましょう」
「分かりました、撃ち方よーい!!」
自衛隊は砦の上から機関銃などを配置しており、いつでも攻撃できる準備をしている。
アルトクス兵の隊長と思われる男が腕を振り落とし、雄たけびと共に兵が砦に襲い掛かる。
「撃てぇい!!」
東雲が指示を出すと、銃身から弾丸が飛び出しアルトスク兵の体を貫いていく。アルトスク兵達はその場に倒れこみ次々と屍になって行く。
「ランチャー準備!! 撃ち方良ーい……撃てーー!!」
隊員が持っているランチャーから弾が発射し、アルトスク兵がいる場所で爆発して兵たちは吹っ飛び動かなくなる者や、体がバラバラになる者……一方的な戦いであった。
「ノエル、仕事だ」
「かしこまりました……」
克己の言葉にノエル達は動き出した。
「な、何をするつもりなのだ……」
皇女は戸惑いながら見ている。
ノエル達は袋から武器を取り出し次々とアルトクス兵を斬り殺していく。数百もいたアルトスク兵は全滅し、砦は全く傷一つなく防衛されたのだった。
「終わったね……このままだと病気が発生しちまうから埋めないといけないな……」
克己は袋からショベルカーを取り出し東雲にお願いすると、東雲は周りに指示して穴を掘り始める。
「な、なんなんだ……あれは……」
皇女はヘタリこみ、茫然としてショベルカーを見ている。
「皇女さん、これでも我々と戦いを続けるか? 先ほどの戦いを見ていたろ? 圧倒的な力の差を……」
「お、お前達は一体何者なんだ……」
「俺達は日本人……異国の地からやって来たものだ。別に争いをやりに来た訳ではない……友好的に過ごしたいだけなんだけな」
「ゆ、友好的に?」
「あぁ、そうさ。戦いをやりたいと思っている訳ないだろ? これでは殺戮だよ」
皇女は再びアルトクス兵の亡骸を目にしてから克己を見る。
「も、もし……戦えば我々もあのように?」
「なるね……そして、あのように埋められる」
ある程度穴を作り、死骸を穴の中に入れられていく。
「あれが嫌なら自衛隊の街に攻めるのは止めてくれ。皇帝にそういう言ってくれ」
皇女は何も答えられず、茫然と、ただ死骸を埋めているのを見ていた。




