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Lv14―たんてーは足が命



 失踪者その一・シェリー。

 身体的特徴:銀髪灰目の歳16の少女。

 失踪推定時刻:1日目(六日前)の20時。


状況:

「その日は、仕事が終わっても一杯やらず早く帰ろうと思ったんだべ。うちの母ちゃんがさ、最近二人目の子供を授かるかも知れんて。そったら、いつもより早い時間…………そーだら月の頃からして20の時くらいべさ。家に帰る途中、若い女の子の悲鳴さ聞こえただ。そーで、何か何かと思て声のした方の路地を見たら、だーれもいなかったべ。そん代わりきーれな髪飾りが落ちてたんだ。なあ、あの髪飾りもらえんか? 母ちゃんにあげたいんだ」


 彼女が働いている飲み屋での目撃情報を最後に行方が知れない。彼女の帰り路である裏三番通りで住人が少女の悲鳴を聞いたとのこと。現場近くに彼女が愛用していた髪留めが落ちていたことからも、不確定だが彼女の悲鳴であった可能性が高い。




 失踪者その二・アンリ。

 身体的特徴:茶髪茶目のそばかすが目立つ少女。

 失踪推定時刻:1日目の深夜から2日目の明け方にかけて。


状況:

「あの子はいつも私の代わりに家事をしてくれてるの。夜仕事に出かける時も朝方に帰ってくる時、寝ていてもすぐに起きて食事の用意をしてくれるいい子よっ! あの子が夜遊びをするはずもないわっ! 誰かにさらわれたとしか考えられないのっ! 早く見つけなさいっ仕事しろこのロクデナシッ(ビンタのおまけつき)」


 夜の仕事をしている彼女の母が明け方に帰宅すると、いつもいるはずの彼女がいなかったらしい。夜にロウソクの火が落とされ明りが消えるのを隣人が確認していた。就寝後に失踪した可能性が高い。




 失踪者その三&四・ミシーとサンナ姉妹。

 身体的特徴:銀髪金髪の双子の姉妹。9歳。色以外では見分けられないほど姿が酷似している。

 失踪推定時刻:2日目の夕方。


状況:

「ちょっとアンタ達は何してるのよっ! さっさと私のかわいいかわいい娘達を見つけなさいでぃあえpdぽえじゃ!(以下、翻訳不能なため省略)」


 彼女達が朝食を自宅で食べたのを最後に行方が知れない。彼女達がよく遊び場としている街はずれの森(街を覆う柵の内側の浅い森)を探索するも見つからず。




 失踪者その五・ルーア。

 身体的特徴:金茶髪。長い髪を後ろで一本にまとめていた。17歳。

 失踪推定時刻:3日目18時。


状況:

「ルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーアルーア!(以下、繰り返しのため省略)」


 18時に働いている飲食店を出て、それ以降行方知れず。兄であるロアにも見当がつかない模様。




 失踪者その六・ミィーア。

 身体的特徴:くすんだ金髪。少女にしては長身で大人びている。15歳。

 失踪推定時刻:4日目(私達がこの街に到着する前日。今日から三日前)18時。


状況:

「姉ちゃんがいなくなった所を見たんだ! なあ、オレにも協力させてくれよ! 姉ちゃんを助けたいんだ!」


 夕刻、不審な男に連れ去られる所を彼女の血縁者である少年が目撃。

 彼女を最後に失踪事件は止まっている。






「共通点は、全員少女ってことぐらいか」

 あるじはそう嘆息しながらビンタで赤くなった頬をさすっている。表通りに設置された屋台の賑やかさがかすかに聞こえる裏通り近くの森で私達は歩いている。



 裏通りは民家が密集しており喧噪からは程遠い。そこからさらに離れた森は一層の静けさである。

森といっても昨日のシーパァ森のようなどこからどう見ても森っ! みたいではなく街の敷地に食い込んでいる山の裾野である。森というより林というべきかもしれない。



「むむむ、未成年の失踪事件は家出と相場が決まっているんだけど……………さすがに数が多いな」

 今まで訪問した失踪者6人の関係者。

 全部で6人。

 少ないようで、多い人数。

「一人もまだ見つかってない、ってのはやっぱし異常だよな」

 6人の行方知れず。

 駆け落ちにしてはタイミングが合いすぎて、関係者に話を聞いても駆け落ちする前兆がなさすぎた。そもそも10代にも満たない少女すら失踪に含まれている。



 すると浮かび上がっていくのは、一つの単語。

「誘拐…………かなあ、やっぱり」



 誘拐というと「お宅の息子は預かった。返してほしくば猫缶ゴールドを一年分用意しろ」という営利誘拐が思い浮かぶ。

 だが、失踪者が全員少女となると話が違ってくる。治安がもとの世界に比べて圧倒的によくないこの異世界ではまだ隆盛な商売があるだろう。

 すなわち、奴隷商売である。

 人を攫い自由を奪い、金持ちに売る生業。それは労働させるためであったり、愛玩するためであったり。



「……………あんま考えたくない世界だな」

 裏路地の世界にいた私たちからしても、生々しく不愉快な想像だ。

「でも、そうだとしても変だよな」

 何がですか?

「言ってたじゃん、この街の警備を強化してる、って。検問を強化したり巡回したりして。誘拐だとするなら犯人が見つからなくて誘拐された人間も見つからないなんて」

 もう街の外に逃げちゃったんじゃないですか?

「んー………でも、どうやって? 街の門には検問がしかれて、周りは柵で囲まれている」

 検問は内通者がいて、柵は乗り越えちゃえば。そのくらい簡単に出来そうですけど。

「そうなんだよなー。でも、それにしても不自然だ。

 こういう話がある。とある無人島のペンションが台風に巻き込まれた。

 そのペンションで殺人事件が起こった。人が一日に一人ずつ死んでいき、結局3人が死に最後には犯人と探偵だけが残った。さてこの話で分かることは何か?」

 …………探偵が真犯人?

「そんな深読みはいらない」

 探偵のくせに殺人を止められなかった。

「いいんだよ。探偵の仕事は犯人を当てるだけなんだから」

 見た目は子供?

「そんな描写一切ないよ」

 あるじが名探偵路線に変更?

「そんな裏事情は語られてない! 正解は、なんで一人ずつ殺す必要があるんだよ、だ!

 一人ずつ殺すとか効率悪い。ボス戦前の勇者一行じゃないんだからいちいちセーブポイントに行って体勢を整える必要はないだろ」

 身も蓋もないですね。

 つまり、誘拐なら何日もかけず一気にするのが最も効率がいい、と。

「そうだよ。検問か柵を乗り越えるにしろ、回数は少ない方がいい。それにただの人売りの目的なら数が少ない」


 6人。

 人としてなら多いだろうが、商品としてはどうだろうか。


「そのあたりは詳しくないからよくわからんけど………………今の状況じゃなに言っても憶測だよな。まずは情報収集」

 で、失踪者のご家庭を回ってみましたが、何か得た物は?

「……………自発的失踪の動機がないってことくらい。うう、頭使いすぎて痛い」




 犯人の目星どころか犯罪かどうかもわかってないのに早くも知恵熱出すくせにこんな怪事件に首を突っ込むのはちゃんと意味がある。

 その動機の一翼を担う少女アリアはあるじに手を引かれて落ち葉を踏みしめながら周りの木々を物珍しそうにきょろきょろ眺めている。


 着ているのはワイシャツだけで、浴衣は羽織っているだけという誰の趣味か問い詰めたい格好をしている。ちなみにアリアの趣味だ。浴衣はどうも好きじゃないらしい。


 今朝、私が起きるとあるじが血の海に沈んでいた。

 あ、暗殺ですかっ。

 私が驚いていると血で染まった枕から頭をあげてあるじが呟いた。

「…………なんで、この子、服着てないの?」

 昨夜の会話の後、移動するのが面倒だったからアリアと一緒の布団であのまま寝たあるじが朝起きて気づいたらしい。

 アリアはぶかぶかのワイシャツだけというあられもない格好ですーすーと気持ちよさそうに寝ていた。


 昨日の昼に着せた浴衣は部屋の隅で丸まっていた。あるじが足を取られた布の正体がソレだ。

何でも、浴衣なるものは好きじゃないらしい。初めて出会った時も肌着のようなワンピースだけだった。ラフな服装が好みのようで、妥協して浴衣をストールのように羽織らせたのだ。


 なのであるじは半袖インナーの上に直接ジャンパーコート、足は安全靴をアリアにはかせているため素足という野生(びんぼう)的ないでたちである。靴くらい宿屋で借りればよかったのに。




「アリアは今まで会った人たちの中で見覚えある人はいた?」

「……………いた」

「ほんと!? 誰だった?」

 事態の進展に驚くあるじの顔をアリアがかすかに微笑んで指差した。

「ありな」

「…………………………僕以外では?」

「……………いない」

 二日前に彼女のものではない血で真っ赤に染まっていた記憶喪失少女は簡潔に答えた。




 記憶喪失&血塗れ少女と連続失踪事件。

 私達はこの二つに関係があるのではないか、と思ったのだ。

 もしかしたら誘拐された内の一人がアリアで、誘拐されそうになったアリアが返り討ちにして誘拐犯の血を浴び、そのショックで記憶喪失になった――――という真相ではないかと考えた。

 それならば事件の中枢に関った方がアリアの自分探し(記憶を失ったから比喩なし)が進むと思ったからである。




「でも、手掛かりはなし。アリアのこと知ってそうな人もいなかったよなー。街並みも、知ってる風景はない?」

「……………知ってる」

「今日二回目の驚きだよ!? どこ知ってた?」

事態の進展に驚くあるじの顔をアリアがかすかに微笑んで抱きついた。

「ありなの、ここ」

「…………………………そう簡単にはいかない、か」

 落胆するまでもなくあるじは軽く言う。というかここ数日で抱きつかれすぎて耐性ができているあるじが不快だ。



 アリアと連続失踪事件は関係ないのかもしれない。

 じゃあ、アリアは何と関係している――――――?




「っと、猫、着いたぞ」

 あるじの肩に引っ掛かっている(肩に乗れるほど私は小さくない)私は揺すられて考えを中断する。


 あるじが着いたといった場所は、山の裾野に生える木々の中。

 落ち葉が形成した柔らかい腐葉土の上に着地した私は目の前に立つ《柵》を見上げた。


「4mはありそうだなー。これが街をぐるりと囲んでるのか」

 それは街を囲っている柵だ。木製で出来た杭が一部の隙もなく並んで城壁のようになっている。街に獣やならずものが侵入しないようにして治安を保つためだろう。



「これじゃあ、普通に侵入は無理だな」

 高さ4メートル。手を伸ばすどころでは全然届かない高さ。

「鉤縄がいるな…………いや、柵の先がとがってるからひっかけられない、かな?」

 あるじが柵を見上げて考えている。どうすればここを飛び越せるか考えているのだ。




 この街は柵があるため出入り方法は街門を通るしかないのだが、そこには門番がいて検閲をしている。検閲は治安維持のために不審人物を通さないように検査する。


 例えば、錬金術師の中身がない鎧の弟とか、ポケットの中に地球破壊爆弾を所持している結局は造ることが出来ていない22世紀の猫ロボット、もしくは所持している荷物の中に意識がない人間が詰められていた不審人物などがいたら即御用である。


 だから誘拐ならば正規ルートではなく何か抜け道を使っているかもしれない。

 一番有り得そうな抜け道が街を囲んでいる柵を飛び越えることである。私達はその検証をしに来たのだ。




「先端を輪にしたロープを投げて杭の先端にひっかけて登るのは…………無理っぽいね。杭の尖り方が浅いからクライミングしたらロープ抜けちゃいそうだ」

 肩車とかなら届きませんか?

「よし、猫やるぞ」

 何をですか。

 数十秒後、そこにはあるじとその頭に乗る私がいた。

 …………………………。

「猫、届かない?」

 そうですね、もう少しで届きそうです。あるじの足の長さがあと2m伸びればきっと。

「そうか……………よし、牛乳飲みに行こう」

 何年かける気ですかっ!

 なんだその無駄に年月をかけるプロジェクトは。


 私は馬鹿らしくなってあるじの頭から飛び降りる。高さは約170cm。対し柵は4mオーバー。

 普通にやったら飛び越えるのは無理ですね。

「普通にやったら、ね」



 普通の手段なら4mの柵を飛び越えるなんて棒高跳びの選手でも連れて来るしかない。それでも、向こう側には硬い地面しかないから大怪我は免れない。


 だがここは異世界。

 普通でない手段がある世界。



 あるじが柵から少し離れた地点までアリアを退がらしてから、人差し指をビシッと柵に向ける。

「猫っ、君に決めた!」

 はいはい、ご指名ありがとうございますよー。あー、たりぃ。

「ポケットなモンスターがそんなこと考えてたら小学生は人間不信になるぞ。まあいい、猫、火炎放射だっ」

 はいはい、わかりましたわかりましたよ。ったく、人使いあらい奴め。

「猫そのキャラは止めてっ。ピュアハートが傷つくから!」

 あるじをからかって満足した私は心の中でとある一文を呟く。




 フランメン・ツー・アイネム・シュランケ・ツザンメン・ゼッツェン。

炎に(Flammen)かたどられた(zue inem)宙を(Schlange)這う獲物を(zusammen)探す蛇(setzen)】!



 

 呪文に喚起されて、蛇の形をした炎が地面から吹きあがった。

 かつて敵対した黒外套魔術師が使っていた魔術を、私が火の粉を食いちぎることで手に入れた魔術。

 その威力は防御魔法ですら噛み砕く、私が持ちうる魔法の中で最強の【魔術】。


【炎の蛇】は舌をちろりと火の粉と共に出す。

 命が宿っていない蛇は予備動作なしでバネのように弾け、矢のように一直線で柵に向かう。ネズミどころか人間すらも飲み込む炎が柵に直撃した。





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