Lv10―VS怪鳥
「Gyaaaaaaahoooooooooooooooooooo!」
(おわああああああああああああああああああああああああああああ!)
ふにゃあああああああああああああああああああああああああああ!
怪鳥の肌が震えるほどの轟きにビビりまくるあるじと私。
ようやく傾斜が出てきて山に登ってるなー、と登山家気分になって、
「猫、そら青いなー」いやいや雪で曇ってますよ。
と上を向いて歩いていたらいきなり降ってきてのご登場。魔法ワールドにしかいないだろう動物との初遭遇に私達超びっくり。
だって大きさが4mもある白い羽毛の巨大な鳥ですよ! 鳥とは思えない程目つきが悪いし、頭の上のトサカが冠のようでいかにもボス敵な風格。
(ふぁ、ファーストバトルが中ボスってえええええええええええええ)
や、野生の血が戦うなと騒いでいます!
動物として風格が違う。猫(全長・約40センチ)と怪鳥(高さ・約400センチ)では体格からして違う。ちなみに普通の人間が素手で勝てる動物は30キロの犬が限界だそうだ。
「雪王鳥――――シーゥグル!」
お姫様が叫ぶ。あの鳥やっぱ王とか名前ついてるんですけど! メッチャ強そうです!
名前を呼ばれて答えるように怪鳥はGyaaaaaaaa。鳥の鳴き声じゃない(泣)!
「仕方ない、やるしかないよなぁ」
あるじが怪鳥に比べるとはるかに小さい野闘剣を鞘から抜く。逃げられるときは逃げるが、そうじゃない時はあっさり覚悟を決めるヘタレなのかそうじゃないのかわからないあるじ。
私も参戦しようとお姫様の胸元から飛び出す。あるじが私を見て声を上げる。
「馬鹿猫っ!」
へ? その意味がわかる前に私は1メートル40センチの高さから飛んで華麗に着地する。
はずだったのに。ずぽっという間抜けな音が。
そういや下、雪だったっけ………………脚が短い猫の身では歩くことすらままならないというか埋まって動けない。
雪に埋葬されかけた私をあるじがすくい上げ肩に担ぐ。戦力外というかお荷物。
お荷物というか足を引っ張ってしまった。大人しくしていれば『雪の壁』が間にあったかもしれないのに。
私が雪に埋まっている間に怪鳥はその4メートルはありそうな白い翼をはばたかせたのだ。
風というより私どころか小さなお姫様もが飛ばされそうな突風が吹く。
それだけではない。ここは雪山。今まさに雪が積もりゆく土地。
地面に積もっていた雪がブワァッと舞い上がり雪の波として襲いかかってくる!
それはあるじの肩にいた私にも降りかかった。威力はそれ程でもないが視界はゼロ。
「くそっ、ユニ!」
あるじは何か予兆を感じたのかタダの勘か、傍らのお姫様をひっぱりその場から横っとび。
あと数秒遅かったら怪鳥のクチバシがユニの胴体を貫いていただろう。怪鳥が攻撃を仕掛けてきたのだ。
だが、やり過ごせたのはあるじと姫だけ。
護衛の一人が「ぎゃあっ」と丈夫そうな軍服ごと腹を貫かれて白い雪を赤く濡らしながら倒れる。一撃で胴を貫くってどんな威力!?
「サウスさんっ―――――――――」
お姫様が悲鳴を上げるが、それは急に途切れてしまう。気絶でもしたのか?
「散開しろ! 猫やるぞ、サンダガ!」
あるじが自分から怪鳥の注意をひきつけるように前に出ながら言う。それは指定した【四文字魔法】を使う合図。
―――――――――【サンダガ】!
私が発動した【魔法】はまるであるじが【魔法】を使ったかのように剣先から青い電流がバチッと怪鳥に向かって流れる。
が、白い羽毛にあたって霧消するだけ。怪鳥は「なんかピリっとしたぜ。これだから冬の静電気は嫌なんだよなあ」といった感じだ。
だが注意はひけたらしく、怪鳥がこちらに「ああん? ヤんのか、コラ」とガンを飛ばす。
「ご、ごご、ごめんなさいーーっ」
路地裏でカツアゲにあった学生の如く震えあがるあるじ。
そのあるじに向かって怪鳥がするどくキックをする。その足には鋭い爪が並ぶ。恐ろしい事に一本一本があるじの持つ剣と同じくらいの長さを持っていた。
雪の上で得意の回避行動もとれないあるじは音と共に切り裂かれる。
「【xImy txMep xRxE xxIY】」
聞こえた音はザクリではなく少女の歌うような言葉だった。
お姫様は気絶などせずすぐに【魔法】を使うための準備をしていたのだ。彼女は精巧な造りの先端に宝石が埋め込まれた警棒ほどの長さの杖を怪鳥に向けている。
「【xhyi ijlx xXim】!」
呪文が終わるとともに、ユニが掲げたいかにもな魔法の杖の先に紫色の光が宿る。
それを見た瞬間、私にあの時の、黒外套の時のありえないはずの既視感が襲う。
ヴィー・フォム・ドンナー・ゲリューアト・ダー・シュテーエン。
――――――――――――【切り裂 く形なき 麻痺矢】
それに込められた意味は『傷つけずに意識を奪う光』。
ほんの一瞬気を反らしていただけで、その【魔術】は完成した。
杖の先に集まっていた紫の光がゴロゴロッという爆音と共に怪鳥を貫く!
自然現象のカミナリではありえない、横へ向かう雷(イカヅチ)。【サンダガ】の数十倍はあるだろう威力。
光量もすさまじく矢の軌跡が網膜を焼いて目を閉じてもまぶたの裏に光が映る程だ。
「……………うそーん」
そんな電撃を食らったのに怪鳥は羽をばたつかせて怒りをあらわにするだけ。元気にどたどたと足を踏みならして雪を舞わせている。
「鳥タイプに電気タイプは効果抜群じゃなかったっけ?」
ぶっちゃけ電気って鳥だけではなく生物全般の弱点な気がしますけど。感電とかしなかったんでしょうか?
どこか抜けた感想を漏らす私とあるじだが、ユニの顔は驚くほど青くなっていた。
「そんな…………【麻痺矢】が効かないだなんて」
どうやら必殺の一撃だったらしい。そういえば魔力がまだ回復しきってなかったはず…………少し回復しただけでは、あのくらいの魔法しか使えないのか。
そのために護衛がいるのだが、男達は怪鳥を挟んでの反対側にいるのでお姫様の身を守れるのはあるじと私だけ。
「困ったな」
でも緊張感はない。だって【エルミニの雪遮竜壁】という反則な絶対防御魔法が残っているのだ。
本来なら連発などできないはずらしいのだが、私の場合同時に複数は出せないが連続して何十回もだせる。どうやら私のMP〈マジパネェ〉は半端ないようだ。
あるじにならって言うならば無敵バリア(回数制限なし)。
時間制限もないのでバリアの陰から【四文字魔法】でちまちま攻撃していけばいつかは勝てるのだ。
セコい? ふふふ、猫賢いと言ってください。
と、あるじの肩の上で余裕をこいていたのがいけなかったのか。
怪鳥は驚くべき行動に出た。
大人の数倍はある翼をはばたかせて、その下手な一軒家より大きい体を宙に浮かせる。
飛んだ。飛んだのだ。あの巨体が飛んだのだ。物理法則はどこで休んでいるんだ。空から下りてくるのは見たが目の前で改めて飛翔したのはまた別の趣きがあり呆れてしまうが、そこには驚かない。だって、鳥だもの、異世界だもの、そんくらいはアリだ。
しかし、次は流石に予想してなかった。
上空の怪鳥がホバリングしていて「逃げるのかなー」と見ていたらくちばしを思いっきり開いて―――――――――口中が輝きだしたのだ。
それはさっきのユニが紫の光を集めるのに似ている。
【魔法】。
そっか、この世界の動物って魔法使うんだっけ………………。
「盾!」
それでも、まだ焦らない。こっちには最硬の城壁があるのだ。
―――――――――【エルミニの 雪 遮 竜 壁】
そう唱えると現れる、私が唯一実戦で使える【魔法】、中で雪舞う透明の壁。
それを私達と怪鳥の間を遮るように出す。これでどんな事があっても大丈夫だ。
いや違った。どんな攻撃を受けても大丈夫だ、を勘違いしていたのだ。
だからすぐに訂正される。
怪鳥はエネルギー充填が終わって、クチバシを下に向ける。下に? 下にあるのは一面の雪だけだ。私達には当たらない。
だから当然、怪鳥から放たれた光の球は地面に当たった。
そして爆発の音と共に大量の雪が舞って、壁を回り込み雪交じりの突風が吹きこんでくる。
それだけではなく、舞い上がった大量の雪が透明の【雪遮竜壁】に乗っかりフィルターをかけたように視界が一面の白色で埋め尽くされた。
また目潰しか!
単調だが、効果的な一撃で混乱する。でも、この隙に襲いかかろうとしてもまだ存在する【壁】が怪鳥の行く手を阻むはず。
結果として視界が晴れても怪鳥は襲ってこなかった。
だが、ここまで狙ってやったのか? と疑ってしまう程の事態が起きる。
浮いた。
浮いたのだ。
怪鳥じゃなくて。私達が。
怪鳥の魔法で足元が崩れたのだ。
今立っている地面の下に洞窟でもあったのか、怪鳥の魔法による衝撃のせいで新たな入り口ができてしまったのだ。
「おわああああああああああ!? 何が起きたあああああぁぁぁぁぁ!?」
「ひゃあああああああああああああああ!? 落ちてます落ちてますっ!?」
で、重力の掟に従い吸い込まれる私とあるじとお姫様。
落下していく最中に見たものは心なしか勝ち誇って見える怪鳥の鳥顔。
ファーストバトルは敗北して終わったのであった。
怪鳥うぃん、あるじろーず。