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7.旦那様のお相手が私の訳がありません。

本日二話目の投稿です。

よろしくお願いします。

 エマの考えが信じられないのかアナは呆然としているし、セオとルピナも言葉を失っている。

 だが、エマにはまだ気になることがある。ここからが本題だ。緊張で汗ばむ手をこすり合わせるが、汗は全く収まる気配がない。

「……担当問題はお互いの意見が一致したのでよしとして……。今日アナさんに来てもらったのは、気になっていることがあったからです」

 エマは緊張で唾を呑み込もうとするが、口内が乾き切っていて飲み込む唾もない。唇も渇いてピリッと痛いが、口を開くと少し擦れる声が出た。

「まず最初に、私に対する世間からの非難の状況を知りたいです」

 何を言われているのかなんて想像はつくが、今後対応していくために現実とすり合わせておく必要がある。

 

(……まずいわ。アナさんのこの青い顔からして、今の私の状況は相当ヤバい……。もちろん最悪の状況は想定していたけど、「所詮私なんて『幽霊令嬢』だし、世間が気にする訳がない」とほんの少し期待もしていた)


「私が甘かったようですね。もしかしたら世間の令嬢達は、『もう見ることが叶わないと思っていたリオンヌ公爵様とアナベル様の新婚生活(想像)を提供してくれてありがとう』程度にしか思っていないと多少期待していたのですが……」

 エマの口から深く長いため息が漏れる。

 ちょっと自分に都合がよい方に考えてしまった。想像とはいえ、レアンドル達の生活を暴くような真似をしたのだ。「家名に泥を塗る気か!」とレアンドルから責められても文句は言えない……。いや、それだけでは済まない。相手は王女だ。不敬罪だってあり得る。


「名前だけの妻の分際で、リオンヌ公爵様とアナベル様の新婚生活(想像)を暴露した愚か者。私はそう言われて、世間の笑い者になっているのね……。私みたいな『幽霊令嬢』が妻にしてもらえただけでもありがたいのに、身の程を弁えず嫉妬で二人の仲を世に晒したと言われているのね……」

 エマの言葉に誰も反応しないのだから、もっとひどい状況なのかもしれない。これ以上は、ちょっと想像もしたくない内容だ。


 エマは呆然と立ち尽くしている後ろの二人に確認をする。

「リオンヌ公爵様もお怒りよね? 何も言わない従順な女だと思って屋敷に置いてやったのに、秘密を暴露するなんて、とんだ裏切り者だと思われても仕方がないわ」

 二人からも何の反応もない。無言は肯定だ。姿勢を元に戻したエマは、胸の前で組んだ両手をじっと見たまま考え込んでいる。後ろの二人が見えていないエマには、背後から忍び寄るその沈黙さえ重く圧し掛かる。


 だからエマの想像には、どんどん拍車がかかっていく。

「そう……。王家も怒り心頭なのね。そうよね、二人の仲が終わったと思わせるために、文句も言わないような『幽霊令嬢』を妻に選んでやったのに、手のひらを返したように小説で暴露されるなんて……」

 勢いで書いてしまったとはいえ、払う代償は大きすぎるようだ……。


 エマはふぅと息を吐いた。自分の仕出かしたことだから、自分に対する罰は仕方がない。だが、出来ることなら周りには迷惑をかけたくない。

「一番気になっていたのが、本を出版したアナさんや出版社に迷惑がかかるのではってことだったけど……。この状況だと、間違いなく迷惑をかけていますね……。本当にごめんなさい。どこにでも謝罪に行きます。私にできることがあれば、遠慮しないで言って下さい」

 ロルジュ伯爵家にも迷惑がかかるかもしれない。兄は王太子の護衛を解かれるかもしれない。これは一度兄にも事情を伝える必要があるとエマが会いに行く算段を付けていると、他の二人より先に正気に戻ったルピナがエマの横に膝をつく。


「エマ様が考えているような事態にはなっておりません! 小説は旦那様とエマ様の日々の生活が綴られたものとして、世間では好意的に受け止められています」


(…………何だと?)


「……どういう、ことかしら? リオンヌ公爵様と私の話? どうしてそんなことに? 私は愛し合う二人を傍観する語り手のはずでしょう?」

 エマが書いたのは、レアンドルとアナベルの物語だ。決してエマとレアンドルの話ではない。


 エマの大混乱と変わるように、セオも通常仕様に戻ってきた。

「旦那様と第一王女殿下の噂は、私共も存じ上げております。ですが、旦那様はエマ様と結婚したのですから……。世間の皆様も旦那様のお相手と言えば、エマ様を思い浮かべるのかと……」

 セオの隣でルピアも激しく首を振っているが、エマには納得がいかない。


「絶対に思い浮かばない! 世間の皆様は、公爵様が家に居ないのを知らないのかしら? それにしたって、アナベル様と一緒にいると誰もが知っているのに……。どういうことなの? 不気味だわ……。もしかして、王家やリオンヌ公爵家が情報操作を……」

 エマの疑惑に、アナがビクリと肩を揺らした。


(やっぱり……。でも、王家やリオンヌ公爵家と出版社が手を組んでいるということは、アナさん達には迷惑をかけないってことよね。ひとまず安心。納得はできないけど……)


「小説は真実ではないけれど……。何だか自分が物凄い嘘つきの見栄っ張りになってしまった気がするわ……。でも、真実を告白すれば、リオンヌ公爵家にも王家にもロルジュ伯爵家にも影響が大きい……」

 結局はエマが口を閉じるしかないのだ……。


「王家やリオンヌ公爵家が情報操作したとはいえ、公爵様とアナベル様が不愉快な気持ちになっているのは間違いないわ。私がお二人の仲を邪魔する気がないのを知って欲しいし……。お詫び状を書くから、セオから渡してもらえないかしら?」

 エマの中に悪意がなかった訳ではないので、きちんとお詫びをしたい。だが、セオは扉を見つめたまま冷たい顔で首を横に振る。

「こんな事態になったのはお二人の責任であって、エマ様が謝罪することは一切ないのです!」

「でも、眼中にもない名ばかりの妻役を溺愛していると思われるなんて、お二人には苦痛じゃないかしら? 深く愛し合う二人には、取るに足らない些細な出来事ならいいのだけど……」


 レアンドルとアナベルにとっては取るに足らない些細な出来事だったかもしれないが、エマにとっては人生を揺るがす大事件になってしまった……。


読んでいただき、ありがとうございました。

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