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継ぎ接ぎ人形ちゃんは奪いたい  作者: 陽碧鮮
第1章 誕生
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染上る


 色が攻撃色に変化したのはこけおどしではないだろう。

 場の空気が一変したのと、左掌の感覚から強化系能力(スキル)なのは間違いないが、ここまで追い込まれてから使う理由がわからないな。


 考えられるとすれば条件付き――発動条件が、『一定の生命力を削られる』というものなら合点がいくか?


 いずれにせよ、能力(スキル)の効果によるものか興奮作用が効いているためかは知らんが、まるで痛みを感じていない様子で立ち上がると、そのまま強く脚を踏み締め――。



「――?」



 消 え、



「ぁ、え??」



  めのまえ。な  に   が、




「ギシュュア゛ア゛゛ッッッ‼︎‼︎」



 お も()  ――。



「や゛、な゛っgfづァッ――」



 視界が一瞬にして切り替わり、ほとんど同時に腹部への衝撃を認知する。

 曝露変種(ワリエタス)の蹴撃が直撃したのだと理解したのは、何本か木々をへし折りながら腐朽した木の幹に埋もれるように身体をめり込ませた後だった。


 状況を理解したのも束の間、地を蹴る地響きが聞こえたかと思うと、背後に重圧を伴った気配を察知する。

 反応する暇もなくそのまま左足首を掴まれ、一瞬の浮遊感。次いで目に飛び込んできた木の幹に顔面を強打しながら、ボロ布のように乱雑に僕の身体ごと振り回されて、それを繰り返しながら周囲の樹々を粉砕していく。


「あ゛っ、ば゛っ、 ぁ゛っ、  あ゛゛ っ  ――」


 樹々を叩き砕く用具代わりとばかりに打ち付けられ、絶え間なく訪れる衝撃は、【保護膜】や[打撃耐性]があっても魔豚人(オーク)孤立種(モナクシア)の追突とは比にならない威力で僕へと襲いかかる。


 薙ぎ倒される樹々が紅く変色していくのを他人事のように眺めながら、いつの間にか僕の身体も自らの体液でリーダーと同じように紅く染まっていることに、朦朧とする意識の中で把握した。


 そして、




 バツンッッ。




 文字ではそうとしか形容できない、一周回ってどこか気の抜けた音にもならない音が身体から響いたかと思うと、拘束から逃れた身体が遠心力の従うがままに大きく転がる。


「く、ぅぅ〜」


 もはや壊れたと言っても過言ではない身体は、感じない痛覚ばかりか感覚そのものすら奪っていく。

 

 空気が抜けたような声を吐き出しながら身体を急速再生させていると、曝露変種(ワリエタス)がトカゲの尻尾を扱うように僕の千切れた左脚(・・・・・・)を投げ捨てるのが目に入った。


 ――まるで僕の方がトカゲだな。


 独立しながらもわずかに痙攣している左脚を接合して使い回したいところだが、おそらく下手に拾いに近づいたら終わるか。


 [再生]に物を言わせ、股関節から伸びた筋肉の筋が纏まりながら形作り、左脚に力が込められるのを確認すると、皮すら張り戻る前に立ち上がって臨戦態勢を取る。


 疲労は元よりほとんど感じない身体だが、再生による急激な魔力消費により身体が重い。[吸魔]で潤沢に溜め込んだ魔力は、身代わりと左脚の生成によりほとんど残っていなかった。


「はぁ、はぁ……」


 呼吸による空気の取り込みは不要だが、おそらく少しでも大気中の魔素を体内に取り込もうとしているのだろう。それはあたかも過食症のように、絶えず貪った空気を体内に巡らせては吐き出していく。


 無いよりはマシ程度の回復だったが、それでも戦闘中にフラつくというような心配はなくなったか?

 リーダーは、呼吸もままならぬ僕の様子などお構いなしで、再び大きく踏み込み――。


「――っは」


 大きく左へ横跳びした僕の脇を、赫い残像が暴風を引き連れながら通り過ぎた。

 戦闘的思考のカケラもない、[直感]によるなりふり構わない急回避で、どうにか先の二の舞だけは避けることに成功する。


 リーダーは少し進んだところで急停止。通ってきた道筋には踏み締まった巨大な足跡と、へし折られた樹々が音を立てながら砂煙を舞い上げてリーダーの荒々しい体色を覆い隠していた。

 その煙幕の中から怪しく灯る赫の相貌が、振り向きざまに宙に線を描きながら僕を射抜く。


 さて、どうしたものか。


 幸いなことにリーダーのこの変化も、発現したばかりの能力(スキル)なのか、想像以上に動きが単調なためかろうじて回避できてはいる。

 ――が、そう何度も同じ回避が通用する相手ではないだろう。回数を重ねるたびに僕の回避は鈍り、反対にリーダーの身体が順応していくことは想像に難くない。


 砂煙に紛れながら、それでも包み隠せないほどの膨れ上がるプレッシャーの高まり。

 それを察知した瞬間、近くの木に側枝を巻き付かせて即座に収縮――重力場が真横に変わったかのように幹に垂直に飛び移った。


 息つく間もなく砂煙の中から飛び出した赤蜥蜴が、先ほどの僕の居場所に地割れを引き起こしたのをかろうじて視認しながら冷静に戦況を分析する。


 やはりこのままではジリ貧は必須。狙うなら反撃(カウンター)による致命の一撃。

 となると[槌術]が最も威力を引き出せるのだが、これ以上鈍重になると回避が危ういな。いや、どちらにせよ相打ち覚悟で決められなければ終わりか。


 格上との攻防により、思考伝達器官が焼き切れるほど熱を上げる中、即座に導き出した結論は――。


 攻撃後の隙を晒すリーダーの背を目掛け、幹がしなるほどの蹴り込みで肉薄。リーダーへ近づきながら左手に側枝製の大瘤を生成する。

 そうして振り上げた一撃には、並の蜥蜴人(リザードマン)なら掠っただけでも爆散するほどの力を宿しているだろう。


「これ、でっ!」


 やはり狙うなら短期決戦。曝露変種(ワリエタス)能力(スキル)による超強化の発動時間が明確でない以上は勝負に出るしかない。

 そうして振り下ろされた一撃は、見事なまでに死角となる後頭部へと突き進んでゆき――リーダーの左腕(・・)を爆散させた。


「なっ……!」


 完璧に捉えたと思った衝撃(インパクト)の瞬間、リーダーの超反応的とすら言える反射により、身体を捻りながら差し出された左腕に直撃。

 二の腕付近まで犠牲しながらも致命傷を避ける超回避を見せたリーダーに対し、致命的な隙を晒したのは他でもない僕。



「――ガァアアアッッ‼︎」



 吹き荒れる暴風をかき消すような大斧による一撃は、まともな回避行動にすら移れない僕の身体へ、切断必至の大きな一文字を刻み込んだ。

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