112話 企業説明会!!
アルスが旅立って二ヵ月程経つ。だが、未だアルスは戻ってこなかった。
ノエルは窓の外を見て、アルスが旅立った日を思い出す。
「チビ助は元気でやっているのかな……」
ノエルはアンニュイな気持ちになり呟く。
「そんなに気になる? あんたアルスの事が嫌いだったんじゃないの?」
ノエルは慌てて振り返ると、ハミルが入り口に立っていた。
「は、ハミル!! ……別に嫌いじゃないよ……意見が合わないだけ……アルスの事は尊敬しているよ」
「ふ~ん……それよりも、克己様が全員を呼んでるわよ?」
「え?」
「出かけるんだって、茨城の学校に……昨日言っていたでしょ? 行かないの? あんた」
「ちょ、ちょっと待って! 直ぐに準備するから待って!!」
ノエルは慌てて準備を始めたのだった。
一時間ほどして全員が集まる。
「さて、出かけるとしよう……」
克己はノエルのこめかみに拳をグリグリと押し付けながら言う。
「イダダダダ……ごめんなさいぃ!!」
ノエルが謝ると克己は拳を放し、頭を撫でる。
「次はもっと酷いことをするかなら……」
「すいませんでした……」
ノエルは涙目で謝り、克己に引き起こしてもらう。涼介は馬鹿な事をやっているなと思いながら見ていた。
「今日は涼介さんも来られるのですか?」
「ノエル、お前は話を全く聞いていなかったんだな……」
克己は項垂れながら言うと、リーズが説明をする。
「確か、企業説明会と言うのをやってほしいという依頼を受けて、茨城とかいう街へ行くのですよね?」
「そうだ、リーズは偉いな……。ちゃんと話を聞いていて。それに比べ、一番初めに購入した勇者モドキのアホと来たら……」
「か、返す言葉もありません……」
ノエルは項垂れる。
「さぁ……行こうか! ハミル、茨城の駅までは飛べるか?」
「問題ありません!」
「頼む」
「承知いたしました!」
ハミルは魔法を唱え、克己達は大洗駅前に現れる。
「さて……学校は……」
「か、克己……天然記念物が歩いてる!!」
「ん? あ~、ヤンキーか……。茨城県はとにかくヤンキーが多いと言う事で有名だな。県庁所在地は水戸市……」
「ちょ、ちょっと待てよ……茨城県だろ?」
「そうだよ、茨城県だ」
「け、県庁所在地は茨城市じゃ……」
「涼介、茨城県には茨城市なんて無い!! あるのは茨城町だ。そして、何故か北茨城市はある」
「ど、どういう事なんだ……?」
「俺も詳しくは知らないが……昔、茨城市にしようとして各市町村に反対されたとか……所説あるらしいけど、何故か無い!! そして、水戸と言えば水戸納豆……水戸黄門だ」
「あぁ~、全国行脚した副将軍様ね」
「その話は間違っている。あれはテレビの話で合って、本当は全国行脚などしていないと言う話だ……江戸と、水戸を行き来しただけらしい……これも本当か分からないが……」
「ま、マジかよ……俺の知っている茨城県……それは一体何だったのだろう……」
「頭が悪い涼介に朗報だ……。昔、IQ平均テストを行った事があるらしい……その中で茨城県は何位だったとおもう?」
「え? い、一応は関東だろ……24……位くらいか?」
「残念だ、答えは46位。最下位は沖縄……翌年は沖縄と同じ順位で46位……そして体力はトップクラスと言う訳だ……」
「な、なんて残念な県だ……。そして、この駅は一体なんだ……アニメの看板が一杯ある……」
「その話に触れるな涼介!!! それに触れたらお前は抹殺されてしまう気がする……。リーズ、依頼のあった学校はどこにある!!」
涼介は何も喋らないことが平和だと思い喋る事を止め、リーズはメモ用紙を取り出し場所を確認する。
「鹿嶋市……って場所らしいです……鹿島暗戸高校と言う学校ですね……」
「鹿嶋か……」
「どうしたのですか?」
克己の呟きにリーズは首を傾げながら質問する。
「ヤンキーが多いって話なんだよね……まさか、ヤンキー学校か?」
「いえ、鹿島暗戸高校です」
「そうじゃなくて……まぁいいや、移動しよう……ここに居ると涼介が可哀想だ」
克己達は電車で鹿島神宮駅へと向かう。
「海が近いですね!!」
「そうだよ、ここ茨城県は海に近い県なんだ。東日本大震災があったときは福島の漂流物が流れ着いた事でも有名で、さらには津波も襲ってきたこともある」
「ツナミ……ですか?」
「うん、津波。地震……地面が揺れると、水面も揺れる。その揺れによって海の水が街に襲い掛かる事があるんだ。普段はおとなしいリーズが、怒ると怖いように海も怒らせたら怖いと言う事さ」
「へ~……津波ですか……」
「日本は火山列島と言われている。どこでも山が噴火する恐れがある。そして、地震も多い国でもあるんだ」
涼介を除く皆は始めて聞いたと言う顔して克己の話を聞いていた。
『次は~鹿島神宮~、鹿島神宮駅でございま~す……』
「次か……。ノエル、その馬鹿を起こしてくれ」
「かしこまりました……」
ノエルは袋の中からハリセンを取り出し、涼介の頭を叩く。
「痛!! ……な、何するんだよ……」
「克己様が起こしてくれと言うから……」
「体を揺すれば良いだろ……克己の奴隷は暴力的な奴ばかりだ……」
涼介は体を起こし、頭を擦る。
電車は駅に到着して克己達はホームから改札へと向かう途中、ヤンキーに絡まれる。
『おい、兄ちゃん……お金を落としたみたいでよ……少しばかり貸してくれねーか?』
克己は横目でチラリとヤンキーを見るが、シカトして歩き出そうとするとヤンキーの仲間たちが道を塞ぐ。
「我々の邪魔をしないで頂きたい」
ノエルが言うと、ヤンキー達は口笛を吹きつつノエルの体を舐めまわすように見る。
「き、気持ち悪い……何と言う厭らしい視線だ……」
『兄ちゃん、このマブを俺達に貸してくれないか? 色んな場所を開発して返してやるからよ!!』
克己は小さく溜め息を吐き、涼介に言う。
「涼介、お前の仕事は何だった?」
「ノエル達でも問題ないだろ?」
「可哀想だろ? 可愛い子を守るのが男の役目だ」
「だったらお前がやれよ……お前の女だろ……」
そう言って涼介は溜め息を吐く。涼介の言葉に反応したノエル達はか弱い女を演じる。
「か、克己様~……怖いです……」
涙目でノエルは克己を見る。克己は他の者を確認すると、同じように怯えたフリをする。
『おい、何をゴチャゴチャ言ってんだよ!!』
「うるさい! 黙れ」
克己はヤンキー達を横目で睨む。ヤンキー達は只ならぬ気配を感じたのか、後退ると捨て台詞を吐いて逃げて行った。
『き、今日はゆるしてやらぁ……行くぞ!!』
逃げていく様子を克己は横目で見てからノエル達を見ると、ノエル達は嬉しそうな目をしており、克己は溜め息を吐いた。
「タクシーで行こう……場所を調べるのは面倒だ」
タクシー乗り場に行くと、サッカークラブのフラッグが目に入り、克己は怪訝な顔をする。
「不愉快だ……」
「何を言っているんだ、東京にもあるだろ?」
涼介が言うと、克己は語気を強めて言う。
「不愉快だ!!」
ノエル達には何のことか分からないが、克己が少し不機嫌になっていることが窺える。
「か、克己様……タクシーを捉まえてきますね!!」
ガルボは逃げるようにタクシー乗り場へと向かい、三台のタクシーを手配した。
克己達はタクシーに乗り込み、学校の住所を言おうとして学校名を言うと、タクシーの運転手は分かりましたと言って出発する。
「運転手さん、この学校……知っているんですか?」
『この辺りに住んでいる者なら皆知っていますよ……』
運転手は小さく笑いながら言う。
「へ、へ~……進学校……ですか?」
『違いますよ……真逆です』
「へ?」
『偏差値20あればよい学校ですかね……入学試験は作文を書ければ受かると言う話です』
「う、嘘でしょ……」
「俺達の卒業した学校とは真逆だな……」
克己達は学生時代を思い出しながら話をする。
「俺は勉強とバイトばかりだったから良い思い出は少ないけどね……」
タクシーは学校の前に停車し、克己は三台のタクシー代金を支払い、学校の外見を確認する。
「こりゃ……極道養成学校か?」
涼介が呟く。
「馬鹿ばっかり……ポイな……世紀末のような校舎あるのは初めて見たよ……」
学校の壁には落書きなどがされており、かなり荒れているように見える。
「克己、あれってスケバンとかいう奴か?」
「涼介、指差すな! 馬鹿がうつる」
うつる筈は無いが、何故か克己はそう思った。
「入りたくはないな……」
涼介は道路を確認するが、車が通る気配は感じられなかった。
「い、行くか……」
克己が歩き出し、中へと向かっていく。涼介は小さく溜め息を吐いて後を追いかけるように付いて行った。
「取り敢えず……職員室へ行けばいいのか? と言うか、職員室は……」
克己は周りを確認しながら歩いていると、物陰に隠れて煙草を吸っている学生を発見する。
「ノエル、職員室を聞いて来い」
「え? わ、私が……ですか!」
「嫌か?」
「できれば……。涼介さん……」
ノエルは涼介を見ると、涼介は首を横に振る。
「馬鹿がうつる」
「大丈夫だ、お前は馬鹿だから……聞いて来いよ、涼介。ノエル達みたいなか弱い女の子が聞いてくるより、イカツイお前が聞いてきた方が良いだろ」
「お前の方がレベルは上だろ!! 圧倒的に!」
「お前がここに来ている理由は護衛だろ! 千春ちゃんだけ働かせる気かよ!!」
「こういう時ばっかり千春の名前を出すんだから……。しかない、聞いてくるか……」
涼介は項垂れながら学生の傍へと寄って行く。
「あのぉ……職員室は何処っスかね?」
『誰だ? オメー?』
「職員室へ用事があるお客さんです……」
『チクる気じゃねーだろうな?』
「いやいや……そんな事はしませよ……職員室はどこですかね?」
『うっせ、金を置いて消えろ!! おっさん』
「あ? 誰がおっさんだよ、クソガキ……」
『な、何だこいつ……。痛い目を見る前に消えろよ』
「職員室を教えろって言ってんだよ、クソガキ!!」
涼介は学生の胸倉を掴んだ。その瞬間、克己は校舎の中へと入って行く。克己は涼介を置き去りにしたのだった。
学生は先手必勝と言わんばかりに殴り掛かるが、涼介は軽々と躱し頭突きをして相手を気絶させる。そして後ろを振り向くと克己達の姿が無く慌てて校舎へと走って行った。
「ここが職員室か……」
克己達は職員室の札が張られてある場所を確認して、時間も確認する。
「約束の時間10分前……か……」
克己は戸をノックして開けると、職員が一斉に克己を見る。
「な、何だ……このプレッシャーは……」
克己は冷や汗を掻きつつ周りを見渡して言う。
「本日、企業説明会と言う事で、お伺いさせて頂いた成田と申します……」
『企業説明会? あぁ……13時から三年生に話をする企業さんか……可哀想に……』
職員室はざわめいていると、奥の方から60代半ばと思われる男性が近寄ってきた。
『お待ちしておりました、私は教頭です』
「あ、どうも……初めまして、アナザーワールドの成田と申します」
『ではこちらに……』
克己達は教頭に連れられて控え室らしき場所に連れられて行く。
『申し訳ありません、本日は我が儘をお願いしまして……』
「企業説明会をする会社は……」
『本日は御社のみとなっております……』
「え?」
『我が校を見て頂けるとお分かりになりますが……進学率はほぼ0%になっております……。生徒の殆どは就職していきますゆえ、周りの企業さんはご存知と言う事です……』
「は、はぁ……そ、そうなんですか……」
克己は思う、殆どが無職となりバイトするか自動車整備士学校へと行くかなのだろうと……。そして、他の企業はそれを知っているから来ないのだと。
「じ、時間は何時頃から始めますか?」
『生徒たちには13時からと伝えてあります、体育館で説明会の準備をしていただければと……』
「分かりました……プロジェクターなどは……」
『ありません……』
「そ、そうですか……ですが、スクリーンはありますよね?」
『はい……』
「それをお借りさせて頂きます」
『ご自由に……』
ダメだ、学校自体が諦めに入っている。克己はそう思いながら紙とペンを取り出し、イメージ図を作り上げていく。
「体育館を確認させて頂いても? 準備に移りたいので」
『分かりました……こちらになります……』
克己達は教頭に連れられて体育館へと向かう。体育館に到着して中を確認すると、この空間だけはそれなりに綺麗だと感じた。
「じゃあ……準備するか……」
克己は袋の中から自作のプロジェクターを取り出し、PCにセットする。体育館の床には電源があり、コンセントを差し込めるようになっている。
「凄い仕掛けですね……」
ハミルが驚く様に言う。
「ほぼ全部の体育館にはこういった仕掛けがされているんだぜ、これで驚いてはダメだ」
涼介がハミルに説明をする。
「へぇ~涼介さんはご存じだったんですね……」
ガルボが馬鹿にするかのように言う。
「こ、こいつ等……俺を馬鹿だと思っているのか……」
涼介は膝に手を置いて落ち込んだ。
三十分くらいして準備が完了する。
「克己、椅子はどうする?」
「床に座らせとけばいいだろ……三十分くらいで終わるし」
「それもそうだな……何人いるか聞いてなかったな……」
涼介はそう言って袖浦に椅子を設置して座った。
「お前は働けよ……」
そう言って克己はノエル達の椅子を準備し、座らせる。
暫くすると、生徒たちと思われる集団がゾロゾロと体育館へと集まりだす。
そして、バスケットボールなど取り出して遊び始めるのだった。
「良くある風景だが……まさかこのまま人が集まらないでスタートは無いだろうな……」
克己は腕を組みながらその光景を眺める。
チャイムが鳴り、ボール遊びを止めるのかと思ったが、そのまま続行して遊び続ける。
「おいおい……予鈴が鳴ったばかりだろ……。普通は片付けて授業の準備をするはず……」
克己が言いかけると、体育館の戸が勢いよく開かれ皆がそれに注目した。
『オメー等、誰に断ってここで遊んでんだよ!!』
「出たヤンキー……」
克己は小さく言う。
遊んでいた生徒たちは一目散に逃げだし、体育館の真ん中を陣取る。
「プロジェクターを端っこにセットして良かった……」
涼介はそう呟きながらヤンキーの集団を見ていた。
ヤンキー達が場所を陣取ると、他の生徒たちもやってきてヤンキー達の後ろの方へと並んで座り始める。
「まじめな子もいるようだけど……全員が茶髪って凄い学校だな……」
克己はノエルに言うと、ノエルは自分の髪を掴みそれを見て染めようかと考える。
「こんな奴らを雇う企業の気が知れない……早く終わらせて帰りたい」
克己は項垂れながら呟き時計を確認する。時間は13時を少し過ぎたくらいだった。
克己達は先生たちがやって来るのを待っている。進行する人がいないと先に進まないからだ。だが、先生方は誰一人としてやって来ることはなく、生徒から早くやれよと罵声が飛び始める。
言っているのは一部の生徒だけだが、ざわめきは収まらず克己はどうしようかと思い涼介に呼びに行くよう言う。
「そうだな……先生たちが来ないと始まらないよな」
涼介は立ち上がり職員室へ向かう。克己はプロジェクターのスイッチを入れて画面を表示させた。
生徒からはざわめきが聞こえる。
少しすると、涼介から電話が掛かってきた。
「どうした?」
『先生方は始めてくれて構わないと言っているんだけど……』
「おいおい、誰が音頭を取るんだよ?」
『終わりに顔を出すからと言っている……』
「マジかよ……分かった、始める事を伝えてくれ……時間の無駄だ」
『了解』
克己は電話を切りポケットにしまう。そしてマイクのスイッチ入れて話し始めた。
「皆さんこんにちは。お忙しい中、お時間を作って頂き感謝したします。私は、株式会社アナザーワールドの代表をしております、成田といます。宜しくお願い致します」
克己が言い終えると、拍手が……誰もしなかった。
(おいおい、普通は拍手の一つはするものだろ……。まぁ、いいや……早く終わらせて帰ろう……)
「これから企業説明会と言う事で、我が社を紹介させて頂きます。お前達、資料を配ってきてくれ」
克己はノエル達に言うと、いやそうな顔をしてノエル達は資料を配りに生徒たちの方へと向かった。
「えー我が社は……」
克己が説明を始める。
克己の会社、それは異常に若い会社であり、代表を務める克己の年齢も27歳と若く生徒たちは驚いていた。
「私は、カレーを売る事から仕事を始めて今までに至ります。君達も何かをチャレンジする事で新しい道を拓けたらよいかと思い、本日の説明会を終了させて頂ければと思います。何か質問ある人はおられますか?」
克己が言うと、女生徒が数人手を上げる。
克己はノエル達に目を配ると、ノエル達は嫌そうな顔してマイクを持って行く。帰ったら全員お仕置きだと思いながら克己は見ていた。
『映像を見た限りでは、雇い入れているのは女性ばかりに見られます……この会社は女性限定なのでしょうか……?』
克己は意外とまともな質問だと思いながら聞いていたが、生徒たちからは女好きの変態野郎と言う声がチラホラ聞こえてくる。涼介はそれを聞いて笑いをこらえていた。
「え、えー……別にそう言ったわけではありません。今回の映像で、男ばかり映し出されていても気持ち悪いからと思い、除外させて頂きました」
克己が答えると、多少笑い声が聞こえてホッとする。……だが……。
「誰が気持ち悪いって!!」
物凄い鬼ゾリをした生徒が立ち上がり言ってきた。
「いやいや……君達ではなく、社員の話だよ」
「俺達の誰かが受かったらそういう扱いを受けるって言う事だろが!! ダボが!!」
「あ~……成る程……そう言う事ですか……。本当はそう言った画像もあるんですよ、ですが、男性は皆イケメンばかりなんですよね……それを見て女生徒が恋心を抱かれても困ってしまうので……」
克己は厨房で働いているアレクなどをスクリーンに映し出す。ホールにも男性は数ほど居るので、仕事している写真を見せるが、生徒からどよめきの声が聞こえだした。
『あれって……猫耳じゃない?』
『それにうさ耳も……ほかにも獣耳が一杯いる……』
「あ~……失敗した写真を見せてしまいましたね……。そう言えば取り引き相手を説明してませんでした、我が社が主に取り引きをしているところは、防衛省や外務省……政府たちが主になります。我が社に入社できると、こういった人達を相手にすることになります」
『あ、あの……その会社は公務員なんですか?』
克己は何て答えるか迷う。
「あ~……公務員ではありません……ですが、日本政府より立場が上だと思って頂けると……」
ざわめきが強くなる。
それもそうだ、日本政府よりも上の立場……外国の政府なのかと生徒は思ったりしていた。
『社員になると、どんな研修を行うのですか?』
「研修……まずは三日間……現場を体験してもらいます。その後、一か月ほど泊まり込みでとある場所で実技(戦闘)を行って頂き、その後は現場に戻り仕事に慣れてもらいます」
『社会見学は可能ですか?』
「……可能です。ですが、弊社は地毛以外で茶髪などを禁止しております。何故かと言うと、接客作業がメインの仕事ですから、お客様に対して下品な姿は見せれないためです。髪の長さについては特に規定はありません……あ、国際結婚は認めておりません。異世界結婚は認めておりますが……。我々は政府との取り引きが主な仕事と言う事ですから、個人情報はしっかりと調べさせて頂きます」
『が、外国人でも就職する事は可能でしょうか……』
「貴女は外国の方ですか?」
『は、はい……○○国……です』
「残念ですが、外国の方はお断りしております。先ほど言ったように、機密情報等の話があった場合、漏れてしまう事を避けないといけないからです」
『そりゃ差別だろ!!』
「区別です」
『日本人だけが良い理由を教えて頂きたい。日本人だって情報を流すことがあるでしょ!!』
終わり間際だと言う事でやって来た先生の一人が言ってくる。確かにアジア系の顔をしているが、克己と馬が合わない国のような気がした。
「失礼ですが、お国はどちらに?」
『在日……です』
克己は心の中で舌打ちをする。
「日本人に関して……と言いましたが、殆どの交渉は私がします。ですが、どこで諸外国の方が話を聞いているか分かりませんから、少しでも危険を避けたいと思っているだけの話です。別に先生には関係のない話でしょ」
『生徒にだってそう言う国籍の人がいるから言っているんです!!』
「なら不採用ですよ。我が社の方針です。それ以上でもそれ以下もない話ですよ……。覆す気もない」
『差別だ!!』
「区別です、先生は質問しないで頂きたい。あなた方を採用する気はありませんから」
克己はバッサリと切り捨て話を戻す。
「何か質問はありますか?」
『給料は?』
ゲスイ話が来たと克己は思いながら話す。
「高卒は大卒よりも給料が良いとだけ言っておきましょう……。そうそう、我が社は危険が伴う仕事です。入社される方は遺書の持参を忘れずに……」
最後に不吉なセリフを言って克己は強制的に話を終わらせた。
「先生方、終わりにしてもらっても宜しいですか? あとは書面にて報告させて頂きます……」
在日……の先生は克己をずっと睨んでおり、克己はそれに気が付いているが、シカトして荷物を片付ける。片付け作業が終わり職員室へ挨拶をしに行くと、在日の先生から声を掛けられた。
『成田さん、質問があるのですが……』
「何でしょうか?」
『会社訪問をする際、我々のような者は入れますか?』
「入れません。先ほど言ったように、機密情報を取り扱っていますので……ちなみに写真撮影も禁止されています。これは政府からの指示によるものなので……」
教師は舌うちをして克己の傍から離れて行く。
「克己……あとは俺がやる……」
「悪いな……貧乏くじ引かせちまって……アルスがいりゃ話は違うんだが……」
「女の子がやる仕事じゃないよ。それに、これが俺の仕事だろ?」
涼介はそう言って克己の傍から離れ、職員室から出て行き校門の方へと歩いて行った。
「ルノール……」
「わかってます……」
ルノールは涼介の後を追いかけるように職員室から出て行く。
「教頭、もうちょっと風紀を直した方が良いかと思いますが……」
克己は向き直り、教頭へ話しかける。
『いやはやお恥ずかしい……。我が校の生徒を雇って頂けますかな?』
「気が早い話です……それは書面にてお伝えさせて頂きます」
克己はそう言ってお茶を一口飲んで、教頭といろいろな話をする。
校門へと向かった涼介。周りを確認して首を傾げる。
「先生、隠れてないで出てきたら如何です? 俺は彼の用心棒なんで、彼の代わりをしますよ?」
涼介が言うと、物陰に隠れていた数人の男達が涼介を囲む。
「何だ、在日……の生徒も一緒だったんだ……ふ~ん……まぁ、いいや。かかって来な……」
涼介が言うと、木材を持った数人の生徒が襲い掛かる。
「遅いよ……」
涼介はポケットに手を突っ込んだまま簡単に躱し、太腿に蹴りを叩きこんでいく。
生徒たちは痛みに耐えられず倒れこみ涼介は口笛を吹きながら腹を蹴っ飛ばし一人一人叩きのめしていく。
「さて、残りは先生一人だ……どうしますか? 俺は超強いですよ? そりゃボクサーよりも、霊長類最強と言われている女性よりもね……」
首元を掻きながら涼介は言う。
『な、舐めるなよ……』
「おろ? 何か格闘技をしているのか?」
先生はテコンドーの構えをしてジリジリと近寄ってくる。
「そう言えば……テコンドー何とかって言う気が狂った本があったよな……」
涼介が呟くと、先生は素早く回し蹴りを繰り出し、涼介は簡単に躱す。ハイキック、ミドルキック、ローキック等、素早く蹴りを繰り出すが、涼介は「ぴょ~ん」と効果音を呟きながら躱していく。
『ちょこまかと……』
そう言ってハイキックを繰り出して来るが、涼介は見切り鼻先で躱す……だが、足は顔の前で止まり先生は足を伸ばし涼介の顔に当たりそうになる。しかし、涼介は顔色一つ変えずにそれすら躱し、水面蹴りをして先生を転ばせ、先生の顔面を踏みつける。
「勝負ありだな……。諦めな」
『劣等なる日本人が、我が国を舐めるなよ!!』
「そう言うんなら国に帰って叫べよ……寄生して叫ぶんじゃねーよ」
涼介は顔面を蹴っ飛ばし、先生は気絶する。
「お疲れ様でした……涼介さん」
ルノールが近寄り全員に回復魔法をかける。
「ルノールもご苦労さん……面倒だな、会社説明会って……」
「私達には良く分かりません……今を生きるので一生懸命ですから」
「成る程ね。じゃあ、戻ろうか……」
ルノールは返事をして涼介と共に職員室へと戻って行った。




