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Lv11―落ちて、落ちる



「―――――――――――――――猫! 足元に壁を!」

 あるじは無重力を楽しんでいる私にそう命令した。

 そうかその手があったか。私はすぐさま足元に【エルミニの雪遮竜壁】を発生させる。

 その【壁】は落下方向の宙に忽然と現れたにもかかわらず重力の掟を破り虚空に停止する。

 現れた瞬間にダン! と、あるじが足元から着地した。これで洞窟に落ちてグシャリENDは回避できる。

 息のあったコンビネーションだ、と私はあるじの服に爪を立ててぶら下がりながら満足する。

 だが、あるじは満足ではなかったのか焦り顔。


「ユニッ!」


 そうだ、お姫様も一緒に落ちたのだった。

 透明な【床】の向こうに目をギュッとつぶり落ちていくユニの姿が。

 あるじ、どうしまわぁ!?

 私が声をかける間髪すらいれずにあるじは床を蹴って穴の奥へと落ちて―――――とか言ってる場合じゃない私も振り落とされそうだ!

 もう服がビリビリになろうが構いやしない、と勝手に決め付け深く爪を立てようと細心している内に、あるじは落下するお姫様に追いついてその小さな体を抱きよせる。

「ふわっ!?」

「大人しくしてっ」

 目的は達成したから【壁】で足元作りましょうか!?

「駄目だっ、今作ったら叩きつけられてうまく着地できない!」

 既に速度は人間が足で出せる最高速度を超えているかもしれない。でもどうすれば。



 あるじはすぐ様にベルトに差していた鞘から、サバイバルナイフを少し長くしたような野闘剣(グラディウス)を抜いて近くの岩壁につきたてる。それをブレーキにして速度を落とすつもりなのだ。

 ガリガリガリガリガリガリガリッと剣が削れているのか壁が削れているのかわからないような嫌な音が数秒続いて速度がガクンと落ちる。かと思うとさらに嫌な音が響いた。



 バキン。



「うそん」

「え?」

 あ。

 野闘剣は根元からぽっきりと折れてしまい、剣身と柄が永遠の別れを果たした。

 で、私達は重力と再会する。まだ足元を作るのには心もとない速度。おーちーてーゆーくー。

「ぐおっ」

 あるじは納める物がなくなった鞘を壁につきたてて勢いを殺そうとするが刃物でない分うまくいかない。

 かといってもう1つの西洋剣〈サーベル〉は長すぎるため岩壁につきたてるとテコの要領でボキンとすぐに折れてしまうに違いない。

 あるじに打つ手がないのなら私が打つまで。



 ―――――――――【エアロガ】



 使うのは風を巻き起こす【四文字魔法】。

 魔法の風は私達二人と一匹を包みほんの少しだけ速度を和らげる。だがこれで十分低速になった。

 ようやく足元が作れますね。

「駄目だ!」

 え、何故です?

「間に合わない!」

 あ。

 いつの間にか間近に迫っていた終着地点である穴の底。

 この勢いでも受け身を使えるあるじはともかく、私もだが体の小さい姫も思いっきり地面に叩きつけられてしまう。

「息、止めろ!」

 あるじはすかさず私とお姫様を自分の胸の中へ抱きしめる。その言葉に素直に従いユニが息を止めた。そして直後に予想していたよりも小さい、でも内臓が揺れるような衝撃を最後に無重力から解放されて重力にバトンタッチ。

 あるじがクッションになって衝撃を緩和してくれたのだ。

「ゴホッ、ゲホッ!」

「だ、大丈夫ですかアル様アル様っ!」

 腕の中に私とユニを収めていたために受け身が取れずモロ落下したようだ。




 落ちた場所は薄暗い洞窟。

 頭上を見ると光の円がある。私達が落ちてきた穴だ。それほど遠くはないが登って出るとなると苦労しそうだ。

「な、何とか……………骨も折れなかったみたいだから」

「ほ、本当ですかですかっ?」

 本当に怪我してないか確かめるためにぺたぺたとあるじの体を小さな手で触るお姫様。それをむずがゆがるあるじ。



 そんなラブコメしている二人を放って私がしているのは索敵だ。

 猫の耳は人が聞こえない音すら拾い、猫の瞳は暗闇でも動く者を見つけ、猫の鼻はかすかな生物の体臭でも感じ取れるので人間なら見落としてしまうものでも余さず感知する。

 もしかしたらここは竜の巣でいきなりドラゴンとバトルなんて事になったら目も当てられない。普通の細長い洞窟に見えるが他の生物がいるかもしれないし。熊(ベーア)とか。



「く、くすぐったいよユニ」

「あ、あわわわ、すみませんすみませんアル様っ。そ、それとかばっていただきありがとうございます」

「たまたまだよ」

「いえ、見てましたから。アル様は落ちなくてもよかったのに、私の為にためらわずに来てくださいました。本当に……………本当にありがとうございます」

「ゆ、ユニ……………」

 だからもう少しあの二人には緊張してほしい。呆れる私の耳に何かくぐもった音が。

 あるじー、何か音がしますよ。

「音?」

 はい。こう、上の方から。

「上………………?」

「上ですか? 今私達が落ちてきましたよ?」

 ………………………………………………。

「………………………………………………」

 無言で見つめ合う私とあるじ。

 私が走り始めるのとあるじがユニを肩に担いで走るのはどっちが早かったのだろうか?

 どっちにしろ大量の雪が落ちてきたよりも早かったのは確かだ。

「ひゃああああああああああ!」

「おわあああああああああああああああ! 生き埋めになるううううううううううううう」

 そして数百年後に発掘されて博物館に展示されるううううううううううううううううう!

 ドドドドドと穴から降り積もってくる雪・雪・雪。そして洞窟が陥落していく。

 走って少しすると開けた場所に出てようやく洞窟の崩壊が止まる。生き埋めの恐怖から逃げきった時には洞窟が細長かったということもあり穴は雪でふさがれてしまった。

「穴が開いたのが発端で雪の重みに耐えきれなくなったのかな」

 それともあの怪鳥が追い打ちでもう一発【魔法】を撃ったとか。

 あるじは担いでいたユニを下ろしつつ顔をしかめた。

 どっちも有り得そうだ。性格悪そうだしあのにわとり(フェーダー・フィー)

 雪で埋まってしまったから戻るのは無理だ。すると進むしかないのだが、雪で埋まってない方の道は結構先まで続いている。

「…………………隠しエリア発見?」

 むしろ魔物の巣に潜入では。

 どっちにしても、進むしかないのだが。




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