付従う
巣穴の奥から次々と湧き出してくる蜂型の魔物たち――。
ガルムの知識によると、“托卵蟲”という魔物の特徴に酷似する。
女王種を統率種――群れの頂点として、独自の巣を創り上げる特性を持つこいつらは、托卵という名を冠しているのにも関わらず、女王種以外は生殖能力を持たない。
通常種たちは、尾の針に神経毒を持ち、巣を持続させるための食糧を外から持ち帰る。
反対に女王種は尾に毒針を持たず、外に出ることもない。代わりに尾には自身の卵巣から直結する管が針状に突き出ており、それを突き刺すことで他者の体内を苗床にする機能を持ち得ていた。
こいつらが生物学上でいう蜂に分類されるのかは知らんが、少なくとも女王種以外は蜂を相手取るのと同様と考えてよいだろう。
羽音と共に襲いかかるそれらを、僕は一切の容赦なく打ち落とし続けていた。
洞窟内のほこりが舞い上がる程度の力を込めて腕を振るい、その瞬間に指先から切り離した鋭利な側枝が何匹もの托卵蟲の腹部を貫いて、毒針を撃つ間もなく地面に叩き落とした。
断末魔を上げながらのたうつ個体を尻目に、僕はすぐさま[強欲な左掌]をそのうちの一匹に対して行使する。すると、僕の意思に呼応して赤い光が迸り、托卵蟲が取り込まれていった。
――脳裏に新たに浮かび上がるのは[連携]と[調毒]の能力。
悪くないな。どちらも集団戦などで役に立つだろう。
次に飛来してくる群れは三体。どの個体も[連携]を有しているのか、空を這うように低く飛びかかってくる様はまるで各々の状況を共有しているような動きだった。
しかし、赫色の曝露変種を相手にした身からすれば、その機動は余りにも遅い。
[空歩]で跳躍し、滞空しつつ反転。側枝を六本同時に展開して針を刺す間も与えず三体全てを貫く。
地に落ちた個体の中にまだ生き残りがいたが、怠慢に動くその頭部を、足で踏み砕いた。
「数の利でどうにかなると思ってるのか――連携は取れていると言えど、所詮は虫型の魔物っすね」
呟きながらさらに奥へと進むと、次第に魔素の濃度が嫌でも肌にまとわりついてくる。
この先が魔素溜まりの中心だろう。それすなわち――。
道は自然と広がっていき、やがて巨大な托卵蟲が姿を現した。
あれが托卵蟲・女王種か。翅の音だけで洞窟全体が震えるような錯覚さえ覚える。背丈は三メートルを超え、尾部は滴るように紫色の管が艶めいていた。
だが、それを遮る影が二つ――。
「――まあ、流石に女王様には護衛は付きものっすかねえ」
予定通り女王種と出会えたことまでは良かったが、問題は今し方僕と女王種の経路を遮るように現れた二匹の托卵蟲。
通常種と明らかに異なるのはその体躯。二メートルに届くかという巨体に、外殻も黒と銀の体色と攻撃的な刺々しいフォルムを以って見るものを威圧している。
前脚は剣のように変形しており、女王種の前に立ちはだかるその姿は、さながら護衛種と言ったところだろう。
通常種とどれだけ違うのか見ものだな。
僕は両腕を魔樹に変状させながら、無感情に歩を進める。
その瞬間、女王種は金切り声のような咆哮を上げ、二匹の対峙する護衛種が王の駒と呼ぶに相応しく、僕に肉薄した。
速い。
二匹が高機動で迫り来るが、それぞれの一挙一動を見逃さんと冷静に初動を観察。連携の取れた二匹の前脚が、まるでギロチンのように左右から差し込まれるのを屈んで回避した僕は、【側枝】で形成した木槍を一気に伸縮させて二匹へと伸ばす。
が――。
「やっぱり、上位種となると硬いっすね」
喉元まで迫った木槍は、ガキンッという甲高い音を響かせながら、外殻に阻まれて明後日の方向に弾かれた。
駄目か。木槍で駄目なら、より重い一撃だな。
二匹の連携の効いた追撃を紙一重で避けながら、一瞬の間隙をついて[空歩]で壁を駆け上がった。
併せて、木槍が沸騰したように表面を唸らせながら体積を増やしていき、瞬く間に重槌へと姿を変える。
「こ、れ、な、ら……ッ!」
護衛種の頭上から飛び降りるように勢いをつけて、生成した木槌を頭部へと振り下ろす。
――バキンッッ……‼︎
即座に防御体勢に移られたため死に至らしめるには足りなかったが、僕の一撃を受けた一匹の両前脚が、軋みを上げながら砕け落ちた。
手に残る確かな手応えに、そのまま二撃目を放とうとするが、もう一匹の前脚が隙間を縫うように僕へと迫る。即座に木槌の側面からバックラーを形成して、[盾術]でいなしながら後退した。
――それなりに手強いが、やってやれなくはない。ただ、二匹の連携が面倒だな。
二匹とも通常種と同じように[連携]の能力を所持しているのだろう。単独で所持しているだけで仲間と息を合わせることができる能力だが、それをお互いが所持しているのならば効果は単純に加算ではない。
であれば、崩すのは一匹ずつ――。
高度な連携が生まれている以上、それを為すのも難しいことは百も承知だが、二匹を同時に相手取っていてはそれこそ日が暮れる。
「えい――しょ……ッ‼︎」
声を上げると共に大きく四股を踏んで地面から迫り上がったのは、僕の胴ほどもある魔樹の群生林。
脚から地中を巡って掘り進んだ【側枝】は、二匹の護衛種と女王種をそれぞれ単独ずつに区分ける壁となる。
目的は連携する余地のない分断。壊そうと思えば可能だろうが、この状況も僅かな時間があれば十分だ。
突如として単独になった護衛種へ肉薄し、目が覚めるような鋭い蹴りを与える。前脚を重ねて防御されるが、空気が震えるような衝撃と共に、護衛種の身体が宙に上がった。
生じた“隙”に、左掌から太ももサイズの大蛇――ドゥルタを生み出して護衛種へけしかける。這うように巻きついたドゥルタは、強靭な体躯で以って護衛種を完全に拘束した。
「よーしよし、えらい子っすね〜」
僕の思考のままに動くドゥルタを労うと、それに応えるように巨大な口腔が一瞬にして護衛種の頭部を千切り食らった。
「――」
頭部を失ってからも反射のように身体はジタバタともがくが、ドゥルタの拘束は一層硬く結ばれて身じろぎ一つ取ることは叶わない。
そのまま左掌を変形させているドゥルタを経由して、体表から沈ませるように護衛種を取り込んだ。
これで厄介な連携はなくなった。
と、そこで木壁の先から差し込まれた前脚が、僕の眼前の空気を切り裂いた。
ちょうど良いタイミングだな。
壁を隔てた先の気配を探りながら、もう一匹の護衛種が木壁を壊そうとするタイミングで、こちらから先に木壁を崩壊させる。
面食らった――ようには一見して見えないが、攻撃の軌道を壁から僕へ無理やり変えてよろけるように放った一撃を避けつつ再び木槌を生成。
そのまま、カウンターで護衛種の胸元に叩き込んだ。
木槌と外殻――おおよそ生体物同士の接触で発生したとは思えない激しい衝突音を伴い、護衛種は全身をバラバラに崩壊させながら、それぞれが洞窟の壁に突っ込んだ。
終わってみればこんなものか。
だが、一息つく暇も与えられずに視線を移すと、鋭い威嚇音を響かせる女王種がこちらを睨みつけるように身構えている。
小心者か?
木壁を崩壊させた時点で、護衛種の加勢に入っていれば再び五分に持ち込めたものを。
だがまあ、曲がりなりにも王種だ。一寸たりとも油断はしない。ひとまず、足先から再度地中に側枝を潜り込ませ、いつでも強襲できるように女王種の周囲に根を張り巡らせる。
そして、木槌を携えて女王種へと肉薄した。
片足を地面に突っ込んでいるため、足を伸縮させながらの移動――失笑を誘うような光景が生み出されるが、見た目ほど機動に大きな影響はない。
距離を縮め、そのまま木槌を振り抜くが――それでも女王種は未だ動き出す気配はない。
外殻に相応の自信があるのか、はたまた能力発動の予兆か――。
そのまま木槌は胸元に吸い込まれ――衝突。
確かな手応えに、破裂する甲殻と飛び散る体液。
予想に反して通った一撃に実感が追いつかないながらも、吹き飛んだ女王種が地面に落下する前に、落下地点へ移動する。
「――ッッッキャシャァァアア……ッ」
女王種が絞り出したような金切り声を上げながら生殖管を突き上げてきたが、それさえも右掌で横薙ぎに叩き折り、左掌で頭部を掴んで地に叩きつけた。
待ち侘びたとばかりに自然と掌から紅色の光が湧き出すが、構わずに中身を引き抜く。
――【托卵蟲・女王種の生殖管】。
面白いものが手に入ったな。
左掌も気に入ったのか、赤いオーラを機嫌が良さそうに蠢かせた。
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《Active》
[強欲な左掌][怠惰な右掌][再生][盾術][槌術]
[演出][吸魔][空歩][斧術][先導][生存本能]
[連携/New][調毒/New]
《Passive》
[痛覚無効][魔力抑制][直感][打撃耐性][魔法天稟]
[水精の介意][繁殖][雷耐性]
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