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Lv02―異世界地理のお勉強

「『アレスタクト大聖都』はこの世界で唯一の大陸『エドガルズ大陸』の中心にある大都市で、ここシェイラ・ジャルガから南西方向にありますます」

 私とあるじはベッドの上に座りユニ先生の地理授業を受けていた。

「道程は直線で向かわずまず南下して、アレスタクトからずーっと東まで伸びている大街道に合流してから西へ向かいますます」

 ユニが壁にはられたエドガルズ大陸図を指さしながら言う。初めて見た、魔法世界の大陸は強いて言うなら豪州陸(アウストラーリエン)に似てなくもない。

「国から国への移動なのでちゃんと道も整備されてますからますから、楽な旅ですよ」

「質問いいですかー」

 あるじが片手をあげて学生のように質問をする。

「えっと、この世界、というか大陸は人類ヒキコモリ計画じゃない【結界】、つまり【壁】見たいので覆われてるんだよね。なのに壁が書かれてない気がするんだけど」

 あるじの言う通り地図にはただ大陸が書かれているだけで周りは海。壁のようなもの描かれていない。ユニは先生っぽく威厳を出そうと少し声のトーンを落としているが、少女のかわいらしい声は健在だ。

「【結界】は魔法でできているので実際に壁があるという訳ではないんですよすよ」

「ほー」

「その代わりと言っては何ですけど、最東端には『東籠神殿(カノン)』、最西端には『西魔封殿(アポクリファ)』という封印結界の維持装置がありますけど…………見に見に行きます?」

「い、いやいいよ………………そんな重要施設に行ったらその破壊を目論む天使と鉢合わせてガチバトルとかになったら目も当てられない」

 ガクガクガクガクと先日の戦いを思い出して震える。非戦闘・絶対逃亡主義の人なのでこの間は(あるじにしては)よく頑張った方だと思う。



 震えが止まったあるじはまた手を挙げる。

「何でその、ダイセート? に行く事になったのさ」

「前回の…………その【アレ】についてです。アレがどういう理由であれ【結界】を越えて人間を攻撃してきたのは確かで、その事をエドガルズ連合の総本部があるアレスタクトに報告して各国に注意を呼び掛けないとないと、いけませんから」



【アレ】―――シェイル・ジャルガ王国を一人で追い詰め私達と戦った恐るべき人外の事。

 しかもその侵入を防ぐための【結界】があるはずなのに通れてしまうというのはゆゆしき事態だろう。アレが大人数では無理というような事を言っていたけど、どちらにしろ大事件だ。



「最悪、最終戦争(ハルマゲドン)の再来、ということか」

 まあ僕らには関係ないけど、とでも後に続くような気軽さであるじは口にする。まあ、自分の面倒も見られないあるじが他人の心配している場合でもないからな。戦争という単語が現実離れしていて正しく認識できてない、という面もあるだろう。



 私達の前にはいくつか頭の痛い事案が転がっている。というか痛めているのは私だけで、あるじは何も考えてないのだろうけど。

 頭脳労働を飼い猫にやらせるとか労猫法違反じゃないのか? 本来の猫の仕事は食って寝るだけなのに。



 私の仕事を代わりに背負ってここ数日は食べて寝るだけを繰り返していた駄目人間はまたもや手を上げる。

「ユニ先生、また質問なんだけど」

「なんですか、アル様」

「……………どうしてその話を僕に?」

「え? あの、ですからアレスタクトに私が行く事になりましてのでので…………?」

 何かかみ合ってない話に向かいあて首をかしげる二人。

「うん、まあ……………いってらっしゃい。お土産いらないから」

「ええ!? ついて来て下さらないのですかですかっ」

 ぱたぱたと手を振るあるじに驚くユニ。

 どうやらユニはあるじが付いてきてくれるものだと思っていたらしくて、あるじは留守番をまかされるとでも思っていたのだろう。驚きのあまり目がうるんでしまっている。



 ユニのあるじに対するなつきっぷりはスゴく、まだ2週間しかたってないというのに親猫と子猫のようにべったりとしていて吊り橋効果という学説が正しいものであると私に教えてくれた。

 あるじは雪山での戦いで三年に一度あるかないかの本気モードを使ってしまったので三年寝太郎にでもなるつもりだったのだろう。

 メンドクサい事は嫌なあるじと、連れていきたいお姫様の戦いが始まった。


 Duell(フアイト)


 おひめさま の こうげき。

「つ、ついて来て下さらないんですか……………?」

 うるんだ瞳の上目遣い!

「ぐはっ」

 あるじに56のダメージ!



 あるじ の こうげき。

「ほ、ほらさ、前回は人手が足りなかっただろうから護衛して手伝ったけど、もう人手は足りてるでしょ」

 目ぶり手ぶりを加えての言い訳。

 あるじ の すばやさがあがった。へたれがあがった。



 おひめさま の こうげき。

「で、ですが、アル様みたいに強い人がまた護衛してくれるなら心強いんです、です………」

 何気ない言葉のナイフがあるじを襲った!

「………………違うの、君の見てる僕は本当の僕じゃないの」

 あるじはユニに聞こえない小声で嘆いた。ユニは未だにあるじが強いと信じているのだ。

 あるじ の すばやさがぐーんとさがった。


 

 あるじ の こうげき。

「一億と二千歩ゆずって護衛の面では僕がいた方が心強いとしよう。でも、ホントにそれだけ。他になにも出来ないよ。指輪どころか聖剣すらもってない勇者ですから」

 自分のダメっぷりをアピールした!

 あるじじしんに 231のダメージ! 

「何だこれ? すでにすごい劣勢」



 おひめさま の こうげき。

「道中でのお話し相手になってくださるだけで、だけで私は十分うれしいですですっ!」

 純心な微笑み!

 クリティカルヒット! あるじに大ダメージ!

 だがあるじはふんばった。

「逃げなきゃだめだ、逃げなきゃだめだ、逃げなきゃだめだ」

 あるじ の HP が 1だけ のこった。


 

 あるじ は たすけをもとめた!

 私にちらちらとモロバレな視線を投げかけて来た。どうやら私に援護を求めているみたいだ。



 ネコ の こうげき。

 いや、ここでこの仕事受けとかないと本格的に無駄飯喰らい(ヒモ)ですよ。

 客観的な真実を告げた!

「ぐはぁ!」

 あるじは999のダメージをうけた!

 あるじはたおれた!

「もう好きにして………………」

「はい、好きにしますっ」

 ベッドの上に上半身だけ倒してわかりやすく降参するあるじと、諸手をほんとうに挙げて喜びを表現しているユニという対照的な二人だった。





 旅のお供をすることになったあるじは「よくよく考えると護衛とか魔法を使うのは猫だから僕は働かなくていいんじゃないか」などとのたまい私に丸投する方針で固めたようだ。

 床に座り子供のようにるんるん気分で荷物をまとめている。

「バナナはおやつには入りませーん。これが、これが僕の唯一のお昼ご飯なんですっ…………」

 完全に遠足気分だ。

「よくよく話聞いてみると護衛は僕達だけじゃなくてちゃんといるみたいだし、これってタダで旅行できるってことだろ。なら楽しまないと」

 ごそごそと何やら登山用の大きなザックに色々なものを詰めている。この世界には身一つで来たのでこの城の中で手に入れたものだ。

「えーと、遠足のしおりにバナナに双眼鏡に水筒に長靴に傘にシェイラ・ジャルガのお土産に熊の置物に枕に保存食にコンパス」

 9割置いていけ。

「それに猫」

 ふぎゃあああ!?

 そばで寝そべっていた私をいきなり掴んでザックに放りこんだ。

 い、いきなりなにするんですかっ。

「いや、忘れたら困るからさ」

 あるじが忘れても自分でついていきますよ!

 私はザップに前足をかけて顔を出す。そのせいで重心が傾いたためザップが横倒しになり、当然私も倒れザップの中から放り出され転がる。あう。

 そんな私の小さい冒険劇を尻目にあるじは異世界観光の計画を立てる。

「やっぱり異世界に来たんだからそれらしいの見たいよなー」

 まあ目的地は決まっていますけどね。目的は決まってますけど。

 目的。

 私達の目的はお姫様を護衛する、だけではない。

「各地の名産品を食べつくすも含まれるっ」

 …………訂正しよう、私の目的はそれだけではない。

【召還魔法】と【天使】についての情報収集だ。



 ここ、シェイラ・ジャルガでもお姫様だけではなく、ユニの名を盾にいろいろな王家所属の魔術師に話を聞いてみたのだが、天使はモチロン召還魔法についても詳しく知る人はいなかった。

 天使は100年前から目撃例すらない存在でただいま絶賛冷戦中であるのだから仕方がないが、召還魔法までもがあまり知る人は多くないようだ。…………理由はのちのち判明する。

 そういう状況なので、情報収集の鉄則として人が集まるであろう大聖都で物を調べるというのは悪い事じゃない。もしくはどこかの村でひっそり暮らしている賢者でもいれば手っ取り早いのだが。



「攻略本なしでゼル伝説に挑まされる感じだよな…………モンスターの強さもわからず、情報を持っているキーマンの行方もわからない、聖剣が封印されている場所もわからない。異世界の生き方とかそういうガイドブックはないのかな」

 まあ現実(リアル)ですから地道に行きましょう。

 魔法世界(ファンタジー)で私にそう言われたあるじは、はぁと軽い溜息をついて私をまたザックの中に放り込んだ。ふぎゃああああ。




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