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継ぎ接ぎ人形ちゃんは奪いたい  作者: 陽碧鮮
第1章 誕生
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斬込む

別視点


 深い闇が私たちを包んでから果たしてどれくらい経っただろうか。夜の帳が下りるというには星も雲も見当たらない、夜空とも呼べぬ漆黒すぎて――。

 その漆黒の虚空から今まで飲み込んだ全ての水を吐き出すように、滴となって私たちに降り注いでいた。


「――明るくなってきたな」


 そしてその闇は少しずつ姿を変えて、まるで夜が明けるようにぼんやりとした日光が進行方向から流れ込む。それは、身に当たっては弾ける雨粒と併せて見るとなんとも奇妙な光景で。


 【雨止まぬ暗闇】、そう呼ばれるこの区域の出口が見えてきたということなのだろう。


 蜥蜴人(リザードマン)掃討作戦――そう名付けられた作戦は、今まさに決行の時を迎えていた。

 先陣を切って駆ける(ファウスティナ)の後ろには九名の冒険者たち。中位低級の冒険者たちが八人と、最後尾にはダインという形で列を成している。


 計十人。多いのか少ないのか意見が分かれるところだが、現状集められた討伐隊のメンバーはこの場にいる者だけ。それ以下は戦力にならないと判断した。


 むしろ、この辺境でよく集まったと組合長の手配に感心する。

 “森”のおかげで冒険者が溢れているのかと言われれば否である。聞いた話だと王国と皇国の国境に跨って切り開かれていった“前線基地(カストルム)”と呼ばれる組合が存在しているらしく、“森”目的の力のある冒険者はそこに集まっているのだ。


 確かにわざわざ《最外域》から奥を探索するよりも遥かに効率的だろう。だからこそ“森”の周辺にある街というのは魔物の“間引き”のみを主な目的としており、それ故に辺境と呼ばれる由来となっている。


 十人の中で魔法を使える者たちが順々に隠蔽魔法をかけながら最低限の戦闘でここまで駆けてきた。ある程度の進度を確保しながら、《戻域》までに余計な消耗を避けるためだ。

 その点ではこの《特異地(アノマリー)》を通ったのは正解だった。【妖精族の眼界】を通過していくルートは目的地まで少しの迂回が必要になるためこの区域を選択したのだが、隠蔽魔法との相性がすこぶるいい。


 闇が私たちの姿を消し、雨音が進行音を消す。自然由来の隠蔽効果は魔法と合わさってほとんど戦闘を引き起こすことがない。

 加えて時期もよかったのだろう。君臨種でも死んだのか縄張り争いが至る所で乱立していたのだが、その騒ぎに乗じて走り抜けることができた。

 道中に、多少の肉と骨しか残っていない巨大な怪魚の残骸が散らばっていたのを見て、魔物の築く社会が弱肉強食で成り立っていることを実感する。


 そんな思いを抱きながら進んでいくと、視界が一気に開けて真っ白な景色が目に飛び込んできた。《戻域》に入ったのだろう――樹々がほとんどなく反射し輝く日差しに目が慣れない。

 それにしても、どうしてああもあの区域だけ暗くなるのだろうか。魔法的な要素が影響を及ぼしているのか、今度ダインに聞いてみるか。


 目が慣れ始めると、目の前に広がっていたのは樹々のほとんどない湿地。だが、遮蔽物がない代わりに隣接地から流れ込んだ雨水がこの区域の高い地熱により、各地点から湯気を立ち上げて視界を真っ白に染め上げ、照りつける日差しと反射してキラキラと輝いて見える。

 《戻域》という奥地であることも大きな要因だが、今まで発見されなかったのはこの目隠しも影響しているはず。そして水辺と高い湿気は蜥蜴人(リザードマン)の生息地としても打ってつけだ。


 視界不良の中で微かに見える、少し離れた場所には藁のようなものを混ぜ混んだ土を盛って作った住処が点在しており、それを大きく囲む申し訳程度の柵も確認できる。


 ここが蜥蜴人(リザードマン)集落(コロニー)。自分には確認のしようがないが、ダインの眼にはこの湯気の先に数多くの蜥蜴人(リザードマン)を捉えているのだろう。


「――ダイン」


 その彼の名を呼ぶと、最後尾からゆっくりと私の隣へと歩み出る。ダインの任せられた役儀は集落(コロニー)への先制攻撃。


 たかが一人の斬り込みで何が変わるのか――共に過ごし目の当たりにした彼の力量からそんな疑念は露程もない。事実、魔術師とは一対多を得意とし、中位以上の魔術師はそれを可能とする。


 雨水が滴る前髪をかきあげて、現れた虹の瞳はどこまでも強く集落(コロニー)を見つめていて――。

 気弱に見える普段の彼からは想像のつかないほど、与えられた重積に気負う様子もなく――ダインは淡々と口を開いた。


「――戒律(ミツヴァ):【魔術師(マギア)】《第四篇(クァットゥオル)》『絵本の中では流星をも降らせる存在で』」


 献上した魔力が空へと昇っていった直後、見返りとでも言わんばかりに虚空から突如として凄まじい熱を発する魔粘性体(スライム)大の岩石が発生する。

 漂う湯気は赤黒く明滅する岩石を冷却するにはまるで足らず、むしろ蒸気音を発生させながら脈打つように宙へ留まっていた。


 まともに当たれば派生種でもただでは済まない一撃。だが、これで集落(コロニー)の先制攻撃が務まるのかと言われれば否であり――。

 同様の思いを抱いた同行者たちは、続くダインの詠唱により総じて言葉を失わせた。


「――戒律(ミツヴァ):【人族(ホモ)】+【(・ミクス・)(ウルグス)】《第一篇(ウーヌス)》『数とは力である』」


 先ほどと同じく魔力が身体から立ち昇っていった矢先、宙に浮いていた岩石の隣に瓜二つの岩石が発生。詠唱が違うのにも関わらず同じ魔法――と勘違いしたのも束の間、新たに二つ、四つ、八つと瞬く間に十を超える数まで増やす。


 凄まじいほどの熱。周辺の湯気がみるみるうちに消えてゆき、視界が晴れていく。反対に彼から大量の脂汗が滲み出ていたが、熱波が原因ではないだろう。


 ダインの使え得る高階位魔法と複合魔法。いくら内包する魔力量の多いダインといっても、消費量、技術ともに生半可なものではない。


 難度の高い複合魔法に成功してしまえば単純に同じだけの数の魔法を単独ずつ行使するのに比べて消費魔力はかなりの削減になるが、それでも比べたときの話であって相当の魔力を献上する必要があった。


「はぁ……はぁ……」


 著しい魔力の減少により、汗と共に呼吸もままならなくなっているダインだったが、その眼は集落(コロニー)から一切逸らすことはない。

 そして、ゆっくりと掲げた手を空気を割くように振り下ろすことで――彼の魔法が成った。


 ――流星群。


 そうとしか言えないような光景。一見すれば幻想的とも言える光景は着弾により、開戦の狼煙へと変貌する。

 まず私たちを襲ったのは爆発の光。一拍遅れて頭が割れるような轟音が響き渡り――遅れて吹き飛ばされるような衝撃が齎された。


 絶対的な先制攻撃。もはや集落(コロニー)跡地とも呼べる惨状にまで破壊の限りを尽くした現場は、黒い煙を舞い上げながら時折熱を孕んだ鮮やかな橙色の地表が姿を見せる。


「……もう全滅したんじゃねーか?」


 その光景を見た同行者の一人がポツリと呟いた。だが、それに消耗しながらもすぐさまダインが否定の言葉を紡ぐ。


「ぃえ、まだ……通常種がちらほらと……はぁ……反応の強い進化種たちが……確認できます」


 確かに耳をすませば蜥蜴人(リザードマン)たちの叫び声が聴こえてくる。それが棲家を襲われた憤怒なのか仲間を亡くした悲痛なのか、私に魔物の喜怒哀楽は分からない。


「よし、この隙に畳み掛ける」


 未だ呆然とする仲間たちに声をかけた。ダインが生み出した好機を逃すわけにはいかない。


一緒(ぃっしょ)に行っても……はあ……補助的なことしかできないかも、です……」


「十分だ、後は私がやる」


 むしろ補助魔法の余力があれば十分。対多数の出番が終わった今、次は対強敵を得意とする私の出番だ。

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