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継ぎ接ぎ人形ちゃんは奪いたい  作者: 陽碧鮮
第1章 誕生
29/46

豊満な


 帰るだけだと思っていたが、そのまま遭遇なしで帰れるなんて虫のいい話はないか。

 とりあえず復帰しなければと体勢を整え直す。


 ――? ああ、衝撃で腕が明後日の方向に曲がってるな。


 [再生]に物言わせ、見るものに不快感を生じさせるような腕は不自然な動きを描きながら元の位置へと戻っていき、すぐに芸術品のような陶磁の白腕へと巻き戻る。


 土煙りが晴れると心配と安堵の入り混じった表情のセンパイの近くにそいつはいた。


「ブモォオオ゛オ゛ッ」


 魔豚人(オーク)――蜥蜴の影響でこいつまで《外域》に進出してきたらしい。

 その身体は脂肪由来と思われる膨らみが見られ、地肌の色はわからんが泥などが身体中を覆って薄汚れた茶色の塊と化している。だが、それでもあのスピードで動けるということは脂肪だけではなくそれ相応の筋肉もありそうか。見たところ無手だが注意した方がよさそうだ。

 巨大な身体に埋もれるように出っ張る醜悪な頭部からみえる歯は犬歯のような形状で、赤黒く色づいているのは泥や埃のせいではないだろう。


 こいつは水辺の蜥蜴人(リザードマン)、陸の魔豚人(オーク)と称されるほどには同格として並び立つ存在だと言われている。そのため、普通に考えれば蜥蜴と同レベルだと思われるが――。


 ここまで吹っ飛ばされた手痛い一撃を思い出す。

 先ほどの硬直の正体は[威圧]か? それなら面倒なことに通常種じゃないな。


「僕が()ってみるっすよ」


 まあいい、僕の方針は変わらない。手を出してきたのなら潰すだけだ。


「姉さんが……? そ、それよりも怪我は」


「モーマンタイっす。僕もセンパイに戦えるっところを見せないとですし」


 ローブを腕まくりしながら細腕を回してみせると、僕の戦闘への意志を感じ取ったのか再び僕へと視線を向けた。一切魔力を持つ気配のない僕のことなど小鬼族(ゴブリン)以下の存在とでも思っていそうだな。


 センパイの静止がかかる前に足へと力を込める。瞬時に

解放され、スプリングのかかったそれはバネのように僕を魔豚人(オーク)の前へと跳ね上げた。


「ほっ‼︎」


 まずは先制の一打。おおよそその細腕から生み出したとは思えない衝撃による破裂音が轟く。が、魔豚人(オーク)は右足を半歩下げただけで大きなダメージは見られない。


 驚くほどの弾性であり、かつ与えた衝撃は綺麗に流された。

 肌の性質か脂肪の性質によるものか。体格からしておそらくは後者の恩恵によるものだろうが、この手応えのなさは予想外だな。


 魔豚人(オーク)はやはりダメージの蓄積もないようで、背の低い樹木の幹周にも及ぶ巨大な腕を振り下ろす。

 今度は余裕を持って一歩下がり回避。地面へと向かった腕はめり込みながら大きな罅を生み出した。


 力は言うまでもないがスピードもそれなりにある。脳は足りていなさそうなため搦手に切り替えたほうがよさそうだ。

 

 もう一歩下がりながら右腕を【側枝】へ部分変化。大きく腕を振るって鋭利な投枝を放つ。

 目標通りに向かっていった投枝は起き上がった魔豚人(オーク)の腹部へと到達するが、一度は肉に(うず)めた後、肌すら傷つけることなく勢いよく弾かれた。


 面白いくらいに富んだ弾性だな。これも一種の種族特性なのだろう――そんな考えを巡らすうちに再び魔豚人(オーク)が攻めへと転じる。



「ブオゥッ‼︎」



「なっ――⁉︎」


 先ほどと同様の自慢の剛腕を振り下ろした攻撃は、避けようとする瞬間に放たれた[威圧]によって必中の攻撃へと昇華した。


 ここからの回避は不可。ならどう当たるか(・・・・・・)だ。

 部分変化していた【側枝】を木盾のような形状に変形。“盾持ち”から奪い取った[盾術]は魔豚人(オーク)の腕が接触した木盾の衝撃を吸い取るような動きで以って勢いを殺しながら相手の軸を大きくズラした。


 体勢を崩して倒れ込む豚へカウンターを見舞う。

 木盾を木槌を模した瘤に変化させ、同じく他者から奪い取った[槌術]を行使しながら殴打。

 土手っ腹に埋まるように吸い込まれていった右腕は、衝撃を逃す余地など一切与えないまま魔豚人(オーク)を殴り飛ばした。


 木をへし折りながら轟音を響かせ、頭から突っ込むように転がっていく魔豚人(オーク)。流石に全力の一撃は致命打となったようで、視界の端で停止した後も小さく痙攣するだけでして立ち上がる気配はない。


 ()ってみればこんなものか。


 そのまま動き出す様子が見られないため、近づいて[強欲な左掌(Greed)]を行使。

 漏れ出る粘っこいオーラが少しばかり禍々しいだろうが仕方ない。動きが完全に止まり、穴の空いたボールのように萎んでいく頃には、【魔豚人(オーク)孤立種(モナクシア)の脂肪】と[繁殖]、[威圧]を獲得する。


 【脂肪】、[繁殖]、[威圧]――奇妙な並びの獲得群だが、特に[繁殖]は異種間での生殖を可能とする能力(スキル)らしい。つまりは人族(ヒューマン)とも子を成すことが可能となったわけで。使うことがあるのか疑問だが、まあ手札はあるに越したことはないか?

 簒奪が完了し、そんなことを考えているとセンパイが駆け寄ってくる。


「姉さんスゲーなッ! もっ、もちろん姉さんのスゴさはわかってたけど!」


「いや〜、相性が良かっただけっすよ」


 下手な斬撃持ちより打撃特化の相手の方がよほど助かるというのが正直なところだしな。

 多少声が上擦っているのは僕の能力(スキル)を見たことによる恐怖ゆえか。[強欲な左掌(Greed)]を行使された記憶は残っていないはずなんだがな。


 討伐証明部位の渦巻きのように丸まった尻尾を切り取ると、戦闘音に引き付けられた魔物と鉢合わせないようすぐに歩き始めた。

 本来なら肉もそれなりに食べられるものらしく、採集の対象となるのだが【脂肪】の抜けた姿は見るも無惨で持って帰るだけ無駄だろうことは容易に想像がつく。



「「………………」」


 戦闘が始まる前とは打って変わって途絶える会話。大地を踏み締める音や、辺りから時より聞こえる魔物の鳴き声は静寂をより助長させる。

 最初こそ都度発生していた戦闘も外へ近づくにつれて魔物のレベルが下がってゆき、果ては歩きながら小型の槌で頭を飛ばすだけの戦闘とも呼べない作業へと成り果てていた。


 飛んだ頭部が十に届きそうな頃、空高く上がった小鬼族(ゴブリン)の頭部が差し込む木漏れ日を遮りながらキラキラと輝いた。見上げると生える樹々はだいぶまばらになってきており、“森”の終わりが近づいていることがわかる。

 ここまで来れば魔物の姿もほとんど見られないな。


「おーう、ようやく見えてきたっすねえ」


 やがて視界の先からも“森”の終わりと思われる光が差し込むのが見え始める。


「目まぐるしい探索だった……」


 センパイの絞り出すような呟きに、あえて答えることはなく光を目指して歩みを進めた。



 “森”から出た後、とりあえずということでそのまま組合へと直行した僕らだったが、遠くからでも聞こえてくる喧騒を捉える。そしてそれはやはり組合からであり。


「……めっちゃ混んでない?」


「意外とこの時間が穴場だと気づいてしまったんすかね?」


「なわけねーだろ」


 時間は昨日とほとんど変わらない。まだ日が暮れていないというのにむしろ昨日よりも大きな、一種の騒ぎのような喧騒が響き渡っていた。

 “森”での結果が自身の生活と密接に関わる冒険者たちが、わざわざ夕暮れ時前のこの時間に一斉に戻ってくるのは不自然だ。となると少ない人数でこの騒ぎ? 受付も一緒に混乱しているのか?


 訝んでも答えはでないためさっさと入り口を通ると、そこには見慣れた者が部屋の端に立っていた。


「……なんで?」


「いや、知らないっす」


 中は思ったとおり慌ただしく動いており、冒険者たちが口々に話し込んで喧騒を生む中、受付たちも報告のためか階段を上り下りしている。


 だが、問題はそこではない。

 僕たちの視線に気づいた彼女(・・)がこちらへと歩み寄り、彼女――ファウスティナが労いながら声をかけてきた。


「二人とも、先ほどはすまなかったな」


 なぜここにいる?

 僕らと別れた後、二人は《戻域》へと向かった。即ち外を目指して進んできた僕らよりも先に戻るのは不可能なはず。


「《戻域》へ行ったはずじゃ」


 センパイも混乱した様子でファウスティナへ疑問を投げかける。が、彼女は少し困った顔で微笑んだ。


「まあ、ちょっとした抜け道があってな。ああ、ダインは今組合長へ報告中だ」


 抜け道? 平面的に構成される“森”で抜け道と呼ばれるものが果たして存在するのか?

 腑に落ちないものを感じながらもこれ以上答えは出ないであろうことを察して、話を逸らしたファウスティナへ乗ることにした。


「結局何か見つかったんすか?」


 十中八九見つかったのだろう。だからこそ組合中を巻き込んだこの騒ぎが起こっている。

 問題は中位未満の僕らにわざわざそれを教えてくれるのかという点だったが、まあこの現状を見るに周知の事実であろうし、一緒に探索に参加したのが功を奏したのか簡単に口を開いた。


「《戻域》に入ってすぐの辺りに蜥蜴人(リザードマン)の大規模な集落(コロニー)を発見した」


「《界域》じゃなく?」


 センパイの疑問は冒険者なら当然のものだ。蜥蜴人(リザードマン)は本来《界域》に生息するもの。《戻域》で集落(コロニー)を形成していること自体普通ならありえないことだったが、そもそも蜥蜴人(リザードマン)レベルの魔物が《戻域》で生き残るのは難しいだろう。

 よって導き出される答えは――。


「ダインが一際大きい魔力を確認した。それこそ《戻域》よりも上位存在と見られるような」


「――異形種(テリビリス)……」


 センパイが小さく声を漏らす。まあそうなるのが普通か。上位種の存在を確認したのなら先日の事件で現れた異形種(テリビリス)と紐付けないわけがない。


「私も同意見だ。ダインの目では種までは特定できないが、状況的に異形種(テリビリス)と判断するのが妥当だろう」


「マジか……」


「他にも派生種と思われる反応も確認した。戦力と規模をある程度把握できたことから中級以上で討伐隊を編成する」


 行動が早い。そう思ってしまうが、そもそも他領域にまで影響が出ている時点で既に後手か。


「討伐隊が出発するのは?」


「知っているだろうがこの街には中位以上の冒険者が圧倒的に少ない。今、隣合う街から呼べるだけ参集を呼びかけたところだ」


 両隣の街でも二、三日はかかる距離。さらに到着してすぐに出発というわけにもいくまい。


「したがって、蜥蜴人(リザードマン)討伐の決行は五日後――になるはずだ」


「そこは確定じゃないんすね」


「そこは今ダインと組合長が詰めているところだろう」


 その話し合いには参加しないのか、とも思ったが、こいつが参加しても場をかき回す可能性もありそうだ。考えるよりも刀を振るう方が性に合っているだろうしな。

 センパイも同じ考えに至ったのか、苦笑いで納得した表情を浮かべている。


「じゃあファウスティナさんは暇してるんすか?」


「ああ、先に帰るくらいなら待っていようかと思ったのだが――ご覧のとおりだ」


 かなり暇なのだろう。まあ組合に入ったとき、一人ぼうっと慌ただしく駆け回る受付を眺めていた時点でわかっていたが。


 せっかくだ。この際計画について色々聞いておこう。

 退屈という毒が回り始めたファウスティナへ、僕は釣り針を落とすように口を開いた。


「それじゃあこれから女子会したいっす!」



=====Status=====

《Active》

[強欲な左掌(Greed)][怠惰な右掌(Sloth)][再生][潜伏][食魔変換]

[盾術][挑発][念力][奪取][槌術][逃足][威圧/New]

《Passive》

[痛覚無効][魔力抑制][直感][打撃耐性][魔法天稟]

[水精の介意][繁殖/New]

===============

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