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継ぎ接ぎ人形ちゃんは奪いたい  作者: 陽碧鮮
第1章 誕生
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招呼ぶ

別視点


 大鎌のような爪を伴った怪腕が迫り来る。

 努めて優しく受け流そうとした爪撃は想像以上の速度で、接触した刀との間に火花を発生させながら過ぎていった。一撃一撃が重く鋭いため、乱雑に繰り返される単調な攻撃でも気が抜く暇がない。


「これは骨が折れそうだな」


 負の感情をリセットしようと大きく息を吐いたところにダインから防御魔法が飛んでくるが、薄肌が一枚増えたように肌に纏いついていく防御魔法はその見た目から酷く心細く感じる。

 魔法は衝撃等の吸収効果を備えているが、どちらにせよあの攻撃をまともに食らえば終わりだろう。つまりは気休め程度ということだ。


 まあないよりはマシかと一歩目を踏み出す活力に変えて、思い切り地を踏み込んだ。

 差し出した刃は貴種(ノーブル)の爪に阻まれるが、先ほどまでの攻防で動きの癖は多少なり把握している。

 刃を爪に沿って滑らせるように受け流し、無防備な姿を晒す貴種(ノーブル)の身体へ連続斬り。まるで鉱物に刃を当てたかのような音が鳴り響いた。


 まるで手応えがないな。


 私の攻撃により、いくつか割れ剥がれかけた体鱗が見えるがダメージとしては微々たるもの。どちらが先に根を上げるかの我慢比べをしてもいいが、私自身よりも刀が持つかが微妙なところだな。

 そう思った矢先、砕けた体鱗が身体から押し出されるようにこぼれ落ちて――下から綺麗な光沢を放つ鱗が姿を現した。それはまるで貴種(ノーブル)だけ生きる時間を加速させたような――。


 ……[再生]か、自然の摂理に反したなんとも魔物らしい能力(スキル)だ。


 生理的嫌悪感を覚える一方で頭を悩ませる。体鱗と再生力による二重の壁をどう後略したものか。

 僅かな逡巡の時間で結論を出すよりも早く、ダインの声がかかった。


「“一回だけ”でどうです?」


「それで行こう」


 当然の即断。ここは貴種(ノーブル)へと届き得る決定打がほしいところ。ダインの案へと同意する。

 そして言葉を返すや否やダインの魔法が私へと行使された。


 ――戒律(ミツヴァ):【(ポアヌ)】《第三篇(トリア)》『汝の善行に免じて一度だけ』。

 魔法効果は、被付与者の【(カルマ)】正域の適正が高ければ高いほど次の一撃の攻撃力が高まるというもの。ダインと同じく【(ポアヌ)】の私ならもたらされる恩恵は大きい。


 ダインの支援を受けて、次は私が決める番だが――。

 この魔法は酷く取り扱いが難しい。“受け”も一撃と見做されるため、カウンターが使えないからだ。

 まあ、それでもやりようはある。ダインの消費を無駄にはしない。


 あえて見せていなかった手札を切るタイミングはここしかないだろう。

 ゆったりとした動きで以って貴種(ノーブル)との間合いに踏み込んだ瞬間、私は姿をかき消した(・・・・・)。少なくとも、貴種(ノーブル)の目にはそう映ったはずだ。


 初見では対応できまい。

 使ったのは[縮地]と呼ばれる能力(スキル)。一定距離までを直線のみという制約はあるものの、目にも留まらぬ速さで移動するそれは、まばたきをするほどの僅かな時間で貴種ノーブルの背を取ることに成功する。


 だが、背後に回った直後――こちらも予期していなかったものに虚をつかれた。

 背に広がっていたのは凶悪な鱗。まるで剣山のように生え揃うそれは、一見しただけでもかなりの硬度を誇っていることが伺える。

 死角を守らんとする生物としての本能が、背をより硬質にしようと働いたのか――。意図したものではないだろうが、相手にもここまで見せていなかった手札を切られ、一度距離を取るべきか迷いが生まれる。


 だが、ここまで来たら行くしかない。


 持てる限りの技術で以って腕を振るった最速の刃は貴種(ノーブル)が反応しきるよりも速く刀が鱗群へと吸い込まれていき――そのまま砕け散った。



 ――鱗と、私の刀が(・・・・)



「なっ――ゔァッ!」


 砕け散った刀を呆然と見る刹那の時間、空気を割くような音が聞こえたかと思うと目の前まで胴の太い尾が迫っており、避ける間もなく衝撃が訪れた。


 【黒体流】《級位(ノルマル)》・『鋼身』。

 受ける直前、咄嗟に腕でガードしながらなんとか闘技の発動を間に合わせたが尾撃の威力は凄まじく、弧を描くように吹き飛ばされた後に転がった、のだと思う。

 正直、“だと思う”としか言えない。少しの浮遊感の後に訪れた地の臭いと鉄と土が混ざったような味。まるで上下の概念がなくなったような感覚が過ぎるといつの間にか真横に傾いた地面とダインたちが目に入った。


「ファナッ‼︎」


 どこか他人事だった視界が、ダインからの呼びかけによってハッと我に帰る。震える身体で食いしばりながら立ちあがろうと地へ手を付けると、思わず顔を歪ませるほどの痛みを感じて――。


 視線を向けるとズタズタになった両腕。鮮血に染まるそれは見るも凄惨な状況であり、先にある手の感覚はもはやない。

 それでも防御魔法と闘技がなければ胸まで原型を留めていなかっただろう。痛みに耐えながらも散らかる思考をまとめて魔法を紡ぐ。


 戒律(ミツヴァ):【(ファーミナ)】《第二篇(ドゥオ)》『その肌は傷ひとつない白磁のよう』。


 それは瞬く間に腕の皮と皮を繋げていき、瞬く間に見るに耐えなかった腕の傷を消失させた。

 だが、これではまだ足りない。この魔法は表皮等の表面上だけを治癒させるものであり、最低限の血止めを目的とした魔法。一見すると完治したように見えるが、中身の筋繊維や骨は深刻なダメージが残ったままで未だ耐え難い痛みは続いていた。


「ダイン、頼むッ!」


 私の呼びかけにすかさず回復魔法が飛んでくる。淡く青い光が身体から灯ったかと思うと、染み込むように消えていった。


 腕は――動く。まるで重りを科せられたような身体の調子も再び戦闘を継続可能な状態まで回復した。

 貴種(ノーブル)を睨みつけながら身体を起こすがその間も一切の追撃はない。むしろ、武器を無くした私など脅威ではないのか勝ち誇ったような声を上げている。


 なまじ知恵が働く分その思考に至ったのだろう。明らかに舐めた様子に自然と拳に力が入る。

 屈辱だが、ここまで来ると笑みが浮かんできてしまうな。


 ――余裕でいられるのも今のうちだ。すぐに吠え面かかせてやる。


 間違いなくお父様に叱られてしまうであろう言葉を内心で吐き捨て、そしていまだにそんな思考に囚われている自分に嫌気が差す。

 きっと、これから使う能力(スキル)が昔の記憶を呼び起こしているのだろう。


 やはり使うことになるのか。


 人目の付かないこの戦場でも、同業者たちから羨望の眼差しでその名を呼ばれても、私自身はこの力を忌避し続けるのだろう。だが、この力で救えるものがあるのなら私は私のエゴを押し潰そう。


 それは、聞き慣れた地声と比べ思ったよりも低い声で――聞く者に重み感じさせるような冷たさを伴って紡がれた。



「――“魔剣招来”」



 急激に高まる魔力濃度。それはまるで領域界を越すような緊張感で、魔術師(ウィッチ)でもないというのにも関わらず私の肌をチリチリと刺す。


 私の呼び声がキーとなり発生した現象は、やがて高濃度の不可視の魔力が集まり少しずつ何かを形造っていく。それは私の携えていた刀――ではなく直剣のような形状であり、徐々に浮かび上がる精巧な意匠はなぜだか吐き気を催すような嫌悪感を募らせる。


「――ヴゥ」


 今まで余裕の様子だった貴種(ノーブル)も、発生したものに根源的な恐怖でも抱いたのか小さく呻き声のような鳴き声を漏らした。


 私も何度経験してもこの瞬間は震えが止まらない。それがたとえ私の能力(スキル)で生み出された武具だとしても。

 やがて世界の理を書き換えるが如く完全に実体を得たそれは、王から叙勲された騎士剣が引き渡されるように私の目の前の宙で停止する。


 銘を――“血魔剣(ダインスレイヴ)写本(レ プ リ カ)”。


 かつて創世記にて聖女の命を啜った悍ましき魔剣が、血を欲さんと脈動しながら顕現した。

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