組合す
「だいぶやばあァあい‼︎」
普通の生物なら死んでも見ることのないであろう、自分自身の頭が刎ねられた姿を客観的に見るというおかしな光景が広がっている。
綺麗に切り離されて命令系統から離れた頭部が反射で意味のない言葉を発しており、それが痛みなど微塵も感じている様子のない頭部の表情と相まって、我ながら滑稽という他ない。
明らかな致命傷に対してそんな他人事のような感想を抱いているが、幸いにして胴に僕を僕たらしめる核と、【小鬼族・魔法種の脳】があるため思考及び損傷程度に影響はなかった。
リーダーは終わったとばかりに宙を舞う僕の頭部に興味を失っているため、まずはこの隙に回収するか。
当然のことながら僕の脳が頭部に詰まっており、それが演算能力に直結するからな。頭部が座っていないと重心を取りにくいというのもあるが。
首元から吹き出る血の如く枝を発生させ――それは水分を探し蔓延る根のように頭部に絡みつくと引き寄せられるままに頭部はあるべきところへと戻った。
まさか首を切断してなお再生する生物がいるとは思わなかったのだろう。多少目を見開くに留めた様子だったが、明らかに警戒心のギアを一段上げたのが場に漂う緊張感から肌で感じる。
無理やりくっつけた頭部の断面が綺麗に本体と接着しきるかどうかのところで、リーダーがこちらへ駆けてきた。
「あ、ちょっ、タンマ……ッ!」
ギリギリで頭部の接着は済んだものの、初動が速すぎて気づけば目の前までその巨体が迫る。
能力の効果というよりは単純な身体能力の差だろう。さらに言えば初撃は油断、この第二撃は脳が離れていたことによる処理能力不足――速いと言っても超重量を誇る大斧を持ちながら、僕が避けきれないほどの速度かと言われると否である。
ダメ元で言葉を紡ぎながら咄嗟に一歩後退するが、踏み込んだ三次種から放たれる、おおよそ大斧のものとは思えない速度の攻撃が無情にも僕の胸を袈裟懸けに切り裂いた。
「ぎゃあぁぁあ――ァアハははハハハッ‼︎」
後退する僅かな時間で核を移動させたため、見た目よりダメージは少ない。能力の効果で痛みなど感じないが、ただ単純に油断を誘うために叫び声をあげ、その隙に地面に潜らせた【側枝】をけしかけるが――不発。
病的なほどの油断のなさに歯噛みしながら、並行思考するもう一つの脳が、そんなことを考えている場合ではないと次に訪れるリーダーの攻撃に警鐘を鳴らす。
先ほどまでとは違い、持てる演算能力の全てを以って斧の攻撃ラインを細かく予測。そこまでしてもなお、振り抜かれた直後に頬から勢いよく血が流れ出すのを感じる。
――? この違和感はなんだ?
斧の刃先に付着した血が滴る時間も与えないまま、繋げるように第三撃。脳のリソースを回避にすべて振っているが、また一拍回避が遅れて傷を生む。
最低限のところで回避に成功していると言えば聞こえはいいが、実際のところは間に合うはずの攻撃が躱せていない。
僕が初撃でけしかけた【側枝】――あれを握りつぶして対処した時点でリーダーの能力はある程度割れている。
だが、大枠で把握している限りでは幻惑系能力は所持していなかった。受けた限り直前で攻撃速度が上がるような強化系の類でもない。
どちらかというと僕の動きが制限されているような――。
湧き起こった身体の違和は、そこからさらなる刃傷をもたらしたのちに確信へと変わるが、肝心の原理がわからない。
まずはこの不調の正体が判明しないことには僕も勝負に出られないな。となると――。
防戦一方の中で、リーダーが腕の筋肉を肥大させながら大きく大斧を振り上げて追撃の構えを取る。
そこで僕がとったのは――。
「――っァぶヵ」
あえて相手の攻撃を受けることだった。
咄嗟に【側枝】で大盾を創り、僕とリーダーとの間に壁のような物理的な境界線を設けるが、強化系能力を併用するリーダーの前では紙切れ同然で。
大盾ごと、長い一本の線が僕の身体に深い裂傷として新たに刻み込まれる。
咳き込みながら吐き出した鮮血が僕の身体を、そして吹き出した夥しい量の血がリーダーの大斧を赤く染め上げていく。
しかし、おそらくだが理解した。
今まで回避に注ぎ込んでいた脳のリソースを、攻撃そのものに割くことで異変の正体を確認。その影響で逃げ遅れてしまったが、実際に大斧の直撃を受けたのもあって原因を把握する。
奴の持つ大斧。上等だがどこか粗雑な造りの大斧に、微小ながら雷属性が付与されている。
その雷が接触と共に僕へ流れ込み、認識のズレともいうレベルの行動の遅滞を発生――それが次撃回避不能のカラクリだ。
持ち手部分に巻かれた魔物の皮が発電の発生器官のように見えるが、そもそもどうやってそんな武器を拵えたのだろうか。冒険者でも襲って奪ったか?
しかしそれにしては造りが原始的すぎる。僕の親の知識が、目の前の武器が魔法武具としてどれだけ粗雑な造りであるか教えてくれるが、そもそも根本としてその造りでは使用者にも確実に雷の影響を与えているはず。
凄まじい落雷でも受けて運良く[雷耐性]の能力を身につけたのか?
――いずれにせよ、このままでは負けるな。
奴を倒すために今の僕に足りないものは――あの速度と渡り合えるだけの速度ないし機動力、魔力不足に起因した戦闘継続能力、そして何より、溜めを作るだけの隙や時間だ。
ひとまず手持ちの再確認を――念じることで能力の羅列を脳裏に浮かび上がらせる。
――[強欲な左掌]、[怠惰な右掌]、[再生]、[潜伏]、[食魔変換]、[盾術]、[挑発]、[念力]、[槌術]、[逃足]、[威圧]、[痛覚無効]、[魔力抑制]、[直感]、[打撃耐性]、[魔法天稟]、[水精の介意]、[繁殖]。
並ぶのは今まで獲得してきた能力群。だが、思考を巡らせてもこの能力たちでは勝機が見出せない。
貴族崩れから簒奪した物体を操る能力である[念力]ならば、かろうじてリーダーに隙を生ませることができるかもしれないが、よほど虚をつくものを操作しない限り歯牙にもかけないだろう。
となると――やはり命運を握るのは[怠惰な右掌]。
右掌であらゆるものを引き寄せ、引き離す力を持ち、右掌が通過した先にあるものを削ることをも可能とする。
だが、そんな使い勝手のいい能力とは裏腹に、要求されるのは途方もない演算処理能力。
魔法に適応するために通常種よりも肥大した【小鬼族・魔法種の脳】を手に入れてもなお足りない要求値は、現状一歩処理を間違えれば僕の魔力を根こそぎ吸い尽くして辺りのものを消滅させるだろう。
刺し違えるのを覚悟でリーダーの身体を削るか――。
そんな気持ちで右掌に力を込めかけるが、左掌のように朧げながら直感的に理解する。
どこまで可能でどこまで不可能か。
感覚的におそらく、込めた魔力よりも高い魔力を内包する相手には削り取りのような直接効果は弾かれる。三次種相当の対象に、[再生]で魔力を注ぎ続けている僕の残魔力を使ったところで無駄打ちになるのが関の山だろう。
それよりも試してみたいことがあった。
それは、僕が[強欲な左掌]で他人の能力を初めて簒奪するときのような感覚。
――[怠惰な右掌]で、能力同士を引き合わせると果たしてどう作用するのか。
能力への干渉――そんな御業も[強欲な左掌]にできて同系統の右掌にできない道理はない。
本来であればこんな戦闘中の土壇場で真っ先に除外するような選択だったが、普段は眠る[直感]が強く脈打つ。
リーダーが何かを感じ取ったようにこちらへ足を踏み出すが、前方目掛けて一斉に身体中から鋭い枝を無数に生み出して進行を妨害する。
細かな操作など微塵も考えない【側枝】の生成だったが、さすがのリーダーも虚をつかれたようでたたらを踏んだ。
だが、所詮木の障壁などすぐに超えてくるだろう。
使える猶予はこの僅かな時間のみ。
大きく脈打つ[直感]にすべてを委ねながら能力を選択。岩石鰐から奪った、食べたものを魔力へと変換する能力である[食魔変換]と、貴族崩れから奪った、相手から一定確率で何かを手元へ移動させる能力、[奪取]。
この二つを[怠惰な右掌]で掛け合わせると――身を切るような痛みが僕を襲う。
[痛覚無効]を持つはずの僕に訪れたそれは、僕の身体ではなく魂とも呼ぶべき根源的な何かが引き裂かれるような感じたことのない苦痛だった。
そして、それはすぐに肉体にも影響を及ぼし始める。身体の端から崩壊するように塵芥となり始め、それを[再生]で無理やり保持。
肉体の再構築とも言うべき破壊と創造はやがて、幻痛だったと錯覚するほど唐突に終わりを迎え――。
――《[吸魔/New]》。
反撃の狼煙を上げる、この世の理を捻じ曲げながら発生した能力が今ここに産声をあげた。




