格上り
思わず口をついて出た勝利宣言。
だが、その余韻に浸ることもなく、左腕の大槌を元に戻しながらゆっくりと、曝露変種が転がっていった場所まで進んでいく。
身体を休めるより先に、左掌が僕を突き動かしていた。
まだ、用は済んでいないと。
幸いにも、止めの一撃で得られた魔力を使うことで活動に支障のない程度まで身体を修復することができたため、特段支障はない。
だが、自身の思考を誘導されるように――まるで寄生生物に乗っ取られたかのように左掌の意思に従うのは、どうにも気持ちが悪かった。
しかし、足を止めようかと考えるには少しばかり遅く、暴風にも関わらず指先ひとつ動くことのない曝露変種が目に入る。
視界に捉えた途端、まるで獣が涎を垂らすように、自然と左掌から赤い光が漏れ出した。
まさに涎と表現するが正しく、ねっとりと鬱陶しくも立ち昇るオーラは、その粘度に反して先ほどのリーダーの体表よりも鮮やかな紅として空気に溶けてゆく。
「――」
先ほどの渾身の一撃は、リーダーを死に至らしめるものだったかと心配していたが、どうやら微かに息があるようだ。
まあ、最後の決定打周辺の鱗は粉微塵に粉砕しており、そこから痛々しく覗く肉は見るも無惨な様相となっているため、事切れるのは時間の問題だろうが。
体鱗も濃緑へと戻っており、完全な虫の息。
そんな曝露変種の身体へ近づき、座り込むと、ゆっくりと左掌を落とした。
側から見れば、横たわる蜥蜴人の身体を労るような手つきで、そのまま体鱗をなぞるように撫でる。
もう抵抗する気配すらないリーダーは、最後の力とばかりに微かに開いた瞼を痙攣させていたが、やがて受け入れるように瞳を閉じた。
簒奪するのは全て――曝露変種という個に対しての全てだ。
体鱗から指先まで、記憶から能力まで、文字通り何も残さない。
掌に灯る鮮やかな赤は、再びリーダーの身体を紅く染め上げるようにまとわりつくと、蛇の胃袋の中で消化するように徐々にリーダーの体鱗、筋肉を消しながら簒奪していき――。
やがて、左掌の先には生物の残骸すら残ってはいなかった。
端から何もいなかったような――だが、何かがここまで転がってきたのを示すように不自然に地面が抉れており、もはやリーダーがこの世にいた痕跡はこれだけしか残っていない。
いや、違うか。
感傷のような勘違いを正すように身体に意識を向け、腰から濃緑の尾を生やして尾先を撫でる。
そして、脳裏には[斧術]を始めとする、かつてリーダーが持っていた能力群。
すべてを僕が奪い、リーダーは僕のものとしてこの世に残り続けるのだ。
それは、僕が生を終えるまで永劫に。
「あはッ!」
何かがハマったような、感じたことのない満ち足りた充足感のような感覚が身体を支配する。
いずれにせよ、これで本当にリーダーとの因縁は終わったのだ。
この甘い痺れのような充足感をもう少しだけ享受したいところだが、置いてきたセンパイの様子も確認しないとな。
生きてるかは怪しいところだが、死んだなら死んだで相手の派生種たちを始末して追加で能力を簒奪するだけだ。
そう考えて立ちあがろうと足に力を込めようとした、が――。
「――っ⁉︎」
突如として僕を襲ったのは、身体がふらつくほどの視界の揺れ。
天変地異と見紛うほどのそれは、原因は不明だが、おそらく自身の平衡感覚の消失に起因するもの。
左右の感覚すらままならない中で、思わず近くの樹木にもたれこむ。
加えて、僕の身体から、絶え間なく魔力が放出していることに気付いた。
――これはなんだ?
第三者からの干渉や、リーダーからの遅効性効果の能力を疑うが、次第に思考すらままならなくなってくる。
そういえば、親の知識で似たようなものを知っている気がする。特に魔物に多く見られる、特定の条件で魔力を放出しながら起こる現象は――。
「――ね……さんッ⁉︎ 姉さんッッ‼︎」
遠くから、聞き馴染みのある声が聞こえた。
この声は――。
必死に思考の糸を手繰り寄せるが、まとまることなくバラバラに散って、やがて意識も保てなくなる。
普段の冷静な思考なら、それが未だかつて感じたことのない“睡魔”だと推測することもできただろうが、考えることさえできなくなった僕は、その感覚に従うままゆっくりと意識を深く沈み込ませた。
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《Active》
[強欲な左掌][怠惰な右掌][再生][盾術][槌術][吸魔][空歩]
[演出][斧術/New][先導/New][生存本能/New]
《Passive》
[痛覚無効][魔力抑制][直感][打撃耐性][魔法天稟][水精の介意][繁殖][強靭/New][雷耐性/New]
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