終息す
別視点
「――というのが顛末だ」
昼下がり、カフェのテラスに腰掛けて雑談に花を咲かせていた私はそう話を締めくくった。
幸いにして天候に恵まれたため、私たちのようにテラスで会話に耽る者たちは少なくない。
また、店の中に目を向けると、褐色光を放つ魔光石が店内を暖かく照らし、テラスと同様に多くの客で賑わっていた。
店自体が繁盛しているのもあるだろうが、確かにあの光で心落ち着けたいと考える者も少なくないだろう。
「ふぉれは大変でふぃたね!」
そこで相槌を打ったのは、私の向かいで話を聞いていたクシー。
前回に引き続き、うるとらでらっくすじゃんぼぱふぇなるものを口いっぱいに頬張りながら嬉しそうな笑みを浮かべている。
そんな頬張りながらの会話でも、はしたなさよりも先に愛嬌を感じるのだから不思議なものだと一種の関心のような感情さえ芽生える。
事実、テラスの植え込みから萌ゆる樹々の葉と同系色の髪色だというのに、少しも彼女の印象がぼやけていないのだから、彼女には周囲を惹きつける何かが備わっているのだろう。
パンパンに溜まった頬袋をみるみるうちに萎ませた彼女は、話の続きをせがむように口を開いた。
「結局、歴戦個体たちは誰に討たれたんでしょうね?」
なんてことない疑問を口にしただけのことだろうが、直接的に言葉にされると一瞬だけ答えに詰まる。
私自身も真っ先に疑問として浮かんだもの。
「……あれを倒せるクラスの魔物となると、《戻域》の君臨種しかあり得ないだろう。運悪く、私たちが来たタイミングで縄張り争いに負けたのだろうな」
考えた末の結論を伝えるが、自分自身はどうにも納得しきれてはいなかった。
ダインもその可能性が高いとは言ってくれたのだが、それでもこのもやもやとした違和感を払拭することができない。
第六感系能力である[野生の勘]は、このような場合には何も知らせてくれないため、私の杞憂である可能性も高いのだが――。
「もしかしたら、異形種が助けにきてくれたのかもしれないっすね」
ポツリとクシーが漏らす。
――蜥蜴人・異業種。
私が討伐対象として、討つことを誓った魔物。
だが、実際に集落を統率していたのは異業種ではなく貴種だった。
それ自体は、目の前で虐殺を目の当たりにしたクシーの精神状態からして、報告と差異があるのは仕方がない。そもそも専門家でもない彼女の証言からだけで特異種を推定するのも限度がある。
だが、報告にもあがっており、虐殺のあった現地でも確認した、遠方まで抉り取る技は一度も使用してこなかった。
それもまた、私の中でどうにも納得できない気持ちを生じさせていた。
まったくの別種なのか、それとも溜めの必要な技だったのか――。
「ふっ、そうだとすれば大問題なのだ」
願わくば後者であることを願いたいものだ。
これ以上はここで考えても仕方のない話のため、彼女を不安にさせないような当たり障りのない返答に留める。
謎の残る結果だが、それはまた後日納得するまで調査を続ければいいだけの話。
なにより、超巨大パフェを再びかき込み始めたクシーの姿を見て、ひたすら悩み続ける自分が馬鹿らしくなってきた。
せっかく大仕事を終えての女子会だ。これを機にクシーともっと仲良くならなくては。
食事に夢中になっているクシーへ何を聞いたものか、紡ぐ言葉に迷っていると、カフェには場違いな男性たちがテラス席へと入ってきた。
しかもそれは、私たちもよく知りたる顔で。
「姉さん、ようやく見つけた! 何してるんだよ」
「フ、ファナ……時間過ぎてます」
センパイとダイン、揃って訪れた二人とも、少し呆れた表情で私たちのテーブルの空席へと腰をおろす。
時間――そこまで聞いて、私はゆっくりと壁掛けの時計へと目を向けた。
時刻を指す分針は、ダインとの待ち合わせ時間を大幅に超過していて――。
「女子会っす!」
「も、申し訳ない!」
私が思わず席を立ちながら謝罪したのと、クシーが笑顔で果実を口に含んだのはほとんど同時のことだった。
あまりに違う私たちの反応に、男性陣はそれぞれ苦笑いを浮かべる。
センパイの様子からしておそらく待ち合わせをしていたのだろうが、彼女はどうやら時間の概念が希薄らしい。
「とりあえず、センパイたちもこれ食べてみてほしいっす!」
彼女自身はどこ吹く風とばかりに、楽しそうにセンパイへ声をかけていた。
センパイといえば、ようやく彼女の前に置かれた巨大な器が目に入ったらしく、若干引いた目でクシーへと視線を移した。
「……何これ?」
「ウルトラデラックスジャンボパフェっす!」
「うるとらでらっくすじゃんぼぱふぇ……?」
既視感のある会話。センパイも初めて聞いた名前だったのか、頭痛を堪えるようにシワを作りながら復唱する。
……私も先日同じ表情をしていたのだろうか。
「ほらファウスティナさんも! はい、あーんっす!」
やはり、そんな私の悩みなどお構いなしとばかりに、先日と同じように甘味の乗ったスプーンを差し出され、素直にそのスプーンをくわえた。
クシーへと目を向けると、相変わらず無邪気な笑みを浮かべていて、少なくとも先日の誓いは守られたのだと実感する。
「やはり美味いな……せっかくだから3人分頼むとするか」
「なっ⁉︎」
「ファナ⁉︎」
男性陣が驚いた表情で私を見るが、あえて気づかないふり。この際だ、彼らを巻き込んで親睦会としようじゃないか。
「ふふっ」
口に残る砂糖菓子はとても甘くて、自然と口角が大きくつり上がった。
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次話から2章となります。




