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Lv15―VS黒い鎧




「といっても、ここは僕の部屋じゃなくて雪竜の部屋だけどね」

「マジで竜の巣だったのか……………」

 金髪少年はその幼い顔に笑みをたたえながらあるじに話しかける。私はその小さい背中を見ながら警戒をしていた。

「部屋というよりかは竜の謁見の間というのかな。

 巨大な扉は雪竜の、他の小さな入り口は動物達用の通路なんだよ。お兄さん達が通ってきた所は違うんだけどね」

「違うって、他は入口であそこは出口だとか? もしかして一方通行を破っちゃったのかな」

「ははは、違うよ。あれは僕が動物達に頼んで掘ってもらったんだよ。都合のいい場所に出るために頼んだんだ」

 何が頼んだ、だ。どうせ【魔法】で操ったのだろう。



 しかし、この少年、あるじと私に挟み撃ちされているのに動じていないというか余裕だというのか。

 簡単にいうと戦い慣れてそうだ。

 しかも十歳とは思えない態度。

 一体何者なんだ?



 あるじもそう思ったのか少年に、剣を投げた相手に対する態度とは思えない、柔らかな声を投げかける。

「そんな竜王の謁見の間に詳しい君はいったい何者だい? ドラゴンハンター? 竜の国の案内人?

 それとも悪の【魔法使い】?」

「ははっ、面白い選択肢だね。お兄さんはその人たちに会ったことがあるのかい?」

 あるじの言った事が本当に面白かったのか少年は柔らかく笑う。二人とも敵対しているとは思えない態度だ。緊張している私が馬鹿みたいだ。

「いーや、そんな知り合いがいないから君の判断がしにくいんだ。僕が会ったことあるのは殺し屋に護衛人に借金取りに催眠術師と詐欺師にマッドサイエンティストくらいなもんだよ」

 それでも素敵なラインナップですよ、あるじ。

「で、そんな多種多様な人物に会った事がある僕がどの人種にもあてはめることができない君は何者なんだい?」

 そしてまた最初の疑問に戻る。馬鹿正直に繰り返すあるじをあざ笑うかのように笑みを濃くする。

「僕が答えるとでも?」

 その意地の悪い返答にあるじはやはり馬鹿正直に困った顔をする。そして、こちらにちらりと視線を投げかけてくる。

「さてはて、こういうとき勇者はどうすると思う? 猫サン」

 さあ? ブチのめして改心させるんじゃないですか。

「淒い武闘派な勇者だな、今度紹介してくれ。でも、人ってそう簡単に考え改めないよね」

 人に限らず何でもそうですよ。

「じゃあ、僕らの世界の流儀でいきますか」

 あるじが腰から西洋剣〈サーベル〉を抜き、空になった鞘を捨てる。鞘はカランと乾いた音を出して転がり壁にぶつかって止まった。

「君達の『世界』ね。どんな流儀なんだい?」

 傍(はた)から見ればあるじが一人でしゃべっているアブナイ人に見えるのに、少年は動じないしその事を問いかけもしない。動物を操る【魔法使い】として何か通ずるところがあるのかもしれない。




「僕達の世界の流儀はいたって簡単」私達の世界の流儀は当たり前のことです。

「弱肉強食」力がすべて。

「権力金力学力頭脳力、そして暴力」それが私達のいた路地裏の世界。

 なんていえばカッコいいがあるじは基本逃げるだけだった。まあ、この魔法世界にもあるだろう『裏の世界』というやつだ。

 路地裏出身の育ちの悪い勇者、だなんて笑ってしまう。

 しかも本当の勇者はその飼い猫だというのだから爆笑以外の何物でもない。




「――――――――――――要するに、力づくさ!」

 勇者にあるまじきセリフを言いながらあるじは少年との距離を一気に詰め、西洋剣〈サーベル〉を容赦なくふるう。だが、蝙蝠の魔法【光の壁】で阻まれる。宙に浮かぶそれは壁というより盾。ガキィンと鳴るのは金属音。それは交戦の合図だった。

「ははっ、いいね。そういう考え方は好きだよ。じゃあ―――――――――()ろうか」

 少年の笑いに反応するように黒い外套(ローブ)の一部が―――――否、黒い蝙蝠が一匹、少年の元を離れてあるじに襲いかかる。あるじは後退飛び(バック・ステップ)でそれを避ける。

「とはいっても僕自体に戦闘力はないんだ」

 バサバサバサと彼を止まり木にしていたコウモリたちが半分くらい飛び立つ。

「わかってるだろうけど、僕の【魔法】は《動物の群れを操る》能力だ」

 だが、半分は彼の元にとどまったまま。

「今は手持ちにこの子たちしかいないから大したことはできないけど、君達のお相手くらいはできるよ」

 その挑発にあるじは眉をハの字にして困った表情。そこは怒る所ですよ。




 だが実際のところ、そう言われても反論できない。私達はアレを黒い外套と言ったが、違う。

 あれは黒い鎧だ。蝙蝠が展開する【魔法】はそれだけで刃を止め【四文字魔法】を防ぐ。【四文字魔法】以外に攻撃【魔法】を使えない私にはアレを破ることは無理で、しかも蝙蝠は一匹や二匹ではないのだ。



 でも、あるじは剣を構える。【光の壁】に阻まれるのは明白なのに。

 無謀すぎる。

「無謀なのは最初っからだ。とりあえず君にはこの騒動を起こした目的を吐いてもらわないと、ね!」

 あるじは再び少年との距離を詰め、剣を何の技術もなく力まかせにフルスイングする。それはこの少年の細い首くらいなら簡単に刎ねてしまいそうな勢い。

 だが、やはり【光の壁】に阻まれる。少年はその力を信じているのか眉一つ動かさない。

「やっぱり無理か」

 またもや後退飛び(バック・ステップ)でその場から退がる。




 その姿からは想像がつかないが、あるじはかなり熱くなっている。普段のあるじなら防がれることが理解(わか)りきっていても人の顔に向けて剣など振るわない。

 ヘタレなあるじがそこまで熱くなる理由はただ一つ。

 熱くならないと勝負にすらならないからである。

 十に届くか届かないかの少年。だからと言って手加減できない。

 この手の軽佻浮薄なタイプは群れずに一人だけで行動するタイプだ。今まで色々な人種を見てきたからわかる。

 つまりこの騒動はすべて彼一人の仕業。

 この国をも転覆しかねない状況を作り出したのがこの少年なのだ。




 確信とともに、とある事を聞く。

「なあ、黒外套の魔術師を知ってるか?」

「はい、知ってますよ。人手が足らなかったので脅して協力してもらいました」

 それが何か? という表情で少年はあっさり自白してしまった。自分が黒幕であると。人殺しを指示した者である、と。

「と、なると」

 あるじは剣を構える。今までの笑顔はなりを潜め、その眼はかつてない程に不機嫌さを醸(かも)し出している。



「やっぱり目的はお姫様の誘拐だった、と」



「へえ!」

 少年は自身の目的を看破されて純粋に驚く。そこに焦りはない。

「よくわかったね」

「だって、不自然だよ。お姫様の誘拐、なんて簡単にいうけどさ。国を治める者の娘が、この国で一番の権力を持つ人間の娘が、そう簡単に誘拐できるわけがないだろ」

 私達が気付いていたが誰にも言わなかった事実。

「お姫様への注意が散漫になる状況」

 だれもが山の動物達に注目していた。

「お姫様が消耗しているという状況」

 絶対防御である【エルミニの雪遮竜壁】がそう何回も張れるだけの魔力がお姫様になかった。

「黒外套の持っていた結界破壊の短刀」

 絶対防御とされていた【エルミニの雪遮竜壁】を如何なる方法でか壊す代物。

「それで黒外套がその短刀を国に進言しなかった理由」



 この【檻】に苦しめられている状況で結界破壊の【魔法】があったら国は大枚をはたいて雇うだろう。そうしなかったのは何故か。それを使って自分だけでも逃げなかったのは何故か。

 竜オリジナルの【壁】を破るだけの力がなかったとしても、あの藁をもすがりたい状況だった――――――それこそ得体の知れない勇者に頼る程の――――――国に言えば、何かのきっかけを得るためにも言い値を払うのは火を見るよりも明らかだ。



「これだけあれば想像はつく」

 少年の目的は動物達の騒乱ではなく。

「始めっからお姫様の誘拐が目的」

 その一言に少年は面白くなさそうに笑いを消す。不機嫌そうな二人が相対する。

「……………………お姫様を誘拐するためだけに国を一つ傾けさせた、と?」

「僕の世界には一人の少女を救うためだけに一つの『都市〈シティ〉』を壊滅させた化物もいたよ」

 ネコの道は猫が知る。大事の前の小事ならぬ、小事の前の大事。

 前準備が大きければ大きい程、真の目的は隠れる。

「なるほど、やっぱり彼女が『お姫様』だったのか。そこまでわかっていたから彼女が動物に襲われる危険を冒してまで逃げさせた、か」

 今の話の流れであの銀髪の少女がお姫様であると察したのだろう。

「まぁ、ね。保険も兼ねて」



 なんでユニを狙うのかは分からないが、お姫様が目的なら私達は彼女をのこのこ連れてきてしまったのは私達。しかもショートカットまで使って。



「なら何とかするのも僕達の役目、ってさ」

「ふぅん、まあいいや」

 いきなり目の前に現れた棚ボタが目の前から逃げたというのに全然動揺した様子はない。だが、内心はどうであろう。

「で、どうするの? 君達が僕達に勝てるとでも思ってるの? ねえ」

 そこまで言う程、戦力差はない。

 片や絶対防御の【壁】と、片や絶対防御の【鎧】。

 二対五十八。

 勇者と猫VS悪の魔法使いと蝙蝠。



 だが、この計算は大いに間違っていた。

 これを見落としていなければ――――――いや、見ても何も思わなかっただろう。

 コウモリ達の胸にはとある文字が刻まれていたのだ。

【┳┓】、と。

 それが何を意味するのか。

 知るのは少年が本性を現した時。




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