《序章 吾輩は猫である》
吾輩は猫である。
名前はまだない。
まぢで、まぢで。
……………………若者言葉は難しいので普段の口調に戻そう。
本当のことを言うなら名前はある。
主(あるじ)に初めて会った時に「音湖(ネコ)」という綺麗な名前をもらった。
しかし、時がたつに連れてあるじはその事を忘れてしまったのか私のことを「猫」と呼ぶ。
嘘のようで本当の話。
しかし私から名前を呼べと催促するのも悲しいので受け入れている。忘れてないよね? あるじ…………………
あるじは私を可愛がってくれる。
そりゃそうだ、私の毛はこんなにも美しい白よりの灰色(グラォ)で、ヌイグルミのようにふさふさしていて抱き心地は抜群。鳴き声も耳に潤いを与える小鳥のようで、ちょっと短足かもしれないけどそれを補って余りあるプリチーさ!
ペルシャ猫特有のふっさふっさの毛は私の最大の魅力で、あるじも「ほこり取りに便利そうだな」と褒めてくれた。お礼に鋭い爪で引っ掻いてあげた。
っと、こんなことを言っている場合ではない。あるじのことを話さないと。
あるじの名前は朝凪・サバギィ・在名。アサナギ・サバギィ・アリナ。
日本(ヤーパン)、 北露(ルスラント)、別々の地方の民族の血をひくため、髪は基本黒色に少しだけ銀色が混じっていて、瞳は灰色の少年。年齢は16くらい。
まあ、このご時世いろんな種族の血をひいているのはそんなに珍しくはない。
好きな言語は日本語と独語らしい。
あるじを一言で表すならヘタレだ。
例えば、この間のこと。私が街中であるじを見失ってしまい探して見つけた時、あるじはカツアゲされていた。
「にいちゃん、小遣い恵んでくれへんかー。ビックリマンチョコ欲しいねん」
飴をなめた小学生にカツアゲされていた。あれには泣いた。そして財布を取り出すのを見てさらに泣いた。さらに財布を逆様に振っても何も出ないのをアピールしているのを見て号泣した。
どれだけヘタレかというのを魔王と勇者の会話で表すなら、
「勇者よ、世界の半分をお前にやろう」
「世界の半分なんているか! 今月の家賃半分で手を打とう!」
ヘタレなので世界スケールを認識できないのだ。
他にもヘタレな面は多々ある。
喧嘩になったら格好いいこと言うくせに何の躊躇もなくすぐ逃げる。
一万円札では百円の買い物ができない。
ピン札を財布にしまえない。
ヘタレというかただ貧乏なだけかもしれない。
ぱっと見整った顔立ちをしているので異性にモテそうだが、ヘタれな為にダメダメ。
だが私はそんなあるじが好きだ。
初めて出会った時、私は捨て猫のように街の片隅で弱々しく座り込んでいた。
雪(シュネー)が降っていた寒い日で、私はあのままだったら死んでいたかもしれない。
その時、あるじが通りかかったのだ。
じっ、と私に目を奪われて立ちつくす少年に私が可愛くみゃーと鳴くと、
「猫、か。カワイイな」
と近寄ってひょいと首根っこを掴んで腕に抱きよせた。
それはとても温かく、不覚にも私は一瞬でこの人が好きになってしまった。
私がその胸に顔をうずめると、あるじは照れ臭かったのか、
「猫はウマいというしこれで一食浮いた」
と照れ隠しをした。ふふふっ、あるじはウブだなぁ。
そんな主と私は今まで二人で生きてきた。
あるじはいわゆる貧乏人だったので、必ずしも楽な生活ではなかった。
慌ただしい日々だったがあるじと共に走るのは好きだったし、あるじと共に食べる食パンもおいしかった。
それがどうしてこうなったのか……………………
「私たちの国をお救いください勇者様!」
あるじは今、銀髪灰目の少女に縋りつかれている。
しかも異世界に呼び出されてしまった。
さらに勇者は人間であるご主人ではなく私。
吾輩は勇者である?
はぁ、帰って猫缶食べたい………………
どうも双葉です。
なんちゃって本格異世界ファンタジー始めました。
ルビで英語っぽくないのは全部ドイツ語です。雰囲気を出すためなのであんま気にしないでください。
振り仮名が多く携帯では読みにくいと思いますがお付き合いお願いします。