Lv13―『野営地』・そのころの人々
猫とあるじが温泉町の路地裏を右に左に逃げ惑っていた頃、ユニは怒っていた。
「もー! なんでなんでアル様を追い払ったんですか!」
「ですから何度も言いますが、彼には任務を与えただけで決して追い払うなどの意図はありません」
猫達がいる『地熱街』ウィルマから少し離れたフロポン平原で野営をしている豪奢な馬車の中から、少女と男の話声が聞こえる。
豪奢な馬車は中身も絢爛で、ベッドやソファが備え付けられここで生活することも可能な内装をしている。
革製ソファに腰掛けている少女・ユニは子供のようなふくれっ面でわかりやすく怒っていた。
「でしたら、私に私に一言くらいあいさつさせてくれてもくれても、良かったじゃないですかっ」
「ですから何度も言いますが、彼には即急性ある任務を与えたのでそんな時間はありませんでした」
答えるのは扉の脇に立つ、イブシ銀といった風体が似合う三十代後半の男。だがその頭の頭頂部に生えてピンと立っている二つの猫の耳がそれらのイメージを一撃必殺していた。
ユニの護衛を務める隊長のスィニクス・ピアッサーだ。
お姫様とその御一行は、某絶賛食い逃げ中の少年が森の主からもらった連絡方法で伝えておらずいまだに魔物の大群が微動だにせず行く手を阻んでいるため、今日もここで一夜を過ごす運びになったのである。
だが、馬車の中では違う事が物議をかもしだしていた。
「うー! でもでも、それならアル様にやらせなくても…………」
「ですから何度も言ますが、彼にしかできないと考えたからです」
某・追いかけて来る人数が減るどころか逆に増えて二ケタの人間に追い回されている少年がいないことに気付いた昨日の夕方からユニは怒っているのだ。
逆にスィニクスは冷静に子供をあしらうように対応していた。一国の姫にこう怒られても平静としていられるのは二人の付き合いの長さを表している。
「姫もわかってらっしゃるはずです。彼以外にあの魔物の群れをすり抜けることができる者はいない、と」
「でもでも、遠回りするなり魔物さん達が移動するのを待てば待てば……………」
「今回の任務はエドガルズ大陸の中心『大聖都』アレス・タクトに報告するためのものです。早くエルミニ大山脈に現れた【異世界の敵】のことを知らせなくては」
異世界の敵。
数百年前からこの人間達がいる世界を侵略してきた二つの種族。
【天使】と【悪魔】。
エドガルズ大陸全土をおおうほどの【結界】を張ることで異世界からの侵入を防ぎ、なんとか膠着状態に持ち込むことができた。それが100年前の話。
「その【結界】があるというのに、あの異世界の住人は我らの土地に足を踏み入れたのです。この意味はおわかりですな?」
「…………それは最悪、侵略の再開」
つまり冷戦の終結。戦争の勃発。
――――――戦いが、はじまる。
「お分かりいただけましたか?」
「うーうー」
事は重大で私情を挟んでいる余裕はないくらいなのだ。そのくらいはユニにだってわかっている。だが、それでも不満ななものは不満なのだ。
「でもでもアル様大丈夫でしょうか…………誰かにイジメられてないでしょうか。そこら辺に落ちてる物食べてないといいですけどけど」
野良犬か。と思ったがスィニクスは「そうですね」と心にもない相槌をうつ。
「彼なら心配する必要はないと思いますが」
むしろこのままいなくなってしまった方がいい、と内心で思うがユニは耳を貸さない。
「ああ、心配です心配です。アル様が大変なことに巻き込まれていたらどうすればどうすれば。
聡明で凛々しいですけども幸が薄そうですから、きっときっと何か不幸なことが起きているに違いないですないです」
スィニクスは聡明で凛々しいあたりの色眼鏡に呆れてしまう。猫が聞いたならば聡明で凛々(よわよわ)しいと読み、本人は誰の事だ、と首を捻るだろう。
しかし、とスィニクスは壁に背を預けて、ソファの上で色々な想像をして赤くなったり青くなったり忙しいユニを視界に収めながら思った。
少年へのユニの懐き方は、少々度が過ぎている、と。
身近な者が側近から魔術の師まで鏖殺され、そんな危険な所を救われ助けられれば、依存してしまったも無理はない。
度が過ぎていると思ったのは、時間である。
少年とユニが出会ってから今まで3週間にも満たない。
「アル様はちゃんとちゃんとウィルマで待っていてくださっているでしょうか、でしょうか…………」
だというのに、まるで親を探す雛のように異常な懐き具合である。
恋をしている、のならば納得はできないが理解はできる。たとえ少年がヘタレで幸薄そうだとしても男であるなら少女が恋に落ちるのも雷が人間に直撃する確率ぐらいはあるだろう。
だが、その月光と灯燭の明かりで橙色に染まる横顔は恋する乙女のものではない。
もっと、もっと切実な親猫を探す子猫のような哀しさを含んでいる。
「どこか、私の知らない場所に行かれてませんよね、アル様…………」
夜空にかかる上弦と下弦の二つの月を、ユニは窓のフチに頬をつけて眺めていた。
二つの月が足元を照らす縁側を、私とあるじはとことこ裸足で歩いていた。
「あ~、疲れた………久々に走った走った。食い逃げするならもっと食べときゃよかったなー」
飲み屋からの逃亡で肉体・精神ともにぼろぼろになったあるじは次の一歩で崩れ落ちそうになりながらもなんとか歩いていた。
裏路地を駆け回りなんとか『雪解け水で煮え湯を飲ます』旅館にすごい遠回りして戻ってこれた。支配人への挨拶もほどほどにあてがわれた部屋へ向かっている。
月光を反射しきらめく池が見える縁側を歩きながらここにはいない元凶へ呪詛をはく。
「ユニ兄め…………復讐してやる。次に会ったら膝カックンしてやる」
えらくせこい復讐ですね。
「だ、だったら、後ろから近づいてわっ! って驚かしてやる!」
せこい復讐方法に燃えるあるじを無視して日本庭園を見て風流な気持ちになってみる。玉砂利と鯉が泳ぐ池、丁寧に手入れされた松の木。ふうりゅー。
「えーと………アリアが待っている僕らが泊まる部屋は『浮気がバレた夫婦の間』だっけ」
なんとなく広そうですよね、ネーミングからして。
「というかこれ本当にあってるの?」
字が読めないので口頭で知らされた名称を信じるしかないのだが、異世界語―日本語自動通訳機能が誤訳しているかもしれない。
「うーん、でもリアルタイム翻訳なだけで『お通さん』は淒いと思うけどね」
お通さん。
今年で29になる別嬪さん。そろそろ会社でお局様と呼ばれそうになるのを恐れて寿退社を夢見る。なんて人は関係なくただ【不思議通訳機能】をそう呼んでいるだけ。ちょっと親密感が出る。
まあ、【召還魔法】の副産物なんだろうけど。
「『浮気(以下略)の間』で朝からお留守番中の記憶喪失少女が僕達の帰りを待ってるだろうから、早く行こう」
いや、もう寝てるんじゃないですか? もう月の高さからして21時ですよ。残業してきたお父さんを子供が待つわけないです。
「世界中のみんなぁ! お父さんに元気を分けてくれぇ! 休日は寝かせてあげてぇ!」
世に働く父親の代弁者となったあるじを置いて私は木製の床を先行する。
ちゃぽんと鯉が跳ねる音が静寂をやぶらず、溶け込むように聞こえた。聞こえもしない余韻が、私達の帰還を歓迎しているかに聞こえる。
情けない声も聞こえた。
「走って結局おなか減った………何か食べたいよう」
我慢しなさい。ツクシ食べたでしょう。
「ツクシでお腹を満たすってベジタリアンでも厳しいぞ…………」
野菜じゃないからツクシリアンですよ。
「新手の怪人というよりも尽くしてくれる外国風メイドみたいだ」
何か入ってないかとごそごそジャンパーコートのポケットの中を探って取り出したのはセリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ベラドンナ・スズナ・スズシロ。この寒い土地で春の七草を見つけられるなんて………ゆー、農業始めちゃいなよ。
探れども探れども草しか出てこなくて、あるじの顔が絶望に彩られ始めたと思ったら、あるじの動きが止まった。
「…………なんか硬い物が?」
ポケットから手を引き抜くと、月明かりで宝石のようにも見える黒いビー玉のようなものがつままれていた。
「飴玉発見! いっただきまー………」
ずるいずるい! と私は大口を開けて今まさに飴玉を舐めようとするあるじの足を登ろうとするが、足を揺することで登るのを邪魔する。だけでなく、飴玉を頭上に掲げて私がどうあがいても届かない位置に上げ、勝者の笑みを浮かべた。
「ほらほら、欲しいなら取ってみろチビ」
貴様アアアアアアア! 私の怒りが攻撃力を増加させ隠された才能と封印された力が解放させる!
要約すると怒った私は収納していた爪をむき出しにしてひっかいた。
「~っ! い、痛くないもん!」
シャアアアアアアアアア!
「あ、痛い痛い痛い! 足のツボを押さないでぇ! お前はマッサージ師かというかそんな知識どこで手に入れた!?」
必殺・お前の内臓は死んでいる足ツボ肉球押しに早くも涙目になって降参する。元の世界にいた時あやしげな人間(23歳・背が超低く短パンが似合う)から学んだ技術だ。さあ、はやくその糖分をよこしなさい。
私はうずくまるあるじに投降勧告をする、その隙をついてあるじは飴玉を口の中にぱくり。あー! ずるいっ。吐き出しなさい!
「ひょんなこといったってもうはべひゃった」
満面の笑みで飴玉を頬張りながらうずくまるあるじに私は飴玉よこせと飛びかかる。
「いいじゃん、猫はどうせ飴玉舐めれないんだから。僕の口元をなめるな、舌がざらざらして痛い。それにもう無理。噛み砕いちゃうもん」
ごりっっ! っとあるじの口の中から異音が聞こえた。飴を噛み砕いた音、というよりアゴが砕けたような音だった。
「……………………」
あ、あるじ?
時間が止まったように微動だにしない――――あ、口が開いて中から黒いものが落ちてきた。落ちてきたのは黒い飴玉の破片…………だけではない、破片に付着しているのは緑色の粘液? とてつもない悪臭を放つ謎の液体である。
………あるじ、歯を毎日磨かないから臭いんですよ。あんな緑色のつばまで出しちゃって。
「人間ふぁどう転んへも緑色の体液は出せないよ!」
アゴを押さえながら抗弁するあるじ。緑色の液体はあの黒い飴玉の中に入っていたのか破片と混ざっている。この臭いどこかで嗅いだことあるぞ?
頭の中でフラッシュバックしたのはあの森の王者・リアルスライムだった。
思い出しましたけどこれって、《魔物狩り》を追い払ったら連絡に使えって言われた宝石(スライムの一部)ですよね。壊しちゃいましたけど、これで連絡がついたことになるんですかね。
私は鼻を寄せてすんすんクサイ! 顔をしかめる。これを料理に隠し味としても絶対隠れないだろう存在感を主張している。ひと滴垂らすだけで、攻撃力が+0157されそう。
あるじ、お味はどうでした? お腹一杯になりました?
「………………ポーション飲んで絶望した気分。アレの原材料ってモンスターの一部なんだぜ」
麻薬常習犯のようにたわごとをつぶやき虚ろな目をしているあるじ。
ごちそうさまは?
「…………ご愁傷様だよ」
私の軽口に反応せずふらふらと一秒でも早く帰りたいとばかりに歩み出すあるじの足元を私もついていく。
月明かりに目を細めつつ行く手に現れた障子(ジャパニーズ引き戸)を見上げると、鴨居の上に達筆な文字がかかれた看板があった。
よくわからない表音文字で書かれたそれは『浮気(以下略)の間』と書かれているのだろうが、残念ながら読むことはできない。しかし、読めない異国の文字というのは何故だが典雅に感じる。内容は最悪なのに。
見上げていた私の首を掴んでひょいと腕の中に抱えると、あるじは障子を開いて部屋に入った。
「ただいまーアリア。お土産買ってきたぞー」
お土産は私ですかっ。
初めて訪問する部屋に帰宅の意を表しながら左右を見渡すが、部屋の中は真っ暗だった。障子から光が洩れてなかったので、明りがついていないことはわかっていたが。
「ありゃ、寝ちゃった?」
みたいですねー、と中に入る。
障子を閉めるその間際、月光りが差し込み部屋の中に配置された家具の輪郭をうっすらと浮かび上がらせた。床の間に飾られた生け花と掛け軸。中央に据えられた卓台。隅に積み上げられた座布団。隅にちぢこまっているアリア。火が点いていない行燈。畳の上に敷かれた布団。小物が載せられた台。
…………気になる家具が一つだけあるんだが。
「……………アリア?」
目ざとく気づいたあるじが誰何するが返事はない。
障子紙から微かに月光が透けているので、アリアだというのはかろうじて判別できる。普通の人間なら無理だろうが、元の世界で薄暗い路地裏を逃げ回っていたあるじと猫目の私は夜目がきくのだ。
だが、夜目がきかないであろうアリアはこの真っ暗な部屋の中の隅で布をベールのように被ってうずくまっていた。
「アリアさーん、寝るならお布団の中で寝ましょーねー」
あるじは近づき、持ち上げて敷かれた布団(旅館の人がやってくれたのだろう)に移動させようと、アリアの背に手を通すとその腕が掴まれた。掴んだのは腕の中の少女だった。
「起きてたの?」
「……………」
「アリア?」
腕を掴んだその少女は返事をせず、あるじの胸に顔をうずめた。その動作はやはり、16そこらの外見には似合わない幼いものだった。
「どしたの……………さびしかった?」
「……………」
「とりあえず、お一人様ごあんなーいぬおあっ」
決して軽くはない自分と同世代の少女を軽々と抱き上げたあるじだが、アリアにかかっていた布に足がとられてしまい、
「とっとっとぐごぁ!?」
たたらを踏んだ先にあった小台に小指をぶつけ倒れた。倒れた先が布団だったからよかったものの、倒れたあるじの下敷きにされたアリアはそれでも何の反応を示さず倒れたまま。
「今の一撃でHPが1しか残らないくらい痛い………」
大げさですよ、そして防御力低すぎ。ブロムヘキシン飲め。
涙目のあるじは「負けないもん」と世の不条理へ不屈の魂を表明しつつ視線をHP1までおとしめた敵に向ける。
「何にぶつけたんだ?」
私は一部始終見ていたのでわかる。いや、見ていたというよりは嗅いでいた。あるじがぶつかったのは四つ足の膳である。要するにタケノコの煮物や雑煮といった美味しそうな食事が盛られた台だ。夜遅くに帰ってくると連絡しなかった私達の為に旅館の人が用意してくれた夕食だろう。
「………………さっきまでの1時間は何だったんだ」
食事用意されてるならユニ兄に構わず一目散に戻ってくればよかった、と疲れが徒労になりかわる。ツクシ食べなくてもお腹いっぱいになったのか…………。
蹴つまずいたせいで膳はひっくり返り、タケノコ煮込み漬物和え雑煮になってしまっているのをあるじが悲しげな目で見つめている。
「さ、30秒ルール…………!」
やめなさい、みっともない。
手を伸ばすあるじをはたいて、私は床にひっくり返った雑煮に舌を伸ばして食べる。猫なので落ちてる物を食べてもいいのだ。冷めてもうまー。
「今日は寝るもう寝る」
食べ物を自ら無駄にしたショックで現実逃避ぎみに毛布をかぶろうとするあるじ。
いつもなら転がったおむすびを穴の中に落としても潜入して中の鼠ごと胃に収めるくらいだが、今日はいろいろ(《失踪事件》の解決に挑む・ユニ兄に襲われる・食い逃げの三本立て)あったので食欲よりも睡眠欲を優先したようだ。
私は睡眠欲よりも食欲を優先し、ぺろぺろぱくぱく食べていて気がついた。量が多い。
こぼれた雑煮の小鍋は二つ。他の食器も二つずつ。転がっている箸も二つ。
買い物のお釣りの量が多くてもバレないうちにしまうセコい誰かと違って、私は増えた食料に喜びながらもその意味に気がついた。
あるじ、これって二人分ってことじゃないですか?
二人分。あるじと私―――ではない。猫に箸を添えて料理を出す人間はいないだろう。
普通に考えて人間二人分。あるじと、アリアの分。
のはずだが、こぼれた食事の量はあるじの分が丸ごとなのはともかく、ここで食事をとったはずのアリアの分もかなりこぼれているように見える。
「アリア、夕飯食べなかったの?」
一緒に布団にくるまってもまだ抱きついたままのアリアにあるじは聞く。アリアは寝てしまったのかと疑うくらい反応がない。
「…………あー、帰ってくるの待ってくれて食べなかったの? 帰ってくる時間伝えてなかったもんなー」
朝、この旅館に来て《失踪事件》の話を聞いて、アリアを置いて森に行って、帰ってきて飲み屋に入って、街中を追いかけ回されて、ようやく戻ってきた。
半日くらい放置されていた記憶喪失少女。
それに、帰ってきた時、彼女はアリアは部屋の隅で縮こまっていた、という情報を加えると見えて来るものがあった。
もしかすると……………あるじ、ごにょごにょ。
私はあるじの枕元に立ち耳元でささやく。
「やめ、くすぐったい。ヒゲが耳にあたってくすぐったい」
といってもしゃべれないから耳に顔をうずめるフリだけだが。
部屋の隅にいたアリア。
あれは雨と風で騒がしい夜の雷に怯える子供の姿に見えた。
「………もしかして、アリア、ご飯食べてないの?」
こぼれた食器の中にはほぼ満杯の状態の食料が収まっていた。
年少の子供に聞ようにゆっくりと質問をぶつけられた、同世代の少女はあるじの首筋にうずめるように顔を押し付けた。肯定の仕草………だろう。
「もしかして、お腹すいてなかった?」
今度は頭を左右に。否定、だろう。
「……………もしかして、あんな隅で丸まってたのは……………僕が帰って来ないと思って怖かったから?」
頭は動かない。否定でも肯定でもない。
「だからあんな隅っこで丸くなってたの?」
雷に怯えるように不安だったの?
アリアはそれにも答えず、あるじに抱きつく。あるじの着ているジャンパーコートにしわがつく程、強く。赤子が掴んだ指を離さんとするように、握りしめる。
「……………怖、かった」
「よしよし」
あるじが頭を撫でる。そして肝心なことを聞いた。
「あー…………記憶とか、戻った?」
「……………」
アリアは首を振って否定しながらも、瞳に涙を溜めながら話し始めた。
「……………あのね、夢を、見たの」
「夢?」
「怖い、夢。そこは暗くて、誰もいないの」
たどたどしくも、普段は無口なアリアがせきを切ったように言葉を連ねる。
「私は、一人ぼっちで…………目を覚ましても、一人ぼっち」
そんな夢を見たから、夕飯も食べずに隅っこで怯えていたのか。
この場合、ただの夢ととっていいのか。
「怖かったよう…………」
「よしよし」
アリアは童女のように、縋るように、媚びるように、不安そうに聞く。
「……………ありな、いなくなったり、しないよね?」
「……………明日は、一緒に行こうか」
あるじは答えなかったが、アリアは笑顔を浮かべるとそのまま眠ってしまった。